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2009年11月 5日 (木)

重力ピエロ

Poster
なんだか凄い物語らしい,ということだけ小耳にはさんでのDVD鑑賞。あとで原作を流し読みした。重すぎるとも言えるショッキングなテーマを,透明感と軽妙さあふれるタッチで綴った,おそらく他にはない魅力に溢れた作品。原作小説も・・・映画も。

私が好きなのは,断然,映画の方。
原作はちょっと蘊蓄(うんちく)がしつこいというか,私にはすっと入りきれない部分もあって,消化の悪い食べもののような扱いにくさも感じたけれど,映画はそんなこともなく作者の世界に自然に入り込める親しみやすさがあり,それでいて原作の風味やよさはちゃんと活かされていて。とにかく,冒頭の「春が二階から落ちてきた」というシーンからもう画面から目が離せなくなった。
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なにより演じた俳優さんたちが,みな素晴らしかった。原作だけではイメージが十分でなかった登場人物たちが,映画の中でそれぞれとても魅力的に息づいていた。兄の泉水を演じた加瀬亮さんの地味で飄々とした雰囲気も,弟の春を演じた岡田将生くんから感じる,ガラスのように危うい透明感も,そしてこの二人が一緒に揃った時に生まれる,ほのぼのとした雰囲気も,ほんとにいい感じ。

二人の子ども時代を演じた子役の子供が,また加瀬さんたちにそっくりで。そしてあの「最強の」お父さんを演じた小日向さんと,天使のようなお母さんを演じた鈴木京香さんも素晴らしかった。

ストーリーは非現実的だ。こんな設定も,そしてこんな家族も,実際にはあり得ないと思う。そしてとても重く,辛いテーマを扱っている物語でもある。
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だけどこの物語の語り口は,あくまでも軽やかで爽やかだ。そう,劇中に出てくる春の名セリフ,「本当に深刻なことは陽気に伝えた方がいいんだよ」をそのまま実行している感じだ。この語り口の爽やかさがあるから,普通の倫理観や常識を,軽く飛び越えた世界を見せられても,違和感は感じなかったのかもしれない。

ありえない話・・・・そう確かに。突然降りかかった悲劇を見事に乗り越えてゆく家族の愛の力は,とても美しいものではあるけれど,実際には不可能じゃないかと思ってしまうし,春の取った行動が正しかったのかどうかもわからない。またこれからの春の人生も何より気がかりで。
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解決しない問題,答えの出ない問題は,依然として残されているわけだけど,ラストシーンに再び「二階から美しく落ちてくる」春を見上げる,泉水の優しい表情を見ると,ああ,この兄がそばにいるかぎり,春は大丈夫だ,と思った。

愛は遺伝子を超える・・・いい言葉だと思う。そして,楽しそうに笑っている限り,重力は働かない,という言葉も。そんな発想が素晴らしいと思う。
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辛い現実を変えることができないのなら,どうしてもそれを背負って生きていかねばならない運命なら,せめてその重荷の重力を笑顔によって消してしまおう。そうすれば重荷に潰されずに軽やかに生きていくことができる。「最強の家族」の生きる知恵を,自分も少しでも見習いたい,と素直に思った。

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映画 さ行」カテゴリの記事

コメント

こんばんは~♪ななさん
ななさんは原作はイマイチしっくりきませんでしたか?
私は原作が大好きなんですよ~
1番最初に読んだ伊坂作品がこれで、ガツンときたんです。「なんじゃーこの小説は!」って。こんな小説初めて!って思って興奮し、その後も何冊か伊坂作品を読んでいます。
ななさんが苦手とされた蘊蓄が私にはツボだったみたい。だってホラ、私って蘊蓄の京極やダン・ブラウンを大好きだし(笑)

映画も良かったですよね~
加瀬さんと岡田君がマッチしていましたよね。
考えたら深刻な物語なのに、どこか陽気で、でも切なくて、、、そんな雰囲気がよく出ていて心に響きました。

ななさん、こんにちは!
そうっか、映画の方が良かったのね^^
確かに小説の方は、色々引用とかうんちくが多いよね。私は、なるほど~って思う時と、またかぃ?!って思う時と半々くらいだったかな(^^ゞ

そうそう。子供時代の子役さんが、2人に似ている子を選んでいたのが良かったわ~。大きくなったら、自然と主役の2人に表情が重なる事が出来たし。

私は伊坂さんの小説で「ゴールデン・スランバー」っていうのが一番好きなの。来年の1月に堺さん主演で映画になるらしいんだ。
http://latifa.blog10.fc2.com/blog-entry-794.html

ななさん、こんばんわ~。
朝、この記事みつけてとりあえずトラックバックだけしちゃいました。

この映画、内容は、ありえんてぃーですよね。
よくよく考えれば、誰も住んでいない家から火が出たら、普通、前に済んでいた人が取調べを受けるだろう・・・とか、ま、考えちゃいますけれども・・・その部分は、小説の方が自然だったかな~なんて。

映画は映画、小説は小説にそれぞれのいいところがありましたね。

原作があるものは、たいてい映画になるとカットされたり変えられているところがあってがっかりする事が多いのですが・・・

たとえば「ハリーポッター」なんかは、魔法使いの世界の事を頭で考えながらo(^ー^)oワクワクして読むんですけど、どうしても想像しづらい事(たとえばクィディッチとか)を映像で見せられると「ををっ!こういうものだったのか~っっ!自分の想像をはるかに超えてるぞー!」って思うので、やはり映画化されるとうれしい。

この「重力ピエロ」は、最初のシーンの「春が二階から落ちて来た。」が、まず素晴らしいですよね~。岡田君が美しかったわあ。

ななさん、今度、ぜひ岡田君の「ホノカアボーイ」を見てみてください。もうDVDになってます。

それから現在公開中の「風が強く吹いている」、すっごくいいので、ぜひぜひ!これは原作がよく生かされています。小説もまじオススメです。

恥づかしながら、伊坂幸太郎ってこれまで知らなかったんですよ。
どの作品もちょっとタイトルがとっつきづらい気がします。
でも観てみたらなかなか良かった。

おっしゃるとおり、俳優さんたちの演技や存在感によるところが大きかったと思うのですが、
原作も読みたいものです(でもたぶん読まない)。
とにかく岡田将生くんが断然注目株になりました。

ななさん、おはようございます。(*^_^*)
私は映画を観た後から原作を読みました。私も映画の方が好きです。

「春のこれからの人生が気がかり」と書かれているななさんと同じ思いで、その一点に於いて鑑賞後は深くうな垂れる思いもした私でしたが、「最強の家族」という言葉がうな垂れた首を引き上げてくれました。
正論を超えたところに、最強の絆があるのだな、と。

兄弟二人のキャスティング、素晴らしかったと思います。

由香さん こんばんは!

ちょっと風邪をひいていて毎晩早寝していたので
お返事が遅れてごめんね~

う~ん,原作が嫌いと言うのではないけど
映画の好印象が大きすぎて
原作は理屈っぽく感じてしまったかも。
伊坂さんの作品って,テーマや感性は大好きなんだけど
文章の軽妙さが(そこが彼の魅力なんでしょうね)私の好みじゃないんですよ。
わたしはもっと重くってコクのある雰囲気の文章にハマるんです(←ネクラ)
同じ蘊蓄たれでも,私もダン・ブラウンの蘊蓄は大好きですよ~。

映画は・・・これはもう配役の勝利,という面もありますよね。
原作だけ読んで,もし違和感を感じたとしても
加瀬さんと岡田くんの演技を観たら
そんな違和感なんか吹き飛んでしまうくらい
いい味を出していたと思います。

latifaさん こんばんは!

うん,映画がよすぎたのか,原作の方は比べるとちょっと。
>なるほど~って思う時と、またかぃ?!って思う時と半々くらいだったかな
あはは,理系にヨワイ私は,
遺伝子のことは説明されてもちょっとピンとこなかったかな~
映画はその点,あっさりとわかりやすく説明されてたので
助かりました。

>伊坂さんの小説で「ゴールデン・スランバー」・・
それ,もちろん未読ですが,堺さん主演なら観てみたいなぁ。
堺さん,「ラッシュライフ」でも伊坂さんの作品に出てるよね。
これ,映画の方はイマイチだったらしいけど。

むぎむぎさん こんばんは

映画も原作もたしかにそれぞれのよさがありますね。
それでいて,表現されてる独特の空気感や
伝えたいメッセージは原作も映画も同じでした。
原作の映画化としては
大成功の部類に入るのではないでしょうか。

たしかに有名な原作の映画化の場合
その魅力を損なってしまったり
原作とは別物として生まれ変わってしまったりするものですが
また,小説だけではイメージしにくかった場面を
映画が見事に映像化してくれた場合は
とっても感動しますよね!

この作品の場合はやっぱり,あの「春が二階から・・」でしょうね。
名場面,名セリフだと思います。
映画の,先に桜の花吹雪を見せておいてそのあとに
岡田くんがふわりとしなやかに窓から飛び降りる
それを見つめる加瀬さんの表情もとても好きです。
この時の音楽もとてもよくて。
何度でも観たい場面ですね。

岡田くんはホノカアボーイの主役さんだったのですね。
未見の作品ですが,またチェックしてみます。

クラムさん こんばんは

伊坂さん・・・私も得意な作家ではありませんが
とても才能のある,そして独特の感性が魅力的な作家だと思います。
彼の作品の映画化,多いですよね。
私はこれの他は「死神の精度」しか観てませんが
その発想のユニークさに唸りました。
「死神」よりはこちらの方が映画化に成功してると思います。

>原作も読みたいものです(でもたぶん読まない)。
わはは。読みたいけど時間やエネルギー不足で
多分読まないだろうな~って原作,私も沢山ありますよ。
岡田君は私も今後も注目したいですね。

ぺろんぱさん こんばんは

>正論を超えたところに、最強の絆があるのだな、と。
春のこれからのことを思うと
いろいろと暗い取り越し苦労もしてしまいますが
それでもおっしゃるように
「最強の家族」が彼を支えていくと思いますね。
もともと,春を家族に迎え入れると決めたその時から
常識では理解できないほどの愛で彼を包んできた一家ですから・・・
きっとこれからもあらゆる重力に逆らって
強くしなやかに生きていくことができるのでしょう,あの兄弟は。

加瀬さんと岡田くんのキャスティングは最高でしたね。

ななさん~こんばんは~

実は私は原作の方が好きでした。
もちろん、映画も満足なんですが・・・
細かな描写でどうしても物足りないところがあって・・・。
でも、心配していた美青年の春くんも、泉水くんもイメージぴったりでよかった。
彼らの葛藤が文字ではなく、表情でストレートに伝わってくるのは心地よかったし。

夏子さんも映画の方がインパクトあってよかったです。心霊写真も笑えたし(笑)

ありえないようなお話ですが、シーンを変えて
最強の家族の形は存在するのでは?と思いました。

マリーさん こんばんは!

お子さんのインフルエンザはもうよくなりましたか?
こちらも流行ってきて,ウチの学校も学級閉鎖が発生してます。
私もかかるのは時間の問題かも・・・。お互い気をつけましょうね。

ところで,マリーさんは原作の方がお気に入りなんですね。
原作は(最後までじっくり読んでないけど)詳しい記述だったから
映画では変更されたり省略されたりしたところがあるのでしょうね。
肝心の二人の主役が原作のイメージにぴったりだったのは素晴らしいですよね。
岡田君の春もとっても透明感があって素敵だったし
加瀬さんのお兄ちゃんも,「普通っぽさ」がいい味を出していました。
実際にはありえないお話ですが,映画や小説の世界だけでも
こんな生き方の家族に出会えてよかった,という気持ちです。

こんばんは♪
前から気になっていた作品で、ようやくDVDで
鑑賞しました。
出演者、みなさん素敵でしたね。
心に残る作品の一つになりました。
ななさんが挙げられた台詞は、どれも名台詞だと
思います。胸を打つ言葉です。
私はこれから原作を読む予定ですが、いろいろと
意見が分かれるようですね。
興味津々です!

孔雀の森さん,こんばんは!

御覧になりましたか~
ほのぼのとしていて
その中に人生の教訓と言うか機微のようなものも
込められていて
そして何と言っても俳優陣がみな素晴らしくて
とっても心に残る作品ですよね。
原作は私は最初の部分だけで
「あ,こりゃだめだ・・・」と投げてしまったのですが
(先に映画で感動していたから余計にそう感じたのかな?)
原作も映画もどちらもいい!とおっしゃってる方も多数ですので
ぜひ孔雀の森さんの目で確かめてくださいませ。

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