花の生涯~梅蘭芳(メイ ラン ファン)~
さらばわが愛のチェン・カイコー監督久々の京劇もの。実在した京劇の名優,梅蘭芳(メイランファン)の半生を描いたものだ。「さらば~」とはまた訴えてくるものは違ったが,天才と呼ばれる芸人の背負う業のようなものが,ずっしりと伝わってくる作品だった。
実在した梅蘭芳は,京劇の近代化や海外公演を成功させ,世界的な名声を博した女形俳優。 日中戦争の間は,一貫して抗日の立場を貫いたのち,戦後舞台に復帰して東西冷戦時代には訪日京劇団の団長として,まだ国交のなかった日本で京劇公演を成功させたという。
若き日の梅蘭芳を演じた,余少群(ユイ・シャオチュン)が美しい。京劇メイクを取った彼の素顔もあでやかで,何ともなまめかしいのだ。舞台の上の彼の顔や仕草の美しさは必見だ。その匂い立つような美には,女の私でもうっとりと見惚れてしまった。
そして壮年になってからの梅蘭芳は,黎明(レオン・ライ)にバトンタッチ。顔立ちはともかく彼の体格が立派過ぎて,女形としてはどうよ?と思わぬでもなかったが。特に小柄なチャン・ツィイーが男形という設定で一緒の舞台に立つシーンはうーん,ビジュアル的に無理が。(どっちも似合わん)
そのせいかどうか知らないけど,レオン・ライが舞台に立つ映像は,必要最小限だったような。それでも壮年になってからの素顔の梅蘭芳のシーンは,深みのある落ち着いた内面の演技が求められるので,柔和と品格を絵に描いたようなレオン・ライのキャラは,よくハマっていたと思う。
それにしても,彼ほどの才能を持った人間には,「孤高」がついてまわるのは,宿命なのだろうか。人生途上で選択を迫られたとき,梅蘭芳がいつも何よりも優先させなければならなかったものは,「京劇」だった。それは,時には自分の感情や大切な人との絆を犠牲にしてでも,彼が貫かなければならなかった道だったのだろう。
そしてその道は,彼の家族も,恋人も、友人も,真の意味では一緒に歩むのは無理な道だったから,だから彼はいつも独りで歩き通さなければならなかった。望むと望まざるに関わらず,彼には「京劇という芸術」に対する,彼にしかできない使命があったから。
教え育ててくれた老師匠との演技対決で,師匠への恩義よりも,「京劇近代化への信念」を取った青年時代。愛人の孟小冬(モン・ツァオトン)が,彼の妻の「梅蘭芳は観客のものよ」という台詞を聞いて,彼のもとを去った壮年時代。義兄弟の契りを結び,マネージャーのように誰よりも彼を支えてくれた邸如白(チウ・ルーパイ)と意見が衝突し,裏切られもした日中戦争時代。
日本軍の要請をかわすために,自ら罹ったチフスで昏睡する梅蘭芳。その枕元で,邸如白が言う,「なんて孤独な人生だったんだ!生まれ変わった時には決して君の邪魔はしない。君は普通の人生を望んでいただろうに・・・・」という台詞が印象的だった。
梅蘭芳を敬愛し,日本軍のために彼に京劇を演じさせようと骨折った軍人,田中。中国語も演技も上手く,「日本語の上手な中国人俳優さんかしら?」と思ってたら,日本の俳優さんだったんですね。安藤政信さんという名前,この作品で覚えました。イケメンですよね~,要チェック!
「さらば、わが愛」ほどではないにせよ,久々にチェン・カイコー監督の見事な大作を楽しめた,と思う。映像の美しさは,さすがカイコー監督だと感動。
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» *『花の生涯〜梅蘭芳〜』* ※ネタバレ有 [〜青いそよ風が吹く街角〜]
2008年:中国映画、チェン・カイコー監督&脚本、レオン・ライ、チャン・ツィイー共演。
≪4/11(土)大阪・なんばパークスシネマにて、上映後チェン・カイコー監督の舞台挨拶の回に鑑賞≫... [続きを読む]
「京劇の花 梅蘭芳展」が日中友好会館で開催されており、梅蘭芳の直筆の絵画・貴妃酔酒の衣裳なども展示されています。
徐悲鴻の「天女散花図」も、素晴らしいものです。
青年時代の梅蘭芳に出会えます。
投稿: 蔵書目録 | 2009年9月29日 (火) 23時49分
蔵書目録さま,コメントありがとうございます!
>「京劇の花 梅蘭芳展」が日中友好会館で開催されており・・・
うーん,地方(徳島県)に住み,日ごろは仕事に拘束されている身としては観に行く機会はないかもしれませんが,情報ありがとうございます!
「さらばわが愛」で京劇に出会い,またこの作品で少しでも京劇の魅力に触れることができた自分を,嬉しく思います!
投稿: なな | 2009年9月30日 (水) 00時28分
ななさ~ん、こんにちは!
しょっちゅう遊びに来てはいるんだけれど、ここのところ、未見な映画が続いちゃったので、ちょっとだけお久です♪
安藤君は、色々な映画にちょこまか出てるから、きっとななさんも「あの映画のあれに出てた人なんだっけ~!」って思い出しそう。最近のでは、sakuranに出てたよ。
あと北野監督の「キッズリターン」で確かデビューしたんだったかな・・・。私はとっても好きな映画なんだ~。もし未見だったら、いつか見てみて~。ホモじゃないんだけど、男子の友達同士+ボクシングのスポコンが入った青春ものだよ^^
投稿: latifa | 2009年9月30日 (水) 11時26分
latifaさん こんばんは
私の方も作品が被らなくって
ちょっと御無沙汰してました~
>安藤君は、色々な映画にちょこまか出てるから・・・
そうらしいですね~。でも調べてみたら,見事に私が未見の作品ばかりでした・・・「さくらん」や「バトルロワイヤル」とか,観てないんですよ~。
「キッズ・リターン」は聞いたことありますね。一度観たいと思っていた作品です。ふーん,安藤君はあれに出てるのですか~,レンタル屋で見つけたら,また観てみますね!
投稿: なな | 2009年9月30日 (水) 20時50分
ななさん、お久しぶりです。
確かに、レオン・ライは妖艶さ(色香)が足りなかったですね・・・。
(やはり、レスリー・チャンならばピッタリだったような気もしました。)
でも、梅蘭芳は普通の人として描かれていたので、
そういう意味で観るとレオン・ライが適役のような気もしました。
安藤政信はこの『花の生涯~』が初めての海外映画だったけど、
彼なりに凛とした存在感を示していて頑張っていたように感じました。
安藤くんはキレた役も演じられる俳優だけど、
日本映画『キッズ・リターン』『イノセント・ワールド』『サトラレ』などで
純朴な役や繊細な役を演じている安藤くんのほうが私は好きです。
『さらば、わが愛~』には及ばないものの、
久々に芸術的な中国映画を観る事が出来たような気がした作品でした。
投稿: BC | 2009年10月 4日 (日) 17時34分
BCさん こんばんは!
>レスリー・チャンならばピッタリだったような気もしました。
私もそう思いました。レスリーだったら,壮年になっても京劇シーンをもっと見せてくれたかな~と。彼,小柄ですし,なんといっても踊りが色っぽい・・・カイコー監督も彼が存命ならきっと彼を使っていたと思います。
京劇以外の素顔の梅蘭芳のシーンは,レオン・ライも素敵でした。梅蘭芳の優しいところ,苦悩するところ,誠実なところ,忍耐強いところなど,レオン・ライの雰囲気にぴったりでしたし。
>久々に芸術的な中国映画を観る事が出来たような気がした作品でした。
そうですね~,それに久々にカイコー監督の成功作を観たような気も・・・(笑)こんど,「キッズ・リターン」の安藤くんを観てみたいと思います。
投稿: なな | 2009年10月 4日 (日) 23時15分