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2009年9月13日 (日)

ロルナの祈り

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ダルデンヌ兄弟の作品は・・・
実はちょっと苦手だった。

テーマは好きだけど,雰囲気が苦手と言うか・・・・静謐すぎて落ち着かないのだ。私にとって,「息子のまなざし」はよかったが,「ある子供」はそうでもなかった。(とちゅうで退屈してしまった)それでも新作が出たと聞くとスルーできず,ついついこの作品のDVDを手にとってしまったわけだけど。邦題にも惹かれた,というのもある。

で・・・この作品は・・・すごく心に来た。
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人の罪深さ,愛の誕生の不可思議さ。そして,
東欧社会で弱者として生きている人たちの,厳しい現実。
いろいろと考えさせられ,余韻を引きずる作品だ。

主人公のロルナは,国籍を取得するためにベルギーに滞在している,アルバニア移民の女性。国籍を得るために彼女は,闇ブローカーの手引きで,麻薬中毒の青年クローディと偽装結婚する。

ブローカーは,この後,用済みになったクローディを,なんと麻薬の過剰摂取をよそおって殺害し,未亡人になったロルナを,今度は国籍を欲しがっているロシア人男性と偽装結婚させる計画だ。
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クローディ殺害の計画に関してはロルナも承知で,ロシア人からブローカーに支払われるお金は,ロルナの手にも入る。彼女はそのお金を恋人との新所帯に使う予定。そう,彼女はれっきとした犯罪者なのである。

なんともやりきれないストーリー設定だ。
犯罪に手を染めてまで国籍を必要とするロルナのような移民たちや,彼らを利用して儲けているブローカーたち。利用している,と書いたが,考えてみればロルナたちにとっても,彼らブローカーの存在はなくては困るのだ。そして犠牲になるのは,クローディのように,密かに抹殺されても,誰も顧みないあわれな麻薬中毒患者という現実。

カメラは終始一貫して,ロルナの日常生活を静かに何の感情も交えずに追ってゆく。もちろん,BGMなど皆無なドキュメンタリー・タッチ。おまけに俳優たちのセリフも最小限で,淡々とした抑えめの演技なので,よほど感性を研ぎ澄まして観なければ,登場人物の気持ちの変化がわからないまま置いていかれそうな作品だ。

特にロルナの心境の変化はわかりにくい。
冒頭,クローディと形式上一緒に暮らす部屋でのロルナは,不機嫌で,ぶっきらぼうで,取り付く島もない雰囲気を漂わせている。クローディのことをほんとにうっとおしく感じているのか,それとも情が移るのを恐れているのか,彼女の無表情の演技からは何も読みとれない。仕事帰りにひそかに会う,本当の許嫁の青年に見せる笑顔とは別人のようだ。
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クローディを演じるのは,「ある子供」にも出演した,ダルデンヌ作品ではお馴染みのジェレミー・レニエ。役柄に合わせてか,痛々しいほど痩せやつれていた。彼の演じるクローディは,偽造結婚なのにもかかわらず,子供のようにロルナを一途に慕う。そっけない態度のロルナに,「トランプしよう」「話をしよう」と懸命に働きかけ,「麻薬をやめれるように力を貸してくれ」とロルナに縋る。

・・・・確かにどうしようもない情けない男だけど,ひたむきに懐いてくる傷ついた犬のようで,哀れすぎて愛しくなってしまう。

ロルナはいつから
彼を愛するようになったのか?

目的のために利用するだけの相手を。
そして用が無くなると冷酷にも殺すつもりの相手を。

それは決して愛してはいけない相手であり,彼女自身もまた,愛するなんて思いもよらなかった相手だ。
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劇中に唐突に登場するラブシーン
(それもロルナの方から)は,あまりにもいきなりに思える。しかしそれまでに彼女は,ブローカーに「クローディを殺すのは中止して」と何度も懇願するようになっている。きっとあの頃から,彼女の心境には変化が生じていたのだろう。ベルギーで恋人と所帯を持つという目的は果たしたいけど,クローディは犠牲にしたくないという,複雑な思いが起こってきたのだ。それが「愛」とまで呼べるものかどうか,おそらくロルナ自身も気づいてはいなかっただろうけれど。

クローディの子供を想像妊娠し,これまでの計画も,許嫁との未来もすべて投げ捨てて,「想像上のクローディとの赤ちゃん」のために森へと逃走するロルナ。そのとき,彼女のクローディとの行為は,始まりは憐憫の情や母性愛からだったとしても,今は確かに愛にまで昇華したのだと思った。・・・・ただし,相手のクローディはもうこの世にはいなかったのがなんとも哀しい。

お父さんは助けられなかったけど,あなたは絶対に守る」と実際にはいない赤ちゃんに語りかける彼女の台詞に,私は彼女のクローディへの確かな愛と懺悔の思いを感じた。

観終わっても,しばらく言葉が見つからなかった。
こんなにも,暗く,重く,そして静かで強烈な愛の物語。

犯罪者であったロルナの,ある意味これは,人間としての再生物語なのかもしれない。愛を知り,母となって再生したロルナの物語。愛した相手はもう存在せず,母としての彼女は幻想にすぎなかったとしても,それでも彼女の心は救いを得たのだと信じたい。


二人が初めて愛し合った翌朝,ロルナがクローディを追いかけてゆくときに見せた,一瞬の輝くような無邪気な笑みが忘れられない。

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コメント

ななさん、こんばんは。
ロルナのあの自転車を追いかけるシーンでの笑顔はわたしも忘れられません。
その直後にクローディが死んでいるのだから、やりきれなさは倍増でした。
でもロルナはすべての打算やしがらみから逃れて、愛を獲得したのかもしれませんね。もうその対象は葬られてしまっている。だからお腹に彼の子を宿していると自分に言い含めて…
もう大好きな作品です。

こんばんは。

壮絶で重く、しかし最後に美しい輝きをくれた作品でしたね。
展開が意外で強烈であった分、今もしっかり自分の中に存在を残している作品です。

>ひたむきに懐いてくる傷ついた犬のよう

クローディーを評するぴったりのご表現と感じました。
また演じるジェレミー・レニエの微笑みがか細くて儚い感じでしたよね。
痛々しさは『ある子供』の時の彼にも通じるものがあったけれど、本作の彼の方が哀しく憐れでもあり、より一層印象的でした。
『夏時間の庭』は観に行かず仕舞いでしたが・・・。まともな暮らし?をしている“大人”の彼はどんなだったのでしょうかね。^_^

>一瞬の輝くような無邪気な笑み

私もあの笑顔が忘れられません。

リュカさん こんばんは!

>ロルナのあの自転車を追いかけるシーンでの笑顔はわたしも忘れられません。
許嫁にも見せたことのない,心から幸せそうな笑顔でしたね。
そのあとのクローディの死は,あえて映像を見せなかったことで
余計に重く心に残りました。

ラストのロルナが失ったもの,その代わりに得たものについて
しばらく考えさせられましたよ。
取り戻したのは愛と人間性
失ったものはその愛する対象と将来の夢・・・
それでもこれはやはりハッピーエンドだと思ってしまいました。

ぺろんぱさん こんばんは

>最後に美しい輝きをくれた作品でしたね。
そうですね,それまでの暗闇が深かった分,最後の輝きが際立った作品でした。
ダルデンヌ兄弟の作品って,やりきれない設定でいつも始まるので
こんな風にラストのかすかな光明でも天国の光のように感じてしまいますし
そんな風に感じさせるのが,監督の狙いなのかもしれませんね。

>ひたむきに懐いてくる傷ついた犬のよう
実は私はこんな男性に弱いんですよ。
強くて自信満々の男性には,まったくトキメキません。
惹かれるのはいつも,失敗や後悔を繰り返している男性ばかり・・・。
そういう男性をフォローできるほどの器の大きさは持ち合わせていないにも関わらず
いつも好きになるのはそんな「縋り系」の男性だったりします。
だから,クローディを愛してしまったロルナの気持ちは痛いほどわかりました。
私が彼女でも,クローディを愛してしまったと思います。
そんなこんなで,すごく感情移入してしまった作品でした。

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