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2009年8月25日 (火)

ダウト~あるカトリック学校で~

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1960年代のカトリック系の学校を舞台に,人間の猜疑心をテーマに繰り広げられる心理サスペンス・ドラマ。

ストーリーは地味でラストも歯切れの悪いものではあるが,何と言ってもメリル・ストリープやフィリップ・シーモア・ホフマンの白熱した演技合戦は見どころだった。
Cap042
あらすじ:
1964年、ブロンクスのカトリック系教会学校。校長でシスターのアロイシス(メリル・ストリープ)は、厳格な人物で生徒に恐れられていた。ある日、人望のあるフリン神父(フィリップ・シーモア・ホフマン)が一人の黒人の男子生徒に特別な感情を持っているのではないかと疑念を抱くが……。

アメリカが変わろうとしていた1964年。ニューヨークのブロンクスにある聖ニコラス・スクール。この物語の核となる3人の聖職者は,シスター・アロイシスシスター・ジェイムス,そしてフリン神父
Cap041
厳格で高潔,何よりも保守的で戒律を重んじる
信仰を持つ校長,シスター・アロイシスとは正反対に,革新的で開放的な思想を持つフリン神父。そしてその両者の間で揺れるシスター・ジェイムスは,新任のフレッシュな歴史教師だ。

ひとくちに聖職者といっても,その価値観や信仰のありようはまことに千差万別だ・・・・とこの作品を観てつくづく思った。キリスト教精神とは・・・・そりゃさまざまな面があるのだけど,シスター・アロイシスは「寛容」「赦し」「慈愛」よりも,「正義」や「断罪」のほうにはっきりと重きを置いている。正義を行うためなら神から遠ざかることになろうとも厭わない,という確固たる信念のもと,疑わしきは罰する,という極端な行動を取る。
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一方,疑惑を持たれるフリン神父のほうは,進歩的で享楽的で,柔軟な信仰の持ち主として描かれている。しかし・・・・人望と同時に,疑惑を持たれても仕方がないような胡散臭さも持ち合わせている。(ホフマンが演じたから余計にそう感じたのか?)アロイシスの疑惑が当たっていたのかどうか,物語はラストになっても明かされることはない。この点はすっきりしないが,真偽を正すことがこの物語のテーマではないので,これでいいのだろう。

この物語のテーマはあくまで,
人間の心を果てしなく支配する疑惑
なのだ。

聖職者でありながら神の教えよりも己の疑惑の方に固執するアロイシスと,同じく聖職者でありながら,とんでもない疑惑を持たれてしまうフリン神父。・・・考えてみればどちらにも人間の弱さが見える。カトリック学校が舞台ではあっても,描かれているのは信仰とはそんなに関係なく,あくまでも人間の物語なのだ。
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シスター・アロイシスが発信した疑惑に,強く心を揺さぶられる若いシスター・ジェイムス。疑惑の真偽をめぐって,彼女は両者の間に立って迷い悩む。もとはと言えば,彼女の言葉がきっかけになって表面化した疑惑ではあるけれど,アロイシスによって問題がどんどん大きくなってくると,生まれつき善意のひとである純なジェイムスにとって,それは重すぎる悩みとなっただろう。エイミー・アダムスの繊細な演技が光る。
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そしてまた,アロイシスに呼びつけられたミラー夫人(ヴィオラ・デイビス)の心情や台詞にも心を打たれた。彼女は言う。「疑惑が本当だとしても,フリン神父には感謝している。息子には気にかけてくれる人が必要だ,自分は息子の側に立ってくれる人間の味方をする」と。過ちを正すことだけに固執するシスターに対して,彼女はひるむことなく息子のために「思いやり」を要求したのだと思う。

それにしても,メリルの演じたシスター・アロイシスの強烈さ。何があのように彼女を「まずはじめに疑惑ありき」のようなものの見方をする人間にしてしまったのか?
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たしかに横暴で,容赦なく人を裁く冷たい人間ではあるが,視力の弱った老シスターをさりげなく気遣う優しさも持ち合わせ,結婚していた過去があり,「大罪の懺悔」も体験しているというシスター・アロイシス・・・・ものすごく複雑で奥の深いキャラクターだ。

そしてラストの彼女の涙。
彼女は自分の非をちゃんとわかっていたし,それに苦しめられてもいたのだ,ということがわかる。でも,その生き方を変えることはおそらく・・・不可能なのだろう,ということも。

自由自在なメリルの顔面演技に圧倒され,登場人物が折りに触れて発する深遠な台詞に翻弄され・・・・なんだかとっても頭を使いながら観た作品だった。(もちろん素晴らしい作品ではあるが・・・ハッキリ言って疲れた~

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映画 た行」カテゴリの記事

コメント

ある意味密室劇ですよね。
他人を疑いだしたらキリがないということがイヤほど分かる映画でしたよ。

ななさん、こんにちは! ちょっとご無沙汰してしまいごめんなさい!
最近、余裕がなく・・、って前からですが(笑)。
遅れましたが2周年おめでとうございます!

さて。。この作品。私はね、シスター・アロイシス寄りで観てしまいました。
この映画の正しい(?)解釈は、疑うことで悪人を作る、そのことが罪なのだ、みたいな感じだったと思います。
それが9.11以降、イラクに侵攻したアメリカを象徴しているんだ、と・・・。
私は、そういう風に観なかったんですよね。だってPSHが胡散臭いもん、何かしてそう(爆)
まぁ、それは半分冗談ですが。。自分はシスター・アロイシスの敬虔さ、厳格さを否定したくないと思ってしまったんですよね。
私には絶対的な「神」=信仰の対象がないので、彼女たちの心の本当のところは理解できてないと思いつつも。
見応えのある映画だったと思います!

にゃむばななさん こんばんは

もとが舞台劇だというだけに,台詞のパワーが効いてる作品ですね。
室内での白熱したやりとりが際立っていたので
たしかに密室劇とも言えるかもしれません。
膨れ上がって一人歩きする疑惑というものはほんとに怖いです。

真紅さま こんばんは

お祝いメッセージもありがとうございます。
わたしも,この作品,シスター・アロイシスを嫌いにはなれませんでした。
疑う習性が身についてしまった,というか
確固とした信仰ゆえに,どうしても相手の中に「罪」を探してしまう,
そんな「裁く」タイプの聖職者の哀しい性が体現されていたように思います。
「愛」とか「赦し」とか「憐れみ」のない信仰は,結局自分を苦しめることになると思うので
この物語で一番傷ついたのは,ある意味彼女だったのかもしれません。
自分で自分の首をしめざるを得なかった苦しさですね。

それにたしかに,ホフマンは怪しすぎ・・・・
彼のキャラのせいですけど。私でも疑ってしまいそう。
でも証拠もないのに思いこんだりはしたくないですけどね・・・・。

ななさん、こんにちは~☆^^

冒頭、さらりと触れられるこの年代。
公民権運動が盛んになってたこの頃。
そしてあのミラー夫人の血を吐くような台詞。
内容的にはそこが結構印象に残りました。

そして言わずもがな?の、役者さんたちの演技の素晴らしさですよね~。
なんであの校長室のシーンで、電球が何度も切れたのかわかりませんが(最初はオカルトっぽい展開になるのかと思った(^_^;)) あの二人のあの言い争いでは電球も切れるってもんかも(^^ゞ

メリルの演技は、顔の皺の一つ一つも自分の力で動かしてるのか?と思うくらいの神がかり的演技で、背筋がぞわぞわしました。
それにホフマンも、血管浮き出るわ、涙目になるわ、もう彼の演技にもお腹いっぱいでした(^^ゞ

あの子の体にあっただろう、虐待の痕を観ていただけ、と思いたいけど、フリン神父は限りなく怪しい・・。
でも、信じたい気持ちもあったし。
”ダウト” 映画の題名としてはありがちなものですが
ぴったりの良い題名だったなぁって思いました。

M.ストリープとシーモア・ホフマンの対峙にしびれました。
正面を向く二人の間でA.アダムスが下を向いているポスターが印象的です。

確か舞台の映画化でしたよね。
対照的な人物設定、台詞回しと物語の展開、よく練られた脚本に名優の競演。
おもしろくないわけがありません。

メルさん こんばんは

1960年代はじめって,いろいろ変化が始まろうとしていた時代だったんですね。
(・・・・わたしの生まれた頃だわ。)
シスター・アロイシスとフリン神父の闘いは
保守的なものと革新的なものとの戦いでもあったのかもしれませんね。

>なんであの校長室のシーンで、電球が何度も切れたのかわかりませんが・・・・
あの時代の電球は大きな音で簡単に切れたのでしょうか・・・?
不便な時代だなぁ・・・(;;;´Д`)

>メリルの演技は、顔の皺の一つ一つも自分の力で動かしてるのか?と・・・・
ほんとそうですねー,まさに自由自在って感じで!これぞ名女優!ですよね。
ホフマンはメリルに比べるとちょっとそこまでは・・・という印象もありますが
やっぱりこのひとも凄いですよね。
個人的にはミッション・インポッシブルでトムクルを痛めつけた悪役のときの
彼の怖さが忘れられません・・・・。
けっこう胡散臭い役が多いし,「カポーティ」でもゲイ役だったりしたので
この作品でも思いっきり「アヤしい・・・」と思ってしまいました。

クラムさん こちらにもありがとうございます。

主要登場人物が4人ともオスカーノミネートというのも納得の
見ごたえのある堅牢な作品でしたね。

>正面を向く二人の間でA.アダムスが下を向いているポスターが印象的です。
確固たる信念のもと,堂々と戦う二人とは対照的に
アダムスの揺れる立場や心情がよく表されたポスターですよね。

PSホフマンの神父怪しすぎ!あの胡散臭さに対抗できる女はやはりMストリープくらいっしょ。
映画ではあくまでも2大俳優の舌戦がメインであって真相は藪の中ですが、それを暴露する話だったら、かえって人畜無害っぽい雰囲気の方をキャスティングするのではないかな?見てるこっちも、怪しい、でも違うかもしれない、と思わせるビミョ~な感じがよかったですね。
これは実際にあった神父による性的虐待事件を元ネタにしてるんでしょう。完全なるフィクションだったらカトリックの総本山からのクレームがくるのは必至。事件が発覚したのは21世紀に入ってからですから(日本でも大きく報道されましたよね)当人はずっとあんな風にうまく逃げおおせてたんだな。

garagieさん お久しぶり!
お元気でしたか~

>PSホフマンの神父怪しすぎ!
限りなくグレーという役柄に
神父らしくない容貌のホフマンを持ってきたのは正解でしたね。
いくら怪しくても,追い詰める証拠をねつ造してまで
彼を糾弾したメリルの行動は批判されるべきですが。
真偽を追及するのがテーマではなく
あくまで「疑惑」が主役の物語だというのが面白かったです。


こんにちは~♪ななさん

1月半ばまで劇場鑑賞予定がないので、ここのところセッセとDVDを観ています♪

で、、、これですが、、、
メリルとホフマンの口論合戦が凄かったですね~
息を飲んで見守りましたよ。
それに怖かった!!
メリル演じたシスターのような女性って実際でもいると思うのよ(汗)
だから、、、「もう~ダメだ。この女からは逃げられない」って鬼気迫るものを感じながら観ましたよ

由香さん こんばんは

わたしも「Drパルナサス」までは鑑賞予定はないです~
お互いDVD三昧ですね!

さてこの作品,とっても楽しみに観たのですが
そして俳優たちの演技合戦には
とても圧倒されたのですが
「好きな作品」としてベスト10には選べませんでした。
ちょっと難解・・・ですよね。
メリルとホフマンのあの対決シーンは鳥肌たちますよね。
メリルのシスターも怖いけど
ホフマンの神父も胡散臭くて(それは彼の雰囲気のせい?)
わたしはどっちもどっちだな~なんてちらっと感じたりも
しましたよ~
神父役が完全にピュアで善良キャラの俳優さんなら
メリルが完全悪役にも見えたでしょうが
ホフマンをもってきたことで
事実はどうなんだろう?と観客も迷わせる,
そんな心憎いキャスティングだったと思います。

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