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2009年6月の記事

2009年6月28日 (日)

裏街の聖者

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香港の下町で,患者たちに慕われる町医者ラウ先生(トニー・レオン)と,彼を取り巻く人々の悲喜劇。1995年製作。原作は,史村翔(作)・ながやす巧(画)によるコミック『Dr.くまひげ』(講談社刊)。

これのトニーはとにかく素敵だと聞いて,DVDをレンタル。いやぁ~~ほんとに,見た目も人柄も雰囲気も,なんともいえず魅力的なラウ先生を演じるトニーに,すっかり悩殺されました。
Cap026
冒頭,なぜかバリバリの讃美歌(アメイジンググレイス)の男声合唱バージョンのBGMで物語が始まる。「聖者」という邦題といい,ラウ先生は一応クリスチャンらしい。ただし,彼の通ってる裏街の教会は,かなり型破りな教会で,信者は娼婦やヤクザが多い。刺青合唱団の歌うアメイジング・グレイス(これがめっぽう上手い)は,日本の元ヤクザクリスチャングループの,ミッション・バラバを思い出した。

そんなぶっ飛んだ教会で,
くわえタバコでオルガンを奏楽するラウ先生はカッコいい。
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娼婦やホームレスの多い街で,己の信念をまげることなく,飄々と,気負わずに真摯に患者と向き合うラウ先生。酒も好き,女も好き,ジョークも好き,そしてなによりも人間が好きなんだろう,ラウ先生は。

腕は超一流。なのに名声にはまるで関心なし。自分の手柄を親友の医師に横取りされてもまったく意に介さない。相手が犯罪者だろうが,自分の敵だろうが,いつも平常心で治療に全力をつくし,助けることができなかった患者の死をもきちんと受け止めることができるラウ先生。
Cap006
ラウ先生の無尽蔵の包容力を思うと,これぞ愛のひと!と感嘆せずにはおれないけれど,「いかにも~聖人君子でござい~」というタイプではなくって,ちょっと不良がかった崩れた雰囲気がまたよい。

優れた医者であることと,
人の心の機微に通じた愛の人であること・・・

この二つを併せ持つラウ先生は,どちらかを選ばねばならない場面では,常に後者の方を優先する。死を前にした肝硬変患者の,「豚足を食べて女性を抱きたい」という最後の願いを叶えようとする医者は,おそらくラウ先生くらいだろう。
Cap011
そして,深夜,誰もいない部屋で,ひそかに今は亡き恋人のために涙するラウ先生の姿は・・・めちゃくちゃ愛おしい。このときのトニーの表情がまた,いいんだなぁ・・・

もう,おわかりのように,
この作品はDr.ラウの魅力に尽きる。

こんな先生が主治医だったら,・・・・わたしゃ毎週でも仮病を使って病院に通い詰めそうだ。そしてうちの教会にも来て,くわえタバコでオルガンなぞ弾いてほしい。
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今まで,どちらかというとシリアスで不運なキャラを演じるトニーが好きだったし,実際そういう役のトニーは,この上なく魅力的だと思うけれど・・・それでも,この作品のラウ先生のような,軽妙で優しくってお茶目なキャラを演じるトニーもまた・・・・なんてキュートなんだろう,と改めて彼の引き出しの多さに目を見張った。
Cap023
結局,どんな表情しても素敵なんですよね・・・・・うふ

2009年6月22日 (月)

愛を読むひと

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あらすじ: 1958年のドイツ、15歳のマイケルは21歳も年上のハンナ(ケイト・ウィンスレット)と恋に落ち、やがて、ハンナはマイケルに本の朗読を頼むようになり、愛を深めていった。ある日、彼女は突然マイケルの前から姿を消し、数年後、法学専攻の大学生になったマイケル(デヴィッド・クロス)は、無期懲役の判決を受けるハンナと法廷で再会する。(シネマトゥデイ)

これは,ハンナとマイケルの
数十年にわたる愛の物語。

バスの車掌をして生計を立てている36歳のハンナと,ギムナジウムに通う15歳の少年マイケルは,ハンナの質素なアパートで愛し合うようになる。
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住んでいる世界がまったく違う,親子ほどの年齢差のふたり。
彼女が初めての女性だったマイケルは,ハンナの成熟した身体に酔い,アパートに一途に通い詰める。

ハンナを演じたケイト・ウィンスレットが素晴らしい。原作を読んだ地点で,「これは難役だな」と思ったけれど,ケイトが演じるハンナ・シュミットは,まるで原作から抜け出てきたかのように,彼女の複雑なキャラクターを見事に体現してみせていた。
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人には言えない過去を背負うハンナの,
厳しさと暗さを秘めた美しさ。
彼女の孤独,彼女の頑固さ,彼女の強靭さ,
その反面,愛と知識に飢えた彼女が,
時折見せる子供のような頼りない表情。

物語が進み,彼女の過去の罪と,彼女が世間にひた隠しにしてきた秘密が明らかになると,なぜ彼女が,あんなに人に心を許さなかったのかが納得がいったのだけど。
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誇り高く,ある面では愚かといえるくらい融通がきかないハンナ。彼女はある意味,時代や社会の犠牲者だったのかもしれない。

ケイト・ウィンスレットの,若すぎない裸身は,ギリシア彫刻のミューズを連想させる。ほどよく豊満で,美しい曲線を描いた背中やヒップの醸し出す色気。そして彼女が時折見せる,憂鬱さと険しさが入り混じった表情・・・・それはまさに,私が原作を読んだ地点で脳裏に思い描いていたハンナそのものだった。

そして,そんなハンナを愛したマイケル(原作ではミヒャエル)。
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演じるデヴィッド・クロス君はドイツの俳優さんで19歳だそう。可愛らしさと大人っぽさが同居してるような青年で,ハンナの言動に一喜一憂する純情な15歳の少年から,法廷でハンナを見守る大人の青年まで,幅広く演じ分けていた。

マイケルのハンナに対する気持ちの変化。
一点の曇りもない心で,ハンナに一途に恋い焦がれていた15歳の夏。戦犯を裁く法廷で,彼女の過去を知ったときの,衝撃と,戸惑い。
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あの時,罪びとであるハンナを愛したことを,彼は後ろめたく感じたのだろうか?過去を隠していたハンナに,裏切られたとも感じたのだろうか?

愛した人が,世間では極悪人のレッテルを貼られるほどの重罪を犯していた・・・と知ったときのマイケルの気持ちは,彼女の側に立ちたい気持ちと,彼女から身を引きたい気持ち・・・それらが心の中でせめぎ合っていたのではないだろうか。
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そして,マイケルはハンナの「もうひとつの秘密」を知る。
それを世間に隠し通すためには,やってもいない罪を被ることさえ厭わなかったハンナ。ネタばれになるので書かないけれど,今の日本では,そんなにピンとこない事柄である。しかし,当時のドイツでは,貧困のため,そういうことも多々あったのだろうか。

この物語は奥が深い。究極の年の差恋愛を描いていると思いきや,その背後にはもっと重いテーマ・・・・あの時代に,わけがわからないままに良心を麻痺させてナチスのために働き,のちに戦犯として容赦なく裁かれる,ハンナのような女性の悲劇が描かれている。ハンナのもうひとつの悲劇もまた,あの時代ならではのものなのだろう。
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物語が進んでいくにつれて,ハンナに対して,罠にかかった無力の動物に対するような,なんとも言えない憐れみの思いがこみ上げてくる。なんという哀れな運命!唯一事実を知っているマイケルよ,あなたはなぜ,何もしない・・・。

しかし,彼の気持ちもまた,わかるのだ。
ハンナの意思を尊重すべきか,
それともそれを無視して助けるべきか。


自分の中で懸命に,「過去のひと」だと整理をつけたハンナと,再び会うことに対する恐れもあったろう。あれほどの強烈で甘美な体験を,きっと誰しも忘れることはできないだろうから,きっと愛は消えてなかったと思うけれど,だからと言って,再び元に戻ることは,不可能であると,彼は百も承知していたから。
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それでも,獄中の彼女にマイケルが送り続けた朗読テープは,この哀しい物語の中でも,最大の癒しの役割を果たしたと思う。

マイケルの送ったテープに込められた思い。
それに聴きいるハンナの思い。

テープを通して二人の心はつながり続ける。マイケルがすべてを知った上で,それでも現在もハンナを気にかけていること・・・その思いは十分にハンナに伝わっただろう。

録音するマイケルと,テープを聴くハンナのシーンが交互に映し出されるシーンは,涙があふれてきた。
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思えば,ひと夏だけの恋人,それも20も年上で,今では戦犯として服役している女性に対してマイケルが取り続けた誠実さは,奇跡的でさえある。・・・・もはや互いをその腕に抱くことも欲していない関係だというのに。

マイケルの送り続けたテープのおかげで,ハンナが光を得たことが,この物語の中で一番嬉しかった。それでも,その光をもってしても,彼女のラストの選択を変えることはできなかったのかと哀しくなるけれど。

彼女はそれほど疲れきっていたのか?
それともやはりあれが彼女の贖罪だったのか・・・・・。

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釈放前の面会シーン。二人の間に流れる空気のぎこちなさ。互いを思いながらも,両者の間には,越えられないものが存在しているかのようで。それは,ナチスの罪に関しての,意識の決定的なズレなのかもしれない,と思った。マイケルのした質問は,そのことを確認したのだろうか。

風変りな愛の物語だと思う。
それと同時に,哀しいけれど,
やはりこれは,美しい恋物語だと思う。

マイケルのデリケートさ・・・ハンナの強さと不器用さ・・・。
すべてがいじらしく,愛おしく思えてならない。

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今にして思えば,ハンナのマイケルに対する愛は,マイケルのそれよりももっと深かったのではないかと思う。わたしの坊やとマイケルを呼び続けたハンナ・・・・。あのような孤立無援の人生を送った彼女が,限りなく可哀そうにも思える。

・・・しかし,そんな彼女を,自分のできる方法で,控え目ではあるけれど,たゆみなく愛し続けたマイケルにも・・・心を打たれずにはいられない。(レイフ・ファインズ,なんてぴったりな役!)

これはDVD絶対買うぞ~。

2009年6月20日 (土)

ターミネーター4

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初めて観たとき,
その斬新なストーリーにすっかり魅せられたT1。
ファーロング少年と,シュワちゃんの間の友情に泣けたT2。
・・・・そして,「見なかったことにしよう」と思ったT3。

で,忘れた頃に製作された,このT4は・・・・。
3の口直しとしては,まずまず上出来だと思う。
ベイルやっぱしかっこよかったし。

あらすじ:
“審判の日”から10年後の2018年。人類軍の指導者となり、機械軍と戦うことを幼いころから運命づけられてきたジョン・コナー(クリスチャン・ベイル)。今や30代となった彼は、人類滅亡をもくろむスカイネットの猛攻が開始されようとする中、ついに人類軍のリーダーとして立ち上がることになる。(シネマトゥデイ)
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このシリーズは,1からずっと,ジョン・コナーの成長を追うように製作されているが,今回は成人したコナーが,スカイネットに対抗する抵抗軍のリーダーとなって活躍し,自分の未来の父であるカイルの命を助けるお話がメインで,そこに新型のターミネーター,マーカスの物語が絡む。

毎回,各ターミネーターが,進化した得意技を披露してくれるのがこの作品のお約束だけど,今回の新型ターミネーターは,見た目も心も人間そっくり,というか,人間の心を残したまま製作されたターミネーター。彼の苦悩や葛藤,そしてラストのある選択もまた,この物語の見どころとなっている。
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マーカスを演じた俳優さん・・・どことなく,ベン・アフレックに似てた。ベイルを食ってしまうくらい存在感のある役だった。

T1で過去にワープしてコナーの父となるカイルを演じたアントン・イェルチン君は,ロシア出身の可愛い俳優さんで・・・・。コナー誕生に一役買うことになるため,スカイネットから命を狙われるのだが,もし彼が死んでしまった場合,その地点でコナーの存在って,消滅するんかな?とちょっと気になった。

コナーひとりがわけを知ってる親子対面は,観てるこっちも不思議な気分・・・・。目の前の年下の青年を見ながら,コナーは「これが僕の父さんか・・・」と感無量に思ったかしらん。
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この作品で面白かったのは,ターミネーターだけでなく,いろんな戦闘ロボットが出てきたこと。

バイク型追跡ロボット,水中ロボット,
ターミネーターの巨大版・・・

メカ好き,ロボット好きの男の子は大喜びしそうだ。

ただ,私ときたら,今回も007の時と同様,戦闘シーンはところどころ眠っていたようだ。疲れていたというのもあるけど,どうも私は台詞がなくて「ドカーン!」「ズドーン!」と大音響が連発するシーンになると,条件反射的に睡魔に襲われる体質らしい。
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だからといって,この作品が退屈だったというわけでは決してない。
肝心なシーンはちゃんと起きて観てたし。

それにしても,CG処理なんだろうけど,シュワちゃんが登場したときは嬉しくてつい大笑いしそうになった。やっぱり,彼(すっぽんぽん)と,あの元祖ターミネーターが出てこないと,この作品を観た!って気がしないものね。
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2009年6月14日 (日)

チェイサー

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最近低迷していたかのように見えた韓国映画界だが,久々に大絶賛を浴びている作品が登場したらしい・・と聞いて,遅ればせながらまだ公開してくれてる,隣県のミニシアターにまで観に行った。それも夜。

なんでも,実在した韓国の殺人鬼ユ・ヨンチョル(10か月に21人を殺害)をモデルにした作品だそうで・・・・。おまけに監督はこれが初の長編映画だというから驚く。(多少ネタばれもしてるので,未見の方はご注意ください。)
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あらすじ:
デリヘルを経営する元刑事ジュンホ(キム・ユンソク)のところから女たちが相次いで失踪(しっそう)して、ときを同じくして街では連続猟奇殺人事件が発生する。ジュンホは女たちが残した携帯電話の番号から客の一人ヨンミン(ハ・ジョンウ)にたどり着く。ヨンミンはあっけなく逮捕されて自供するが、証拠不十分で再び街に放たれてしまい……。(シネマトゥデイ)

凄い・・・凄すぎる。
やっぱり,こういう重く救いのないクライム・サスペンスを撮らせたら,韓国の右に出る国はないかもしれない。
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殺人の追憶オールドボーイなどもこの手の衝撃作だけど,韓国にはこのレベルの作品を撮れる監督さんが,一人だけでなく複数いらっしゃる,ということに感嘆するし,また俳優さんのレベルもくやしいけど日本よりずっと上だと思う。

だって,この「チェイサー」の主演のお二人って,どちらもイケメンでもなんでもないし,日本じゃそんなに知名度も高くない(と思う)のに,こんな素晴らしい演技をサラリとやってのけるのだから。韓国ではもしかしたら,脇役レベルの俳優さんも,いざとなれば堂々と主役を張れるくらい名優ぞろいなのかもしれない。
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特に,犯人を演じたハ・ジョンウの不気味さには,ほんと鳥肌が立った。絶対の愛にも出てた俳優さんらしいが,その時は記憶に残らなかったのに・・・・。

そう,記憶に残らないくらい凡庸な外見で,それゆえに一見,人畜無害に見える犯人。荒々しい面構えの警察の面々のほうがよほど人相が悪いかもしれない。

しかし,怖気をふるう残虐な殺害法(屠殺!)や遺体の処理の仕方などを,まったく普通の口調で淡々と語る彼を観ていると,背筋がじわじわと凍りつくような得体のしれない恐怖を感じる。罪の意識をかけらも持ち合わせていない,まるで呼吸をするのと同じくらいたやすく自然に人を殺せてしまう,こんなモンスターのような人間が本当に実在したとは・・・・。
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そして,警察の手を借りずに単身で犯人を「追う」主人公を演じたキム・ユンスクの「内面の変化」を表現する演技もまた,見事の一言に尽きる。

登場したときは決して善人ではなく,刑事崩れのデリヘルの元締めであり,言ってみれば女を食い物にする商売で,生計を立てている最低の男だったジュンホ。打算的で粗暴で,雇われている女性からは,陰でゴミとまで呼ばれていた彼が犯人を追うきっかけになったのは,自分のところの女の子が続けて行方不明になり,犯人に売り飛ばされているのではないか,と疑ったからだった。
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ほんとに,自分のことしか考えてないような,傲然とした表情を見せていた彼が,物語が進むにつれて,どんどん変わってゆく。

徐々に明らかになっていく,
犯人の言語を絶するほどの非道さ。
足を引っ張るばかりで役に立たない無能な警察。
風邪で休んでいたミジンを無理やり仕事に行かせた自分。
そして,残されたミジンの幼い娘の存在。

それらを目にするうちに,ジュンホの顔には,恐怖,他人のための怒り,哀しみ,そして自責の念・・・など人間らしい感情が浮かぶようになる。同時に,だらしない印象しかなかった彼が中盤からは,次第に精悍な雰囲気をただよわせ始める。
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それにしても,物語は観客の,予想というか期待をことごとく裏切ってくれる展開を見せる。「ええっ?そんなぁ!」と心の中で悲鳴を上げながら,観客は画面から一時たりとも目を離すことができない。
ヒロインのミジンが助かりますように・・・・
ジュンホに負けないくらい,誰もがそれを念じたに違いない。

それなのに・・・優先順位のおかしい警察や,犯人の運の強さやなにやらで,救いのない展開になってしまう。

あのとき,煙草屋のおばさんが余計なことを言わなければ。
警察が通報を聞いてすぐに駆けつけてくれていれば。
いやもともと,警察が犯人を釈放さえしなければ。
あの張り込んでた女刑事が,
煙草屋に踏み込んでくれていれば。
そして,ジュンホがミジンからの電話に出ていれば。

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仕方がないことだし,実際にこんな不運の重なることってあるのだけど,それでもやっぱり体が震えるくらい悔しかったし,もどかしかった。

事実上の遺言となってしまった,
ミジンからの留守電のメッセージは哀しすぎる。

被害者に関して言えば,ここまで救いがない設定は,すごく後味が悪いものだけど,実在したユ・ヨンチョルの事件でも生還者はたぶんいなかったことや,犯人が他者にもたらす悪を徹底して描いた,という点では,やはりこういう流れでよかったのだろう。(…ハリウッドなら生還させそうな気がする。)
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鑑賞後の後味は,苦く重いだけではない。

嫌われ者として生きていたジュンホは,この事件をきっかけに,他者を助けたい,守りたい,という感情を持つ人間へと再生することができた。おそらくこれからは,今までの稼業からは足を洗い,ミジンの遺児の面倒も見ることだろう。ラストシーンでそれが予測できるということは,この果てしなく恐ろしく禍々しい物語の中で,一条の光のように輝きを放つ。
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闇が深ければ深いほど,
どんなささやかな光でも,
その存在は際立つものだ。


それを感じることができたことが唯一の救いだったし,この作品にそれを盛り込んだ監督の考え方や手腕にも敬意を表したいと思う。

どうしようもない悪の存在は確かにあるものだし,その反対に,人はどんなきっかけでも再生できる可能性を秘めている。監督はクリスチャンだと,どこかで読んだが,悪の描き方の容赦のなさと,その反面,そんな体験からも再生できる人間を描いていること,などから,「なるほどそうかもしれない」,と納得した。
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しかし,怖かった・・・・

ノミと金づちを使った殺害シーンは思わず目をそらしてしまったし,坂道の路地の追跡シーンも・・・迫力もあったが,舞台そのものが不気味このうえなかった。犯人と主人公の格闘シーンも,韓国映画やドラマにありがちな,華麗なアクションではなく,不格好で,死に物狂いで,ほんとに殴り合ってるようなリアルさがあった。(きっとほんとに殴り合っていたのかも)

鑑賞後は,さすがに夜道の山越え(人家もないし)・・・・
すこし怖かったなぁ。

ハリウッド・リメイク・・・このアジア映画特有の泥臭さや気味の悪さを,ハリウッドで出せるとも思えないけど,せめて「ありがちな猟奇殺人犯から,レオが恋人救出に成功したお話」にだけはならないことを祈る!

2009年6月10日 (水)

ラヴソング

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ピーター・チャン監督が贈る
切なくも温かい「10年の恋」・・・・・。

何と表現していいかわからないくらい,素敵な雰囲気の作品。心の底から好きになっちゃった,これ。

シウクワン(レオン・ライ)とレイキウ(マギー・チャン)が出会ったのは,返還直前の活気あふれる香港。二人とも,中国大陸から夢を抱いて香港に出稼ぎにやってきた若者。ひとりは天津から。そしてもうひとりは広州から。
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われわれ日本人から見ると,香港も中国大陸も区別がつかないけど,この当時,香港は最先端をいく「大都会」で,夢の叶う場所であり,それに比べて大陸の方は「田舎」だと下に見られていたらしい。
広東語や英語が話せないと相手にされない香港。
大陸人であることに,引け目を感じさせる雰囲気の香港。


香港に出てきて「ひと旗あげ」ようとした大陸人の決意は,わたしたちが「東京」へいって成功したい,という感覚よりも,もっともっと悲壮なものだったのかしら,と感じた。
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そんな中で出会った シウクワンとレイキウ。
初めて接するキャッシュカードやマグドナルドにいちいち驚きの目を見張る,素朴で不器用な青年シウクワン。一方,さっさと香港の言葉やファッションをマスターし,がむしゃらに働いて一攫千金を夢見る,気丈でやり手のレイキウ。

正反対のタイプともいえる二人が「親友」になったのは,やはり大陸人同士,共鳴する悩みや苦労や夢を抱えていたからだろうか。
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シウクワンには故郷の天津に婚約者がいて・・・・。彼のつつましい夢のすべては,彼女との結婚で。それでも,香港の片隅で懸命に生きている彼にとって,同じ境遇のレイキウとの心の絆は日に日に深まっていき・・・。

衝動的に男女の関係になってからも,彼らは「自分たちは親友」だと思いこもうとする。身体は結びついていても,心は互いをどれだけ愛しているのか,まだこの地点では二人ともわかっていない。いや,それからはあえて目をそむけようとした,と言うべきか。
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やがてシウクワンは婚約者を香港に呼び寄せて結婚し,レイキウはヤクザのボス(エリック・ツァン)の恋人となり,事業家としても成功する。夢が叶ったかのように見えた二人だけど・・・・・。

最初の出会いから10年もの間,舞台を香港からニューヨークへと移しながら,愛し合いながらもすれ違いを繰り返すふたり。それは「君の名は」のように「探してるのに出逢えない」というすれ違いではなく,互いに別のパートナーがいるためにタイミングが合わない・・・というすれ違いである。
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素直に,一番愛している相手の胸に飛び込めばいいのに・・・とやきもきしつつ,二人の恋の行方をひたすら追い続けた2時間。それは,主演の二人がいかにも魅力的で,目が離せなかったせいもある。

純情青年を絵に描いたようなレオン・ライのはにかんだ笑顔も,ハッキリして気が強いマギーが時折見せる,愛情深くて繊細な表情も,観ているうちに,どちらもすごく愛おしくなってくる。

10年に渡る恋とひとくちに言っても,よくありがちな,現実離れした波乱万丈の物語ではなく,そのなかに男女のささやかなエゴや弱さも散りばめられた,等身大の物語だ。それが,なんだかものすごく心地いいのは,やはりそのリアルさに共感できるからだろうか。
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ロマンスも非現実的すぎると興ざめするものだけど,この作品の場合,決して誇張せず,押しつけがましくもない淡々とした描き方のせいか,一瞬たりとも興ざめすることなく,どっぷりと二人に感情移入できた。

うまく言えないけど…必要以上にロマンチックすぎないのがいい。
それでも押さえるべきツボはきっちりと押さえてくれているのがいい。

そして,要所要所に絶妙のタイミングで登場する,二人にとっては思い入れの深い,テレサ・テンの歌。・・・・懐かしいなぁ。彼女の歌声!(よくカラオケで歌ったもんだ。「つぐない」とか「愛人」とか。) 彼女の若すぎる死は,日本人の私たちにもけっこうショックだったのを思い出した。
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ラストは素敵だ・・・・なんともいえない余韻が残る。
しあわせて,あたたかい余韻だ。

過去作品の中でも,私にとって,これはもっとも好感度の高いラブストーリーかもしれない。ラブストーリー好きで未見の方は,ぜひ一度ご覧になることをお勧めする。

エンドロールで流れるレオン・ライの「甜蜜蜜」の歌。
なんて甘くて優しい声!
テレサの歌う同曲とは,また一味違った魅力だった。

2009年6月 7日 (日)

わが教え子、ヒトラー

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この話は真実だ。
しかし“真実すぎる”ため
歴史の本には出てこない。

ヒトラーを題材にした作品は,正統派のものから,ヒトラーの贋札ワルキューレといった,変わった切り口のものまでいろいろと製作され続けているが,この作品は,ヒトラーには演説を指導した教師がいたという史実を下敷きにしたドイツの映画作品。(原題はMein Führer – Die wirklich wahrste Wahrheit über Adolf Hitler)あの,善き人のためのソナタウルリッヒ・ミューエさんの遺作でもある。
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あらすじ:
敗戦が濃厚になりつつある1944年12月のドイツ。ヒトラー(ヘルゲ・シュナイダー)は病気とうつですっかりやる気をなくし、公の場を避けて引きこもる始末だった。そんな中、ユダヤ人の元演劇教授アドルフ・グリュンバウム(ウルリッヒ・ミューエ)は収容所から総統官邸に呼び寄せられ、ヒトラーに力強いスピーチを指導するよう命じられる。(シネマトゥデイ)

↑の,ドイツ版のポスターの雰囲気からもわかるように,これはれっきとしたコメディである。だから,「この話は真実だ」という映画冒頭に出てくるテロップも,あまり本気にしてはいけないヒトラーの演説を指導した人間がいた,という点だけが史実らしい。
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この作品の変わってるところ・・・というか,面白い点は,こういったヒトラー題材のコメディを撮ったのがユダヤ人の監督(ダニー・レヴィだということ。自虐ネタをも上手く料理するユダヤのジョークの精神がうかがえる作品で,ヒューマンドラマ・・・・というのとはちょっと違うと思う。しかしながらラストの展開などは,ヒューマン的な感動も,隠し味的にピリッと効いていたような。

コメディではあるけど,おバカ映画の雰囲気はなく,知的なブラックユーモアという感じが,いかにもユダヤのジョークっぽかった。
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なんせ,ヒトラーにジャージを着せちゃうんだから・・・・

この作品に描かれているヒトラー像は,独裁者というよりは,弱みや悩みを持った,同情したくなるような人物だ。ユダヤ人がヒトラーを描くとしたら,とことん冷徹なキャラに描きそうなものだが,そして実際に今までのホロコーストものは,そういう観点から描かれていたのだが,レヴィ監督の描くヒトラーは,人間くさく,そしてちょっと情けなくて,親近感すら覚える。

彼をパロディネタにして溜飲を下げたかったのではなく,ラストの演説シーンを観ればわかるように,ヒトラーを「癒しの必要な孤独な人間」だとして描いている。決して必要以上に「よく」描いているわけではないが,「彼がこうなるには,原因があった」ということを言いたかったような気がした。
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そして,収容所から連れてこられ,有無を言わさずヒトラーの演説教師を務めさせされるユダヤ人教授を演じた,ウルリッヒ・ミューエ。私は彼の,知性と物哀しさと優しさが程よくミックスされたキャラクターが大好きだ。(と言いつつ,彼の作品は三つしか観てないが)

教授の立場は複雑だ。
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同胞たちは今でもナチスに苦しめられてる真っ最中だし,自分もいつどんなことで風向きが変わって殺されるかわからない。ヒトラーへの怖れと憎悪。「殺せるものなら殺したい」という使命感。

しかし,個人レッスンを重ねるうちに,教授のヒトラーに対する気持ちは少しずつ変わっていく。とくにヒトラーから,幼少時代のトラウマを聞かされてからは。そういう,微妙な心の揺れを,絶妙な表情の演技で見せるミューエさんは,やっぱり名優だった。(過去形で書かねばならないのが寂しい。)また,優しいお顔からは想像できないくらい,彼の声が朗々として張りがあるのにも驚いた。
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ヒトラー以外のナチスの描き方は,もうこれは風刺たっぷりで笑えるシーンが満載だ。なんとなくお笑い芸人の雰囲気があるゲッペルズとか,妙なギブスを嵌めて腕を固定してるヒムラーとか。

一番可笑しいのは,習慣化されて,まったく心のこもってない「お座なり」ハイル・ヒトラー・リレーのシーン。声を出して笑っちゃうくらい可笑しかった。
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映画のラストの演説シーン。
ミューエさん演じる教授の顔に浮かぶ,
莞爾とした微笑み。


「善き人~」の時のラストも,彼の輝くような微笑みで幕を閉じたことを思い出しながら,エンドロールのコミカルな曲を聴きつつ,ホロリとしてしまった。
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「史実と違う!」という点が全く気にならない方には,ぜひ観ていただきたい異色のナチス映画。クスクス笑えて,最後に思いがけずホロリとさせられる・・・・・。何よりも,これをユダヤ人の監督が撮った,という点に,ユダヤ民族の持つ「精神的な余裕」やいい意味での「したたかさ」を感じる。

もっとも,これはあくまでも,大部分がフィクションであることは肝に銘じる必要があるかも。実際のヒトラーがこんなキャラだったと価値観を変える必要は・・・きっとないだろう。

 

2009年6月 6日 (土)

猫の全快祝

Fmo2_056 おめでとう!ななちゃん

・・・って,いったい何が?

実は晴れて,おねしょ癖
全快いたしました。

な~んだ,しょーもない・・・などと
呆れないでくださいまし~~
我が家ではこれ(猫のおねしょ),頭痛の種だったのですよ。
ななちゃん,一度粗相をした場所やものには,
けっこう繰り返し家人の目を盗んでやってくれまして・・・。

003_2・・・文句ある?

私の部屋のベッドでおねしょをするようになってから
そこは泣く泣く出入り禁止にしたのですけど
今度はジジババの布団とか,応接間のソファとか
手当たり次第に粗相をするようになってから半年・・・。

もうしまいにはあきらめモードで
おねしょされた時の始末のしかたも
すっかり堂に入ってきたころになって
突然,ぴたりとおさまってくれました!

なんで治ったのか,まったくわかりません・・・
いつ再発するかちょっとビクビクものですが
とりあえず,今のところは大丈夫みたい・・・・。(根拠なし)
ストレスを与えると再発しそうなので,
これまで以上に甘やかしている今日このごろ。←いいのか?

やっと前のように添い寝ができるようになって
嬉しいかぎりです!

008  す~ぴ~

2009年6月 3日 (水)

僕は君のために蝶になる

Poster
ジャケットの美青年と,エグザイル/絆ジョニー・トー監督作品ということに惹かれてDVDで鑑賞。ノワール作品ではなく,不思議なラブストーリーだった。ふ〜ん,こんな作品も撮れるんだ。・・・・で,けっこう好きかも,これ。
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あらすじ:
エンジャ(リー・ビンビン)は密かに思いを寄せていた大学の人気者アトン(ヴィック・チョウ)と結ばれるが、幸せな時間もつかの間、アトンが事故に遭い亡くなってしまう。3年後、法律事務所で働くエンジャは周囲に心を閉ざし、精神安定剤に頼る日々を送っていた。そんなある夜、アトンが当時のままの姿で目の前に現れる。(シネマトゥデイ)

主人公のイケメン(実は幽霊)役を演じたヴィック・チョウ(初見)。ちょっと濃いめの顔立ちと甘めの声が,なかなか素敵。
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死んでしまった恋人が,幽霊になって現れる・・・と聞くと,しさのあまりかなぁ?と思いがちだけど,この物語はちょっと理由が違った。「君のために蝶になる」という邦題に惑わされてはいけない。蝶に生まれ変わっていつまでも恋人を見守る・・・というおセンチな純愛ものではない。そういうありきたりな内容ではなかったところが,新鮮で面白かった。

幽霊アトンは,彼女恋しさで出てきたのではなく,成仏できない自分の悩みを解決したくてエンジャの前に姿を現したのだ。なぜなら,彼にはぜひとも決着をつけたい心の問題がいくつかあったから。ケリがつかないままでは,死んでも死にきれなかったのだろう。
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付き合い始めたばかりのエンジャと痴話げんかになり,「僕を本気で好きなのか?」と問い詰めていた最中に,突然死んでしまったアトン。


途中で中断された喧嘩。
聞くことができなかった彼女の答え。

それが未練となって,
アトンの魂は3年間もこの世から離れられなかったのだ。
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だから,アトンの幽霊とエンジャとの初対面(?)の会話も,「会いたかった~」とかいうものではなく,初めから険悪なムード。


「君のせいで僕の人生終わったんだ」とか「あなたなんか大嫌い,私だって苦しんできたのよ」という,売り言葉に買い言葉のようなセリフさえ交わされる。
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まだ互いの愛が確信できてない,ごく初期のつきあいの段階で,喧嘩の真っ最中に片方が事故死した・・・というカップル。幽霊になって戻ってきた相手と語り合ううちに,互いの真意が徐々に理解できてくる・・・そんなお話。

なんだか,片方が死んでしまってから,やっと始まるラブストーリーのような不思議な設定の物語。アトンの幽霊とエンジャとは,ある時は反発し合い,ある時はしんみりと本音を語って心を通わせながら,次第に互いの間のわだかまりを解いてゆく。
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そして,アトンはエンジャの助けを借りて,もうひとつの未練断絶状態だった父親と仲直りもせずに死んでしまったこと)とも向き合うことができる。この父親を,レッドクリフで劉備役だった俳優さんが演じている。息子と和解していればよかった,と心の中では深く悔いている,不器用で一徹な父親の役を,味わい深く演じていた。

その他にも,エグザイルに出てた俳優さんが何人か,これにも顔を見せていた。(こちらの作品では,しっかり台詞をたくさんしゃべっていた。)

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観終わって,一番心に残ったのは,大切な相手には,手遅れになる前にちゃんと思いを伝えなくては,ということだった。

ある日突然,何の準備もできずに,
逝ってしまう場合もあるのだから。
言い残したことや,やり残したこと,
相手に伝えるべきだった思い。


ほんとは愛してた…言ってやればよかった
と後悔することは,逝く者にとっても,残される者にとっても,なんとも哀しいものだから。
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ラストに,未練が清算できて「やっと最初の僕らに戻れた・・・」と爽やかに笑うアトン。彼の事故死の日から,二人とも後悔やら相手を恨む気持ちやら,自分を憐れむ気持ちやらにさいなまれて,出会ったころの愛を見失っていたのだろう。・・・それがやっとリセットされたすがすがしさ。

今ではきっと,以前とは比べものにならないほどの強い絆を感じている二人にとって,今度こそ本当に訪れる別れはちょっと切なかったが,エンジャにもまた新しく「あの青年」との未来が待っているのだろう。

軽妙な語り口の物語なのに,深いテーマもそこはかとなく感じられて,ほんと不思議な魅力の作品。繰り返し言うけど,これ,けっこう好きだ。

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