デビルズ・バックボーン
解説: 『ブレイド2』や超大作『ヘルボーイ』の成功でハリウッドでも注目を集めるメキシコの異才、ギレルモ・デル・トロ監督がスペインに招かれて撮ったホラー映画。激情型の男を演じたスペインのビッグスター、『オープン・ユア・アイズ』のエドゥアルド・ノリエガや、新星フェルナンド・ティエルブの熱演も見ものだ。ヨーロッパの血塗られた歴史と風土に培われた、怨念のすさまじさが霊を生息させ、さらに恐怖の結末を招く。(シネマトゥデイ)
ギレルモ・デル・トロ監督は私はホラー限定で好きだけど,最初に観たのはこの作品だった。おどろおどろしい題名ではあるけど,実はこの「デビルズ・バックボーン(悪魔の背骨)」というしろものは,そんなにストーリー上,重要な役割はしていない。なんでこんな題なのかいささか不思議である。
物語の舞台は,内戦時代のスペイン。内戦で両親を失い,人里離れた荒野の真ん中のサンタ・ルチア孤児院にやってきたカルロス少年は,そこでサンティという名の少年の幽霊を目にするようになる・・・・。
パンズ・ラビリンスの原点のような雰囲気を持つこの作品,陰惨な時代背景ゆえか,陽光のあふれる昼間のシーンでも,まるで真夜中のような不気味な暗さが漂っている。
もと共和党の闘士だった義足の女院長先生。
地下の不気味な貯水槽と,
中庭に落下したまま放置されている不発弾。
隠し事や悪事をいっぱい抱えていそうな,胡散臭い男前の管理人。
生薬として売られる,胎児漬けのラム酒。(うげー( ̄Д ̄;;)。
・・・それを飲む老医師カサレス。(ぎょえぇぇ!((゚゚дд゚゚ ))!!。
このラム酒漬けの胎児の背骨を,デビルズ・バックボーンと呼ぶらしい。
いやはや,これだけ揃うと,別に幽霊が出なくても,
十分に気色の悪い孤児院・・・であると思うが。
そしてサンティ少年の幽霊は・・・・・・こんな感じ。
けっこう・・・いやかなり怖いかも。
このサンティくんのヴィジュアルは。
さすが,「異形のもの」のヴィジュアルには,こだわりのある監督らしいと思った。このサンティ少年の霊は何を訴えたいのか・・・彼は繰り返し,カルロスの前に現れ,「大勢死ぬぞ」というセリフを囁く。
しかし,この物語の中で,本当に怖いものとして描かれているのは,実は幽霊ではなくて人間だ。
物語の後半,孤児院の少年や教師たちは命の危険にさらされ,物語は俄然,ホラーからサスペンス・アクション風に面白くなってくるが,敵はなんと反乱軍ではなく,戦争によって良心が冒されてしまった「身内の人間」だった。
エドゥアルド・ノリエガが演じた,管理人のハシント。
思わず見とれてしまうくらい,ワイルドでセクシーだが,これがとんでもない極悪人で。目的のためには,恩人だろうが恋人だろうが,子供だろうが平気で殺してしまうような男なのである。
しかし,彼がこんな冷酷な人間になったのも,内戦で家族を失って愛のない少年時代を過ごしたからであり,彼もまたこの時代の犠牲者なのかもしれない。
デル・トロ監督のホラーは,こんな風に,理不尽で不幸な目に合う子どもたちが主役になることが多いし,ラストに用意されている救いや癒しも,この世的なものではないことが多いけれど,この作品はラストに現実的な救いがあると言えるだろう。
カルロスを中心とする生き残った少年たちは,勇敢にもハシントと闘うのだが,少年たちに手を貸すのが,サンティ少年と・・・もうひとり,「あるひとの幽霊」が登場する。このシーンはちょっと感動するかもしれない。少なくとも私はじーんとした。
作品の題名だけ見るとオカルトもののようだけど,これは幽霊の因果応報の物語である。因果応報の物語って,たとえ怖くてもやっぱりカタルシスが漂うものだ。それに,ただ怖いだけでなく,立派なヒューマンドラマとしても観ることができる作品だと思う。
怖いのが絶対にダメ・・・というひとにはお勧めしないが,ものすごく怖いわけではないし,味わいと余韻のあるホラーが好きな方には,太鼓判を捺せる作品である。
私はこの作品では,幽霊よりも,人間の邪悪さや,それを生み出した「内戦」という時代背景の方がよほど怖く感じられた。
« エグザイル/絆 | トップページ | 僕は君のために蝶になる »
「映画 た行」カテゴリの記事
- 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021.12.04)
- 誰もがそれを知っている(2019.09.15)
- 魂のゆくえ(2019.08.07)
- ダンケルク(2017.09.17)
- 沈黙 (原作小説) 感想(2017.03.02)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: デビルズ・バックボーン:
» デビルズ・バックボーン [I am invincible !]
内戦中のスペイン。 荒野の真ん中に建つ孤児院に、カルロス(フェルナンド・ティエルヴ)は置き去りにされる。彼に与えられた12番のベッドは、居なくなったサンティの場所だった。 広場にはモニュメントのように不発弾がそそり立つこの孤児院に大人は、院長のカルメン(マ..... [続きを読む]
» デビルズ・バックボーン [愛情いっぱい!家族ブロ!]
アスミック
デビルズ・バックボーン スペシャル・エディション
「パンズ・ラビリンス」
が素晴らしかったので、
この監督の前作、「デビルズ・バックボーン」も観賞。
これもスペイン内戦下が舞台となっていて、こちらはボーイズの物語。
オフェ... [続きを読む]
ななさん コメントありがとうございます。
TBはどうも相性があるようで、ご面倒をおかけしました。
ホラーは大の苦手ですが、ギレルモ・デル・トロ監督の作品は色使い、世界観、異形のものの造形等、好きな部分がとても多い監督さんです。
それにプラスして、この作品はスペインならではのテーマも盛り込まれていて、ななさんが書かれている様にヒューマンドラマとして心に残りました。
ところでリンクの件ですが、相互リンクと言う形でこちらからもお願いして宜しいでしょうか?
宜しくお願いします。
投稿: 哀生龍 | 2009年5月31日 (日) 10時33分
こんばんは。
わぁ!と心の中で歓声を上げつつも、「課題作だからそのうち観るかも・・・」と、ななさんのレヴューを大切に取っておこうかと思案中です。
で、先にコメントだけ入れさせて頂きます。(^_^)
しかしななさん、、、「怖いと言うよりこの作品は可哀想っていう感じで・・・」とコメントを返して下さっていましたが・・・あの~、十分怖いんですけどぉ~サンティ少年のビジュアル。(^_^;)
私に観れますでしょうか・・・。
近いうちに鑑賞できたとしても、やっぱり怖いからもっと先に延ばすと決めたとしても、どっちにしても再訪させて頂きますね。(*^_^*)
投稿: ぺろんぱ | 2009年5月31日 (日) 18時55分
哀生龍さん こんばんは!
>ギレルモ・デル・トロ監督の作品は色使い、世界観、異形のものの造形等、好きな部分がとても多い監督さんです。
そうですよねー,私も同様の理由で彼のホラーには惹きつけられます。
彼だけではなく,スペインの監督さんの撮るホラーは
アメリカンのものとは一味違っててとても好きです。
霊的なもの・・・怖いというより,やはり惹きつけられますね。
霊魂・・・というより,生身を離れてまで生き続ける魂・・・という概念が好きなんです。
私自身はまったく霊感などはありませんが
目に見えないものも信じるタチですから。
リンク,貴ブログでもしていただけるとのこと
ありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします。
投稿: なな | 2009年5月31日 (日) 19時20分
ぺろんぱさん,こんばんは
あはは,たしかにサンティ少年の幽霊のヴィジュアルは怖いです。
・・・それは否定しませんがー。
でもやっぱり怖いというより可哀そうなんですよ。
最後は悪者はちゃんとやっつけられますけどね。
幽霊の仇討ちって,カタルシスありますよー。
>私に観れますでしょうか・・・。
うーん・・・どれくらい怖いのが苦手かによると思いますが
ただ,単なるホラーと位置づけてスルーするには勿体ない内容であることは確かです。
サンティくんの出てくるところは早送りしてご覧になる・・・というのはどうでしょうか?
そんなにしょっちゅう出てきませんし。うふふ。
あ,幽霊が出てこない場面も全体的にダークで不気味な感じはしますが
これはこの監督さんの持ち味でしょうね。
投稿: なな | 2009年5月31日 (日) 19時28分
こんにちは♪
胎児のラム酒漬け
とか、タイトルからして
どんなグログロなホラーやねん!とヘンな期待をしてしまうけど
そういう映画じゃないんですよね
オバケよりも生きてる人間の方がなんぼか怖いとか
やっぱり「パンズ」に通じるものがありますよね。
カサレス医師役の俳優さんが主演で、
デルトロ監督の長編デビュー映画「クロノス」も
悲しきホラーでおすすめなんだけど
こちらのDVDはどうやらすでに絶版になってるっぽいです
投稿: kenko | 2009年6月 1日 (月) 16時05分
kenkoさん,こんばんは!
そう,このラム酒漬けの胎児と,タイトルと
ジャケットのデザインがほんと怖すぎますよね。
で,蓋をあけてみると,ホラーでは味わえないような
ヒューマンな感動もあって・・・・
「怖そう」というだけで食わず嫌いをされちゃう作品ですね。
それと反対に「パンズ~」の方は
まるでおとぎ話のようなキラキラしたデザインのジャケットで
「ロマンチックなファンタジー?」と期待して観てみれば
こっちも限りなくダークで予想を裏切られますし・・・。
「クロノス」も聞いたことあるなぁ・・・
あのお医者さん役の彼が主役なんですか。
観たいけど,絶版かぁ・・・残念。
投稿: なな | 2009年6月 1日 (月) 22時44分
こんにちは。
最近、忙しくて自分のブログの更新だけで一杯一杯でした。
本日は、時間があるので、こちらのブログもじっくり読ましてもらってます。
この映画、ホラーというだけではないんですね。
その裏にあるヒューマンドラマが見所ですか!
そんな作品は大好きです。
「ミスト」もそうでしたよね。
観てみたかったけど、レンタルにはないかなぁ。
投稿: 亮 | 2009年6月 3日 (水) 07時01分
亮さん こんばんは!
お忙しいのに,遊びに来てくださって感激!(≧∇≦)
私の方こそ,ご無沙汰してしまって・・・・
この「デビルズ~」は公開された年に観たのですが
強烈な印象を受けましたね。
スパニッシュ・ホラー独特のダークな風味は
「ミスト」とはまた一味違う点もありますが
「人間の怖さ」の方がテーマだという点は
「ミスト」と似ているかもしれません。
レンタル店にあるかなぁ・・・?
大きい店や,あるいは店主の好みによっては置いているかも。
ちなみに私の街のレンタル店にはなかったので
DVD買いました。
投稿: なな | 2009年6月 3日 (水) 22時46分