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2009年5月 4日 (月)

宮廷画家ゴヤは見た

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絵筆が暴く,愛の裏側ー
2枚の肖像画に描かれた少女と神父の
数奇な運命とは?


アマデウスミロス・フォアマン監督の,文芸歴史サスペンス。
今回の舞台は,18世紀の激動のスペイン。
ハビエル・バルデムがてっきりゴヤの役かと勘違いしていたら,彼は神父ロレンソの役だった。ま,この物語のゴヤはあくまでも「目撃者」かつ「語り部」の役割であり,ほんとうの主役はロレンソのようなものだから,そのキャスティングでよかったのだろう。
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ゴヤが描いた2枚の肖像画・・・・
天使のように清らかな乙女イネスと,
威厳に満ちたロレンソ神父。

この二人に起こった出来事とは・・・・。

しかし,観終わってみると,これは二人の恋愛がテーマの映画ではなく,もちろんゴヤの伝記映画でもなく,カトリック教会の異端審問の現実を暴いた作品だった。ゴヤが「見続けた」のは,異端審問の嵐に翻弄されて人生をズタズタにされたイネスの生涯だったのだ。

ある日突然,些細なことがきっかけで,隠れユダヤ教徒の疑いをかけられて拘束されたイネス。拷問にかけられ,自白させられた彼女は,その後なんと15年間も牢内に囚われの身となる。
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彼女の父トマスが,娘を救うために,神父のロレンソを自宅に招いて行った,「拷問による自白の信憑性を確かめる実験」には言葉を失った。娘を思う父親の強い気持ちに心を打たれるとともに,審問の理不尽さを見事に証明してみせたことに感心した。

しかしそこまでしても,イネスの解放はおろか,教会はロレンソまで葬り去ろうとする。どんなことがあっても,信条を曲げようとはしなかった当時のカトリック教会には,激しい怒りを覚える。
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この物語に,美しく崇高な愛なぞは存在しない。


とりわけロレンソは信念に生きる男ではあったが,愛に生きる人物ではなかった。彼がイネスにしたことは愛情からではなく欲望からのものだろうし,彼女が彼の娘を産んだことを知ってからも,保身のためか事実を闇に葬ることに汲汲としていたように思う。
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一方,哀れなイネスはロレンソを愛したのか?

もちろん愛したかもしれない。しかし,あんな極限状態の中で,唯一すがるしかなかった相手に対する選択肢のない行動とその後の執着を,愛と呼ぶのはあまりにも酷い。彼女の獄中での15年間を支え続けたのは,ロレンソに対する愛情より,引き離された娘への狂おしいまでの母性愛だったろう。
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ロレンソを演じたハビエルは,己の信念のためには,他のものを攻撃,排斥することに何の躊躇も感じない憎々しいキャラクターを貫録たっぷりに演じている。最初は神父として異端審問の指揮を取ったのに,イネスの件で教会を追われてからは,フランス革命の思想に心酔し,教会を糾弾する側になって実権を手にするロレンソ。しかし,彼もまたフランスの勢力が英国軍に追われると,今度は責めを負う立場へと転落し,悲惨な最期を遂げたのは自業自得というべきだろう。

処刑される彼の姿を,群衆にまぎれて冷静にスケッチするゴヤの射るようなまなざし。彼は,ロレンソがイネス母娘にした仕打ちを思い返していたのだろうか・・・。

ナタリー・ポートマンの演技は圧巻だ。
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少女時代の美しさもまた光り輝いていたが,長い獄中生活から解放されたときの,見る影もなくボロボロになった姿が凄かった。(一瞬,ナタリーだとわからなかった)あんな容貌になり果てるなんて,彼女の獄中での15年間を想像すると可哀想で可哀想で,心が痛む。

ラストシーンで,ロレンソの遺骸について歩くイネス。

彼女の心は,とうに壊れてしまっている。拾った赤子をわが子と思い抱きしめて,息絶えたロレンソの手を握り,ようやくこれで家族が揃ったとでも言いたげな,幸せそうな彼女の姿と,その後ろをやはり彼女を見守りながら歩いていくゴヤ。やりきれないほど哀愁の漂うラストだけど,イネスの心だけでも平安を取り戻したのが,せめてもの救いだろうか。
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なんとも壮絶で,理不尽で,哀しい物語である。

登場人物のだれもが,大なり小なり悲惨な運命をたどる物語かもしれない。・・・そんな時代だったと言ってしまえばそれまでだけれど,監督はこの時代のスペインの悲劇をありのままに描きたかったのだろうか?ゴヤという一人の証人の目を通して。

そしてこれは,「アマデウス」で,あの神童モーツァルトを,大胆にも「いけすかない性格」のキャラとして描いてみせたフォアマンらしい,残酷さや辛辣さも備えた作品かもしれない。(ラストシーンの子供たちの場違いに明るい歌声を聴いて思った。)
しかし今回もまた,歴史上の出来事を通して,人間の心に潜む闇や,弱さ,哀しさ等を,重厚に描いているのが見事だ。
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映像や音楽の格調高さも素晴らしく,
ゴヤが作品(特に版画)を製作するシーンなどもリアルに描写されているので,絵画に関心のあるかたは,そちらの面でも興味深く楽しめると思う。

じっくりと,何度も観直したい作品のひとつだ。

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コメント

こちらにもお邪魔します♪
この映画は、正直よく分からないところもあったのですが、何だかインパクトが強くて、、、今でも場面場面をひょっこり思い出したりします。

とにかくナタリーとハビエルの演技が凄く良かったです。二人が魅せてくれたので、時代に翻弄される運命が、よく分からないなりに胸に響いてきました~

鑑賞後にゴヤの絵をネットで調べて見たのですが、よく分からないなりに絵と映画が微妙にリンクして一人で盛り上がっていました(照)

こんにちは~♪
絵画好きなので、そういう意味からも楽しめました。
何年か前にペネロペの映画で「裸のマハ」っていうのがあって、それにももちろんゴヤが出てきたのですが、面白かったですよ。

宗教の異端審問が扱われている映画を見ると理不尽すぎて頭に血が上ってしまいます←←アホ

ななさ~ん、こんにちは!
わたしも、ハビエル・バルデムがゴヤだと
思い込んでました・・・だってポスター
でアップだし!しかし、何度観ても濃い~顔ですね、ハビエル。

かなり深刻で重たい内容ですが、歴史ものですし、学ぶところがあるので、ぜひ観たいです。

ところで、先日BSーNHKで「スケアクロウ」放送されたなのに見逃しました(><)再放送したら、今度こそ観ますね!

由香さん こちらにもありがとう!

私は宗教も絵画も歴史も好きなので
その点だけでも楽しめましたが
一度観ただけではよくわからなくて(特にロレンソのキャラ。けっきょく悪役なのか?)
「何が立ち入り禁止の愛よ?愛なんてないじゃん」とか疑問に思ってしまって
結局続けて2度観ました。DVDだからできることかな?

ゴヤの絵・・結構好きです。
ウチの県内に大塚製薬が作った陶板画の美術館があって
世界中の名画の陶板が見れるのですが
「ゴヤの部屋」というのもあって,「黒い絵」シリーズがずらりと・・・
こういう陰惨な絵をなんで描いたのかなぁと思ってましたが
この映画を観て,「こんな時代に生きていろいろ目撃すればそりゃあんな絵も描きたくなるわな」・・・と妙に納得してしまいました。

ミチさん こちらにもありがとう。

ミチさんも絵画の点でも楽しめましたか!
「裸のマハ」観ましたよー,たしか。
残念ながらぺネロぺが美しかったことしか覚えていませんが・・・

>宗教の異端審問が扱われている映画を見ると理不尽すぎて頭に血が上ってしまいます
そうそう,「ジャンヌ・ダルク」とかねぇ。
特に14世紀あたりのスペインの異端審問は政治的な目的もあって
王家が裕福なユダヤ人たちから財産を横取りするためだったケースもあったそうですね。

こんばんは~~~。

この作品、観たのにレビュー書けてない1作です・・・。
見終わって、言葉を失ってしまって・・・
ナタリー、凄かったです。
彼女の体当たりの演技が、この作品では際立ってました。
ハビエルさんも素晴らしかったです。

こんな理不尽なこと、当時本当にまかり通っていたのでしょうね。哀しく、腹立たしく、心が痛みました。

ななさん、こんにちは~♪
お邪魔するのが遅くなってしまって、申し訳ありません(^_^;)

そうそう、内容のすごさと濃さに忘れそうになってましたが(^_^;)ゴヤのあの版画を作成するシーンも丁寧に描かれてましたよね~。
ななさんの記事を読んで思い出した(^^ゞ
ほぉ~当時はこんな感じで制作してたのね・・と
本筋から外れたところでも、じっくり丁寧に作ってあったなぁとつくづく今思い出しております。

ラスト、本当に切なかったです。
でも、ななさんが書いてらっしゃるように、やっと親子3人になれた・・と彼女が感じてたかもしれませんね~。
それを見つめるゴヤの寂しげな姿も目に焼き付きました。

JoJoさん こんばんは!

ね,ね,てっきりハビエルがゴヤかと思うよねぇ。
ほんとポスターもナタリーと彼の大写しが多かったし。
なんでももともとは彼がゴヤ役でオファーされてたけど
監督さんが「やっぱりゴヤはあまり目立たない方がいいキャラだ」と思いなおして
ハビエルは改めてロレンソ役でオファーされたそうで。
アクの強いロレンソのキャラが彼にはハマっていましたよね。

で,「スケアクロウ」TVで放映されたのですか~
名作だからそういうこともあるのねー。
またそんな機会があったらぜひご覧になってね!

マリーさん こんばんは!

>この作品、観たのにレビュー書けてない1作です・・・。
わかるわかる,この作品,感想すごく書きにくい・・。
心には強く残るのだけど,それをうまく説明できない作品のひとつですよね。
時代背景その他も難しいし。

>彼女の体当たりの演技が、この作品では際立ってました。
ナタリーってすごい演技派の女優さんだって改めて思いました。
子役のときから存在感は際立っていたけど,見事に開花しましたね。
異端審問の理不尽さに関しては,ほんと言葉もないですよね。


メルさん おはようございます。
ゴヤの版画制作シーン,興味深かったです。
最初,何をしてるのかわからなかったくらい珍しい手順に見えましたが
途中から,「あ~、版画だ!」とわかったときは
小さな感動があったりして・・・
芸術家が主役の物語だと,そんな点も見どころですね。
「真珠の耳飾りの少女」なんかも絵具を作るシーンとか面白かった。

ラストは心に残りますね。
イネスの演技もゴヤの演技も,ハビエルの死体の演技も。
>それを見つめるゴヤの寂しげな姿も目に焼き付きました。
ゴヤは単なる目撃者にとどまらず,イネスを愛していたのかもしれませんね。

ななさん、こんばんは

わたしはこの映画、『ブーリン家の姉妹』と同じ時期に見たので、ついつい比較してしまいました
同じ処刑シーンでも、スペインはイギリスよりも明るいなあ、とか(笑)

牢から出てきたときのポートマンの姿には言葉も出ませんでしたね・・・ そんで二役の娘はあんな職業だし(_ _;
彼女には自己破壊願望でもあるんですかね。ちょっと心配

そういえばこないだゴヤの作であるとされていた『巨人』という絵が、実は弟子の作品であることが明らかになったとか。自分はそんな絵があることも知らなかったんですが(笑)、図版見たらこの映画のエンドロールに出てきた絵でした

SGAさん こんばんは
この作品,そういえば「ブーリン家」と同時期に公開だったのですね。
ポートマンの演技力の素晴らしさもさることながら
なんとまあ不遇なヒロインの作品が揃ったものでしょうね。
ああいう別人かと思うようなすごいメイクはするし・・・
まさに体当たりの演技で,れっきとした美人女優でありながら
ナタリーは「演技派」女優と呼ぶ方がふさわしいのかもしれませんね。
このかた,IQもかなり高いんですって。まさに才色兼備ですね。
ゴヤの「巨人」・・・どんな絵かとっさに浮かんできませんが
へー,そうなんですか。この映画にもゴヤ作で取り上げられたということは
ほんと最近までわからなかったんですね,真実が。

こんにちは。

これは見ごたえがありました。
やはり、ミロシュ・フォアマンのように骨格がしっかりした映画を作る人は、
小手先の映像に頼らないから好きです。
でも、現在はあまりにも多くの映画が公開されすぎていて、
この作品も、気がついたら公開が終わっていたという感じ。
もったいないですね。

見ごたえありましたね。
私、見る前は、「そろそろ年だし、まあまあそつない映画だろうな」くらいに認識だったもので、うなりました。
健在振りを発揮してもらいました。
カトリック大好きのスペインですが、こんな時代は、暮らしにくかったでしょうね。
この頃の激動の時代が、特に好きなので、興味深く見ました。
ちょうどブーリン家と一緒になりましたが、あっちの稚拙さが目立つ映画になってしまいましたね。

えいさん こんばんは

>やはり、ミロシュ・フォアマンのように骨格がしっかりした映画を作る人は、
>小手先の映像に頼らないから好きです。
「アマデウス」もそうでしたものね。とても中身の濃い作品を作ってくれますね。
その時代や人間や・・・描かれていることはとても奥行きが深いです。
なのにこの作品,ミニシアター系?と思えるくらい
あまり大々的には公開されなかったような・・・
ウチの県ではスルーされちゃいましたよ。

sakuraiさん こんばんは
「アマデウス」公開からだいぶ年月がたつというのに健全でしたね,才能は。
私もこの時代のヨーロッパの歴史,大好きです。
宗教にからんだ出来事,異端審問とか宗教改革とか
宗教戦争とか,そんなジャンルもとっても興味があるし。
贅沢な楽しみを味わえた作品でした。

>ちょうどブーリン家と一緒になりましたが、
>あっちの稚拙さが目立つ映画になってしまいましたね。
ヒロインが同じですものね。
ま,あっちは原作がハーレクインロマンスですし・・・
「ブーリン」の方も決して悪くはないですが
これと比べるとどうしても,「お昼のメロドラマの時代劇版」のような感じに思えますね。

こんにちは!
映画館で見ようかどうしようか迷った作品でしたが、映画館で見れて良かったと思います。
(うちの方も近くではやっぱり上映してなくてちょっと遠出しました)

ナタリーは圧巻の演技でしたねー。
私もイネスが牢から出てきた場面では、誰だか分りませんでしたよ。
多少のメイクはあったとはいえ、あの顔の引きつりかたや目の演技には恐れ入りました。
ハビエルのねっとりした感じも良かったです(一応ほめてます)。

ななさんの記事を読んで、私もまた見たくなってきました!

こでまりさん こんにちは!

劇場で観れてよかったですねー
ウチの劇場ではやってなくて,
隣県まで足をのばす気にもなれずに私はスルーしちゃいましたが

ポートマンとハビエルの演技だけでも一見の価値がある作品ですね。
>多少のメイクはあったとはいえ、あの顔の引きつりかたや目の演技には恐れ入りました。
私は彼女の口元の演技に感嘆しましたよ。
なにか口に入れてたのかしら?それにしても歪み具合がすごかった・・・。
彼女の作品はこれからも注目してきたいです。
あ,もちろんハビエルも・・・・。

こんにちは♪こちらにもおじゃまします♪♪

この作品、ステラン目当てで観てしまいました♪
日本公開までに間があって、ホントに公開されるの?と
心配していましたが、公開されて好かったです。

画家の目で見たその時代を描いた本作を、
ステランのファンであるために、
彼と同じような目線で観たのでしょうか(笑)
割と客観的に観てしまいましたが、
それでもあまり知らないスペインの歴史の一部分を
興味深く観ることができて好かったと思いました。

ひらで~さん こちらにもありがとうございます。

ステランさん,このゴヤの役はまさにハマり役だったと思います。
あくまでも「目撃者」「証人」としての役どころであるだけに
出すぎず,引っ込みすぎず,ちょうどいい塩梅の存在感で
しかも堅牢で手堅い演技力で物語の芯をしっかりと支えていたと思います。

ステランさんを初めて観たのは「奇跡の海」でしたが
とても印象に残ってますね。
最近,いろんな作品で目にすることが多くなってきたような・・・
これからも楽しみですね!

こんばんは!
毎日暑いねー・・
歴史ものって、見応えあるよね。
映画で世界史を学ばせてもらってますよ。
ナタリーはほんとに凄かった。あの美貌がズタボロになるとは、、
人間の心の闇って深いし、ひきこまれてしまいます。
ステランさんはエクソシストビギニングがはじめてだったかもしれないなー。

アイマックさん こんばんは!

私も世界史は大好きなので
映画がその時代を映像化してくれるのは
とっても勉強になりますね~

ナタリーは才色兼備で
演技力も高いし、素晴らしい女優さんですよね。

ステランさんも好きな俳優さん。
私が彼を初めて観たのは
エミリー・ワトソンの夫役の「奇跡の海」だったわ。
ハンサムじゃないけど存在感のあるひとよね~

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