スケアクロウ
解説;男同士の深い友情を描いたアメリカン・ニューシネマの傑作。出所したばかりのマックスは、南カリフォルニアの道路で、同じくヒッチハイクをしていたライオンと知り合う。ライオンは5年ぶりに帰ってきた船員で、自分の居ない間に生まれた子供に会うため、妻のもとに向かう途中だという。意気投合した二人は、共に行動することにしたが……。次第に深まっていく友情を、ロード・ムービー風に描く。ラストの、ライオンに対するマックスの友情が素晴らしい余韻を残す。パチーノ、ハックマンの好演は言うまでもない。(allcinema)
スケアクロウとは案山子(かかし)のこと。
「やせっぽち」「みすぼらしい人」という意味もあるらしい。
ルックスも信条も性格も正反対の,マックス(ハックマン)とライオン(パチーノ)が,冒頭,南カリフォルニアの乾いた風が吹きすさぶ道路で出会う。・・・・もう,この出会いのシーンからして,とても粋で,惹きつけられるのだ。
むさくるしく無愛想な大男のマックスは,人懐っこく話しかけてくるライオンに,はじめは返事もしない。ライオンがマックスに近寄ろうとすると,彼は相手からすかざず離れ,ライオンもそのうち諦める。ふたりは長い時間,ヒッチハイクの車をつかまえるために道路をはさんで相対する。
やがて煙草の火を切らしたマックスに,マッチの火を貸そうとライオンが近づく。それはライオンの持っている最後のマッチだった。二人の男は,強風で火が消えないように,自然と無言のうちに体を寄せ合う・・・。そして意気投合した二人の旅が始まった。
30年前の作品なのに,ジーン・ハックマンはほとんど雰囲気が変わらない。
そしてなんとも可愛らしい,アル・パチーノ・・・
ゴッドファーザーでの,哀愁と威厳に満ちたマイケルとは全くの別人の,くるくると変わるおどけた表情のアル。大男のハックマンと連れ立つと,いかにも小柄で華奢だ。
正反対のように見える二人だが,マックスもライオンも,
どちらも不器用で,傷つきやすい繊細さを持っている。
「俺はひねくれ者でな,誰も信用できないんだ」と言い,人とのかかわりをできるだけ拒み,自分のルールにこだわり,喧嘩っ早いマックス。そんなマックスはピッツバーグで洗車屋を営むのが夢。「ピッツバーグの銀行に貯金しているんだ,一緒に一儲けしようぜ。」というのが彼の口癖だ。
一方ライオンのほうは,5年前に捨てた妻子をデトロイトに訪ねたいという。仕送りはしてきたけれど,生まれた子供が男か女かも知らないライオン。彼は,心の中では妻子が自分を受け入れてくれるかどうか心配でたまらない。
ライオンが語るカラスと案山子の関係。
「カラスは案山子を怖がっちゃいない。笑ってるんだ。そして,こんな面白い奴の畑だから荒らさずにいようって思うのさ。」という持論は,いかにも気楽で優しいライオンらしい独特の考え方だ。笑いの果たす役割の大切さを,身をもって知っていたライオン。もっとも,ライオンにとって「相手を笑わせること」は,すなわち自衛手段になっているのかもしれないが。
トラックの荷台にねそべり,列車に飛び乗り,バーでの喧嘩がもとで刑務所で労働もさせられ・・・・それでも,二人の旅は続いていく。
人付き合いが超苦手で短気なマックスが,いつのまにかライオンの影響を受けて,バーで喧嘩になりそうな一歩手前で踏みとどまり,ストリップを披露してその場の空気を和やかなものに変えるシーンは圧巻だ。マックスの厚着ぶりも笑える。
やがて到着したデトロイトで,妻に電話をかけるライオン。直前に床屋へ行き,身なりもととのえ,子供へのプレゼントを抱えて。・・・しかし,捨てられた妻の応答は,彼にとって残酷なものとなる・・・。「子供は流産したわ。洗礼も受けられないで死んだのよ。」と妻はライオンに嘘をつく。
受けたショックをマックスには隠し,ことさら明るくふるまうライオン。通りすがりの子供たちを集めて面白おかしい話を演じて見せ,いつも以上に道化師ぶりを発揮した彼が,その後に,唐突に壊れてしまう噴水のシーンは痛ましい。
病院で昏睡するライオンに,とりすがるマックスのセリフが泣ける。「俺たちは一心同体だろ」「俺一人じゃ駄目だ。これから誰を信用すればいいんだ」
マックスとライオンの絆の強さ・・・特にマックスにとって,ライオンがどれほど大切な存在になっていたか・・・・。相棒としての彼を失いそうになって,身も世もあらずうろたえるマックスの姿がいとおしい。
ラスト,有り金をはたいて往復切符を買い,ピッツバークに貯金をおろしにゆくマックスの姿から,「彼はお金をライオンの治療費に使うんだろうな,もうこの二人は一生離れないだろうな・・・」という温かい思いが込み上げてきた。
この時代の映画はいい。
CGも巨額の製作費も使わなくっても,いい役者と監督と脚本が揃えば,どんな傑作だって撮れるんだって,映画の原点に帰れる気がするから。
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コメント
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いい映画ですよね。これ。
マックスとライオン、この二人の絆がいいんですよね。大男のジーン・ハックマンと、少年のようなアル・パチーノ。こんなに可愛いアル・パチーノは後にも先にもこれだけですよね。
私は刑務所で男に襲われたライオンの仕返しにと、マックスが相手をボコボコにしちゃうところが好きです。ジーン・ハックマンらしくて(笑)。
ただ、ラストは切ないですよね。あんなにやりたかった洗車屋を諦めても、ライオン自身を取り戻したいマックスの気持ちを思うと・・・涙が出ました。
投稿: mayumi | 2009年4月23日 (木) 23時09分
ななさん、こんばんは♪
私も、好きです、この映画!
二人とも、いいですよね。
妹の親友と踊っててもめた時、ライオンがマックスと踊ってる所、クスッとなりました。
ずっと持ってる、プレゼントが切ないです…。
刑務所の中での出来事も印象的でした。
正反対に見える二人の絆がどんどん強くなって行くのが、いいですね。
マックスって、ちょっとヒースに似てないですか?
心に残る映画です。
投稿: 百香 | 2009年4月24日 (金) 00時56分
mayumiさん こんばんは!
マックスとライオンのキャラ設定がなんともいいです。
無骨なハックマンもいいんですが,やっぱりアルにノックアウトされました。
>こんなに可愛いアル・パチーノは後にも先にもこれだけですよね。
アルって,ゴッドファーザーの影響か,ギャングっぽい凄みのある役が多いですよね。
たしかにこんなキュートな彼は初めて観ました。・・・いやん,可愛い。
>あんなにやりたかった洗車屋を諦めても、ライオン自身を取り戻したいマックスの気持ちを思うと・・・涙が出ました。
人嫌いのマックスにとっては,ライオンが初めての親友だったのでしょうか?
ライオンが無事に回復して,二人で仲良く支え合って生きて行ってほしいなぁと切に願ってしまいました。
投稿: なな | 2009年4月24日 (金) 21時13分
百香さん,こんばんは!
百香さんもこれがお好きと聞いて嬉しいです。
なんかもう,いとしくってたまらない作品ですね。
遅ればせですが,この作品に出会えてよかったなぁと思いました。
マックスとライオン・・・個性的な二人の絆が
時には絶交もしたりしながら強まっていく過程がとってもよかったです。
>ずっと持ってる、プレゼントが切ないです…。
旅を続けるうちに,だんだん箱が汚れてくるのよね。
それでも大切に持ってたのに,
妻との電話のあと,車のボンネットの上に置き捨てるシーンも悲しかった。
>マックスって、ちょっとヒースに似てないですか?
似てる,似てる。
ハックマンがヒースに似てるんじゃなくて
このマックスの全体の雰囲気がBBMのイニスに似てるのね。
若い時のアルはジェイクに似てるし。
下から2番目の画像の,二人で食事してるシーンは
BBMの山での食事シーンを思い出してしまいました。
投稿: なな | 2009年4月24日 (金) 21時43分
こちらにも!アル・パチーノ、若い!!途中まで拝読していたのですが、興味深い内容ですし、ななさんオススメですので、こちら観賞決定なので後半は読むのを我慢しました。
>この時代の映画はいい。
CGも巨額の製作費も使わなくっても,いい役者と監督と脚本が揃えば,どんな傑作だって撮れるんだって,映画の原点に帰れる気がするから。
まったく同感!!最近、わたしは小説でも映画でも、クラシックばかりに手を出します。心がありますよね、昔の作品は。お金が一番ではなかった、芸術をつくることに情熱を注いでいた映画人がそこにあると思います。
投稿: JoJo | 2009年4月25日 (土) 21時10分
JoJoさん,こちらにもありがとう!
お待ちしていましたよー
アル・パチーノ,若いでしょ!
それにとっても可愛くって愛すべきキャラですよ。
ヘタレなところがまたよかった・・・
この時代のアメリカン・ニューシネマっていいですよね。
「明日に向かって撃て!」とか「「イージー・ライダー」とか「卒業」とか・・・
アウトローなヒーローとか,反体制的なテーマとかもいいんですが
俳優さんがねぇ,名優ばかりで。(今はみんなお年を召されてるけど)
CG万能時代となった現代の超娯楽作品もそりゃすごいですけど
古い時代の映画は「これぞ映画!」っていう職人芸のようなものを感じますね。
JoJoさん,ご覧になったらぜひ感想を聞かせてくださいね!
投稿: なな | 2009年4月25日 (土) 23時22分
ななさん、昨日はTB送っただけで失礼してしまいました。あらためてコメント。
この時代のニューシネマは大好きですね。
わたしはこどもだったので、劇場では観れなかったのが悔しいほどに。
本作や「真夜中のカーボーイ」などの友情と言うよりも一心同体的な男と男の絆(もっと言うと同性愛的なものも含む感じ)はななさんがお好きな「BBM」にも通じると思います。
最後のぶつっと切れるシーンなどもいかにも70年代の映画ですね。
画像たっぷりで堪能させていただきました。
投稿: しゅぺる&こぼる | 2009年4月26日 (日) 07時31分
しゅぺる&こぼるさん,こんばんは!
こういう古い作品に,いつも訪問してくださってとっても嬉しいです!
この時代の作品,わたしも劇場では見たことないですねー。
でも,名作はよくTVで放送してくれましたね。
ニューシネマの「男の絆」,ゲイ的なのもそうでないのも
みんな大好きです!いいですよね,またこの時代のアウトローたちの素敵なこと!
「イージーライダー」も「明日に向かって・・」も,そうそ,「真夜中のカウボーイ」も!
特に「真夜中のカウボーイ」と「スケアクロウ」は雰囲気も似てますね。
>最後のぶつっと切れるシーンなどもいかにも70年代の映画ですね。
あのぶっきらぼうさがたまりませんね・・・余韻が。
投稿: なな | 2009年4月27日 (月) 00時18分
mayumiさんや、りらさんのブログに時々お邪魔しております。
この映画いいですね!ロードムービーの傑作です!
大柄なマックスと小柄なライオンのコンビがすごくいいです。
持ちつ持たれつ。
ライオンに奥さんが言った嘘は酷過ぎる。
でも、奥さんにして見れば許せなかったんでしょうね・・・・。
投稿: 間諜X72 | 2012年4月20日 (金) 22時19分
間諜X72さん こんばんは![](http://emojies.cocolog-nifty.com/emoticon/new.gif)
はじめまして!
>この映画いいですね!ロードムービーの傑作です!
ロードムービーの醍醐味は
道連れとなったコンビの醸し出すケミストリーですが
パチーノとジーン・ハックマンのコンビ素晴らしいです。
正反対にも見えるけどどちらもはみ出し者っぽい雰囲気が
友情を育んだのでしょうね。
>ライオンに奥さんが言った嘘は酷過ぎる。
>でも、奥さんにして見れば許せなかったんでしょうね・・・・。
最大の復讐でしょうね、奥さんの。
気持ちはなんとなくわかるかな。
投稿: なな | 2012年4月20日 (金) 23時03分
マックスとライオンが酒場でトラブルを起こして、刑務所で強制労働になる。
そこで妙に親切な男がいる。得にマックスに。
何とホモ!
マックスが仇討。
mayumiさんが仰ったようにハックマンらしい場面でした。
噴水場面は悲しかったですね。
投稿: 間諜X72 | 2012年4月28日 (土) 22時26分
間諜X72さん またまたコメントありがとうございます。
そうそう,マックスが
刑務所でライオンに言い寄った男を
ボコボコに仇討する場面,好きです。
ハックマンらしいですよね。カッコ良かった。
仇討されるライオンは繊細なキャラで
現在のアルとはちょっとイメージ違いますが・・・。
こんなアルも可愛くて好き。
噴水の場面は・・・・ほんと切なかったです。
投稿: なな | 2012年5月 1日 (火) 22時37分
ななさん、こんばんは。
このアル・パチーノはいいですよね~!
私もVIDEOで録画保存したのがあるので、また観返したくなりました。
>映画の原点に帰れる気がする
仰る通りです。
「映画っていいもんだなぁ・・・」っていう(淀川さんみたいな)台詞がつい口に出る、そんな感じの作品ですよね。
投稿: ぺろんぱ | 2012年5月 3日 (木) 18時57分
ぺろんぱさん こんばんは
ぺろんぱさんもこれお好きなんですね!
そうそう,この作品のアルって可愛いんですよね。
キュートなアル・パチーノってこの作品だけだから
とっても貴重だし「こんなキャラもできるのか~」って。
まあ・・・若い時限定かもしれないけど。
今のようにCG技術や3D技術のない時代の映画
それだけに脚本や演技や脚色だけで勝負していた時代。
いいですよね~~~。
投稿: なな | 2012年5月 4日 (金) 22時08分