ラースと、その彼女
これ,昨年のアカデミー賞脚本賞にノミネートされた作品なんだってね。普通ならありえないような風変りな設定の物語なんだけど,とってもハートフルで繊細なお話だった。
主人公のラースを演じたのは「君に読む物語」のライアン・ゴズリング(太ったのは役作りのため?) 彼はいかにも柔和そうな雰囲気の優しい青年なのだが,極端にシャイで人とのコミュニケーションが苦手。トラウマが原因なのか,触覚過敏体質があるため,相手に触れられるのを苦痛としている。
そんな彼を心配してあれこれ世話を焼こうとする兄嫁のカリン(エミリー・モーティマー)。しかし事あるごとに抱擁しようとする彼女の親切も,ラースにとっては実は苦痛だったりして。職場の同僚の中にはラースに好意を寄せている可愛い娘マーゴもいるが,彼女のストレートすぎるアプローチを前にすると,ラースはやはり困惑してしまう。
そんなラースが初めて兄夫婦や町の人に紹介した恋人は,なんとリアルドールのビアンカだった!ビアンカを前にして固まってしまった人々を意にも介せず,ラースは彼女が生きているかのように接するのだ。
ここらへんからお話はどんどん面白くなってきて目が離せなくなる。「ついに弟がイカレた!」とあわてて医者に診せる兄夫婦。もちろん名目はビアンカの体調不良ということで・・・・。しかし,相談を受けた女医さんが素晴らしい人だった。・・・彼女は「ラースのために話を合わせなさい」と指示する。ビアンカの存在が今のラースの心には必要だと見抜いたからだ。
医者の指示に従って,ビアンカをまるで生きているように接し,あたたかく歓迎したのは兄夫婦だけではなかった。なんとラースを知っている町中の人たちがそうしたのだ。職場の同僚や教会の仲間たち・・・・なんて優しい人たちなんだろう。それにみんなラースのことが好きなんだな,と嬉しくなる。
この周囲の人たちの優しさと,医者の慧眼の素晴らしさ。そしてそれらの人々のおかげで,コミュニケーション障害を克服していくラースの姿が,なんともいえないほのぼのとした感動を呼ぶ。
考えてみれば,ラースがビアンカしか愛せなかったのは,人形の彼女は,決して自分からはラースに触れてきたり,しゃべったりしない存在だったからだろう。 愛する相手からのリアクションを受け止めることができなかったラース。・・・・しかし女医の根気強く適切な対応や,人々の優しさに触れるうちに,ラースは少しずつ変わっていく。
「あいつは一生,人形と暮らすかも」という兄の心配に反して,いつしかラースはビアンカを必要としなくなり,それに従って彼の中で,ビアンカは少しずつ「物言わぬ存在」となっていき,そしてついに・・・・。ビアンカとの別れはラースが,無意識のうちにも自ら決断を下したもの。生身の女性と接する自信の芽生えとともに,ビアンカと別れる時が来たことを悟ったからだろう。
最初から最後まで,一貫して町の人々は,ラースとその彼女に対して思いやりと忍耐と愛を示した。そしてラースもそれに応えた。そこに感動。ラースがマーゴと,素手で握手をすることができるようになったシーンはおもわず小さく拍手してしまった。
殺伐とした世の中で,こんな物語に接すると,たとえありえない設定でも,心がほっと一息ついて,心地よさを感じます。
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こんにちは♪ TB、コメントありがとうございました☆
心がジュワンと暖かくなるお話でしたね。
ほんと、普通で考えると有り得ない設定だけど、
今の世の中、こういう作品を見るとホッとします。
周りの人がここまで温かい人達だと、どんなに
問題のある人でも救われそうですよね。
ビアンカへの自分の気持ちが変わっていく時、
それを自覚したラースが葛藤している場面には、
胸が熱くなりました。
投稿: non | 2009年3月27日 (金) 10時28分
こんばんは。
TBとコメントをありがとうございました。
いい映画でした、本当に。
>ビアンカしか愛せなかったのは,人形の彼女は,決して自分からはラースに触れてきたり,しゃべったりしない存在だったからだろう
今回、このフレーズに改めて“目からウロコ”の状態になりました。
哀しいコミットの仕方だけれど、そうでしかコミットできない・・・そしてそれがやがて・・・というラースの心の変遷に、改めて未来への祈りを込めた拍手を送りたい思いになりました。
(*^_^*) ラース、ピース!
投稿: ぺろんぱ | 2009年3月27日 (金) 20時00分
ななさん、こんばんはー!
今コメント書こうとしたその瞬間、すぐ上のぺろんぱさんも同じ事書かれているのを発見☆
>ラースがビアンカしか愛せなかったのは,人形の彼女は,決して自分からはラースに触れてきたり,しゃべったりしない存在だったからだろう。
これは私もそうかぁ~~!!という感動?がありました。今まで色々な方々のレビューを拝見してきていたけれど、こういう鋭い洞察というか読解は、初めてで、なるほど~~~!と、一人うなってしまいました☆
投稿: latifa | 2009年3月27日 (金) 21時59分
nonさん,こんばんは!
>周りの人がここまで温かい人達だと、
>どんなに問題のある人でも救われそうですよね。
そうそう,そこがこの作品がリアルファンタジーと評される所以ですよね。
実際はね,問題のある人にこんなに全員が優しく接する世界は皆無だと思います。
でもだからこそ,こんな世界があったらいいなぁ・・という願いを持ちますよね。
人を救うのには魔法の杖も呪文もいらなくて
人間の愛があればいい・・・というのは
実現可能にも思える,手の届きそうなファンタジーだと思います。
なかなかできないことだとはわかっていても
ラースのようなケースを見せてもらえると
やっぱり嬉しくなってしまいますね。
投稿: なな | 2009年3月27日 (金) 22時58分
ぺろんぱさん,こんばんは!
普段はけっこう刺激の強い物語が好みの私ですが
ときどきこういう「ほっとできる」物語で癒されたりもします。
ラースがビアンカを選んだ理由・・・
たぶんそうではないかと思ったのですよ。
触覚過敏のある人と接したことがありますが
彼らは自分からは相手に触れることはできますが
相手から触れられる(特にいきなり)のって恐怖なんですよね。
ほんとに不用意に触ると,飛びのかれてしまいます。
動かず,物も言わないビアンカは急にラースに触ってきたりしないし
彼女の「セリフ」も,ラースが自分で好きなように創作できますからね。
人一倍敏感で繊細なラースは,誰をも傷つけたくないし
自分が傷つくのはもっと怖くって,
生身のすべての人間の代理として,ビアンカを創り出したのでしょう。
ビアンカとコミュニケーションを取ることでバリアーを張っていたのかも。
幼い時に母親のスキンシップを受けることが叶わなかったラースゆえの症状なのでしょうか?
でもそんな彼が徐々に変わっていった過程は・・・
ほんと彼にとっても新たに生まれなおすような葛藤や大変さがあったと思いますが
とても感動的でしたよね!
投稿: なな | 2009年3月27日 (金) 23時29分
ななさんこんにちわ!
私のくだらな日記にコメントいただいてありがとうございますぅー!
で・・これショービズでみてトンデモ設定に惹かれて
観たかったのに・・未見なんです!
ななさんの感想読んでますます見たくなっちゃいました~
もう名古屋じゃやってないし(T_T)
DVDまってますぅ~
リアルドールがほんとにリアルで・・ぷぷぷ
投稿: かいこ | 2009年3月28日 (土) 17時26分
latifaさん こんにちは!
癒し系でもあるのですが,
その反面なかなか考えさせられる作品でした。
ラースの持っていた「人と深くかかわれない」という悩みが
大変興味深く思えてしまいました。
特に触覚過敏症という点では,
昔関わらせていただいた自閉症のかたを思い出してしまいました。
そうたやすく克服できる問題ではないはずなのですが
ラースの場合は,人々の忍耐と愛が彼を救いましたね。
現実にはなかなか無理なことですが
「人が人を癒せる」という事実はやっぱり否定できませんよね。
とっても優しく温かい気持ちになれるお話でした。
投稿: なな | 2009年3月29日 (日) 14時39分
かいこさん,こんにちは!
>私のくだらな日記にコメントいただいてありがとうございますぅー!
くだらな日記だなんて~!かいこさんの日記はよく私のツボに来るので
思わずコメントで参加したくなるのですよー(ノ∀`)・゚・。
で,映画の話ですが,私は隣県のミニシアターで今頃遅ればせに公開してくれていたので
観ることができました。
かいこさんは前々からチェックされてたのですね!
期待を裏切らない,とっても素敵な作品でしたよ!
投稿: なな | 2009年3月29日 (日) 14時43分
良かったですよね。
あたたかく見守ることって、
単純なようでいてなかなかできるものではありません。
自分で成長する能力を信じることは、
子育てにも共通する話だと思います。
でも、子供をはじめ身内になると、つい口を挟みたくなってしまう。
投稿: クラム | 2009年3月30日 (月) 00時34分
クラムさん,お久しぶりです。
>あたたかく見守ることって、
>単純なようでいてなかなかできるものではありません。
見守る・・・というのはとっても難しいことですよね。
ついつい口も手も出したくなります。
おっしゃるように身内ならなおさら。
ですから,この物語では,特にラースの兄さんえらいなーと思いました。
兄嫁のカリンの愛も大きかったとは思いますが。
投稿: なな | 2009年3月30日 (月) 22時51分
ラースとビアンカ、2人で1人って感じがしました。
多分ラースの中ではビアンカは彼の心の一部だったんでしょうね。
映画を見ながら、そんな気がしましたよ。
投稿: にゃむばなな | 2009年3月31日 (火) 21時58分
にゃむばななさん こちらにもありがとう~
>ラースとビアンカ、2人で1人って感じがしました。
そうですね!二人で補い合う関係にも見えましたね。
ビアンカがいてくれてやっと一人前だったラースが,
彼女をもはや必要としなくなった・・・その時こそが彼の独り立ちだったのでしょうね。
投稿: なな | 2009年4月 1日 (水) 19時39分
ななさん、こんばんは
この映画、うっとこではGW前後にやってたんですが、ななさんとこでは3月末くらいにもうやってたんですね
・・・負けたぜ!
ひごろわたしが抱きしめられるものといえばネコくらいしかいないので(しかも嫌がられる)、美人の兄嫁さんにギュウと抱きしめてもらえるラースくんははっきりいってうらやましい。でも彼にとっては電気ショックが走るほどの苦痛というのがなんとも
「こうしてあげたら喜ぶだろう」と思い込んで、かえってありがた迷惑になることってありますよね。そうならないように気をつけたいな、と思いました。その点でこの映画に出てくる女医さんやおばあちゃんたちは、いいお手本であります
この映画、なんか道徳の授業の教材にも使えそうな気がします。ビアンカの出自さえ除けば・・・
投稿: SGA屋伍一 | 2009年5月22日 (金) 21時15分
SGAさん こんばんは
そうですねー,私は隣県で観たのですが
3月でもまだ一般世間からは遅れをとっての公開でしたよ。
でもまだSGAさんのところがもっと遅れて公開だったのですね・・・・
ちょっと優越感(* ̄ー ̄*)…えへへ。
>ひごろわたしが抱きしめられるものといえばネコくらいしかいないので(しかも嫌がられる)
あらら,わたしとそんなに変わりませんねー,お互いさびしいですね。
>「こうしてあげたら喜ぶだろう」と思い込んで、かえってありがた迷惑になることってありますよね。
ほんと感じ方は千差万別といいますか
ラースのような感覚はちょっと広汎性発達障害に似てるなぁとも思いましたが
もしそうなら,ビアンカごときの手段では治りませんので
ラースもそこまでではなかったのでしょう。
よい医者や家族に恵まれたことが,ラースにとっては一番の幸せでしたね。
>この映画、なんか道徳の授業の教材にも使えそうな気がします。
そうそう,あと,人権教育とかね・・・「みんな違ってみんないい」という世界ですが。
あ,もちろん教材化する場合,ビアンカのキャラは削除か変更になるでしょうけどね。
投稿: なな | 2009年5月23日 (土) 20時43分
こんばんは~♪
ななさん体調は大丈夫ですか?
そちらでもインフルが流行っているようですね~
どうかお気をつけて、、、
さてさて、この映画はいい映画でしたね~
ラースの内面の葛藤に涙し、兄夫婦の動揺に涙し、医者の対応に感動し、街の人々の温かさに感極まりました。
いや~~~いい!!私、この街の住人のようでありたい!!っていうか、、、この街に引っ越したい(笑)
こういう優しい映画っていいですね~
きっと時々観たくなる映画になると思うな♪
投稿: 由香 | 2009年11月10日 (火) 00時06分
由香さん こんばんは!
おかげさまで私は「ただの風邪」で
それももうすっかり全快しました。
とはいえ,職場ではまだ警戒警報中なので
油断は禁物ですが。
さてさてこの映画ですが,ほのぼの~としましたね。
>私、この街の住人のようでありたい!!っていうか、、、この街に引っ越したい(笑)
同感です!
こんな街の人たちに囲まれて生活するなら
心が洗われるというか癒されるというか
自分も限りなく善人になりそうな気がしますよね~。
ダークでヘビーな作品も大好きなわたしですが
たまにはこんな「善意のかたまり」のような物語も
ほっと一息つけていいですよね~。
投稿: なな | 2009年11月10日 (火) 19時54分