チルドレン・オブ・ホァンシー 遥かなる希望の道
劇場未公開作品らしいし,DVDもリリースされたばかりなので,皆さんご存じない方が多いかも。私は,中国も,ジョナサン・リース・マイヤーズも,実話ものも好きなので,まよわずレンタルしてみたが,これがなかなかよかった。実話,という点にとくに驚いたし,感動もした。皆さんに紹介して,一人でも多くの人に見てもらいたいのでレビューをアップ。
その知られざる実話とは・・・・
1930年代,日本統治時代の中国で,日本軍の勢力が黄石(ホァンシー)に迫ったことを知った英国人記者ジョージ・ホッグが,世話をしていた児童養護施設の中国人孤児60名を連れてシルクロードを横断し,700マイル離れた山丹まで逃避行を成し遂げた,というお話。酷寒の山や砂嵐の襲う砂漠を,ホッグ率いる孤児たちの一行は,ほとんど徒歩で進んだ。この奇跡の旅は、のちに“小さな長征”(※「長征」とは、1934年から1936年に共産党が行った大移動)と呼ばれたらしい。
未見の方ばかりだと思われるので,あらすじをくわしく。
ジョナサンが演じたジョージ・ホッグは,当初は写真を撮るために南京に潜入,そこで日本軍による民衆の大虐殺を目にし,その写真を撮ったことを理由に日本軍から処刑されかかる。危機一髪の彼を助けてくれたのが,共産党の戦士,ジャック(チョウ・ユンファ)。彼の友人だという看護師のリー(ラダ・ミッチェル)の勧めで,ホッグは中国語を学ぶため,黄石(ホァンシー)の,とある施設に滞在することになる。
訪ねてみるとそこは,廃墟のように荒れ果てた建物に,賄いの老婆と,数十人の身寄りのない少年たちが生活する,貧しい児童養護施設だった。食べ物にも事欠き,衛生も教育も最悪の状態の彼らに対し,ホッグは最初こそ,「早くここを出て帰国したい」と願うが,自分の他に頼れる大人が一人もいない彼らの現状を捨て置けずに,そこに踏みとどまる決心をする。
時折訪ねてくるリーが行う衛生指導。
ホッグが街まで種を買い付けに行って,作った家庭菜園。
自家製の発電機のおかげで,明るく電気が灯った施設。
ホッグが教えるバスケットボールに興じる少年たちの笑顔。
最初は,外国人に対する猜疑心や反発をむき出しにしていた孤児たちの心に,次第にホッグに対する信頼や尊敬が芽生え,ホッグもまた彼らの「教師」であるという自覚と責任感を強くするようになり,互いの絆は深まってゆく。
奇跡のシンフォニー以来,なんだか「善いひと」役が板についてきたジョナリスが,高潔で自己犠牲精神の塊のような熱血青年を,サワヤカに好演している。彼自身,何度も書いたけど,訳あって施設で育った経験もあるそうで・・・・。この作品もまた彼の思い入れってあっただろうなぁ,と勝手に想像してしまった。
この作品中で彼は,英語と中国語と,なんと日本語(!)を駆使している。彼が愛人を殺す役を演じたマッチポイントでも,日本人の取引相手に「アリガトゴザイマース」と一言だけ日本語をしゃべるシーンがあったが,この作品ではもっとたくさん,それも長いセンテンスの日本語を披露してくれている。日本軍を相手に,「タイヘン,シツレイデスガ・・・」などと言っているのだ。発音はお世辞にもよいとは言えないけど,まあ,そこはご愛敬で。しかし,ジョナリスの片言日本語は,彼が英国人という設定だから不自然ではないけど,日本の軍人役の俳優さんも(きっと中国の俳優さんだ)片言の日本語だったのが哀しかった・・・・。
彼らが平穏に暮らしていたホァンシーにも,戦火は次第に忍び寄り,施設が奪われる恐れが生じたことがきっかけで,ホッグは普通なら到底不可能な逃避計画を考えつく。それは,シルクロードを横断し,700マイルも先の山丹を目指すこと。それも子どもたちが家畜を連れ,荷車を押しながら徒歩で。
極限状態で見せる勇気と冷静な判断力。
決して失わない希望。
出発前に,ホッグは子どもたちを集めて,計画を説明し,彼らの心をひとつにまとめる。
吹雪の中の山越え,砂嵐の吹き荒れる砂漠,
日本軍との遭遇・・・・
さまざまな試練をくぐりぬけて,彼らはまさに3ヶ月もかけてシルクロードを横断するのだ。さながらモーセの出エジプトの一行のように。
彼らを手助けするジャック役のチョウ・ユンファは,さすがの貫録とオーラを放っている。ついでにいえば,ミシェル・ヨーも,美しくてカッコイイ!中国陣営も一流の俳優さんをそろえている作品なのだ。(これがなんでDVDスルーなのか・・・勿体ない)
無事に山丹の僧院にたどり着き,孤児たちの新しい生活が始まったのもつかのま,ホッグは道中でうけた手の怪我がもとで,破傷風にかかり,血清も間に合わずに息を引き取ってしまう。中国の習慣なのか,葬儀の際に揚げられる凧と,彼の遺体を包んだ布に墨書された孤児たち全員の名前が哀しい。
エンドクレジットで,今は老年となった実際の孤児たちが,ホッグの思い出を語るシーンが挿入されている。ホッグについて,「欠点のない人だった。いつも笑顔で接してくれた。」「愛すべきものと,憎むべきものの線引きは非常にはっきりしていた」という証言が心に残っている。このエンドクレジットを観て,「ああ,これは実話なんだ・・・ホッグという一人の名もないジャーナリストによって,この人たちは実際に命を救われたのだ」という感慨が押し寄せてきた。そう,まるでシンドラーのリストのラストに感じたのと同じような感動が。
日本軍のことはあくまでも悪者に描かれているので(史実だから仕方ない)ちょっと抵抗はあるかもしれないけど,観て損はない作品だとお勧めします。
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» 『チルドレン・オブ・ホァンシー 遙かなる希望の道』 [La.La.La]
JUGEMテーマ:映画 制作年:2008年
制作国:オーストラリア・中国・ドイツ
上映メディア:劇場未公開
上映時間:125分
原題:THE CHILDREN OF HUANG SHI
配給:マクザム
監督:ロジャー・スポティスウッド
主演:ジョナサン・リス=マイヤーズ
ラダ・ミッチェル
チョウ・ユンファ
ミシェル・ヨー
日中戦争の最中、孤児たちを連れて命懸けでシルクロードを横断した
英国人ジャーナリスト、ジョージ・ホッグの感動の実... [続きを読む]
» 「チルドレン・オブ・ホァンシー 遙かなる希望の道」 [心の栄養♪映画と英語のジョーク]
こんなイギリス人ジャーナリストがいたんですね〜・・ [続きを読む]
こんばんは。はじめまして。
dimさんのページから遊びに来ては、失礼ながら勝手にニマニマぐふぐふさせていただいている者です。
この作品、ジョナサン&デイジー目当てにDVDを予約してまして、一瞬、あれれ、もう出たの?と焦ったのですが、レンタルのほうは既に開始となっていたようですね。
オススメと聞いて、ウレシクて(まだ未見なんですが)思わずカキコミさせていただきました。
>なんだか「善いひと」役が板についてきたジョナリス
笑。
ヘンリー8世も日本語字幕で観れたらなぁと思います。
こちらに書くのもなんですが、下の「慰めの報酬」に続き「カジノ・ロワイヤル」の記事、ありがとうございます。これまたウレシくて涙でした。
投稿: DD | 2009年2月15日 (日) 00時51分
DDさん はじめまして,いらっしゃいませ
dimさんちのコメント欄で,お名前はよく見かけておりました~
この作品,思いっきりマイナーみたいな感じなんですが
マイナーにしとくのは勿体ないですね~
でも,私もジョナリスのファンでなければ観てないかも・・・でした。
実話でなければ,けっこうベタなお話なんですよ。
でも実話の重みというのは違いますね。
ジョナリスは,一昔まえの悪役や陰のある役ばかりやってた頃から好きなんです。
「ベルベット・ゴールドマイン」だけは観てないんですが・・・。
薄幸そーな雰囲気がたまりません。抱きしめたくなっちゃう。
ヘンリー8世も,エリック・バナよか、ジョナリスの方が似合ってるかもしれませんね。
ところで,デイジーって誰ですか?デヴィッド・ウェンハムのニックネーム?
彼は残念ながら登場して結構早い時期に日本軍に・・・されてしまいました。
>「カジノ・ロワイヤル」の記事・・・・
もしかしてマッツの画像がお気に召しましたかしら?
マッツも大好きなんですよ!これまたトリスタン役のときから・・・。
投稿: なな | 2009年2月15日 (日) 01時41分
こんばんは。お返事ありがとうございます。
>ジョナリスは,一昔まえの悪役や陰のある役ばかりやってた頃から好きなんです。
同じです。(笑)
「ベルベット・ゴールドマイン」はDVDを持っておりますが、う~ん、真っ先に思い浮かぶのはジョナサンというより、観衆の前ですっぽんぽんで熱唱していたユアンのシーンですかね~。
お察しのとおり、マッツを偏愛しております。やはりトリスタンからですが。(笑)
それと、「かげろう」のころからギャスパー君もお気に入り上位でして・・・実は、dimさんのページにブックマークされる前から、こちらにはギャスパー君の写真集を眺めにお邪魔しておりました。ご挨拶せずゴメンナサイ!
くれぐれもお体のほう、お大事になさって、これからもイイ男をご紹介くださいませ~。物陰に潜んで(何か怪しい)応援しております。
投稿: DD | 2009年2月15日 (日) 21時27分
おお,DDさん,なんて殿方の好みがにてるんでしょう!
ジョナサンを初めて観たのはアン・リー監督の「楽園をください」だったかな?トビー・マグワイアを陰険にイジメるいや~な悪役でしたわ。あんときは,まるで蛇みたいに憎たらしい役だったんですけどね,いつの間に,こんな博愛主義者の役がやれるようになったんだろう・・・
>観衆の前ですっぽんぽんで熱唱していたユアンのシーン・・・
おお!∑(=゚ω゚=;)そちらもかなり気になる・・・
で,やはりマッツのファンですか~。マッツを激愛・・・とかいうんじゃなくて「偏愛」というのがいいですね。トリスタン,髭ぼうぼうでもカッコよかったですね。あの,ナイフ投げごっこで(こつは)「真ん中を狙う」というセリフにしびれました。
マッツ作品,「アフタースクール」・・・もとい,アフターウェディング」や「しあわせな孤独」もアップしてるので,よろしかったらそちらにも遊びに来てね。
ギャスパーを「かげろう」のときからのファンというのも同じです。彼の新作はやく観たいんですけどね~。
>物陰に潜んで(何か怪しい)応援しております。
そんな不審者のような・・(笑)これからもどんどん遊びに来てくださいませ~,イイ男談義に花を咲かせましょう。
投稿: なな | 2009年2月15日 (日) 22時31分
ななさんこんにちは!
ジョナサンも幼い頃に両親に捨てられ孤児院で育った過去を持っている
そうでこの作品の主演に彼を抜擢したプロデューサーのひとは見事な
キャスティングだと思います。
彼自身60人の孤児たちを自分に重ね合わせて自分の経験も踏まえて演技さ
れたんでしょうね・・・
投稿: せつら | 2009年3月 1日 (日) 11時05分
せつらさん こんばんは!
せつらさんもご覧になりましたか~
>ジョナサンも幼い頃に両親に捨てられ孤児院で育った過去を持っているそうで・・・・
そうですよね,彼の陰影のあるどこかさびしそうな表情は,その生い立ちからきてますよね。
この作品のキャスティングもぴったりですが「奇跡のシンフォニー」もまた
彼にふさわしいキャスティングだったように思います。
「孤児院もの」はジョナサンにとっても,思い入れのあるテーマでしょうね。
投稿: なな | 2009年3月 2日 (月) 20時08分
ようやくDVDを鑑賞しました。
2時間余、エンドクレジットのおじいさんたちの証言まで一気に観ました。
映像が美しかった。そして、山水画の世界に入り込んだジョナサン・・・それほど違和感なく、馴染んでました。貴重な映像をしっかりココロに焼き付けました。。。
日本語は何言ってんだかよくワカリマセンでしたが、でも、ジョナって、見た目と違って(爆)かなりの努力家ですね~。確かM:i:IIIではイタリア語話してましたね。
なんといっても、くりくり、もこもこした子どもたちの姿にひきつけられました。
700マイルと言われてもピンとこなかったのですが、ジャケットの裏の地図で示されたルートを見るとひえ~~っとなりました。
子どもたちの足で雪山や砂漠を越えて3か月かけた道行・・・その道中のエピソードをもう少し描いてほしかったです。余計な寝台シーンなどは削って。
日本では劇場未公開でしたが、これは見るべき作品というか知るべき事実だと思いました。
投稿: DD | 2009年3月28日 (土) 22時33分
DDさん,いらっしゃいませ!
ご覧になられたのですねー!
>山水画の世界に入り込んだジョナサン・・・それほど違和感なく、馴染んでました。
中国の服装もしっくり似合っていましたよね。
そうそう,M:i:IIIではイタリア語もしゃべってたし
われらがジョナは案外勉強家なのかもしれません。
・・・日本語の発音はちょっとヒドいですが。
>雪山や砂漠を越えて3か月かけた道行・・・その道中のエピソードをもう少し描いてほしかったです。
そうなんですよね,この作品の不満を挙げるとすれば
あの道中があまりにもサラッと描かれていたことですよね。
・・・あそこを強調して時間も割いてほしかったですよね。
苦労の足跡がそんなに感じられませんでしたわ。勿体ない。
>これは見るべき作品というか知るべき事実・・・・
そのとおりだと思います!
中国ではよく知られているのかもしれませんが
他国にも知らしめるべき事実ですよね。
もっともっとたくさんの人に見てもらいたい作品です!
投稿: なな | 2009年3月29日 (日) 01時02分
こんばんは♪
ななさんが鑑賞されたのは2月だったのですね。
レンタルショップの最新作だったのでしょうか。
我が街にくるのが遅かったのか、あるいは私が気づかなかったのか、私が今回借りたのは准新作でした。
ジョナサン・リース・マイヤーズは本作が初対面でした。
ななさんの解説でいろいろ知ることができて嬉しいです。
さて、ほんとうに素晴らしい作品でしたね。(最近これが常套句となっています。)
>愛すべきものと,憎むべきものの線引きは非常にはっきりしていた
エンドクレジットでこの文を見たら、ジョージ・ホッグの姿が浮かんできました。また、老四にとってはお母さん的存在だったな、とも思えました。
日本で上映されないのはやはり残念!!諸事情があるとしても大スクリーンで観たいです。
投稿: 孔雀の森 | 2009年5月 3日 (日) 19時55分
孔雀の森さん,おはようございます。
>ななさんが鑑賞されたのは2月だったのですね。
>レンタルショップの最新作だったのでしょうか。
はい,最新作でしたよー
今ではもうこちらでは7泊8日になってると思いますが・・・
それでもあんまり「貸し出し中」にはなってるの見たことがなくて・・・
借りる人が少ないんだなぁ,こんな良作なのに・・・と残念です。
ジョナサン,初見ですか!個性的ない俳優さんですよ。
生いたちのせいか,陰のある雰囲気のある役が今までは多かったのですが。
「愛すべきものと憎むべきものとの線引き」・・・この台詞はもっとも心に残りました。
ホッグのようなブレない生き方をしたいものだと思いますが
とてもとても真似できません・・・。
このような生き方をした人がいた,ということを
一人でも多くの人に知っていただきたいなぁ。
投稿: なな | 2009年5月 5日 (火) 10時02分
ななさん、こんにちは☆^^
ほんと、あのラストの彼らの言葉にはジーンとしました。
彼がいたから、彼らの”その後”の人生があったんですよねぇ。
あの部分で、あ~、これは実際にあったことだったんだなぁって改めてしみじみしました。
彼らのホァンシーでの生活の部分が一番印象に残った私ですが、あの移動のシーンも、出来ればもうちょっとこう感度的にというか、もっと彼らの苦労を見せつけてもらいたかったです。
その苦労たるや、あんなもんじゃなかったでしょうから。
ジョナサンの映画は、これと奇跡の・・しかないので、その悪い奴の役ってのを見てないので、是非
そういう映画も見てみたいです。
悪役が好きになる傾向大の私ですので(^ー^* )フフ♪
投稿: メル | 2009年8月 9日 (日) 16時59分
メルさん,こんばんは!
いい物語,しかも実話で俳優も粒ぞろいですから
もうちっと有名どころの監督さんが撮ってくれれば
文句なしの名作となったかと・・・惜しいです。
見せ場である「大移動」にもっと時間を割いてほしかったですね。
ホッグと孤児たちの心が繋がってゆく前半もよかったのですが。
やっぱり一番感動したのはラストのコメンタリーですよね。
あれで一気に「実話」のテンションが上がりましたもの。
ジョナサン・・・ちょっと癖のある顔してますから(まなざしが暗い)
どちらかというとアクの強い役の方が多かったんですよ。
アン・リー監督の,南北戦争を描いた「楽園をください」というのご覧になったことありますか?
あの映画では主演のトビー・マグワイアをネチネチといびる極悪な兵士の役をしてますが
・・・・これがまた似合ってました。
投稿: なな | 2009年8月11日 (火) 20時27分