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2009年2月20日 (金)

オアシス

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私は,ストーリーやテーマに惹かれてではなく,監督さんの手腕や俳優さんの名演技を観たくて,作品を選ぶときがある。このオアシスも,そういった作品のひとつだ。
Cap113
障害を持った人の恋
というテーマは,これまでも取り上げられてきたかも知れないけれど,これは重みがまったく違う愛さえあれば障害があっても幸せになれる,などという,ロマンチックな作品ではない。障害に関して,一点の妥協も美化もしていないリアルな描き方には,言葉を失う。そこから生まれる愛の物語には,切ない,とか感動した,とか言う表現すらも不適切に感じるくらいだ。障害者の描き方があまりにもリアルすぎて,一歩間違えれば大顰蹙を買う恐れもあったろう。

主人公のジョンドゥは,社会に適応できない前科者。
ヒロインのコンジュは,重度の脳性小児麻痺。


ソル・ギョングの演じたジョンドゥは,刑務所を出たばかり。場の空気や相手の気持ちを読むのが苦手で,衝動的でもあり,(軽度の広汎性発達障害あり?)そのせいかトラブルばかり起こし,家族の鼻つまみものになっている。彼は兄の身代わりになってひき逃げ犯として刑に服したのに,出所してきた彼を家族は歓迎しない。
Cap100
また,脳性麻痺のコンジュは,家族である兄夫婦から,人間としての扱いを受けていない。兄たちは,彼女の名義で入居できた快適な身障者用アパートに,自分たちだけで引っ越し,コンジュだけをひとり元のアパートに置き去りにしている。

とにかくソル・ギョングとムン・ソリ,ふたりの演技が圧巻だ。二人とも,まったく別の人格を「演じて」いるというよりは,「なりきって」いる。

常に洟をすすり,全身で貧乏ゆすりをしているような,落ち着きのない仕草で,ジョンドゥというキャラクターを体現して見せたソル・ギョング。そして,表情も体の動きも,まさしくほんものの脳性麻痺患者そのものに見えたムン・ソリ。演技後は,骨盤や脊椎にゆがみが生じたというほどの,まさに全身全霊の演技だ。
Cap126
互いを「将軍」「姫」と呼び合い,二人がひそかに育む愛情を,周囲の人間は決して理解しない。特にコンジュのような重度の障害者が「誰かを恋する」可能性があるなんて,ましてや「誰かから恋される」ことがあるなんて,誰も思ってもみないのだろう。そんな偏見は,劇中の人物だけでなく,映画を見ている自分自身の心の中にも,確かに存在しているのだと気付かされる。

思い立ったら子供のように行動せずにはいられないジョンドゥが,ムン・ソリを外にデートに連れ出すシーンがあるが,電車やレストランで,二人に向けられる世間のまなざしは驚くほど冷たい。インタビューでムン・ソリさんが「韓国では障害者は健常者から隔離されているので,・・・・」という意味のことを語っていたが,その点,日本はバリアフリーが進んでいるので,あそこまで露骨に冷淡な態度を取ることはない(・・・と信じたい。)

コンジュのジョンドゥへの純粋な思いは,時折彼女の空想の映像として挿入される。健康になった自分がジョンドゥとふざけたり,愛の歌を歌ってきかせたり,踊ったりする場面。健常者となんら変わりのない,恋人への思いや願いが感じられて切ない。二人の心の中では,誰に理解されなくても,一緒にいるひとときこそが,オアシスなのだと思い知らされる。
Cap140
二人の愛は最後まで周囲には理解されず(たぶんこれからも理解されないだろう),彼らは理不尽な力によって引き離されることになる。ここらへんの容赦のない展開が,いかにもリアルで,胸をえぐられるようだ。二人の愛の行為も,世間からは,前科者のジョンドゥが強姦事件を起こしたとしか見てもらえず,コンジュは誤解を解こうにも、それを告げるすべも持たない。

こんな救いのない物語だけど,ラストは,ほんの少し希望が感じられるような優しい終わりかただ。刑務所のジョンドゥからコンジュへあてた手紙。二人の絆はまだ断ち切られていないことをそっと示唆してくれるラスト。・・・・彼らが幸せになれる日がくるかどうか,それはわからないけれど。こんな風に,ささやかな陽の光が射し込むような終わり方は,同監督のシークレット・サンシャインのラストにも雰囲気が似ていた。

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コメント

ななさん
私もずっと前にこの映画観ました~!
そして、びっくりしました!
日本では絶対に許されない描写が満載でした。
すごい映画でした。

ムン・ソリさんは、映画を撮り終わった後、体のバランスが狂ってしまい、直すのに相当大変だったと何かで読みました。

ソル・ギョングさんは、シルミド、力道山とは全くの別人。この映画のために何キロか忘れたけど尋常じゃない減量をしたと。

この役の貧相さは救いようがないですよね。ほんと鼻をすするしぐさ、いつもキョロキョロ挙動不審、落ち着きがない感じとか、本当に演技とは思えないほどでしたね~。

ソル・ギョング恐るべし!いくつの顔を持っているんだ~!と思いました。


どこかに感想を書いた気がしてたんですが、自分で見つけられませんでした~(^^ゞ

これ大好きです!
韓国映画の中ではベスト5以内にには絶対に入れたいという作品です~。
切なくて、でもどっか温かくて、ラストも好きでしたし
これは名作ですよね。
シークレット・サンシャイン、未見なので是非見てみたいです♪

ななさん、こんにちは~!
これ、重いけど、すんごい印象に残ってる映画です。
主役の2人のすごさ・・・圧倒されました・・・
ムン・ソリさんは韓国女優の中でも、私が1,2番に女優魂を感じる人です。ものすごい大胆なH系シーンとかも他の映画で演じていて・・・最初に彼女を見たのがペパーミントキャンディの純情少女だったので、その落差に驚くばかりです。

>同監督のシークレット・サンシャイン
良い評判は聞いているのですが、まだ見れてないの。
レンタルで新作落ちしたら借りようと、待ってるところ→セコイ(^^ゞ

むぎむぎさん コメントありがとう~
すごい!というのが一番ぴったりくる作品ですよね。
いや~,なりふり構わず・・・というか,その迫力に圧倒される作品です。
>日本では絶対に許されない描写が満載でした。
そうですね,あそこまで障害をリアルに描いたり
健常者が持つ偏見をえぐり出すように描いたり・・・
そして自分の中にある偏見も容赦なく明らかにされるような・・・
すごく重くて痛いものがありますよね。
でも,そんな中にも,主人公二人のピュアな思いには
やはり癒されるものも感じたりして・・・・
美しさ,醜さ,残酷さ,いろんな相反するものがギュッと詰まった作品に思えました。
主演のお二人・・・・これぞ役者!って感じですね。
ソル・ギョングさんはきっと役に応じて無限の顔を持ってる人なんでしょうね。

メルさん こんばんは!
私はこれ,やっとこないだ観たのですよ。
「シークレット・サンシャイン」の監督の他作品が観たい!という動機なんですが
いやー,言葉を失うくらいすごかったです。
>韓国映画の中ではベスト5以内にには絶対に入れたいという作品です~。
私もそう思います。名監督が名優を使って撮ったまぎれもない名作です。
「シークレット・サンシャイン」もお勧めですよ。
最近の韓国映画は「これぞ!」というのがあまり出てきてませんが
「シークレット」は久々に目にした傑作でした。


latifa さん,こんばんは
>重いけど、すんごい印象に残ってる映画です。
一度観たら決して忘れられない作品ですよね。
ムン・ソリさんはこの作品の他には「大統領の理髪師」を観ました。
彼女も,「シークレットサンシャイン」のチョン・ドヨンさんも
すごい美人女優ではないけど
すごい美人女優なら,決して演じてくれないようなすごい役を演じますよね。
ルックスだけに頼らない,真の女優さんなんでしょうね。
韓国の男優さんも,このソル・ギョングさんやソン・ガンホさんやアン・ソンギさんや・・・
イケメンではないけど素晴らしい演技力の方が多いですよね。
「シークレット・サンシャイン」,いいですよ~,ご覧になったら
また感想を語り合いたいです。


ななさん こんにちは♪
最近はめっきり韓国映画を観なくなってしまいました。
が、しかし、こういう作品ならもっと観たいと思わせてくれる傑作でしたね!

>「大統領の理髪師」

私も観ました。
韓流と呼ばれるアイドル的な俳優さんだけでなく、韓国にはこういう職人みたいな俳優さんも多いですよね。
私はチェ・ミンシクさんも大好きです!
またこういう骨太の韓国映画を観たいです。

なぎささん こんばんは

>最近はめっきり韓国映画を観なくなってしまいました。
私も新作にはあまり食指が動きませんね。
この「オアシス」のような過去の傑作を観ることが多いです。
韓国は俳優さんも監督さんも素晴らしいので
またひところのような傑作を撮ってほしいです~

「大統領の理髪師」もレビュー書けてないので,またいつかアップしたい作品です。
ミンシクさんも素晴らしい職人俳優さんですね!
こういう職人俳優さんの出てる作品はハズレがないのですが
ほんと最近・・・・観ないなぁ。さびしい。

あ、シークレット・サンシャインの監督さんだったんですかぁ~
早く観なければ・・・と焦ってしまいます。
ちなみに俺のところの記事は感想を書き始めたばかりの頃の文章なので全く参考になりませんです(汗)

こちらにも。
こういったテーマを扱った作品って
美化しているものも多いですよね。
良かったよかった・・・で終りがち。
でもこの映画って、しっかり描いていましたよね
色々考えるべきこと多く重かったけど
こういった映画はもっと増えて欲しいと思うわ。
韓国映画って→冬ソナ・・のイメージじゃあね.
骨太な作品、私も好きなのでこれからも
みていきたいわ。
まずは、シークレットサンシャインね。
これななさんの評価も良いので楽しみです。

kossyさん,こんばんは!
そうそう,この監督さんですよ,シークレット・サンシャイン。
「シークレット~」も,暗澹とする面と,優しく癒される面とが混然一体になった
「難解」で「衝撃的」な作品です。
またご覧になったら感想をきかせてくださいね~。

みみこさん,こんばんは

>こういったテーマを扱った作品って,美化しているものも多いですよね。
現実は決してそんなにたやすいものじゃないのに
半ばおとぎ話と化した,ゆるい「障害者もの」が多いですよね。
この「オアシス」はそこらへんの容赦のなさが凄いと思いましたし
高く評価されるべきですよね。
役者さんの演技も一点の妥協もないものでした。

>韓国映画って→冬ソナ・・のイメージじゃあね.
>骨太な作品、私も好きなのでこれからもみていきたいわ。
冬ソナも好きではありますが(照)
韓国映画の真骨頂は,それだけじゃないですよね。
シークレット・サンシャインは宗教がからんでくるので難解ですが
これも一度観たら忘れられない作品のひとつです。


ななさんお久しぶりですね。

オアシス ・・・ 私もかれこれ27年ほど映画を観ておりますが、
とうとう私のベスト5に食い込むほどの作品とであってしまいました。感動とか・・ いい作品とか・・・形容することがもうできない映画ですね。私的には完敗、マイリマシタです。
ムンソリも凄いけど、ソルギョングは、彼は化け物ですね。
何なんですか?力道山と同一人物ですからね、信じられませんよ。

みちしるべさん お久しぶりです。

この作品から受ける感動や衝撃は
今までどの映画からも体験させてもらえなかったものですね。
テーマやストーリーももちろん凄いんですが
なんといっても主演のお二人の演技ですよね~

ソル・ギョングさん・・・
怪物というのも頷けます。
私は彼の「力道山」は観てないのですが
「ペパーミントキャンディ」の彼を観て何度も鳥肌がたちっぱなしでしたよ。

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