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2009年1月26日 (月)

胡同(フートン)の理髪師

Futonmovie
これは・・・・いい作品だ。ほんとに,しみじみといい作品。
淡々と地味に流れる映像の中に,
人生の全てがある・・・
そんな作品だ。

物語は,現代の北京。舞台となる胡同(フートン)とは,北京特有の古い路地のこと。そこには,中庭の周りに平屋の建物を配した「四合院」という中国古来の家屋が建ち並び,一つの四合院に数世帯の庶民が雑居している。この胡同,近年の再開発の波に呑まれて,次々と解体され,近代的なビル群に建て替えられているという・・・。

物語の主人公は,この胡同で理髪師を営む,93歳のチン老人。演じたのは実際に理髪師で93歳のチン・クイさん。まさに,世界最年長のアマチュア俳優の起用だが,このクイさんの雰囲気や顔だちが実に素朴でいい。刻まれた皺や穏やかな表情に,彼自身の人生の軌跡が現れていて,特に意識して役作りをせずとも,素のままでオッケーだったのではないだろうか。
Cap021
その他にも,胡同に登場するチンさんの顧客の老人たちも,素人を多く起用し,モツ鍋屋のチャンさんを演じたチャン・ヤオシンも,実際にモツ鍋をやってるという。この作品全体に流れる,まるでドキュメンタリーのようなリアリティは,彼ら素人俳優の,普段の自分をそのまま出した自然な演技によるところが大きいのだろう。

オリンピックを目前にして,
解体のために立ち退きを迫られている胡同。

物語は,チン老人の日常生活を淡々と丁寧に追っていく。
ただそれだけなのだが,胡同に住む市井の人々のつつましい暮らしぶりや,チン老人の誠実な人柄に惹きこまれて,退屈することはなかった。それほど,このチン老人は味わい深いキャラなのだ。

Cap020
チン老人は,毎日5分遅れる年代物の振り子時計を,時計屋の主人に「いよいよ動かなくなるまで修理は待ちましょう」と言われて,大切に使っている。時計が朝の6時を打つと,寝台から起き上がるチン老人。彼の一日は規則正しく始まる。
鏡を前にして,おもむろに総入れ歯を装着し,なんとその入れ歯が入っていた水で整髪するチン老人。・・・・・この後,その水を飲みやしないかとちょっとひやひやした。

チン老人は,自分の家で散髪するだけでなく,自転車に乗って出張散髪にも出向く。顧客は老人ばかり。チンさんの確かな職人芸と,親切で生真面目な人柄は,皆から絶大な信頼を得ている。

それでも,一人,またひとりと,チン老人のなじみ客や友人はこの世を去っていく。それを見送りながら,「こぎれいに逝きたい」という望みを持ち,ひとりで遺影や死装束の準備をするチン老人。そして夜更けにひっそりと,故人略歴を自分でテープに録音したりする。彼の口から,若いころは武術家や京劇の役者を目指したこともあったこと,妻は二人いたこと,不肖の息子かいること・・・など生きてきた軌跡が訥々と語られる。・・・・けっこういろいろあったんだ。だのに,現在のチン老人の表情は,どこまでも穏やかだ。
Cap010
いつ死んでもおかしくない年まで生きて,
この年になれば,毎日を精一杯生きるだけ」というチン老人。

遠からず訪れる死や,古きよきものが失われつつある世の中。
それら全てを黙って受け入れて,これまで通りにこつこつと,毎日を大切に生きている・・・・・。受け入れてはいるが,流されてはいない。自分の信念というものもちゃんと持っている。
そんなチン老人を観ているこちらは,哀しいような,あたたかいような,なんとも言えない感情に満たされるのだ。


それにしても,中国映画に人間を描かせたら,なんと奥の深いこと。特に雑草のように健気に生き抜く庶民を描いた作品は,スルメ烏賊のように,噛めば噛むほどに味わいが増す。一度この味を知ったら,中国映画が忘れられなくなること請け合いだ。
Cap025_2

そして,この作品で初めて知った胡同(フートン)で暮らす人々の,全く昔ながらの生活の様子。古びた瓦屋根や,野菜が積まれた中庭。狭い石畳の路地を,荷車や自転車で行きかう人々。遠景の高層ビルや,自動車が疾走する高速道路などと見比べると,両者が同じ町,同じ時代に共存しているとは,とても思えない。チン老人が金持ちの息子に引き取られた馴染み客に呼ばれて,そんなビル群の中を車に乗せられていくシーンがあるが,チン老人だけ,過去から現代にタイムスリップしてきた人のように見えたほど。

よその国の経済成長や開発にあれこれモノ申す気はさらさらないが,開発と引き換えに,古くからの北京の町並みの代表である胡同が消えてしまうのは,なんと勿体ないことだろうか。

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コメント

おはようございます。

>開発と引き換えに,古くからの北京の町並みの代表である胡同が消えてしまうのは,なんと勿体ないことだろうか。

ほんとうにそうだと思います。
同じ中国映画で『こころの湯』という作品にも
それを感じました。
監督の張楊(チャン・ヤン )は、
少年時代を胡同で過ごしたそうで、
あの町並みが失われていくことへの
哀惜がとてもよく伝わってきました。

この映画大好き~♪
中国映画って時々すっごくツボの作品が登場するわ~。
この映画も素人のおじいさんたちがなんともいえないイイ味を出していました。
どの顔にも人生がにじみ出ていましたよね。
みんな文化大革命などの激動の時代をどうやって生きてきたんだろう~?

えいさん,こんばんは
北京の胡同,この作品を観て,一度行ってみたくなりました。
りっぱな庶民の文化遺産だと思うのに,失くしてしまうのは
ほんと勿体ないですね。
建物だけでなく,そこに生き続けてきた民衆の思いもまた
たくさんこもってると思われますのに・・・。
「こころの湯」という作品も観たくなりました。


ミチさん,こんばんは~
コメントありがとう!ミチさんもこの作品を好きと言ってくださって嬉しいです。
いい作品ですよね~
>中国映画って時々すっごくツボの作品が登場するわ~。
私にとっては中国映画は,まずハズレがないんですよ~。
でもあまり近くの劇場で上映してくれないので,
DVD待ちばかりなんですが。
・・・しばらく中国映画の記事が続くかも。
この作品,出演者のお顔に現れた人生の軌跡のようなものに
しみじみとした思いを抱きましたね。
激動の時代を生き抜いてきた人々ならではの深みのあるお顔でした。

ななさん、こんにちは~♪

この作品、本当に良かったですよね~。
チン老人の生きていく姿勢とか、ぶれない生き方が
心の中に沁み入りました。

胡同もどんどんつぶされてるようではありますが
残して今は中国らしい素敵なレストランに変わってる
ところもあるようですが、できれば残せるところは
残しておいて欲しいですよね。

胡同・・と題名に付いた映画も3本見ましたが
題名に付いていなくても胡同の風景、胡同に
住んでいる人たちの映画も、そういえばこれまでたくさん知らず知らずに見ていたなぁなんて思ったり。
なかでも「こころの湯」は最高に好きな作品でした。
私もこれからどんどん中国映画を見てみたいなぁって
ななさんの記事を読んで余計に強く思いましたわ。

ななさん、コメントありがとうございました。
この作品はチンさんの面構えを見るだけでも価値のある作品ですね。
彼の顔を見ながらしみじみ「やっぱり人って人生が顔に出るもんだなぁ・・・」と
考えてしまいました。
レストランでチンさんの指定席を譲ってくれない若者のエピソードが
心に残っています・・・。

メルさん こんばんは

前々から「フートン」という言葉は耳にしていたのですが
知名かと思ってたら,北京の昔ながらの路地のことを指していたんですね~。
私は「胡同」ものはこれが初めてですが,感動しました~
他の「胡同」ものも観てみたくなりましたよ。
「こころの湯」はレンタル屋には置いてなくて・・・

ひとくちに中国の映画といっても,香港映画,台湾映画もありますが
私はやはり土の匂いのする,中国映画が好きですね~。

sabunoriさん こんばんは
ほんと,チンさんの人相を拝見すると,「顔は履歴書だなぁ」とつくづく思いました。
・・・気をつけなきゃなぁ・・・(汗)
>レストランでチンさんの指定席を譲ってくれない若者のエピソードが心に残っています・・・。
開発と同時に,中国でも「敬老」の精神を置き忘れていっているのでしょうか。
日本じゃとっくに失っているものですけど・・・。

こんにちは、書き込むのは久しぶりです。

この映画は見たいと思って、まだ見れてない作品です。
ななさんの感想も、みなさんの感想も含めて、よさそうですね。
これは見ておくべきだとおもいましたよ。
早速メモしました。

良い情報ありがとうございます。
いつも楽しみにしてます!!

ななさんこんにちは。
TB,コメントありがとうございました♪
失われゆく街並み、哀惜や情緒、そしてオリンピック景気やなんかの映画の背景はタイムリーな設定ではありますが 実は実はそんなことよりも僕自身、理容師として、とにかくチンさんを見ているだけでこの映画は感激でした。
貝になりたいとかスウィーニートッドとかも良いけれど本物ですからね。

亮さん こんばんは
こちらこそ,ちょっとご無沙汰しております。
この作品,チェックされてましたか~,さすが!
とてもいい作品ですよ。
中国映画に手を出しかねておられる方にも
是非ご覧になっていただきたい秀作ですね。
誰もがきっと何か感じるところがあるはずです。

亮さんがご覧になったら,また感想を語り合いたいですね!

mottiさん こんばんは
>僕自身、理容師として、とにかくチンさんを見ているだけでこの映画は感激でした。
そうでしょうね~,私も,もし自分の職業を
こんな風に演じてもらえたら,きっと感謝感激の嵐です。
また自分も仕事がんばろう!って思いますもん。
理容師の映画・・・「トッド」の真似はとんでもないし
「貝になりたい」は理容のシーンは少なめでしたもんね。
やはり本物は説得力が違いますよね。
ちなみに,理容師映画として私がこれまでで一番好きだったのは
「シャンプー台の向こうに」という英国映画でした。
この作品では,なんとアラン・リックマンが理容師でしたよ。(カッコよかった)

ななさん 今晩は。
 このところ次々と中国映画がDVDになるのでうれしいですね。中国映画の水準はものすごく高くて、どの作品を観てもがっかりすることは少ないですね。
 <中国映画に人間を描かせたら,なんと奥の深いこと。>全く同感です。台湾のアン・リー監督の父親3部作も含めて、やはりアジア映画は親子や家族の絆を情感をこめて描くのがうまい。同じアジア人である日本人にはそれが実にしっくりと合うのですね。
 レンタル店では圧倒的に韓国映画の方が多く置かれていますが、傑作の数では中国映画の方がはるかに多いと思います。HP「緑の杜のゴブリン」の「中国・台湾映画の世界」コーナーに「おすすめ中国映画」のリストをあげていますので、よかったら参考にしてください。

ゴブリンさん こんばんは
本当に,DVDにまでなっている中国作品は
必ずといっていいほど,高水準だなぁ,といつも感心します。
この作品の監督さんは内蒙古の方だそうですが
モンゴルを舞台にした作品もよく見かけるようになりましたね。
中国作品は,確かに家族の情とかが,一昔まえの日本人と共通するものがあるかもしれません。
>レンタル店では圧倒的に韓国映画の方が多く置かれていますが、傑作の数では中国映画の方がはるかに多いと思います。
韓国映画も傑作はありますが,どうしても恋愛系のものに押されぎみの傾向がありますからね。
ゴブリンさんの「おすすめ中国映画」,参考にさせていただきますね!


ななさん、こんにちは♪
実は先日コメントをいただいた『草原の女』のTBを送信したつもりでした。
今までうまくいかなかったTBですが、やっと成功したのだと、今気づきました。
他のTBもトライしてみますね。
観てからだいぶたちますが、チンさんの一つ一つの行動が、
今なお頭に焼きついています。
規則正しい動作が修行のように見えましたが、チンさんにとっては
普段の生活のリズムなのですね。
修行と思う私は未熟者です。
時には笑いを誘う場面もあって心に残る作品でした。

孔雀の森さん こんばんは!
そちらからのTBは成功したようで嬉しいです!
TBは承認制にしているので,すぐは反映されないので
まぎらわしいのですが,これからもいろいろTBしてみてくださいませ。
こちらからもー!とトライしてみましたが
残念ながら,こちらからのTBは依然として届かないようです。

>チンさんの一つ一つの行動が、今なお頭に焼きついています。
チンさん自身が,使い込まれた年代物の時計のような
正確さと規則正しさをもっていましたね。
ああいう生き方・・・現代の日本じゃ無理かしら・・・
でも,少しでも見習って,一日一日を大切に誠実に生きていきたいなぁ。
だって,人生ってあんな風に顔に現れるんですもんね。


ななさん、こんにちは!
これ、見終わったばかりなのですが、
>入れ歯が入っていた水で整髪する・・・この後,その水を飲みやしないかとちょっとひやひやした。
 うはっ!!ヘ(^o^)/私も全く同じ事を思って、ドキドキしちゃいました。これってとっぱじめの方のシーンだったでしょう?あの水で整髪は、ちょっと汚いのでは・・・?って思って、まあ、それくらいは許そう(←何様?)でも、水を飲んだら、もうこの映画をまっさらな気持ちで見れないかも・・・頼むからそれだけはやめてくれ~って願ってたの。良かった、良かった。

で、そこのシーンが忘れてしまうほど他は、ほんっとに良い映画で、見て良かったな~と思える地味だけど素敵な映画でした♪
後で感想書いたら、TB貼りにきまーす☆

latifaさん,こんばんは!

>入れ歯のシーン・・・
あはは,おんなじところでおんなじことを心配してたんですね。
あれはどきっとしましたよねぇ。
特に,物を大切につつましく暮らしているチン老人だから
「勿体ない」と飲んでもおかしくないと思っちゃった・・・きちゃないよねー,サスガに。
わたしも,もし飲まれちゃったら,あとあとまでそのこと引きずっただろうなぁ(笑)

>そこのシーンが忘れてしまうほど他は、ほんっとに良い映画で、見て良かったな~と思える地味だけど素敵な映画でした♪

たしかに!
中国って奥深い国だなぁ,そこで生きてきた人たちって
静かな,秘めたパワーがあるなぁ・・って思いました。
「胡同」のことについて知ることができたのもよかった。

感想,お待ちしてますね!

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