天上の恋人
引き続きリウ・イエの出演作品ということで鑑賞。
舞台は,山の郵便配達の時のような,中国の山岳地帯。そこで暮らす耳の不自由な青年と,口のきけない少女との純愛物語。
リウ・イエの演じたチャークァンの素朴さも心に残るが,ヒロインのユイチェンを演じたドン・ジェの可憐さには目を見張るものがある。シンプルなお下げ髪に,透き通るようにみずみずしい肌。口のきけない少女,という設定なので台詞はもちろんないが,素直でしとやかなその表情が,なんともいえず美しい。
一方,リウ・イエの演じたチャークァンは,幼少時に爆破事故で耳が不自由になった青年だが,その天真爛漫すぎる表情や,不器用そうな動作を見る限りでは,知的にもなんらかの軽いハンディキャップがあるような感じも受けた。彼の笑顔は,無邪気そのもので,一点の曇りもない。
リウ・イエの屈託のない笑顔には,いつもひきつけられるが,どの作品でも同じ笑い方をしているか,というとそうでもなく,演技派の彼は,役柄によって微妙に笑顔を変えているように思う。藍宇の時の無垢な笑顔も心に沁みたが,このチャークァンの笑顔は,それ以上に開けっぴろげで,まるで幼児のように純粋だ。
物語に描かれている恋は,両思いではなく片思いばかり。
チャークァンのチェー・リンへの想い。
そしてユイチェンのチャークァンへの想い。
恋する相手は自分の方を見てくれず,別のひとを想っている。チャークァンが,健気なユイチャンを振り向けばよいのに・・・・お似合いの二人だと思うだけに,もどかしくて切ない時間が過ぎてゆく。
この物語のもう一つの主役である,中国の山村。
「天上の恋人」という題が示すように,そこは限りなく空に近い辺境の村。雲でさえ遥か眼下に横たわる,まるで空中に浮かんでいるかのような村。そこに暮らす人々の,つつましい自給自足の生活ぶりは,私たち日本人が,もはや失ってしまった素朴さや豊かさに満ちている。
ユイチェンの土間での炊事風景。
クジで当たったという自転車を,宝物にするチャークァン。
大嵐のあとの,壊れた屋根を一家総出で修理する風景。
とりわけ心に残ったのが,チャークァン父子とユイチェンの3人が,チェー・リンの家に求婚に行き,中庭で求婚の歌を朗々と歌う場面だ。
「山歌」というのだろうか?中国の伝統的な歌のようだが,その素朴で伸びやかな調べと,独特の節回しは心地よく,姿を見せないチェー・リンの耳に届けとばかりに,懸命に声を張り上げるチャークァンとその父。傍らで鼓を打って伴奏するユイチェンの姿は胸を打つ。・・・結局,彼らの願いは叶わなかったわけだが。
やがてチェー・リンが恋人の子供を身ごもっていることを知って傷つき,チャークァンは一時姿を隠してしまう。服に「チャークァン(を探しています)」と大きく書き,彼を探して歩くユイチェン。再び村に帰ってきたチャークァンは,ユイチェンの美しさに初めて目を止める・・・・。ようやく二人の間に何かが起こりそうな予感に,思わず胸が高鳴る。
しかし,チャークァンがチェー・リンを肩車して、楽しそうに金木犀を取っている光景を目にしたユイチェンは,二人が結ばれることを願いながら,黙って自分は村を去る決意をする。
ユイチェンはここで身を引いてしまって終わるのかな?と思いながら観ていたら,その後になんとも荒唐無稽なラストが待ち受けていた!・・・・・こんな展開とは!いやはや。
いきなり邪魔者は,メアリー・ポピンズ状態で彼らの前から去ってしまい・・・・
すごいなぁ,よく考えついたなぁ,こんなラスト。
この作品のラストが評判悪いのは聞いていたけど,なるほど。それまで,地味だけどほのぼのと地に足がついた純愛ストーリーだったのが,一気に妙なファンタジーになってしまったかも。
このラストだけは,どうにも褒めようがない気もするのだけど,物語の雰囲気や主演の二人のみずみずしい演技はとてもよかった。
しかし,あのままユイチェンが身を引く,というラストにしてもよかったような気も。悲恋ではあるけど,その方が自然だ。
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» mini review 07264「天上の恋人」★★★★★★★☆☆☆ [サーカスな日々]
「至福のとき」のドン・ジェと「山の郵便配達」のリィウ・イエ共演の純愛ストーリー。中国広西省チワン族自治区の山村。子供の頃、爆竹工場の爆発事故で母を亡くし、自身も聴覚を失ったチャークァンは、銃の暴発で盲目となった父と二人暮らし。 ある日そこへ、兄を探しに村にやって来た口のきけない少女・ユイチェンが訪ねてくる。家事を手伝い、一緒に暮らすようになるユイチェン。チャークァンを兄のように慕い、村一番の美少女チェー・リンへの恋が実るようにと一生懸命に彼を応援するユイチェンだったが…。
少数民族チワン族の、... [続きを読む]
» 天上の恋人(天上的戀人) [香港熱]
中国広西省チワン族自治区の山村。
9歳の時に爆竹工場の爆発事故で母親を失い、そして自らも聴力を失った家寛
(チャークァン)(劉燁:リウ・イエ)は父親と2人暮らし。
しかしその父親も銃の暴発事故で両目を失明してしまう。
そんな2人のもとに現れた1人の可憐な少女玉珍(ユイチェン)(董潔:ドン・ジエ)。
口がきけない玉珍は行方不明の兄を探しながらこの村へたどり着き、
縁あって家寛の家にしばらく留まることとなる・・・。
目の不自由な父
耳の不自由な息子
そして口がきけない少女
... [続きを読む]
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TBありがとう。
あの求婚の朗誦は、とてもジーンときました。
ラストシーンはねぇ(笑)、僕は許せるんです。
全体が、日本で言えば「遠野物語」のような民話譚だと捉えています。
で、民話の象徴性、暗喩性でいえば、ああいう滑稽な終わり方もあるかな、と。
そのあと、「めでたしめでたし、どっとはらい」と・・・(笑)
投稿: kimion20002000 | 2009年1月21日 (水) 01時24分
kimionさん こんばんは
この作品,お気に入りのようで嬉しいです。
ラスト,許せますが~,民話的な終わり方ねぇ,なるほど!
「>めでたしめでたし、どっとはらい」と・・・
確かに,チェーリンが飛んでいっちゃったことは
個人的にはめでたかったです。これであの純情な二人が結ばれるかも・・・という
嬉しい予感がしますものね~。
投稿: なな | 2009年1月21日 (水) 18時02分
ななさん、こんばんは。
こんなシンプルな生活もいいなぁ・・・と思ってしまいました。
もちろん思うだけ、なのですが。(笑)
主演の2人とお父さんの3人の静かで慎ましい生活は
人間本来の生活のように感じます。
自転車を大切にするチャークァン、かわいかったですね。
投稿: sabunori | 2009年1月22日 (木) 23時22分
sabunoriさん こんばんは
>こんなシンプルな生活もいいなぁ・・・と思ってしまいました。
>もちろん思うだけ、なのですが。(笑)
そうですよね,実際にマネしてみると
一日中働かないといけないような気がして
とてもヤワな現代っ子には勤まりそうもないですね。
>自転車を大切にするチャークァン、かわいかったですね。
不器用な乗り方も微笑ましかったです。
「恋の風景」でもリウ・イエは自転車でしたね。
投稿: なな | 2009年1月23日 (金) 20時14分
ななさん
TB&コメントありがとうございました。コメントレスが遅くなってしまい、申し訳ありません。
この映画はとてもいい映画だと思うのですが、あまり知られていないのが残念です。ラブ・ストーリーは韓国映画が得意とするジャンルですが、中国映画が作ると一味も二味も違いますね。韓国映画だとテレビ・ドラマみたいになってしまうことが多いのですが、中国映画は人物を生活の中できっちりと描いています。恋愛ドラマである前に、人間ドラマとしてしっかりしていると思います。
ラストについては「あのままユイチェンが身を引く,というラストにしてもよかった」というななさんの考えに僕も賛成です。
投稿: ゴブリン | 2009年1月26日 (月) 12時23分
ゴブリンさん こんばんは!
>ラブ・ストーリーは韓国映画が得意とするジャンルですが、中国映画が作ると一味も二味も違いますね。
ほんとですね。泣けるけど嘘っぽいストーリーの韓国ラブストーリーとは違って
中国のは地に足をつけたヒューマンドラマっぽいラブストーリーが多いですね。
ラスト,ユイチェンの自己犠牲で終わるのも可哀想ですが
その方が彼女のキャラもより際立ったような気もしました。
投稿: なな | 2009年1月27日 (火) 22時58分
こんばんは♪
リウ・イエくんの笑顔が作品によって違うというななさんの言葉に、
思わずうなづいた私です。
演技派といわれるゆえんですね。
私も、ユェチェンの美しさに目を留めたチャークァンを見て
胸が高鳴りましたが、期待は脆くも崩れ…(笑)
観終わったとき、この2人によるハッピーエンドの作品を
つくってほしいと思いました。
投稿: 孔雀の森 | 2009年2月16日 (月) 17時52分
孔雀の森さん こんばんは~!
リウ・イエくんの笑顔は私にとって思いっきりツボなんですよ,どの作品でも。
まあ,だいたい「無邪気系」な笑い方をするんですが
このチャークァン役の笑顔はことさらに無防備で天真爛漫でしたねぇ。
ユイチェンとチャークァンがはっきりとハッピーエンドになった作品も
観てみたいですね,この作品のラストはいまひとつ曖昧でしたから・・・。
投稿: なな | 2009年2月16日 (月) 21時22分
こんばんは~♪
私、この映画を借りたつもりが勘違いして「恋の風景」というほうを借りておりました。
で、見ました見ました~なんて喜び勇んでお邪魔したら、(あ、間違えた・・)と。
お恥ずかしいです。
でも、リウ・イエ君はとってもいいですね。
急にすっかりファンになりました。
今度はこの作品を見て、またお邪魔しに参ります。
投稿: 武田 | 2009年3月17日 (火) 00時22分
武田さん おはようございます~
>この映画を借りたつもりが勘違いして「恋の風景」というほうを借りておりました。
題名の雰囲気がちょっと似てますもんねー(^-^; 同じ4文字だし。
でも「恋の風景」も今度記事を書こうと思ってたんですよ!
あちらもリウ君の魅力が発揮されてる作品ですものね。
>でも、リウ・イエ君はとってもいいですね。
>急にすっかりファンになりました。
きゃーん,嬉しいです~。(絶叫)
>今度はこの作品を見て、またお邪魔しに参ります。
この作品でも彼は秘境の中で頑張ってますよ。
・・・自転車にも乗ってるし。
ただしこの作品では障害のある役なので,身ごなしが従来の役の彼とはまったく別人です。
そこらへんの彼の演技力も凄いなぁ,と思いました。
でも,彼の魅力が一番発揮されてるのって,やっぱり「藍宇」だと思うので
いつかそちらもご覧になってくださいね。
もう,悶絶するくらい健気で可愛いリウ君が観れます。
投稿: なな | 2009年3月17日 (火) 07時19分
こんばんは♪
うわぁ、ヴァンパイア映画、記事を拝見させていただいたら俄然興味が湧いてしまいました!面白そうですね。私もやっぱりポーの一族は忘れられない一人です。あの作品は素晴らしかったですよね。吸血の仕方だってとてもエレガントで。
なんともいえない読後感に、胸がいっぱいになってしまった覚えがあります・・・
と、リウ君でした!
やっとこの作品も鑑賞できました。
ちょっと変わっているけれど、あまりに自然がダイナミックで神秘的なので、そういうこともあるかもね??という気分でラストを見てしまいました(笑)
>ヒロインのユイチェンを演じたドン・ジェの可憐さには目を見張るものがある。
ほんとですよね!!なんて可憐で清楚な女優さんでしょう。けがれなき乙女という感じで、ぽや~んと魅入られてしまいました。
(ついでにリウ君のすくすくと伸びた綺麗な骨格にも見入ってしまいました>笑)
お薦めしてくださった「藍宇」は今夜じっくり見てみます♪
投稿: 武田 | 2009年4月 7日 (火) 22時31分
キャー,武田さんも「ポーの一族」のファン?嬉しいですわ。
>なんともいえない読後感に、胸がいっぱいになってしまった覚えがあります・・・
主人公のエドガーが愛するひとをつぎつぎと失ってゆく悲しさは
今でも忘れることができません・・・彼らの一族が愛した真紅の薔薇もね~
で,リウ君ねー
この作品でも素朴な山岳青年をしっくりと演じてますねー。
>あまりに自然がダイナミックで神秘的なので・・・
そうそう,この作品って,あのものすごい大自然がある意味,主役ですよね。
浮世とはかけ離れた世界で起こる寓話のような味わいもあったりして・・・・
私は四国ですが県内に「平家の落人」が住み着いたという秘境があって
そこがちょうどこんな風に空中に浮かんでるような限りなく空に近い集落でした。
でもやっぱりこの作品の村の秘境ぶりにははるかに及びませんけどね。
リウ君のすくすく伸びた肢体・・・
スーツよりランニングの似合うひとですよね。
筋肉質なんだか単に痩せてるだけなのかわかりませんが・・・
でも骨の美しさは私も感じました!
投稿: なな | 2009年4月 8日 (水) 20時35分
ななさん、こんばんは!
今日は、いつもと違うレンタル屋さんに行ってこれを見つけ
「やった~!」と鑑賞。。
「山の郵便配達」のような雄大な中国の風景と、そこに暮らす素朴な人たち。叶わない切ない恋が、言葉少なく描かれていて、しみじみとした味わいがあって良かったと思います。。
が、やっぱり最後がアレッ?って感じで、 あそこだけやけにリアルなCGなので、違和感がありましたが、
チェーリンは結局、死を選択したってことですよね^^;
見ているほうとしては、悲しさがちょっと緩和されるっていうか、救われるっていうか、そんな感じはしましたが・・・
ところでリウ・リエさん、純朴な感じがたまらなくいいですね~。
確かにランニングが似合います(笑)
でも2009年12月号の大陸番「GQ」では(ちなみに表紙は金城クンです、エへッ^^;)
ファッショナブルな装いで12ページにわたるカラーグラビア!
ジル・サンダーやグッチを着こなすリウ・リエさん、素敵ですよ~。
投稿: ちー | 2010年1月24日 (日) 00時27分
ちーさん こんばんは!
>いつもと違うレンタル屋さんに行ってこれを見つけ・・・・
いいレンタル屋さんですね~これを置いてるとは!
でラストのシーンはちょっと滑稽でしたね。
中国の作品は総じてCGお粗末なんですよ~
エキストラその他も,
別にCGに頼らなくてもなんとかなるお国柄なせいか
それとも単に技術不足なのかどうかわかりませんが
けっこうCG映像にひいちゃう作品ってありますよ~
この作品の・・・あの赤い風船はないよねぇ。
おかげでハッピーエンド,と言われても
なんだか納得できませんでした。
>ジル・サンダーやグッチを着こなすリウ・リエさん、素敵ですよ~。
彼は身長があるので,似合うでしょうねぇ。
ブレイク作が「山の郵便配達」とか「藍宇」とか
みんなファッションはダサイ系の作品なので
彼のスタイルのよさなんかはついつい忘れがちになるのですが
たしかに何でも着こなせそうです,リウくん。
投稿: なな | 2010年1月24日 (日) 01時45分