アフター・ウェディング
2007年の,アカデミー外国語作品賞にノミネートされた,スザンネ・ビア監督作品。しあわせな孤独・ある愛の風景と彼女の作品を観てきたけど,私はこれが一番好きかな。他の2作品では深い余韻は残っても,泣くまではいかなかったのに,この作品では,途中何度も涙がこみあげてきた。
今回もまた,平穏な人生に突然起こる,とてもデリケートなハプニング。降って湧いたように出現した,父娘の絆。ヨルゲンの娘のアナの結婚式に招かれたヤコブは,スピーチの席上で,アナが自分とヘレナとの間にできた娘であることを知る。
彼はその昔,恋人だったヘレナの妊娠を知らずに別れたのだ。いきなり自分が父親であることを知っただけでもショックなのに,故意に自分を呼び寄せたと思われるヨルゲンの意図がつかめずに混乱するヤコブ。
混乱したのは,彼だけでなく,ヤコブの出現に戸惑ったアナやヘレナも同じ。アナとヤコブはそれでも親子としての心の絆を回復しようとする。というか,彼らを突き動かしたのは,血の繋がった親子ならではの本能的な感情なのだろう。
養父のヨルゲンの愛情に満たされていながらも,やはり実父の存在を知ると,会いにいかずにはいられなかったアナ。そして青天の霹靂のように出現した娘に,どう接していいかわからない,という顔をしながらも,やはりおずおずと愛情を示すヤコブ。不器用で誠実なヤコブと,いかにも素直なアナの対面シーン。ふたりがごく自然に抱き合う場面は,観ているこちらもほっと息を吐いてしまった。マッツ・ミケルセンの細やかな表情の演技が光る。
この物語の中で輝きを放つのは,実の親子の絆だけではない。血の繋がりのない関係でも生まれる愛情についても描かれている。
養父ヨルゲンとアナの絆。
ヤコブとインドの孤児の少年との絆。
そしてヨルゲン亡き後,ヤコブに託される,
ヨルゲンの幼い双子の息子たちと,ヤコブとの絆。
赤の他人でありながらも,育まれるのは紛れもなく確かな愛情であり,人間が誰かを愛する能力って,予測がつかないものであり,同時に無限のものなんだな,と改めて思う。
また,誰もが避けて通れない死についても,深く考えさせられる物語だ。一家の大黒柱である父親が,愛する家族を残して逝かなければならない時・・・。 ヨルゲンの苦悩と,家族を託せるのはヤコブしかいない,と悩んだ末に取ったその選択。
・・・・よく決断したな,と思う。
妻に号泣しながら漏らした,「死にたくない」という本音。ヤコブに後を任せるのは,未練や嫉妬心もそれなりにあっただろうに,それよりも,家族への愛情の方が勝ったのだろう。
もし私が彼のような立場に置かれたら,自分の不運を嘆くのが精一杯かも。そう思うと,ヨルゲンは,なんて懐の深い人間だろうと思う。もちろん,ヤコブの人柄が信頼できたからこその決断,そしてまた,彼ほどの財力があったからこそ,可能になった計画かもしれないけれど。
葛藤の末にそれを受け入れるヤコブとヨルゲンの遺族たち。
ヤコブだって抵抗はあっただろう。それまで築き上げてきた生活や,守ってきた大切なものの一部を失うことになるのだから。自分の主義のために生きてきた彼にとって,「家庭を築く」という選択肢は,これまでの人生にはなかっただろう。しかし,実の娘が本当に自分を必要としていることを悟った時,彼は二つの道から一つを選び取る決心をするのだ。
・・・・見事に善人しか出てこないこの物語を味わいながら,人はこのように相手を愛し,思いやることができるのか・・・と思った。
登場人物それぞれが抱く愛は,
どれも切なく,そして美しく,あたたかい。
みんな優しくて,繊細で,人生の機微もわきまえている。
それらが妙に心地よくて,でも実際の人生は,そんな人ばかりに囲まれているわけじゃない私は,こんな世界に憧れもして・・・・鑑賞後は,嬉しいような,やるせないような,なんともいえない思いに満たされる作品だった。
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こんばんは、ななさん!
コメントありがとうございました。
早速、遊びに来ました!
おお、ななさんがこちらの作品が一番お好きだとは、とても嬉しいです!
私が見た順番は逆でして、この作品、『ある愛の風景』『幸せな孤独』と見てしまいました。
(正直、4番目の『悲しみが乾くまで』が一番満足度が低かったかな。。。)
これ、去年見た映画の中でも、とっても心に残るものでしたよ!
正直、この物語に描かれていることに対峙するには気合が必要でして、ドッシリ構えて見なければ、何も得られないような気がしているくらいです。
投稿: とらねこ | 2008年12月21日 (日) 22時35分
ななさん、このビア作品の中でこれが一番好きなんですね。わたしと一緒です!
>見事に善人しか出てこないこの物語
云われてみて、その通りだと気づきました。
ドラマって、性悪な人物だとか狂気を孕んだキャラだとか、アクの強いマイナスオーラを放つ人たちがいて、面白みが増すものだと思っていたら、この映画のように、誰もが他人を思いやる善人ばかり出ていても、これほどまでに心を掴まされるものなんだなあと瞠目しました。
マッツも良い役者さんですよね。
「007」ではそれほど印象に残りませんでしたが、どんどんメジャーマイナー問わず映画に出てほしいです。
投稿: リュカ | 2008年12月21日 (日) 22時37分
ななさん、こんばんは!
コメントありがとう!
さて私もスザンネ・ビアの作品の中ではコレが一番!のお気に入りです。
繊細な演技が素敵なマッツ・ミケルセンは良いですね。
この映画は観ていてウルウルきちゃいました。
家族の絆を描かすとホントに上手いスザンネ・ビア。また彼女の映画が日本で公開される機会があればと思います。
投稿: margot2005 | 2008年12月22日 (月) 00時46分
ななさん、こんにちは。コメントとTBをありがとうございました。
この映画、皆さん絶賛されてますね~。さすが、アカデミー賞の候補になっただけはありますね。
で、私は『ある愛の風景』に一票入れとこうかな~(笑)。
久しぶりにこの映画の話をして、もう一度観てみたくなりました。
映像や物語だけでなく、音楽もとっても印象的でした。
もうすぐクリスマスですね♪ 素敵なイヴをお過ごし下さい~。
ではでは、また来ます。
投稿: 真紅 | 2008年12月22日 (月) 09時43分
お邪魔します~~
お好きな方多いですね。
実は私も★。音楽も良かったし、
ドップリ入り込める内容で、感動しまくって
いました。とくにヨルゲンのあの一言ね↑。
グググ~~ときましたよ。
ななさんおっしゃるとおり、
血のつながっていないもの同士の関係も
魅力的でしたね。
誰かを思いやることの素晴らさ。
人間ってこうじゃなきゃ・・と思わせてくれる
部分が多多ありましたよね。確かに善人ばかりでしたが、映画の中だけでもそういう世界堪能したいですものね。これからも注目したい監督さんですよね
投稿: | 2008年12月22日 (月) 16時35分
ななさん、こんにちはー☆
ビア監督作品、私はコレも好きだし、「ある愛の風景」も好きだなー☆選べないぃぃ!
この監督のなんともいえない映像が好きです。
あと「愛」っていうテーマもいいですよね。
年末だし、忙しいですよねー。
体調くずさないようにしてくださいね!
投稿: きらら | 2008年12月23日 (火) 11時19分
とらねこさん こんばんは
いい作品ですよね~,つくづく深いなぁ~って
監督の洞察力に感心しました。
「悲しみが乾くまで」はハリウッドの俳優さんを使ってるんですよね。
私は未見なのですが,やっぱりデンマークの俳優さんを使った方が
彼女の作品にはしっくりくるのかなぁ??
>正直、この物語に描かれていることに対峙するには気合が必要でして、
>ドッシリ構えて見なければ、何も得られないような気がしているくらいです。
そうですね~,さらっと描いてあるようですが
死とか愛とか,実はとても重いテーマを扱っているので,こちらも真剣に受け止めて
しっかり咀嚼し消化したい作品です。
でも,答えが出ない問題なんですよね,これがまた・・・。
投稿: なな | 2008年12月24日 (水) 18時37分
リュカさん こんばんは
レスが遅くなってしまいました~
>誰もが他人を思いやる善人ばかり出ていても、これほどまでに心を掴まされるものなんだなあと・・
そうなんですよね。この監督さんの描く世界って
誰もが悪くないのに,互いが互いの葛藤の種になるような
そんな切ない世界ですね。
みんな善人ゆえに,なんともやるせないし
善人ゆえに,最後はやはり救いの光が射すところにほっとします。
人間を観る眼が的確であたたかいですよね。そこが好き。
マッツは気になる俳優さんです。
これからもハリウッドにもどんどん進出してほしいなぁ。
投稿: なな | 2008年12月24日 (水) 18時47分
margotさん こんばんは
>さて私もスザンネ・ビアの作品の中ではコレが一番!のお気に入りです。
おお~,同じで嬉しいです。
マッツは「しあわせな孤独」にも出てますが
あっちの彼もとっても切ない役でしたね。
どちらかというと,いかついおじさん顔なのに
演技がデリケートでいいですね~
スザンネ・ビア監督,ほんと家族の絆(が揺れる)のを撮らせたら
右に出るものがいませんね。
投稿: なな | 2008年12月24日 (水) 18時51分
真紅さま こんばんは
真紅さまは「ある愛の風景」がベストなのですね~
あちらもかなり好きですが
私は「アフター~」>「しあわせな~」>「ある愛」の順かな~。
でもほんとはどれも甲乙つけがたい味わいがあるのですけどね。
そのひとの人生観や体験いかんによって,強く共感できる作品って違ってきますものね!
今夜はもうイブですね~
教会のキャンドルサービスを終えて帰宅したところです。
真紅さまのお宅では子供さんのためにケーキでお祝いしてるかな?
投稿: なな | 2008年12月24日 (水) 21時26分
みみこさん,こんばんは
ヨルゲンには私も泣かされましたわ。
金持ち特有の独善的なやり方と言えなくもないですけど
彼にとっては苦渋の決断でもあったんですよね~
ほんとは誰の手にも渡したくない大切な家族であったはずなのに・・・
家族がまた,彼の気持ちをちゃんと察してあげれる優しさを持っていて。
ああ,いいなぁ~,家族の絆って,と思いました。
>誰かを思いやることの素晴らさ。
>人間ってこうじゃなきゃ・・と思わせてくれる
部分が多多ありましたよね。
そうですよね。人間って一人で生きてるわけじゃなくて
誰かに守られて生きてるし,誰かのために生きてるんだって
しみじみとした気分になりましたね。
投稿: なな | 2008年12月24日 (水) 21時32分
きららさん こんばんは
この監督さんの作品,みんないいですよね~
とても凝った美味しいお料理を味わってるような感じです。
どれも好き,選べない~というきららさんの気持ちもよくわかります。
そうそう,映像も独特ですよね。
登場人物の気持ちが台詞なしでもビシビシ伝わってくるような映像です。
年末は何かと気忙しいですよね。
きららさんも風邪などひかないようにね!
投稿: なな | 2008年12月24日 (水) 21時42分
ななさん、メリークリスマス♪
ご訪問が遅れてスミマセン。
スサンネ・ビア監督、いいですよね~。
私は「しあわせな孤独」は未見なんですが、タイトルだけでもなんだか良作の予感~。
ヨルゲンの懐の深さには参りました。
なかなかあそこまでにはなれないわよね。
今年の初めの頃に見た作品だったので、ちょっと記憶から飛んでいたのですが、ななさんのTBのおかげで思い出すことが出来ました。
今年のベストテンに入れちゃうかも。
投稿: ミチ | 2008年12月24日 (水) 23時18分
ミチさん こんばんは~
ヨルゲンって人間の大きなひとだなーと思いました。
私なんか,自分の死後に伴侶が元の恋人とくっついちゃうこと考えただけで
嫉妬で死んでも死に切れません(@Д@;
「決して再婚しないで。でないと化けて出るぞ~」と言い置いて死にそうです。
>今年のベストテンに入れちゃうかも。
私はもうベストテンに入れました~
で,ビア監督は監督賞をあげちゃいました!
「しあわせな孤独」もいいですよ~
こちらにもマッツ・ミケルセン出てますし。
投稿: なな | 2008年12月25日 (木) 18時54分
この映画、見ている時はあまり乗れなかったんです。
ヤコブはあれほど約束してきた子がいるのに・・って思っちゃったし、ヨルゲンの頼みは到底自分勝手だって思ってしまって・・
でも見終わってしばらく時間が経ってから、こういう形の愛情があって、苦悩があって、それぞれ選択していくんだな~と思うようになりました。
後になってからじっくり沁みてくる映画だったと思います。
投稿: hito | 2008年12月26日 (金) 14時56分
hitoさん こちらにもありがとう~
あとからじわじわ来ましたかー
この物語特にヨルゲンの発想は,
養子とかがあまり一般化してない日本人の感覚では
理解しにくい面もあるかもしれませんね。
ヤコブもね~,やはり実子との血の繋がりって
逆らえないものなんですよね。
>こういう形の愛情があって、苦悩があって、
>それぞれ選択していくんだな~と思うようになりました。
人生,折り返し地点を過ぎても何が起こるか分かりませんね~
うまく妥協もしながら,相手を思いやっていけたらなーと思います。
投稿: なな | 2008年12月27日 (土) 01時15分
私もななさんと同じ3本を見てますが
その中ではこれが一番心惹かれたかも。
でも、何年か経っても「しあわせな孤独」が
妙に心に残ってるので、これがそうなるかどうかはまだわかりませんが、少なくとも見た直後は
これが一番胸に堪えたかな~と。
2人の父親の心情が描いてあるところ、
あんなに気丈に頑張ってたのに(私には無理です)
妻に抱きつきやっと心の内を出して号泣するところ等々、印象的なシーンがたくさんありました。
相変わらず目だけのアップとか、顔のアップの
多様でその人の感情を上手く映し出してるなぁって思いましたし。
良い映画でした。
投稿: メル | 2009年1月12日 (月) 10時15分
メルさん こんばんは
そうですね~,わたしもこれが一番好きですけど
「しあわせな孤独」もかなり好きです。
マッツ・ミケルセンが好きというのもありますけどね。(どちらにも出てる)
二人の父親の心情を思うとどちらも切なかったですね。
ヨルゲンの方がより切なく感じましたが
それまでの人生を根こそぎ覆すような衝撃に見舞われたヤコブの心の揺れもまた
なんだか身につまされました。
それぞれが一生懸命愛するひとたちと向き合おうとしている・・・
その姿にあたたかいものを感じましたね。
この監督さんの作品,これからも目が離せないですよね。
投稿: なな | 2009年1月13日 (火) 21時47分
『ゆれる』の西川監督もそうですが、このスザンネ・ビア監督も女性監督でありながら、映画に性別というものを全く感じませんでしたね。
一見男性監督の映画のように見えるところもあれば、女性監督ならではのところもあり、でも両方の性別すら感じないところもある。
この監督作品は今回が初めてだったので、他の作品も是非見てみたいと思います。
投稿: にゃむばなな | 2009年6月24日 (水) 21時02分
にゃむばななさん こんばんは!
西川監督も,ビア監督も,作品の中に
女性監督ならではのある種の繊細さを感じますが
同時に男性のような大胆さも感じます。
>他の作品も是非見てみたいと思います。
「しあわせな孤独」「ある愛の風景」などいいですよ。
あ,どちらの作品にも,「天使と悪魔」の殺し屋役の俳優さんが出てます。
デンマークの俳優さんなんですね,彼。
投稿: なな | 2009年6月25日 (木) 22時39分