ワールド・オブ・ライズ
いやー,まいった。いかにも密度の濃い,見事な作品だ。
リドリー・スコットらしい,ずっしりとした重い手ごたえを感じる作品。対テロという使い古されたテーマだけど,実際に現地で繰り広げられる緊迫感あふれる情報戦が息詰まるほどにスリリング。
「フィクションだけど絵空事ではない」とプロローグで語られているように,実際に今現在もこういうことが行われているのか。・・・・戦慄。
主要登場人物は3人の男。
現地で実際に命を張って潜入するエージェント,フェリス。安全な本国から携帯一本で指令を飛ばす,彼の上司ホフマン。そして,現地で絶大な力を持つヨルダン情報局の「王」ハニ・サラーム。テロ防止という目的は同じでも,三人の考え方や価値観は全く違う。
アラブの言葉を自在にあやつり,現地の人々の暮らしにも溶け込んでいるフェリスは,実際に身の危険を犯しながら最前線で行動する男だ。信念だけでなく,人を愛する優しい心も持ち合わせている熱い男を,髪を黒く染め,顎髭をたくわえたレオが,幾度も満身創痍になりながら最高にカッコよく演じている。
一方,ラッセル・クロウが演じるホフマンは,アラブ世界を蔑視する考えといい,自らの手を汚さずに命令だけするところといい,まるでアメリカの傲慢を象徴するようなキャラだ。
彼は自分は安全な場所にいながら,子供の世話やスーパーでの買い物の最中に,携帯から冷酷な指令を事もなげに飛ばす。目的のために捨て駒となる,現地アラブ人の命などなんとも思わない。メタボ気味の体型も含めて,とってもイヤな感じの狸オヤジなのだが,「ラッセルだし,そのうち何かいいところを見せてくれるんだろうな~?」と期待してたにもかかわらず,・・・・ラストまでイヤな狸オヤジのままだった。
「俺だけを信用しろ」と大きなことを言ったわりには,フェリス救出に関しては,みごと敵に「煙に巻かれて」しまうし。CIAの誇る上空からのハイテク監視システムも,あの時は何の役にも立たなかった。・・・・しかしこういう嫌味なキャラをさらりと演じてしまうラッセルって,やっぱり凄い。(しかしファンとしては,体型はもとに戻してほしい。)
そして,最後のひとり,ヨルダン情報局のハニ。
彼が取る情報収集の方法は,CIAとは正反対の,アラブ流の仁義に訴えるやり方。目的のためにはやはり冷徹な面もあり,「嘘は嫌いだ」とフェリスを牽制しておきながら,自分は一番大きな嘘を仕掛けてくる。しかし,鑑賞後に思い返してみれば,このハニが一番カッコよく思えた。
原題の「BODY OF LIES 」は,「嘘の塊」くらいの意味だという。キャッチコピーの「どちらの嘘が世界を救うか」というのは,ちょっと違うような気もする。
「世界を救う嘘」という言葉は,カタルシスを予感させるが,この作品からそんなものは感じられなかった。むしろ,「終わりのないイタチごっこ」を見せられ,「手段を選ばないところはCIAもテロリストと同じ」という,虚しい疲労感が残る。確かに狙ったテログループはラストに逮捕されたけれど,フェリスが受けたダメージは,以後の任務を放棄させるほど大きかった。
テロ対策は,今後も解決を見ない問題だと思うし,実際に,こんな壮絶な情報戦が繰り広げられているのだろう。ラッセルが体現して見せた「傲慢なアメリカ」が心に残る。
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