砂の器
初めて観たのはリバイバル上映の時かな?劇場で,確か同じ松本清張さんの「天城越え」とセットだった・・・。それから何度,ビデオやDVDで観たことか。もう34年前の作品なのに,何度観ても,ラスト30分で号泣してしまう・・・。未だに,これを上回る感動を与えてくれる邦画に出会ったことがない。
解説: ある日、国鉄蒲田操車場構内で他殺死体が発見された。被害者の身許が分らず、捜査は難航した。が、事件を担当した警視庁刑事・今西と西蒲田署刑事・吉村は地道な聞き込みの結果、事件前夜、被害者と酒を飲んでいた若い男の存在に行き当たる。今西と吉村の2人は東北なまりの“カメダ”という言葉を数少ない手掛かりに、男の行方を追う。・・・・(allcinema ONLINE)
事件発生は昭和46年という設定。(万国博覧会の頃か)パソコンも携帯もない時代の警察の捜査が,いかに地道に足を使って,こつこつと進められていたのかがよくわかる。丹波哲郎が演じた今西刑事は,犯罪の動機解明のために,日本中を東奔西走する。
まず被害者の身元を明らかにするために,バーで話していたという「東北弁のカメダ」だけを頼りに秋田の羽後亀田まで聞き込みに。被害者が三木謙一だと判明してからは,彼が20年前に巡査として奉職していた,出雲地方の亀嵩や,旅行先の伊勢へ飛ぶ。(いや,飛ぶという表現は適切ではない。飛行機は使わずにローカル線で行くのだから)
そして捜査線上に容疑者が浮かんでからは,彼の過去を調べるために山中温泉や大阪へと。松本清張氏の原作は,この今西の一進一退する捜査によって,徐々に薄紙が剥がれるように,事件の全貌が明らかになっていく過程が,とても丁寧に描写されていて,たいへん読み応えがあった。特に東北弁に酷似した音韻が出雲地方でも使われる・・・という発見の箇所は,読んでいるこちらも少なからず興奮したものだ。
原作は,確か映画より先に中学生の時に読んでいた。小説などあまり読まないバリバリの理系の父親が(理科の教師),「これは面白いから」と言って勧めてくれたのだ。父親のものだった「砂の器」はもうページも黄ばんでいたけど,夢中で読みふけり,それ以降私は松本清張氏の推理小説のファンになった。
映画でも,原作の緻密な捜査過程は,ある程度の省略はあっても,できるだけわかりやすく映像化してくれていたが,原作にはない映画の圧倒的な魅力は,何と言っても,美しく哀しくドラマティックな映像と音楽が一体化したラストの30分だろう。
捜査会議と,犯人の演奏会と,父子の放浪の追憶シーン。・・・重厚で哀切な「宿命」の曲をバックに,この三つのシーンが絶妙に絡みあって迫ってくる,あの30分は,日本映画史上に残る名場面だと思う。
捜査会議の席上で今西刑事の口から語られる犯人の過去と,演奏会で「宿命」を奏でる犯人の脳裏に走馬灯のように浮かぶ過去・・・。それは,なんと悲惨で,言いようのないほど苛酷な過去だったろう。
冷酷で自分勝手な殺人事件には違いないが,犯人の辿ってきた,凄まじいまでに哀れな幼少時の体験と,恩人を殺害しなければならなかったその事情・・・・とりわけ父子の絆を引き裂いた根強い偏見や差別を思うと,何ともやるせなく哀しい。
この父子の放浪シーンは,原作にはわずか数行しか触れられてないにも関わらず,ここの描写にすべてのエネルギーをつぎこんだ,野村監督はじめ製作陣の慧眼は,見事というほかないだろう。
現代の日本には最早残っていないのでは,と思えるほど美しい,ひなびた田舎の四季折々の景色が心に沁みる。したたるような新緑のあふれる山道を,咲き誇る梅の林の合間を,そして寒風すさぶ荒涼とした砂浜の上を・・・・,遍路姿で寄り添って,とぼとぼと歩く哀れな父子連れの姿。思い返す度に涙がこみ上げてくる。
老練な中にも,人情にあつい今西刑事を演じた丹波哲郎さんはじめ,加藤剛さん,緒形拳さんらの名演にも唸らされる。特に父親役の加藤嘉さんには泣かされた。
そしてまた脇役陣の豪華なこと!笠智衆さん,渥美清さん,菅井きんさん,・・・中には今はもう故人となられた方もおられるけど,これだけの名優が一堂に会するとは,何と贅沢なことか。この作品を見直すたびに,30年も前に,これだけの名作を世に送り出した日本映画界を誇らしく思うのだ。
« ハンティング・パーティ ーCIAの陰謀ー | トップページ | 譜めくりの女 »
「映画 さ行」カテゴリの記事
- THE BATMAN ザ・バットマン(2022.04.24)
- 最後の決闘裁判(2022.01.31)
- ジョーカー(2019.12.12)
- ジュラシック・ワールド/炎の王国(2018.08.02)
- スリー・ビルボード(2018.02.14)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 砂の器:
» 邦画173番勝負 リリー・フランキー 『日本のみなさん、さようなら』 [SGA屋物語紹介所]
最近とみに多才な活動で知られるリリー・フランキー氏。これは氏がいかに日本の薄汚れ [続きを読む]
ななさあん!
私にとってもこの映画、すごい衝撃だったんです。
松本清張が「原作よりよくできている映画」と言ったと聞いて絶対見たい!と思ったのですが、誰かが借りっぱなしなのか、ツタヤではいつも「レンタル中」で、何か月待っても借りられなかったのでAmazonで買っちゃいました。
すばらしいんです。すばらしいんですがっっっ!
私はある一部分に引っ掛かってしまい・・・感動が・・・
・・・TBからご確認ください・・・
ななさんは、そこで違和感感じませんでした?
それは、私のいけない癖?というか、どうでもいいところに「?」と思ってしまう「不必要な注意深さ」みたいなもののせい。
同じく、ひっかかってしまった作品がヨン様の「スキャンダル」。よろしかったら、同じブログ「さ行」にありますので見てください・・・
投稿: むぎむぎ♪ | 2008年10月27日 (月) 20時23分
むぎむぎさん,こんばんは
早速のTB,コメントありがとうございます~
この完璧な作品のどこにクレームが~?と
むぎむぎさんの記事をさっそく覗いてみましたよー。
「じゅんぷうまんぽ」か~。
私は気がつかなかったですぅ。その時はもうすでに号泣モードだったので~
でも,むぎむぎさんの指摘をいただいて,もう一度そのシーンを
チェックしてみましたわ~。言ってましたね。確かに。
間違いに気がつかなかったスタッフとか,おおいに疑問な気もしますが,
これだけの名作だから,多めに見てあげて~~~
投稿: なな | 2008年10月27日 (月) 22時33分
私にとってもこの作品は邦画を見直すきっかけになった作品です。
何を思ったか、私の通う高校でいきなりある日近隣の二番館で映画鑑賞があって、それがこの作品でした。
緒形拳さんの追悼記事でこの作品に触れてますが、大好きな作品のひとつです。
ただ、リバイバルを観た当時も、和賀を演じた加藤剛がどうにも大根に思えた(むしろ中居君のほうが魅力的なキャラだったと思ってます)のも事実ですが、そんなことどうでもいいくらい、丹波&森田の刑事がよかったんですよね。
“宿命”という曲、それに載せて語られてはじめて見えてくる緒形拳演じる警官と加藤嘉演じる父親、そして幼かった息子とのシーンは私も我慢できません。
年取って涙腺ゆるくなってるから今観たらもう画面見えなくてダメでしょうねえ。
投稿: よろ川長TOM | 2008年10月27日 (月) 23時36分
よろ川長TOMさん こんばんは
>何を思ったか、私の通う高校でいきなりある日近隣の二番館で映画鑑賞があって、それがこの作品でした。
おお,そうでしたか~。高校生でも十分感動できる作品ですよね,これ。
私が高校の時も映画鑑賞会が体育館でありましたが,「ああ野麦峠」でした・・・。あんまし覚えてない。
>和賀を演じた加藤剛がどうにも大根に思えた・・・・
うふふ,演技派,とは言えないかもしれませんね,加藤さん。私はこの方はどうしても「大岡越前」の印象が強くって・・・中居さんのドラマ版は未見ですが,刑事役に限って言えば,丹波さんのあの雰囲気をしのぐ俳優さんはいないんじゃないかと・・・。好きなんですよ,彼の独特の語り口。
「宿命」という曲はまさにこの作品にぴったりで,あの旋律を思い出すだけで,込み上げてくるものがあります。父子が故郷の村を捨てる最初のシーンからもう,泣けて仕方がなかったです。
投稿: なな | 2008年10月28日 (火) 19時28分
ななさん こんにちは~♪
ぽっとお邪魔したらば、な、なんと『砂の器』が!!!
名作でしたねぇ~これは☆
私これを最後に観たのがもぉ10年以上前になります。
ここに出てくる俳優さんのなんと豪華なこと!
脚本は山田洋次さんと橋本忍さんですよねぇ~。
あぁ~ななさんのレビューを拝見してまた再観したくなりました。
投稿: なぎさ | 2008年10月29日 (水) 15時50分
なぎささん コメントありがとうございます。
最後に観たのが10年前ですかー。
私は劇場で観たのは20年も前ですが,DVDで何度も定期的に観てます。
ドラマ化されてから,オリジナルの方にも一時関心が集まったようですね。
俳優さんは,日本映画の名優さんの目白押しでしたね。
そうそう,山田洋次さんも脚本でした。だからでしょうか,あの味わいは。
映画史に残る名作ですよね。泣きたいときはこれですよ!
投稿: なな | 2008年10月29日 (水) 20時13分
ななさん~~(^O^)私もこの映画には凄く思い入れがあります。
リアルタイムに随分昔に見て感動・・・。そしてその後もTVで映画放映がある度に見ていて、一番最後に見たのは、確かドラマ化(中居君の・・・)の前後だったと思うのですが、何年経っても素晴らしいなと思います。
ななさんのおっしゃる通り、ラスト30分、涙無くして見れません。名作ですよね!
私も自分のお気に入り映画に入れている映画です~(その割には、記事は書いてませんが(^^;)))
投稿: latifa | 2008年10月31日 (金) 14時40分
latifaさん こんばんは
おお,latifaさんもこれには思い入れが・・・
もはや古典的名作の域に入ってると思うし
出演陣も,「あの人も」「この人も」故人になられたというのに
それでも,今見ても感動は少しも色あせません。
これを観るたびに「いや~,映画って本当に面白いですね~」って
誰かさんのように唸りたくなりますよ。
松本清張さんのサスペンスは,犯行のトリックや謎解きよりも
犯人の動機に焦点を当てたものが多いので
けっこう切ない後味があるのですが
その中でもこの「砂の器」は,哀しさの点ではダントツですね。
投稿: なな | 2008年10月31日 (金) 20時38分
親子2人はどちらも加藤さんですね。
鉄道は原作者のみならず山田洋次さんもお好きでしょう。
だから寅さんにはローカル鉄道旅ばっかさせていた。
事の発端も操車場。でもなんで蒲田かなあ?飲み屋さんが多いから?
正直に申さばストーリーへのツッコミどころはあるのですよ。
あんなまどろっこしいシャツの始末の仕方せんでも燃やすか埋めるかすりゃええやんとか、そもそもそんなことを愛人にまかすなよと。
あと和賀は現代音楽家の設定なのが...ロックやフォークと違うんだから、正規の音楽教育受けてないとおかしいでしょう。そんなヒマあったか?
と思いつつも、やっぱり「宿命」をBGMにお遍路するシーンを大スクリーンで見たときゃ滝涙流しちゃったんだけどね(実際に昔はそういうお遍路さんいたそうです)。
音楽と映像の力技の勝利でした。
らい予防法の廃止は平成になってからだし、その後におきた某温泉での宿泊拒否騒ぎは記憶に新しいところです。
もちろん完治してるし、感染力自体も弱いですからまず移るこたないんですが、
この病気への無知からくる偏見は今も根強いのだなと思った次第です。
投稿: garagie | 2008年11月 4日 (火) 00時34分
以前この映画について触れた記事があったので、強引にTBさせていただきます
その・・・ ひろい心で読んでやってください
わたしはオリジナルは見たことないんですが、ウチの父がすごい好きで、ダイジェスト版のLPなんかあったりしました。ビデオやDVDが不朽する前は、こういうのがコレクターズ・アイテムだったんでしょうねえ
投稿: SGA屋伍一 | 2008年11月 4日 (火) 21時49分
garagieさん,こちらにもコメントありがとう
脚本の山田洋次さんも鉄道マニアなのですか。
日本人の感性のツボにはまるのでしょうか・・・ローカル線の旅。
原作は今西刑事の捜査の旅がこと細かく書かれていて
それを読みながら旅情を感じるのもまた,オツなものでした。
和賀英良は,戦後に苦学して芸大で学んだ,という設定になっています。
あれだけの辛酸をなめてきた頭の良い彼のことだから,
どうにかして道を切り開いていったのでしょう。
ハンセン氏病患者さんへの偏見は,昔ほどではないにしても
やはり根強いものがあるのでしょうね。
ハンセン氏病・・と聞くと映画の「ベン・ハー」も思い出します。
投稿: なな | 2008年11月 5日 (水) 20時20分
SGAさん こんばんは
いえいえ,TBありがとうございます。
リリー・フランキーさんの著書に触れられている「砂の器」の箇所
とても面白く読みましたよ~(爆笑)`;:゙;`;・(゚ε゚ )ブッ!!
・・・で,この映画,お父様が大変お好きなのですねー。
私の父も原作のファンですし,これって古きよき日本男児の
心に響く何ものかがあるのでしょうか?
それはやはり「父と息子の絆」かなぁ・・・(うちの父には息子はいませんが)
投稿: なな | 2008年11月 5日 (水) 20時25分
こんにちは。先日はコメントありがとうございました。うれしかったわ~~
で・・・この映画。ななさんは原作も読み
映画もと・・思いいれ深いんですね。
確かにラストの展開は・・涙なしには見れませんよね~~。音楽もまた、感情刺激するし・・。野村監督の作品って色々ありますけれどこれが一押しかな。でも鬼畜とかも
好きですけど・・。
それと天城越え・・これもなかなか良かったですよね?もうテレビではやらないのかな・・・昔の邦画も見直してみるといいのが
いっぱいあるのよね~~
あ・・お話したい別作品もあるので自分のところUPしてからまたきます~~
投稿: みみこ | 2008年11月20日 (木) 15時53分
みみこさん こんばんは
お忙しいのに,遊びにきてくださってありがとう~
私はこの作品は原作からしてとても好きで・・・
松本清張さんの小説はどれも好きなのですが
映画化されたものでは,これが一番好きですね。
「鬼畜」も好きですよ~,あれも緒形さんだったね。
「天城越え」はDVDでも見かけないし
TVでもやってくれないでしょうけど,あれも雰囲気は好きだったわ。
今の邦画もなかなかよいのが続々と出てきていますが
昔の邦画の格調のようなものも懐かしいです。
別作品の記事のアップ・・・お待ちしていますよ!
投稿: なな | 2008年11月21日 (金) 20時31分
お久しぶりです。
「ディア・ハンター」のところで「砂の器」が話題になっていましたね。
僕は数年前に突然松本清張の「砂の器」を読みました。森村誠一「人間の証明」が「砂の器」の影響を受けた小説と言うのを聞いて読みたくなりました。やはり素晴らしいと思いましたね。最後までじっくり読みました。
そして、この映画を見ました。加藤嘉さんの演技が素晴らしかったです。石をぶつけられる場面は涙が出ました・・・・。
投稿: 間諜X72 | 2012年10月19日 (金) 02時01分
間諜X72さん こんばんは
私も原作の大ファンです。老練な刑事が方言だけを頼りに地道に緻密に推理していく過程がなんともたまりませんでした。この「砂の器」がきっかけで清張さんの小説にハマり,それから「ゼロの焦点」「点と線」とどんどんその世界に惹かれていきましたね・・・・。推理もですが犯人が犯罪を犯す「動機」に焦点を当て,人間の弱さや愚かしさや業というものが描かれているのが好きですね。
>加藤嘉さんの演技が素晴らしかったです。
これは日本映画史上に残る名演技ではないかと。セリフもほとんどないのに,激しく心をゆすぶられました。
投稿: なな | 2012年10月21日 (日) 00時07分
「北の旅 海藍色に 夏盛り」by今西栄太郎(シブい)
ななさんと同じく、もう何回観ただろうか、この作品。
何度も観て、ストーリーもセリフも泣ける場面もわかっているのに、それでも泣けてしまう・・。。
初見の折り、劇中音楽「宿命」に感動してサントラレコードを買ったほど。それは今でも持っていて、時々聴いています。
何故こんなに好きなのか、自分でもうまく説明出来ないのですが、この映画のことを称して「日本の心・・演歌だ」といった方がいます。
ぼくはクラシックが好きで、演歌は聴かないのですが、お遍路姿の加藤嘉親子が、石川県から島根県まで海沿いを旅する情景の圧倒的な美しさと哀しさ・・それが、日本人の血に流れているアイデンテティというなら、確かに”演歌”なのかもしれませんね・・。
ななさんのお父様が好きだというこの作品、新聞連載小説だったので、お若いころのお父様も、読んでいたのかもしれませんね・・。
この作品、観る度に、新しい発見があって、飽きるどころか新たな感動を呼び起こしてくれるのです。
ぼくは、緒方拳扮する巡査の奥さん役の女優さんが忘れられないのですね(二人には子供がいないという設定)。セリフはないにもかかわらず、世話やきで、利害など念頭にない優しく情の深い田舎の奥さんを見事に体現していて・・。
それは、駐在所に帰って来た奥さんが、緒方拳から事情聴取されている汚い身なりの千代吉親子に、今買って来たばかりの饅頭をさりげなく、しかもそうする事が日常のように、彼らの目の前のテーブルに広げて勧めるカットに端的に表れているんです。
それに続く、緒方拳が少年にお茶を入れてやりながら笑顔で「食えや」と饅頭を勧めるカットもいい。
少年は饅頭にちらと視線を向けるが、喉から手が出そうなくらい食べたいのに手は出さない。どれほどの苦難の巡礼の旅が、少年の心を閉ざしたのか・・
巡査夫婦の、彼らに対する自然で思いやり溢れる厚情に、ぼくら観客が「ああ、良かったな」と、ホッと胸を撫で下ろすシーンです。
亀嵩駅のプラットホームで少年と千代吉が抱きあうシーンで、それを見ている緒方拳がもらい泣きして帽子のひさしを下げるカットが入るのも胸を打ちます。
もちろん、ラスト30分の、息を呑むように美しく、戦慄を覚えるまでに哀しい人間の性は、社会派、松本清張の原作を大胆に換骨奪胎した脚本の真骨頂でしょう・・。
ななさんはDVDをお持ちなので、ヘッドフォンで聴くとよくわかりますが、「宿命」のオケ演奏がクラシックCD並みにくっきりと聴こえるばかりでなく、背景の音までがリアルに再現されている。
このシーンでバックに電車の音が入っていたのか、など新しい発見があるはずです。
ちなみに、いまさらで蛇足ですが作品の名誉のために、順風満帆は、映画化された昭和40年代のころは辞書でも「じゅんぷうまんぽ」の読み方と併記されていて、一般的にはむしろ、まんぽのほうが使われていたようですね。
1983年からは、「じゅんぷうまんぱん」で統一されています。
投稿: 浅野佑都 | 2017年4月24日 (月) 00時58分
浅野さん
この作品は、原作も名作、映画も名作、どちらも名作なのですが
それぞれ別の味わいもあって「別物」なのかもしれません。
原作は登場人物も多く、犯人らしき人物も他にも登場し
犯人にとって日陰の女性にあたるヒロインも
たしか一人ではありませんでした。
私は原作は東北弁だけを頼りに地道に捜査を進めていく過程が
時間がかかればかかるほど少しずつ真相に近づいていくのが面白く
そのあたりは新聞記者だった松本清張氏の筆力を堪能できました。
原作では特に今西刑事の奥さんや息子との
ほのぼのとしたやり取りも好きでした。
古き良き昭和の時代の、
家庭で堅実に夫を支える刑事の妻という感じですね。
反対に映画はさすがに「映像」で魅せてくれましたね。
特にハンセン氏病の親子の遍路姿が
雄大なオーケストラ曲をバックに描かれるあの30分は
日本映画史上に残る名場面ですよね。
あれがあったからこそ、そして主演が加藤剛だったからこそ
映画では犯人の「事情」に深い同情を感じずにはいられませんでしたね。
投稿: なな | 2017年4月25日 (火) 23時54分