藍宇(ラン・ユー)情熱の嵐
ひょんなことからサイトでその存在を知り,DVDを注文し,観る前から恋い焦がれていたこの作品。2001年に製作され,台湾で数々の賞を受賞した,香港映画史上に残る愛の物語だ。日本で公開されたときの題は「情熱の嵐」だが,原題は主人公の恋人の名前である「藍宇(ラン・ユー)」。原作はインターネット小説「北京故事」。
・・・・これは,激しくも美しい,男同士の10年に渡るラブストーリーだ。
その点では,ブロークバックマウンテンの切なさと同じものを感じる物語と言えるかもしれない。
あらすじ: プレイボーイの青年実業家、ハントン(フー・ジョン)は、地方から来たばかりの貧乏学生ランユー(リイウ・イエ)を買い、一夜限りの関係を結ぶ。2人は北京の街で偶然再会し、やがて一緒に暮らし始める。(シネマトゥデイ)
捍東(ハントン)と藍宇(ランユー)とのなれそめは,金が介在した肉体関係。
捍東はバイセクシャルの青年実業家。藍宇は女の子とキスすらしたことのない,田舎出身の純朴な苦学生。二人の間には10歳ほどの年齢の開きがある。・・・・・一夜限りになるはずだったのに,二人は,4ヶ月後の街中での再会をきっかけに,関係を続けることになる。
原題にもなっている「藍宇」のいじらしさや,情の深さに泣けた。
彼は、初めての性の相手である捍東を,心から愛してしまう。
「縁あってこういうことになったが,一生続くものではない。互いのことを知りすぎて飽きた時に別れる。」と最初に釘をさす捍東に,藍宇は不安そうにおずおずと,「もう・・知りすぎた?」と尋ねる。その一途でピュアな想いのこもったまなざしは,時には狂おしく,また時にはやるせなく,まるで従順な子犬のように捍東を見つめる。
彼らの10年は,紆余曲折を経たものだった。
些細ないさかいを繰り返しながらも,その都度,新たな絆で結び直されるかのように,二人の心は互いから,離れることができなかった。
・・・そう,バイである捍東が,世間体と,「子孫を残す」ためもあって,女性との結婚を決意し,一度は藍宇を無情にも捨てた時も。・・・・数年後に再び彼らは,互いのふところに戻っていた。「どうしてお前を手放したんだろう・・・」という,捍東の懺悔にも似たつぶやきとともに。最初は,遊びと割り切っていた捍東の心は,次第に藍宇の虜になってゆく。
ひたむきな藍宇・・・,無理を言わない藍宇・・・・
従順なようでいて,芯に強いものを秘めている藍宇・・・
劇中の,藍宇のセリフにまた泣かされた。結婚する捍東と別れる場面で,彼が泣きながら言う,「別れは覚悟してたから,気をつけてた。愛しすぎないようにと。そうすれば,最後の傷も浅い。」という台詞や,ラストの悲劇が彼に降りかかる直前に,背後から抱きしめる捍東に向かって,「変なのかな,こんなに好きだなんて。」とつぶやく台詞。
捍東を演じたフー・ジュンと,藍宇を演じたリィウ・イエ。
実際はもちろんノンケである二人の俳優の演技は,大胆かつ繊細。
台詞が少なく,時間経過の説明なしに唐突に場面が切り替わる,という不親切ともいえるストーリー展開にもかかわらず,二人の俳優の細やかな表情(特にその視線)の演技は,全編に一貫して流れる激しい純愛を,観る側にひしひしと伝えてくれる。
やや傲慢で,自信たっぷりの捍東を演じたフー・ジュンが,時折見せる藍宇への包み込むような優しげな表情。最初から最後まで,どこかあか抜けない雰囲気がかえってたまらなく愛おしく思えるリィウ・イエ。
フー・ジュンは理詰めで,リィウ・イエは直感で役作りをするタイプらしいが,二人とも苦労は多々あったと思う。ゲイであるスタンリー・クワン監督は,彼ら二人に,役同様に相手を心底愛するように,と要求し,彼の妥協を許さない演技指導のもと,まさに「役になりきった」二人の俳優(演劇学院の先輩と後輩らしい)は,クランクアップ後も,周囲が心配するほどなかなか役から抜け出せず,そのため,半年以上もお互いに会わないようにしたそうだ。
原作の日本語版「藍宇」も取り寄せて読んだ。
原作には,藍宇の得難い魅力が,映画以上に詳しく描かれていた。
彼が薄幸な生い立ちだったこと。
その善良さ,聡明さ,柔軟さ,そして奥ゆかしさ・・・・。
けっして捍東の財力に寄り掛かろうとしない,頑ななまでの意志の強さや,
「もう後戻りできない」という,秘めた思いの深さなど・・・・。
こんなに深くて,無償の愛し方ができる人間がほんとうにいるのだろうか?と,その愛の純粋さに,ただただ心を打たれた。
そしてまた,原作には映画で描かれてなかったことがたくさんあった。
この物語の頃の中国では,同性愛は犯罪だったこと。
捍東は,無垢な藍宇を堕落させた,と後ろめたく思っていたこと。
捍東の母親が,二人の関係を知って藍宇を激しく非難し,
捍東の妻は,藍宇にこっそりひどい仕打ちをしたこと。
バイである捍東は,自分を同性愛者だとは認めてなかったけれど,
藍宇を心から愛するようになって,意識が変わってきたこと・・・・・。
これもまた,哀しいソウルメイトの物語のひとつ。・・・そう思う。
性別が同じであっても,出会いがどのような形であっても,運命の絆は断ち切れるものではない。それなのに。ようやく「藍宇,お前は,運命の相手だ」と悟った捍東のもとからあまりにも唐突に旅立ってしまう藍宇・・・・。深い慟哭の果てに,捍東は,藍宇の面影を抱いて生きていく。
原作のラスト,捍東が神に祈ることばが好きだ。長いけれど引用したい。
「・・・彼を天国に受け入れてください。彼はこの世にいたとき,誰ひとりとして人を傷つけたことがありません。あんなに善良で,正直な人間でした。唯一,彼がすべきでなかったことは,愛してはならない者を愛したということです。この世にいたとき,世間から野蛮で恥知らずで堕落した愛情だとみられていました。でも,その気持ちは純潔で,無辜で,永遠でした。
もう一つ,お願いです。必ず聞き届けてください。あなたが彼をどこへ送り込んでも,私がこの世を離れる時には,どうか彼と一緒にしてください。彼が天国にいるなら,私たちに心ゆくまでそこで楽しませてください。天国で私たちは,この世の恋愛を語り合いたい。そうして私に,借りを返させてください。もし彼が地獄にいるなら,私もそこへ送ってください。彼の近くに,彼の後ろに立って,両手でしっかり肩を抱き,背中に寄り添います。共に地獄の責苦と業火を受けさせてください。私は恨みません。後悔しません。」
(『北京故事・藍宇』 講談社 より引用)
DVDに収録されているメイキング「藍色宇宙」も必見だ。
本編では語られなかった,二人の切ない心情の独白や,カットされた貴重な映像が詰まっていて,それだけでひとつの短編映画のよう。「僕の心はどんどんあなたで一杯になる」という藍宇のセリフと「お前が好きだ。不思議なほどに」という捍東のセリフ・・・・。しあわせそうに微笑みを交わす,恋人達のシーン・・・・。「いつまでもいっしょに生きてほしい」と,願わずにはいられなかったのに。
このメイキングだけでまた泣けた。
↑おまけ画像 プライベートでも仲良しの二人?
・・・・でも胡軍さん,緊張してません?( ̄▽ ̄)
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コメント
ななさん、こんにちは。
この作品、ものすごく私の周りで評価が高いんですよー。
で、観たい観たいと思いつついまだ未観。
リウ・イエが主演というだけですでに良さそうな予感がしてしまうという・・・。(笑)
近々絶対観ようと決めました。(ビデオもしくはDVD見つかるかしら)
その時はTBにうかがわせていただきますねー。
投稿: sabunori | 2008年9月24日 (水) 17時38分
sabunoriさん こんばんは!
>この作品、ものすごく私の周りで評価が高いんですよー。
ええ~w(゚o゚)w,そうなんですか?嬉しい~。
これって観たひとが少ない作品だと思うし,一応ゲイカップルのお話なので,評価が分かれるところもあるでしょうが,根底に流れる純愛に,皆さん普遍的な感動を覚えるのでしょうね。それにBL好き,やおい好きにとってはたまらない作品かもしれません。
>リウ・イエが主演というだけですでに良さそうな予感がしてしまうという・・・。
彼は「山の郵便配達」や「小さな中国のお針子」「天上の恋人」などでもとてもいいですね。「藍宇」の魅力は彼の演技によるところも大きいと思います。
DVD,レンタル屋さんにあるかな~?私の住んでる町のレンタルビデオ屋にはなかったので,取り寄せましたよ。その方が感動のメイキングも観れてよかったかな。また感想を語り合いたいですね。ここ数日というもの,この物語にどっぷりつかっています・・・。
投稿: なな | 2008年9月24日 (水) 20時49分
ななさん TB&コメントありがとうございました。
普段は中国映画を見ることが無く、原作の事も俳優さんたちのことも全く知りませんでした。
かえってそれが良かったのかもしれないですね。 先入観無く、素直な気持ちで見ることが出来たので。
>全編に一貫して流れる激しい純愛
溢れ出る感情を繊細に演じる俳優たちの相性と、作品その物の情緒豊かな魅せ方があいまって、心地良く見ることが出来ました。
投稿: 哀生龍 | 2008年9月25日 (木) 20時52分
哀生龍さん いらっしゃいませ!
私も,中国映画はそうたくさん見てるわけではないですが
トニー・レオンとか大好きなので俳優さんと監督さんによっては
鑑賞するようにしてるんですが,素朴な感動が味わえるものが多いですよね。
>溢れ出る感情を繊細に演じる俳優たちの相性・・・
フー・ジュンさんもリィウ・イエくんも,ほんとうに愛し合ってるように見えました。
相性ももちろんよかったのでしょうね。絶妙なケミストリーが生まれたのでしょう。
・・・ちなみにBBMに関して言えば,私も断然ジャック寄りなんですよ。
あ,ヒース・レジャーは大好きですけど,イニス・デルマーに関しては
ひとこと言いたいこともあったりします・・・(笑)
投稿: なな | 2008年9月25日 (木) 21時37分
ななさん、やっと観ました!
物語自体はシンプルながらこれほどまでに心に響くのはやはり主演の2人の演技の素晴らしさによるところが大きいのでしょうね。
藍宇の捍東を見つめる子犬のような眼差しにやられました。
身体全体で捍東を愛している様子がこちらに伝わってくるようでしたね。
メイキングを観て、1つ1つ細やかな演技指導をするスタンリー・クワン監督のこだわりに思わず唸りました。
ななさんは原作も読まれたのですね。
原作のラストの捍東の言葉には思わず涙が・・・。
ところで捍東を演じた胡軍は「レッドクリフ」ではガラリと違う役どころに
アクション全開でものすごくステキですよー!
投稿: sabunori | 2008年11月 5日 (水) 21時29分
おおsabunoriさん,ご覧になられましたかー!
)
早速のご訪問,嬉しいです~~o(*^▽^*)o
シンプルですよねー,この作品の作りはこの上なく。
何の説明もなく時間が経過しちゃうし・・・
それでも,リウ・イエの演じる藍宇の思いの深さ,
そしてフー・ジュンさんの捍東の葛藤や心の変化が
切ないくらいに心に響いてきました。
>藍宇の捍東を見つめる子犬のような眼差し・・・
そう,よくあんな目ができるなーって。演じている時は完全に
リウ君はフー・ジュンさんを愛していましたね~(きゃー
原作って,ネット小説だったので,なんだか過激な描写も満載で
「ゲイ・ポルノ」(こんな言葉あるのか?)の香りもするんですが
それでも,記事に引用した捍東の独白のような,ものすごく切ない描写も多くて,
一時は毎日読んで,そのたびにうるうるしてました。
フー・ジュンさんのレッドクリフ,予告編でちらっと見ましたが
渋い!カッコいいですね~~,残念ながらおそらく劇場では観れないのですが
ヒット作はDVDになるのが早いので,首を長くして待ちますわー。
投稿: なな | 2008年11月 5日 (水) 23時03分
ななさん、こんにちは♪
DVDの特典映像もあわせて観たらウルウルきそうですね。
レンタルDVDにはインタビュー風景があって、
リウ・イエくんが監督から「相手を本気で愛せ」と
言われていたことを知りました。
監督の指示を見事に受け入れたのですね。
ななさんは原作も読まれたのですね。
引用してくださった文章から、ラストシーンが
浮かんできました。
再鑑賞したい気持ちが高まってきました~
投稿: 孔雀の森 | 2009年2月 5日 (木) 09時32分
孔雀の森さん こんばんは!
本編より特典のメイキングの方がたくさん泣いてしまいました。
>リウ・イエくんが監督から「相手を本気で愛せ」と
>言われていたことを知りました。
そうなんですよね~,いくら役になりきるといったって
「そんなことできるのか?」と思うんですけど
見事に愛していましたね,リウ君は胡軍さんを。
スクリーンの中で彼が流した涙って
全部ホンモノの感情から来てるものなんですよね。
ぜひ,再鑑賞を!私はひと月に一度は鑑賞してまーす。
・・・・それくらいこの作品って好き。
投稿: なな | 2009年2月 5日 (木) 20時33分
こんばんは♪
連日ストーカーのようにお邪魔していてごめんなさい。祭りの楽しさに、ついつい・・
それで、こちらの作品、やっと鑑賞しました。思っていたよりもずっとずっと美しい静かな佳品で、じーんとなってしまいました。
リウ君に泣かされました。け、健気すぎる・・・(涙)ほんとうまいですねえ。
すごく大胆な年月の流れ方でしたけど、リウ君はしっかりそれを感じさせてくれて。
で、藍宇のあんまり透明で清冽な感じの魂は、見ていて悲しくなるほどでした。
胡軍さんの捍東もすごく魅力的でした。デリケートな内面の優しさがじわじわと滲み出すところがとても良かったです。
ゆっくりメイキングも見てみます~。
とても素敵な作品を教えてくださって、ありがとうございました♪
投稿: 武田 | 2009年4月10日 (金) 23時43分
武田さん こんばんは,いやもうおはようございますですね。
>連日ストーカーのようにお邪魔していてごめんなさい。
いえいえ,大歓迎ですよー,とっても嬉しいです。リウ君祭り,ずっと続けたいくらい・・・
で,ご覧になりましたね~,「藍宇」。
>思っていたよりもずっとずっと美しい静かな佳品で、じーんとなってしまいました。
そうでしょ,邦題に「情熱の嵐」なんて安っぽいタイトルがくっついてるもんだから
よく誤解もされるんだと思いますが,これはヒューマンドラマにも近い静謐さも持った作品だと思います。
>リウ君に泣かされました。け、健気すぎる・・・(涙)ほんとうまいですねえ。
私はこの作品で彼に出会いましたから
その後彼がいかようにイメチェンを図ろうとして
ギャングや悪役やヘタレ王子をやっても,
どうしても「健気なリウ君」の面影を追い求めてしまいます。
・・・それくらい,この役って彼にハマってましたよね。
それと!おっしゃる通り,胡軍さん!この方も素敵ですよねー。
静止画像だけ観ると「ただのおっさん」にも見えるのですが
演技する表情や動きがねー,中国大陸の大地の匂いのする色気を感じますのよ。
それにあの優しい表情も大好き。藍宇を見つめるまなざしがよかったですね。
これから夜が明けると,胡軍さんの出る「レッドクリフⅡ」を観に行ってきまーす。
「レッドクリフ」の胡軍さんも大槍を振り回してすっごく素敵ですよ!
メイキング,ゆっくり楽しんでくださいね。
リウ君も胡軍さんも,どんなに役にうちこんでいたのか
その「演技を超えた」演技力に脱帽しますよ~。
投稿: なな | 2009年4月11日 (土) 05時09分