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2008年9月の記事

2008年9月25日 (木)

おくりびと

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満員の場内は半数以上が年配の人だった。

納棺師という仕事に奇しくも就くはめになった主人公が,さまざまな葛藤を経て,次第に一人前の納棺師として,己の仕事に生きがいを持つようになるまでの物語。

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同居家族の死を迎えた経験がなく,納棺の光景を最初から最後まで,まじまじと見たことがなかった私は,その行き届いた手順にまず目を奪われた。

本木雅弘が扮する主人公の,遺体を扱う手つきの美しさ。その,よどみなく流れるような無駄のない所作には,まるで茶道の点前のような品格すら漂う。清潔感のある端整な容貌の本木さんが演じたから,ことさらに,そう感じたのかもしれない。そこには,死者に対する深い哀悼と敬意,そして何より遺族への慰藉の思いが込められているように感じる。
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生前にも体験したことがないくらい,心をこめて丁重に扱われる遺体。まるで眠っているかのように安らかな顔を目にした遺族は,どんなにか大きな慰めを得るだろう。

自分の家族も,そして自分も,大悟さんに納棺してもらいたいと思った。(うちはキリスト教だけど,納棺に宗派は関係ないし。)

しかし,遺体に触れる,という仕事なので,なかなか抵抗があるのも事実。大悟も,その妻も,それに関しては,並々ならぬ山を乗り越えることになる。就職したての頃の,大悟の戸惑いや失敗や試練の数々は,まことにコミカルに描かれていて,劇場ではあちこちで忍び笑いが起こっていた。

愛妻の泣きおとしにも関わらず,大悟はこの仕事を辞めなかった。経験を重ねるごとに湧いてくる,仕事に対する誇りもあったろうけれど,やはりこの仕事は,大悟に向いていたのだろう。痛みや挫折を味わったことのある人間のみが持つ優しさや細やかさが,この仕事には欠かせないと思うから。ほんとに誠実で,惚れぼれするくらい優しいひとなんだ,この大悟ってひとは。

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飄々としているけれど重厚な存在感の山崎努と,仕上げに欠かせぬ隠し味のような味わいの笹野高史の演技が光る。とくに笹野さん。じんわりとした感動が,涙とともに込み上げてくるような名セリフを,いつもさりげなく言うんだ,このひとは。「死は門をくぐるようなもの」だというセリフが一番心に響いたなぁ。

死は誰にでも公平に訪れる,避けては通れないもの。キリスト教では,死は終わりを意味しない。天国での「再会」があると信じているから,遺族は悲しみのその先に希望の光をも見つめている。
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でも,たとえ宗派は違っても,「死は終わりではない」という考えは遺族の誰もが持ちたい望みではないだろうか。

愛するひとが逝く時は,
そのひとの辿ってきた人生を心から慈しみ
安らかな気持ちで,希望をもって送り出したい。

「いってらっしゃい。また,会おうね・・・」と。


そんなことをしみじみと感じる作品だった。久石譲の流れるように美しいテーマ曲と,清冽な山形の大自然が心に沁みた。

それにしても,本木雅弘さん,いい役者だなぁ。エンドロール中に映し出される,彼の納棺のセレモニーにまたまた目が釘付けになって,席を立つことができなかった・・・。どうしてこのように美しいのか・・・よくよく振り返ってみると,一つ一つの所作をしながら,彼が常に故人に対して,厳かで優しいまなざしを注いでいることに気がついた。・・・単なる仕事という意識を超越した,「故人」に対する,また「死」というものに対する,深い尊厳の思いが感じられて・・・・。だからこそ,彼の執り行う「納棺の儀」には,見とれるような美が生まれたのではないかと思った。

同じ日本人として,世界に誇れる作品。
・・・・・まさにこれは,そうだ。

2008年9月24日 (水)

ウォンテッド

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ジェームス・マカヴォイファンなので,公開を待ちに待ってた作品!今日になってやっと鑑賞。・・・・面白かった!

監督は『デイ・ウォッチ』のティムール・ベクマンベトフ。この方,ロシアの方なのね~。従来のハリウッド映画にはない,斬新な感覚のSFアクションの映像に,何度も「うおおおおお~~~Σ(゚□゚(゚□゚*)」と目が点になりつつも,初めて体感するスリルを堪能できた。

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映像の他にも,面白かった点は,
これまで全くうだつのあがらない人生を送ってきた,平凡な青年ウェスリーが,ある日突然,「君は父親から天才的なアサシンの才能を受け継いでいる」と告げられ,それまでの生活が一変してしまうところだ。

それに続く常軌を逸した特訓の日々と,彼が次第に自分の能力に目覚めていく過程が大好き。まるで「君は実は魔法使いなんだよ」と突然告げられたハリー・ポッターのようだ。痛快だ。

もと機織りだったという謎の暗殺集団とか,弾道がカーブする弾丸とか,アサシンたちの超人的な身体能力とかは,よく考えてみれば荒唐無稽なんだけど,それゆえに,どのアクションも,観客の意表をつく展開と映像で,「やり過ぎ・・・?でもいいか!面白いから」と思った。(回復風呂だけは,あまりにもあり得なくて,笑ってしまったけど( ´艸`)プププ・・・)

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見よ,この筋肉!

マカヴォイはカッコイイ!
・・・いや,最初はヘタレなんだけど・・・
物語が進むにつれて,
どんどんクールでカッコよくなる

最初は上司にはイビられるわ,彼女は寝取られるわで,ストレスで潰れそうな情けない青年だったけど,組織に入って超スパルタ訓練を積むにつれて,どんどん精悍で自信に満ちた顔つきになってゆく。(おいおい,ちょい待ち!と思わずつっこみたくなるような,直情型で向こう見ずな行動もするけどね)

それにしても,このひと,アクションも十分キマるのだけど,基本は「殴られ」役の方が似合うかも。ラストキング・オブ・スコットランドで,アミン大統領に拷問される場面も似合っていたし・・・。つぐないといい,ナルニアのタムナスさんといい,逆境に落とされた役ってハマり役かなぁ・・・イジめたい( ̄▽ ̄)タイプかも。(何ゆえに???あの童顔のせいか?)

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彼が単身で組織に乗り込むバトルシーンは,めちゃくちゃカッコよかったわ。・・・・ネズミたちは可哀想だと思ったけどさ。

そして,この作品で,その魅力が全開なのが,彼を一人前のアサシンに育て上げる姐御スナイパーを演じたアンジー。やっぱりね,彼女はマイティ・ハートや,グッド・シェパードのようなヒューマンな内容の作品より,アクションものの方が一段と輝く。あのダイナマイト・ナイスバディと,女豹を思わせるワイルドな魅力は,誰にも真似できないものね。

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あの迫力満点の,車上でのアクロバット射撃も素晴らしかったけど,ラストの彼女の決断と行動は最高に潔くてカッコよかったなぁ~~。・・・少し哀しくもなったけど。彼女はあのシーンで,強いだけでなく,信念も堅いことを見せつけてくれましたね。

この作品の現実離れした独特の世界観を割り切って楽しめるかどうかで,見解は分かれそうだけど,とにかく迫力のあるエンタメがお好きな方,そしてアンジーかマカヴォイのファンの方には,自信を持ってお勧めできる,と思います。

2008年9月21日 (日)

藍宇(ラン・ユー)情熱の嵐

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この愛は,神様にも裁けない・・・・。

ひょんなことからサイトでその存在を知り,DVDを注文し,観る前から恋い焦がれていたこの作品。2001年に製作され,台湾で数々の賞を受賞した,香港映画史上に残る愛の物語だ。日本で公開されたときの題は「情熱の嵐」だが,原題は主人公の恋人の名前である「藍宇(ラン・ユー)」。原作はインターネット小説「北京故事」

これは,激しくも美しい,男同士の10年に渡るラブストーリーだ。その点では,ブロークバックマウンテンの切なさと同じものを感じる物語と言えるかもしれない。
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捍東(ハントン)と藍宇(ランユー)とのなれそめは,金が介在した肉体関係。捍東はバイセクシャルの青年実業家。藍宇は女の子とキスすらしたことのない,田舎出身の純朴な苦学生。二人の間には10歳ほどの年齢の開きがある。・・・・・一夜限りになるはずだったのに,二人は,4ヶ月後の街中での再会をきっかけに,関係を続けることになる。
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原題にもなっている「藍宇」のいじらしさや,情の深さに泣けた。彼は、初めての性の相手である捍東を,心から愛してしまう。

「縁あってこういうことになったが,一生続くものではない。互いのことを知りすぎて飽きた時に別れる。」と最初に釘をさす捍東に,藍宇は不安そうにおずおずと,「もう・・知りすぎた?」と尋ねる。
その一途でピュアな想いのこもったまなざしは,時には狂おしく,また時にはやるせなく,まるで従順な子犬のように捍東を見つめる。

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彼らの10年は,紆余曲折を経たものだった。
些細ないさかいを繰り返しながらも,その都度,新たな絆で結び直されるかのように,二人の心は互いから,離れることができなかった。

そう,バイである捍東が,世間体と,「子孫を残す」ためもあって,女性との結婚を決意し,一度は藍宇を無情にも捨てた時も。・・・・数年後に再び彼らは,互いのふところに戻っていた。「どうしてお前を手放したんだろう・・・」という,捍東の懺悔にも似たつぶやきとともに。最初は,遊びと割り切っていた捍東の心は,次第に藍宇の虜になってゆく。
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ひたむきな藍宇,無理を言わない藍宇。
従順なようでいて,芯に強いものを秘めている藍宇。

劇中の,藍宇のセリフにまた泣かされた。結婚する捍東と別れる場面で,彼が泣きながら言う「別れは覚悟してたから,気をつけてた。愛しすぎないようにと。そうすれば,最後の傷も浅い。」という台詞や,ラストの悲劇が彼に降りかかる直前に,背後から抱きしめる捍東に向かって「変なのかな,こんなに好きだなんて。」とつぶやく台詞。
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捍東を演じたフー・ジュンと,藍宇を演じたリウ・イエ。実際はもちろんノンケである二人の俳優の演技は,大胆かつ繊細

台詞が少なく,時間経過の説明なしに唐突に場面が切り替わる
,という不親切ともいえるストーリー展開にもかかわらず,二人の俳優の細やかな表情(特にその視線)の演技は,全編に一貫して流れる激しい純愛,観る側にひしひしと伝えてくれる。

やや傲慢で,自信たっぷりの捍東を演じたフー・ジュンが,時折見せる藍宇への包み込むような優しげな表情。最初から最後まで,どこかあか抜けない雰囲気がかえってたまらなく愛おしく思えるリウ・イエ。
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フー・ジュンは理詰めで,リウ・イエは直感で役作りをするタイプらしいが,二人とも苦労は多々あったと思う。ゲイであるスタンリー・クワン監督は,彼ら二人に,役同様に相手を心底愛するように,と要求し,彼の妥協を許さない演技指導のもと,まさに「役になりきった」二人の俳優(演劇学院の先輩と後輩らしい)は,クランクアップ後も,周囲が心配するほどなかなか役から抜け出せず,そのため,半年以上もお互いに会わないようにしたそうだ。

原作の日本語版「藍宇」も取り寄せて読んだ。原作には,藍宇の得難い魅力が,映画以上に詳しく描かれていた。

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彼が薄幸な生い立ちだったこと。その善良さ,聡明さ,柔軟さ,そして奥ゆかしさ。けっして捍東の財力に寄り掛かろうとしない,頑ななまでの意志の強さや,「もう後戻りできない」という,秘めた思いの深さなど。こんなに深くて,無償の愛し方ができる人間がほんとうにいるのだろうか?と,その愛の純粋さに,ただただ心を打たれた。

そしてまた,原作には「映画には描かれてなかったこと」がたくさんあった。
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この物語の頃の中国では,同性愛は犯罪だったこと。捍東は,無垢な藍宇を堕落させた,と後ろめたく思っていたこと。捍東の母親が,二人の関係を知って藍宇を激しく非難し,捍東の妻は,藍宇にこっそりひどい仕打ちをしたこと。バイである捍東は,自分を同性愛者だとは認めてなかったけれど,藍宇を心から愛するようになって,意識が変わってきたこと・・・・・。

これもまた,哀しいソウルメイトの物語のひとつ。・・・そう思う。性別が同じであっても,出会いがどのような形であっても,運命の絆は断ち切れるものではない。それなのに。ようやく「藍宇,お前は,運命の相手だ」と悟った捍東のもとからあまりにも唐突に旅立ってしまう藍宇・・・・。深い慟哭の果てに,捍東は,藍宇の面影を抱いて生きていく。

原作のラスト,捍東が神に祈ることばが好きだ。長いけれど引用したい。
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「・・・彼を天国に受け入れてください。彼はこの世にいたとき,誰ひとりとして人を傷つけたことがありません。あんなに善良で,正直な人間でした。唯一,彼がすべきでなかったことは,愛してはならない者を愛したということです。この世にいたとき,世間から野蛮で恥知らずで堕落した愛情だとみられていました。でも,その気持ちは純潔で,無辜で,永遠でした。もう一つ,お願いです。必ず聞き届けてください。あなたが彼をどこへ送り込んでも,私がこの世を離れる時には,どうか彼と一緒にしてください。彼が天国にいるなら,私たちに心ゆくまでそこで楽しませてください。天国で私たちは,この世の恋愛を語り合いたい。そうして私に,借りを返させてください。
もし彼が地獄にいるなら,私もそこへ送ってください。彼の近くに,彼の後ろに立って,両手でしっかり肩を抱き,背中に寄り添います。共に地獄の責苦と業火を受けさせてください。私は恨みません。後悔しません。」           
(『北京故事・藍宇』 講談社 より引用)


DVDに収録されているメイキング「藍色宇宙」も必見だ。本編では語られなかった,二人の切ない心情の独白や,カットされた貴重な映像が詰まっていて,それだけでひとつの短編映画のよう。「
僕の心はどんどんあなたで一杯になる」という藍宇のセリフと「お前が好きだ。不思議なほどに」という捍東のセリフ・・・・。しあわせそうに微笑みを交わす,恋人達のシーン・・・・。「いつまでもいっしょに生きてほしい」と,願わずにはいられなかったのに。
このメイキングだけでまた泣けた。

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  プライベートでも仲良しの二人?
・・・・でも胡軍さん,緊張してません?( ̄▽ ̄)

2008年9月17日 (水)

ミスト

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霧の恐怖とともに生まれる,
救いようのない 絶望と狂気・・・・・。

これは,原作を先に読んでいたので,映画化を楽しみにしていた作品。

あらすじ: ガラス窓を破るほどの嵐の翌日、スーパーへ買い出しに出掛けたデヴィッド(トーマス・ジェーン)。軍人やパトカーが慌ただしく街を往来し、あっという間に店の外は濃い霧に覆われた。設備点検のために外に出た店員のジム(ウィリアム・サドラー)が不気味な物体に襲われると、店内の人々は次第に理性を失いはじめ……。(シネマトゥデイ)

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キングのホラーものは,小説で読むといいのだけど,映画化すると漫画っぽくなるというか,何だかなぁ〜(;;;´Д`) という印象があった。しかし,この作品は,クリーチャーだけでなく,パニックになった人間心理の恐ろしさに重点を置いて描かれていたので,なかなか深みが感じられて見ごたえのある作品になっていたように思う。

もちろん,霧の中から次々に姿を現すクリーチャーたちもよく出来ていた。巨大触手,巨大ハエ,怪鳥,お化け蜘蛛などなど・・・。原作を読んでいると,「ここで次に何が出てくるか」は,あらかじめわかっているのだけど,文章だけで思い描いていた怪物たちが,実際に映像として登場してくるのは,やはりスリリングだった。(どのクリーチャーに襲われるのも勘弁だけど,心理的には蜘蛛が怖いかな?ワタシ的には。)

それにしても,
極限状態に置かれた人間の行動って,怖い。


こういう時はおいおいにして,カリスマ的な,あるいはこの物語のミセス・カーモディのような,狂信的な指導者が出てくる。それがどんなにキチガイじみた煽動であっても,人間は目先の恐怖から目を背けたいがために,何かにすがりたくなるのかも。

そして,先が見えない状況だからこそ,どんな選択や判断をするかで運命が決まる,というのが,恐ろしいというか哀しいというか・・・。

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特に「衝撃」と宣伝されていたラストの救いのなさは,・・・・・個人的には嫌いだなぁ。

監督がわざわざキングに許可を取って,原作とは違ったラストにしたそうだけど,後味が悪い,というか,こうすることで,何を訴えようとしたのかな〜と,何だか釈然としない疑問が残る。

ま,原作も,歯切れの悪い終わり方で,救いがあるわけではないので,映画の方が確かにインパクトはあるといえる。しかし!・・・助かってほしい人が,結局助からない物語は,そこに余程深い目的や意図が見えないと,何だか納得できないような。・・・・いや,監督の意図はもちろんあるのだろうけれど,私には見えなかったのかもしれない。

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あの,映画史上に残るほどの素晴らしいカタルシスを得られる,ショーシャンクの空にと同じ監督さん(フランク・ダラボン)の作品とは思えないような,残酷なラスト。しかし,キングの作品を映画化させたら,やはりこの監督さんの右に出るものはないなあ,とも思った。

ラストは好みが分かれそうだけど,とちゅうの息詰まる展開の見せ方も上手いし,極限状態の人間ドラマとしても丁寧な描き方をしてるし,確かに観て損はない作品だと思う。

2008年9月13日 (土)

ゆれる

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あの橋を渡るまでは 兄弟でした・・・・。

鑑賞中,何度も鳥肌がたった。
香川照之と,オダギリジョーの,息詰まるような演技バトル。作品中に描かれる,人間の心の中に秘められた深い謎と闇。・・・・間違いなく,これまで観た中でも最高と思える邦画のひとつ。

兄弟間に存在するライバル意識や嫉妬心は,やっかいなものだ。特に同性の二人兄弟の間のそれは。

私は女二人きりの姉妹で,おまけに年子だったので,「兄弟姉妹は,ライバル」というのは,よくわかる。きょうだいって,小さい頃は,お揃いの服を着せられたりして,親からも公平に扱われるのに慣れている。しかし成長するにつれて,それぞれ進む道によって,きょうだいでも人生の明暗が分かれることもある。

・・・・きょうだいの場合,相手に自分よりはるかに優位に立たれることは,赤の他人にそうされるより,悔しさが大きい場合もあるかもしれない。だって,「同等のはず」という思い込みが心のどこかにあるからだ,きょうだいの場合は。

田舎に住んでて,両親の世話や家の後継ぎを一手に引き受けるのは,今の時代は「貧乏くじ」という場合もあるだろう。男兄弟なら長男の役目。女姉妹の場合,私の周囲(立派な田舎です)では,上の娘から順に嫁いでしまって,残された末娘が田舎に残って両親の世話をする場合も多い。

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この物語の主人公である兄弟,稔と猛・・・・・。

田舎で家業のガソリンスタンドを継ぎ,父親と二人暮らしをしている,朴訥で優しい兄。東京でカメラマンとして活躍している,奔放で気ままな弟。

吊り橋での転落事故の犯人として逮捕されてから,それまでひたすら優しく人当たりのよかった兄が,少しずつその本心,というか,それまでのたまりにたまった鬱憤を弟にさらけ出すようになる。それは,ハンサムで女性にもてて,何のしがらみもなく,都会生活を謳歌している弟に対する嫉妬や,損な役回りを演じていることへの積年の恨みのようなものか・・・・。

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面会室での,兄弟のシーン。

彼が弟に対して,「実はどんな思いを抱いていたのか」告白する口調は,時には激しく,時にはぞっとするほど冷たい。もはや習慣となってしまっている作り笑いが突然こわばり,憤怒の形相にと豹変する,香川照之の演技は,見事としかいいようがなく,兄の豹変ぶりと,その本音を知って,激しく動揺するオダギリジョーの繊細な表情の演技からもまた,目が離せない。

いったい,あの吊り橋の上で,
ほんとうは何があったのか?

兄はわざと弟を暗示にかけて,有罪の決め手となる偽証をさせたのか?弟に「助けられる」ことを厭うほど,兄の恨みは深かったのか?それとも暗示をかけることで,弟を試したのだろうか?「弟は他人との関係が希薄で自己中心的な人間で,それゆえに他者との記憶が不確実である」ということを,証明したかったのか?

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最後の法廷で,証言した弟を見つめる兄の何とも言えない冷ややかな目つきを,一体どう解釈すればよいのだろう。

真実は,まさに藪の中。
解釈は,観客に完全に委ねられている感じだ。ラストがハッピーエンドなのかどうかさえ,感じ方は人それぞれだろう。「本音」というハンマーで粉々に叩き壊された兄弟の絆は,今度こそ,ゼロから築き直すことができるのだろうか?


「ゆれて」
いたのは,吊り橋だけではなかった。
登場人物の心,観客の心,
事件の真相,兄弟の絆・・・・


この世には,確実で不動だと言えるものは一つもないと思えるくらい,全てのものが,哀しいくらいにゆれていた。

2008年9月 9日 (火)

やわらかい手

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面白かったし,感動もしたし,元気ももらえる作品。
お勧めです。

どうみても,ごく普通の,冴えない初老の主婦マギー。
ぬいぐるみのような体型と,堪え忍んでいるような,地味で控えめな雰囲気。ハローワークでは,「あなたの年齢での就職は無理!」と,無惨に断言された彼女が,最愛の孫の治療費のために,藁にもすがる思いでくぐった「性風俗」の店。

イギリスのコメディーは「弱者の開き直りによる奮闘物語」を描くのがとってもうまい。その奮闘ぶりは,どれも奇想天外な設定で,ラストは爽快なハッピーエンドに終わる。たとえば「フル・モンティ」とか,「カレンダーガールズ」とか「キンキーブーツ」とか・・・・。

このやわらかい手は,少し暗めの印象を受けるが,それでも主人公のマギーが,思いがけずに飛び込んだ性産業界で思わぬ成功をおさめ,次第に人間としても女性としても,したたかに輝きを増してゆく過程を観るのは,気持ちが晴れ晴れするものだった。

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それにしても,この作品の見どころのひとつには,彼女が売れっ子になった「客を手だけで絶頂に導く」という仕事があると思う。「日本式」だ,とオーナーのミキは自慢していたが,・・・・・・ホントにあれって日本にもあるの?

壁を隔てた客にとっては,若さも容姿も必要なく,一番重要なのは「手」の滑らかさや柔らかさとそのタッチ。そう,マギーは「ゴッドハンド」の持ち主だったのだ。

愛する者のために腹をくくった人間ほど
強いものはない。

しかし彼女は本来,芯に強さを秘めていた女性だと思う。最初こそ,怯えたり躊躇したりしたけれど,開き直るのも順応するのも早かった。誇りとユーモアを失わず,やがては自分の仕事を,隠すことも恥じることもなくなってゆく・・・・。
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マギーが,今まで自分を見下してあれこれと詮索してきた友人たちに,仕事のことを告げて胸を張り,友人たちの反応を面白がるシーンは何とも小気味がいいし,彼女の生きざまにオーナーが次第に惹かれてゆく姿も,味わい深い。それまでマギーに冷たかった嫁が,真実を知って初めて彼女に感謝するシーンもまた心に沁みる・・・・。

設定の特異さと「怖いもの見たさ」にも近い好奇心の赴くままに,ストーリーを追いかけてゆくと,何とも心地よく程よい感動が待っていた・・・・そんな感じの名品だ。女性には特にオススメ。

2008年9月 6日 (土)

ダージリン急行

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不思議と居心地のよい,おっとりペースで繰り広げられる,心にじんわり沁みるロードムービーだった。

あらすじ:
父の死をきっかけに別々の道を歩みはじめ、それぞれの人生で悩み迷っていたホイットマン家の3兄弟、フランシス(オーウェン・ウィルソン)、ピーター(エイドリアン・ブロディ)、ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)。あるとき、事故で九死に一生を得たフランシスは、兄弟のきずなを取り戻すため、弟たちをインド旅行に誘う。(シネマトゥデイ)

3兄弟は,それぞれどこか風変わりで,癖のある人間だ。

長男のフランシスは,責任感が強いが,強引な面もある仕切りたがり屋。この旅を提案したのも彼だが,とちゅう弟たちのパスポートを取り上げたり,何かと言うとすぐに協定を結びたがったり,弟たちのメニューも一人決めしてしまったり。

二男のピーターは,そんなフランシスと諍いが絶えない神経質なタイプ。人のものを勝手に借りたり,おみやげに毒蛇を買っちゃったりと,二男らしいマイペースさもある。妻とは離婚の危機もあるらしいが,もうじき子供が生まれることも兄弟には話したがらない。下がり眉のエイドリアンが演じると,何とも味のある情けなさがにじみ出ていて,とてもいい。

末っ子のジャックは頑固で甘えん坊。列車内のキャビンアテンダント(?)のお姉さんにちょっかいをかけたりもするが,元カノが忘れられずに旅先でも留守電をチェックし,今回の旅行も,途中で逃げ出す算段をしていたりも・・・。

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3人ともそれぞれが大人になり切れてない未熟な側面を持ち,疎遠になったいきさつは詳しく語られてはいないけれど,うまくいかないのも,なんとなく納得できる。

旅の始まりから,彼らの会話は絶妙な具合で噛みあわないし,実にくだらない犬も食わないような理由で喧嘩はするし・・・・。それでも,肝心な時は力を合わせたり,阿吽の呼吸もたまには見られ,「ああ,血の繋がったひとたちなんだな~」と思わされる。

それぞれに「濃い」色を持つ彼ら3人が,揃って一つの画面に収まっているシーンは,観るだけで,何やらまったりした笑いがこみあげてくる。

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それにしても,「心の旅」がなぜにインド横断なんだ?と思ってたら,フランシスが計画していた本当の目的は「行方不明の母親探し」だと途中で判明。それを聞いた途端に,兄弟たちの心が一瞬ひとつになったのには,ほろりとさせられた。

しかし,この作品のこれまでの雰囲気からして,ありがちで感動的なクライマックスはないよな~~,と予想していたら,やっぱり母親との再会シーンは・・・・いまいち気が抜けちゃった。

久々に会った息子たちに「来るなって言ったのに」ですって・・・。さすが3兄弟のお母さん・・・・・りっぱに変人だ。息子たちの問いに対する答えのはぐらかし方や,そのあとの姿の消し方もまたおみごと。

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この旅の終着点は,
母親との再会ではなかったのだろう。

彼らの「心の旅」はまだまだ続くのだ。
互いの信頼関係を修復し,それまで心の拠り所としていた父親の形見であるヴィトンのバックを次々に投げ捨てて,身軽になって旅を続ける3兄弟。バックと一緒に,それぞれの自分を縛っていたものも捨てることができたのかな?・・・・あのバック,拾いたいくらい,めちゃラブリーではあったけど。

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↑バッグを持って全力疾走するエイドリアン・ブロディのフォーム(冒頭でもあったが)がすごく綺麗だ。

ダージリン急行・・・一度は乗ってみたい。
あの鮮やかなブルーとイエローと象の模様の,かわいらしい列車に乗って,窓の外を流れる,褐色のインドの大地を眺めてみたい。激辛スナックや,ライムジュースを味見してみたい。出無精のわたしでも,どこか遠い異文化の国に行ってみたくなった。

2008年9月 3日 (水)

ダイエット・シネマ

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・・・・初めに断っておきますが,
↑の画像は私の体型じゃないですよん。

わたしは4年ほど前に,一念発起して,10キロほどのダイエットに成功したことがある。まず炭水化物抜きを1週間だけやって3キロ落とし,勢いをつけたあと食事日記とピラティスの長期戦で,半年で10キロほど痩せて,20代の頃の体重に戻した。リバウンドもなく定着していた体重と生活習慣が崩れ出したのは,昨年度のブログ開始から。

夜の大半をじっと座ってPCに向かう日々・・・
そう,運動不足!
現在,5キロほどじりじりとリバウンドしている(泣)

リバウンドほど無駄なものはないのよね~~!(絶叫)あの,ダイエットのつぎ込んだすべての労力がすべて水の泡・・・うううう。

ところで,ダイエット中に観ると意欲が湧く映画・・・・って?
私の場合は。

プラダを着た悪魔
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どんどん洗練されて,一流ブランドの服を素敵に着こなしてゆく主人公。「痩せなきゃ幸せはないっ!!!」と気合を入れてもらえる作品。ダイエットがスタートして,順調に波に乗り始めた頃に観ると,なおいっそうやる気が起こる。

スーパーサイズ・ミー
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これを観た後は一時的に,ジャンクフードが食べたくなくなること請け合い。ま,私の場合はあくまでも一時的・・・・なので,ドカ食いの誘惑が起こるたびに観ることにしている。

ブリジット・ジョーンズの日記
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等身大そのもののヒロイン,ブリジットの涙ぐましいダイエット生活。藁にもすがる思いで,あれこれ試している姿に共感しまくり・・・・・上手くいかないところに,またまた「私もよ~~~」と同士のような嬉しさが。しかし,結局痩せなくてもイケメンをゲットする彼女を観てると,ダイエットしなくても幸せになれるという錯覚が起こることも。

で,結局つまるところはコレかと。一番効果的なのは
ビリーズブートキャンプ
Bootcamp
最近またぼちばち始めました。
これをやった翌日は,仕事がキツイので挫折しがちなのだけど・・・ハードだけど楽しい・・・・といえば楽しいかな?キックのエクササイズは,ストレス解消にもなるし・・・・。蹴り飛ばしたい相手を思い浮かべながらやってます。

なんにせよ,
ダイエットって一生続けられるものでなきゃね~~
皆さんも・・・・・頑張ってます?

ここに挙げたのは,ダイエット中に観たいお勧め映画だけど,その反対にダイエット中は御法度の,「食欲増進映画」もあるよね。やたら美味しそうな食事風景がてんこ盛りの作品とか・・・。

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