スリーピー・ホロウ
バリバリのジョニーファンというわけではないのに,新作の合間にときどきジョニー作品をアップしているのは,やはり彼の作品って,思わずレビューしたくなるような,魅力のあるものが多いからかな。
今回のスリーピー・ホロウは,私が初めてジョニー&ティム・バートンのコンビにお目にかかった,記念すべき作品。・・・・・それまで私ったら,ジョニー・デップを見たことがなかったのよ~(名前は聞いてたけど)。わずか10年前の作品なのにね。たしか,この頃は映画を観るどころじゃない環境にいたもんで。
あまりにも有名な作品なので,ストーリーなんかは省くけど,アメリカのニューヨーク近郊の都市伝説「首なし騎士」のお話がもとになっている。
話は脱線するが,「首なし騎士」と聞くと,私は自分の町に昔から伝わる「首切れ馬」の伝説を思い出す。それは大みそかの晩に,山寺に押し入った強盗団に首を切り落とされて殺された馬の幽霊が,除夜の鐘の音とともに,街中を走りぬけ,それを目にしたものは死ぬ・・・という言い伝えで,子供の時は,首切れ馬の走るルートが,うちの家の前を通っていると親に脅かされ,大みそかの晩は本気で怖がっていた。(今ではそれが大嘘だったことを知ってるけど)
話がそれたが,このスローピー・ホロウの魅力は何といっても・・・
とにかく,とにかく,とにかく,映像の摩訶不思議な美しさ。監督さん誰っ?ティム・バートンって誰よ~!って一発で名前を覚えた。
すごく品のある,グレーを貴重とした色合いがね,なんともいえない。
水墨画を思わせる,スリーピーホロウの村の怖美しさ。
凍てついた夜道を,夜霧を裂いて疾走する馬車。
不気味なアートのような死人の木。
闇の中で,火を吹いて鮮やかに燃え上がる風車。
どのシーンを切り取っても,幻想的な絵画そのもの。
・・・・そう,流される血の色までもが美しかった・・・・。
そして,その絵の中に,この上なく,ぴたっとはまっていたジョニー・デップ。こんなひといたのか~~~!とこれも心の中で絶叫。彼が演じた捜査官イカボットが,またいい具合に天然で,ちょっとヘタレで(それでもいざと言うときには,不思議と強かったけど)母性本能をくすぐるのよね。
この時代には珍しい・・・科学捜査のさきがけなんだけど,内心にトラウマを抱えているところなんぞ,フロム・ヘルのアバーライン警部とも共通するところがある。でも,このイカボット君のほうがずっと初心(うぶ)で若い!と言う感じ。
・・・・・とにかく美しいんです。この作品のジョニー。
黒いフロックコートが似合いすぎ。本当に,バートン監督の描くダークかつ幻想的な風景に,これほど似合うひとはいない。互いが互いを引き立て合って,文句のつけようのない美しさを醸し出す。なんというか,童話の中のキャラクターのような,現実感のない美しさなんだけど。
それと,他に印象的だったのが,可愛いんだけど,なんとなく妖女(というか小人っぽいというか・・・)のような雰囲気を持っているヒロインのクリスティーナ・リッチがハマり役だったのと,首なし騎士の役を演じていたクリストファー・ウォーケンの存在感。
ウォーケンのセリフって,「ハァーッ!」という威嚇の声のみ。「よくぞこんな役を」と最初は驚いたけど,さすがの貫録で,単なるモンスターキャラにとどまらず,彼の演じる騎士からは,成仏できない幽霊の悲哀のようなものも感じてしまった・・・。
スリーピー・ホロウは,
ジョニーとの出会いの作品。
一目ぼれとまではいかないけど,以来,彼の作品を必ずチェックするようになった理由は,やはりこの出会いが素晴らしかったからだと思う。今でもジョニー作品の中では一番のお気に入りで,年に何回かはDVDを観たくなる作品のひとつ。
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» ★スリーピー・ホロウ★大特集!! [CinemaCollection]
今回はお誕生日に画像が抜けてしまったイカボッド(^^ゞお詫びにスリーピー・ホロウの大特集をしま〜〜すヽ(^o^)丿イカちゃま、かわいいぞ〜〜〜(爆)『全米興収1億ドル突破の大ヒット!迫力のシーンと‘謎解き’の面白さに代興奮!そこは‘首なし’連続殺人事件に揺れる...... [続きを読む]
こんばんは、ホーギーです。
私もこの映画は、とても印象的で、あまりホラー映画が得意でない私でも十分楽しめる作品でした。
美しい映像や中世的な美しい美術など、まさにティムワールドの作品ですね。
そして、何と言っても、シリアスな演技と思わず笑ってしまうユニークな演技を両方を見事に演じているジョニーは、相変わらずとても魅力的です。
T・バートンとジョニーのゴールデンコンビによる作品は、ストーリー展開も見事で、しかも完成度も高いですよね。
仰るとおり年に何回かはDVDを観たくなる作品のひとつですね。
投稿: ホーギー | 2008年8月18日 (月) 00時33分
おお!「スリーピー・ホロウ」ですね!
何を隠そう、私もジョニーの作品の中で一番好きな作品なんです♪DVDも持ってます。普段はグロいのが大の苦手なんですが、何故かこの作品の生首ゴロ~ンは受け入れられるんですよ(笑)。
この作品のジョニーって可愛くって大好きです。クリスティーナ・リッチもこの作品がベストじゃないかなあ。「ペネロピ」も良かったけど。
でも何と言っても、ウォーケンですよね!ウォーケン!ホント、よくこんな役引き受けたわぁ~。でも、頭はウォーケンだけど、体は「スターウォーズ」でダースモールを演じた人ですよね。確か。
投稿: mayumi | 2008年8月18日 (月) 01時12分
こんばんは~~♪
TBとコメントありがとうございました!
私の記事は古い上に画像がなくなってしまって(楽天の
画像倉庫がリニューアルしたので)ショボイ記事なのですが
一応TBさせて頂きました(^^ゞ
そっか~~ななさんはこの作品でジョニーを認めた?(笑)
のね~~。私も、このジョニー見て、やっぱりこの人って
ハンサム(死語ですが(^_^;))だなあってつくづく感じた
作品です。ホラーは苦手ですが、ティムの作品は映像も含めて
好きなんですよね。私もリピート率が高い作品です^^
>私は自分の町に昔から伝わる「首切れ馬」
きゃ~~。ななさんのところにそんな伝説?あるの?
首なし騎士も怖いけど首なし馬も怖い(T^T)と思ったら
それが大ウソだったなんてね~~(笑)
ジョニーが美しくて、幻想的な風景の映像も美しく、
怖いけど笑えて、バートンワールド全開のこの作品は
私も大好きです^^
ウォーケン存在感ありありですよね(笑)
投稿: ひろちゃん | 2008年8月18日 (月) 01時17分
ホーギーさん こんばんは
コメントありがとうございます。
ホラーといえばホラーなのですが,シックな色調のせいで
ファンタジーのような美しさで,
死体や生首も,そんなに怖くなかったですね。
ジョニーの演技は真面目にコミカルで,とっても印象深かったですね。
初めて観たときは,演技よりお顔の方に釘付けにもなりましたけど・・・・。
「これは絶対DVD欲しい!」とすぐに購入しました。
もう10年も前の作品なのですが,何度観てもうっとりしてしまいます。
投稿: なな | 2008年8月18日 (月) 21時22分
mayumiさん こんばんは!
おお,mayumiさんも,この作品が一番お好きですか!
綺麗ですよね~,これ。
「スウィーニー・トッド」と同じ系統なのでしょうけど
私は断然,こっちが好きですね。
そうそう,この作品の生首は美しくて,怖くなかったです。
クリスティーナ・リッチ,このころはちょっとぽっちゃりしてましたが
可愛いですよね。雰囲気もこの役にぴったりで。
モンスター・ウォーケン・・・最初観たときに
まさか本人が演じてるとは思わなくて,よく似た無名の人かと思ってて
エンドロールみて本人だったのでびっくりしました。
投稿: なな | 2008年8月18日 (月) 21時29分
ひろちゃん こんばんは
そうなんですよ~,これでジョニーに出会ったのですよ。
イカボット・・・イカちゃんは,黒い服,黒い髪,黒い瞳で
なんだか水際立って見えましたわ。
あのコミカルな表情も,あんな演技が自然にできるなんて,印象的でした。
「首切れ馬
」・・・お話自体は本当で,
ちゃんと「○町史」にまで載ってるのですよ~。
「馬の走るコースが我が家の前を通る」という箇所が大嘘で・・・
当時はすっかり騙されて怖がっていましたね~。
馬の幽霊は,お寺のある山頂をスタートして,強盗の住んでいた川向かいまで走るそうです。
おお怖い・・・当時の恐怖を思い出します。
このスリーピー・ホロウは,それ以後観たジョニー作品の中でも
やはり一番好きな作品かな~?
第一印象ってずっと引きずるのかな?
投稿: なな | 2008年8月18日 (月) 21時43分
こんばんわ!
きゃあー!トップ画像のイカボットがとてもステキです!
この作品のジョニー・・・ってか、基本的にバートン作品に出る
ジョニーは、いつも顔色が悪いので、余計に美しさが際立ちます。
ジョニーとウォーケンの共演はこれが2回目なんですよね。
ウォーケンも妖怪顔(苦笑)なので、こういうオカルト世界には
とってもよく映えますね(汗)。
ななさんとジョニーの出会いとなったこの映画♪
私もとっても大好きな作品です♪
投稿: 睦月 | 2008年8月18日 (月) 23時24分
こんばんは!バリバリのジョニーファンが参上しました(と言っても、『デッドマン』を観たのは最近ですが・汗)。
ななさんが、私のところに『膝枕』・・・なんてコメントを残して下さったので、夜も更けた今、私の頭の中は『膝枕妄想』でいっぱいです!!きゃ~~~今日はその夢をみるわ~根性で(笑)
ダメだ・・・頭が膝枕で何をコメントしていいか途方に暮れます。
)
ブルブル(頭を振る音)・・・この映画のジョニーは美しいですよね~それだけでなくって可愛いの
お気に入りのシーンは、ななさんが写真を載せてくれたイカボットがベッドで毛布を口元に・・・のところです!!
ティム・バートン監督の世界観とジョニーがマッチした本作は私も大好きです!!(ハァハァ・・・膝枕
投稿: 由香 | 2008年8月19日 (火) 00時27分
睦月さん こんばんは!
>きゃあー!トップ画像のイカボットがとてもステキです!
そうでしょ~?そうでしょ。眉間の縦じわまで美しいですね。
>基本的にバートン作品に出るジョニーは、いつも顔色が悪いので、余計に美しさが際立ちます。
ああ,そうですね!チャリチョコも,シザーハンズも,スウィーニーも!
けっこう白塗りしてるんでしょうけど,それがジョニーにはよく似合うのね。
他の監督作品では出せないアヤシイ美しさが出ますよね。
ウォーケンの妖怪顔・・・たしかに。
投稿: なな | 2008年8月19日 (火) 00時45分
由香さん バリバリのジョニーファンさま,いらっしゃいませ~
おおお,膝枕がそんなにウケましたか~~。
ジョニーはなぜだか「弟キャラ」ですもんね。
この作品のイカちゃんは,気絶するのも多くって
看病しているクリスティーナ・リッチが妬ましかったですね~
せめて妄想の中でくらい,かわゆいジョニーをお膝にのせて
子守唄を歌ってあげたり,お耳の掃除とかしてあげたいですね・・。
あ・・・また妄想ワールドに・・・
ジョニーって,半眼になってうとうとしてる顔っていいですよね。
「デッドマン」の半死半生の顔とか,アバーラインのアヘンで朦朧となってる顔とか・・・。
ああいう表情にも母性本能をくすぐられます。
どうか今夜は由香さんがジョニーを膝枕してる夢がみれますように・・・(祈)
そして私はヒース・ジョーカーを膝枕・・・うげ。
投稿: なな | 2008年8月19日 (火) 01時19分
こんばんは~~~♪
わっ!イカちゃんだ!(笑)
そうそう、このジョニーって母性本能くすぐるんだよね~。
この頃のクリスティーナ・リッチもまだ幼くて、可愛くて・・・
のちのラブシーンを演じるのに照れてしまった。。。という(笑)
不思議な映像と怖面白いストーリー、何故か惹かれる作品ですね。
それにしても、ななさんのところの「馬の伝説」
きっと本当にそんな事件があったのでしょうね?昔なら、ありそうだもん。。。
話を聞いて、ブルブル震えてる小さな、ななさんが見えます(笑)
そういえば、私はコレと『ニック・オブ・タイム』のせいでウォーケン見るとブルブルしちゃいます(条件反射?)
投稿: マリー | 2008年8月19日 (火) 23時52分
マリーさん こんばんは
この作品,お好きな方は多いですよね。
バートンワールドの妖しい美しさ全開ですし
母性本能をくすぐるジョニーの魅力も全開ですものね。
馬の伝説は,山寺の盗賊事件(坊さん皆殺し,馬の首をはねた)は史実だそうです。(江戸時代くらいかしら?)大みそかの晩ってのが,なんだか不気味でしょ?
首なし馬の幽霊が盗賊を追って街中を駆け抜ける・・・というのは,そりゃただの幽霊話なんでしょうが,小さいころは怖かったですね。今では逆に小さい子つかまえて話して聞かせて脅したりしてますけど・・・。
投稿: なな | 2008年8月21日 (木) 21時19分
金田一耕助のような感じのジョニーの面白さとティム・バートンお得意のゴシックホラーがたまらなく素敵な映画でしたよね。
ちなみに首なし騎士の首のない時を演じていたのは『スター・ウォーズエピソードⅠ』のダース・モールさんらしいですよ。
投稿: にゃむばなな | 2008年8月29日 (金) 22時23分
にゃむばななさん コメントありがとうございます!
>金田一耕助のような感じのジョニー・・・・
おお,そうですね。あの飄々とした独特の感じは
金田一耕助の雰囲気を思い出させますね。
首なし騎士の首から下だけの役って・・・
(ウォーケンも顔だけの役って・・・)
ま,お二人とも立派にご自分の務めを果たされていましたね!
投稿: なな | 2008年8月30日 (土) 23時51分
>スリーピー・ホロウは,ジョニーとの出会いの作品。
一目ぼれとまではいかないけど,以来,彼の作品を必ずチェックするようになった理由は,やはりこの出会いが素晴らしかったからだと思う。
わわわわわわ~~~~!!
同じ同じ!!
私もこれでジョニデが好きになったの!!!
これを見てからジョニデが出ている映画雑誌のバックナンバーやDVDを買いまくったものでございます・・・。
でもジョニデ作品の一番は「ギルバート・グレイプ」になっちゃったんですけど(笑)。
私は今のジョニデの作品より昔の方が好きですね。
パイレーツも途中までしか見ておりません・・・。
投稿: dim | 2008年9月 2日 (火) 23時37分
dimさん お久しぶり~
お忙しそうでしたが,お元気でしたか。
で,dimさんもこれでジョニーに開眼されたのですね~
これのジョニー,美しくって可愛くて,まさにツボですよね。
・・・若いころのジョニーが今の彼より好き,というのは
なんとなくわかるなぁ・・・
私も最近の彼・・・つうかパイレーツのジョニーはあんまし好みじゃなかったりするかも。
パイレーツも,1作目は作品自体がおもろかったから何度もレンタルしたけど
2作目からはスルーしてる・・・
「ギルバード・グレイプ」は,考えてみれば若き日のジョニーと
すごく若い日のレオが共演という,贅沢極まりない作品ですよね。
投稿: なな | 2008年9月 3日 (水) 20時19分
この作品はジョニー・デップというより、ティム・バートン作品でも好きな作品です。これを観てるから『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』のあそこまでのリアルは観なくてもいいかなってこちらはスルーしました。
二人で組んだ「エド・ウッド」もちょっとクセありですが、おおいに好きな作品です。
投稿: シュエット | 2008年9月11日 (木) 16時34分
シュエットさん またまたこちらにもありがとうございます!
ティム・バートン作品としても,これは素晴らしいですね。
私も「理髪師」よりはこちらの方が好き。
「理髪師」が苦手(p´□`q)゜o。。なのは,
ミュージカル仕立てがイマイチ・・・ってこともあるのだけどね。
「エド・ウッド」もなぜかDVD持ってますよ~~
投稿: なな | 2008年9月13日 (土) 20時46分
こんばんは、ななさん。
この映画「スリーピー・ホロウ」は、幻想的でダークでファンタジックなティム・バートンワールド全開のゴシック・ホラーの大傑作だと思います。
とにかく、幻想的でダークでファンタジックなティム・バートンワールドに魅せられる素敵な映画です。
この「スリーピー・ホロウ」は、ワシントン・アーヴィング原作の「スリーピー・ホローの伝説」の映画化作品で、ティム・バートンが当時、「シザー・ハンズ」、「エド・ウッド」に引き続き、盟友のジョニー・デップとタッグを組んだゴシック・ホラーです。
ジョニー・デップはティム・バートン監督の思わずニヤリとしてしまう、ちょっとばかりズレたユーモアと余程、相性が合うのだと思います。
実際この映画を観てみると、シリアスでありながら、どこかピントのずれている主人公のキャラクターは、もうデップ以外には考えられません。
デップも共演のクリスティーナ・リッチも一応、美男美女の部類に入るとは思いますが、いわゆる正統派の美形には見えず、こういうところもバートン監督の好みだろうと思われ、とにかく、デップとリッチは古色蒼然たるこのゴシック・ホラーにはぴったりの配役だと感心してしまいます。
18世紀のニューヨーク郊外の村、スリーピー・ホロウでは夜な夜な馬に乗って現われては住人の首を掻き切る"首なし騎士"が人々を恐怖のどん底に陥れていました------。
斧を振りかざした"首なし騎士"が、漆黒の馬にまたがり、闇夜を疾走する場面の"絵"になる事といったらありません。
村を丸ごと作ってしまったというセットも素晴らしい雰囲気を醸し出していますし、霧が立ち込める不気味な夜は、色彩も美しく、優れて絵画的でもあります。
つまり、この映画はまさしく、現代の映画作家の中で、最も寓話的な作家であるティム・バートン監督による"ファンタジーな絵本"の世界を映像化したものだと思います。
そして、これらの幻想的でダークな、鳥肌が立つくらいに綺麗で美しい映像を撮影しているのが、何と「ゼロ・グラビティ」、「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」、「レヴェナント:蘇えりし者」で3年連続でアカデミー賞の最優秀撮影賞を受賞という快挙を成し遂げた、メキシコ出身の天才撮影監督のエマニュエル・ルベツキ。
初めてこの映画を観た時、この撮影は何と凄いのだろうと衝撃を受けた時の記憶が甦り、当時からルベツキの撮影技術が素晴らしかったという事がわかります。
バートン監督はこの映画の前に撮った「マーズ・アタック!」で、SF映画をおもちゃの世界にして楽しませてくれ、今回はゴシック・ホラーの世界で魅せてくれました。
この既成概念にとらわれたホラーというジャンルを手玉に取って、自らの作家性で塗り潰してしまう語り口は、紛れもなくバートンワールドそのものです。
また、この映画にはかつて、バートン監督が偏愛した1960年代のハマー・フィルム社の"怪奇映画"に対するバートン監督のリスペクト、オマージュに満ち溢れています。
バートン監督は、「当時の怪奇映画は映像的には美しかったが、スタジオ撮影のシーンとロケ撮影のシーンとの間に大きな隔たりがあった。
その隔たりを埋めようとして、セットはもっと現実っぽく、実際の風景は作り物っぽくなるようにした」と語っていて、バートン監督のこの狙いが見事に成功していると思います。
更に、"首なし騎士"の造形に見られるように、バートン監督が、「シザーハンズ」、「バットマン」、「バットマン・リターンズ」で描いてきた"異形の者"への偏愛も健在で、それまでに磨いてきた映像テクニックを縦横無尽に使い分け、自分の創造性を"さらり"と表現してみせる技を習得した彼は、まさに円熟の境地に達した感があります。
そして、この映画の最大の見どころはやはり、ヘンテコで奇妙な器具をこねくり回して、頑固な程に科学的な捜査を試みるジョニー・デップと村の迷信的な存在である"首なし騎士"との対決です。
科学的な合理性と超自然的な怪談の激突を、"頭でっかちな男VS首なし騎士"の対決として象徴的に描いているのが面白くてたまりません。
この"首なし騎士"を演じるクリストファー・ウォーケンの唸り声以外、セリフが全くないにもかかわらず、あの"美しくも怖い顔"で、我々観る者を恐怖のどん底に落とし込む程、怖がらせてくれて見事の一語に尽きます。
本当にクリストファー・ウォーケンは「ディア・ハンター」での演技がそうであったように、エキセントリックな役がよく似合う、本当に凄い役者だなといつも思います。
デップが古い伝説的な迷信にとり憑かれた村人に囲まれて、ひとり大真面目に捜査を行なう様子はいささか滑稽で、いざという時に臆病風邪を吹かせてしまうというキャラクターにも愛着が持てます。
そして、バートン監督は、我々観る者に謎解きという知的ゲームを与えておきながら、全く考える余裕すら与えない程に衝撃的な首切り殺人や戦慄の映像を畳みかけ、観ている側を完全にパニック状態に陥らせてしまいます。
そして、苦悩する主人公のデップと同様に、我々観る者の、理性を保とうとする機能までも破綻させてしまいます。
この演出技法には全くお手上げで、本当に心憎い監督です、ティム・バートンは。
映画の終盤には、西部劇ばりのワクワクするような、血沸き肉躍る、騎馬チェイスが用意されていて、エンターテインメント性にも満ち溢れていて、カルト的なのに大娯楽映画。
これこそが、まさにバートン監督映画の魅力であり、彼のように鮮やかに自分の趣味とビジネスを両立させている監督は、長いハリウッド映画の歴史の中でも、極めて稀な存在だと思います。
投稿: オーウェン | 2024年12月 4日 (水) 23時01分