« 2008年7月 | トップページ | 2008年9月 »

2008年8月の記事

2008年8月31日 (日)

アフタースクール

C36_bor_rou_sha

いやー,これもキサラギと同じく,ネタばれ厳禁なので,レビューは書きにくいが,とにかく面白かった。

主要登場人物のうち
キーパーソンになる3人の男性。

中学教師の神野(大泉洋)と,その同窓生の木村(堺雅人)。
そして,島崎と名乗る探偵(佐々木蔵之介)。

謎の女性と一緒にいるところをフォーカスされたまま,行方がわからない木村を探す探偵と,それに付き合う神野を中心に,物語はなんだか怪しげな雰囲気で進んでいく。

080213_after_school_sub1

探偵や背後で糸を引く人間たちの狙いは何??いかにも善良そうな教師,神野は本心は何を考えているのか?そして神野いわく「まじめでいい奴」のはずの木村の正体はいったい・・・?彼はほんとうに,臨月の妻をないがしろにして浮気をしている
ヒドイ男なのか?

中盤になって,ある場面がきっかけになり,
いきなり事件の様相が半分ほど明らかになる。

「えっ!・・・そういうこと?」
驚く間もなく,どんどん真実が明らかになってゆくにつれ・・・・・

Photo_09
「そっかー,あのヒトは実は○○だったんだ~!うわ~,あのヒトも,このヒトも~~~」と,それからは劇中の出来事や人物が,まったく違うものに見えてくる。

そう,まるでだまし絵のような面白さのある作品だ,これ。正しい見方がわかると,すべてが違ってみえてくるのだ。今まで別の見方をしていた過去のシーンが,まったく別の絵となって腑に落ちる

「甘く見てるとダマされちゃいますよ。」
と警告はあったけど,いやはや,こういうダマし方とは思わなかったので,すっかりやられちゃった。隠された本当の「絵」が見えてきたときには「なるほど,なるほどなるほどね~!」と膝を打ち,騙されたのに嬉しくなってしまう,この不思議なカタルシス。

特に印象に残るのは,やっぱり飄々とした木村クンのキャラだ。その正体が見えてないときも,謎めいたところがとっても気になる存在感を出していたが,真実がわかってみても,やはり心惹かれる人物像となっていた。・・・・・健気でもあり,天然っぽくもあり,不器用でもあり。
Photo_20
エレベーター内の出来事の真相がわかるラストシーン(蓋を開けてみれば,ホントなんてことない真相)は,あまりにもかわいらしくって大好きだ。劇場でもここでクスクス笑いが起こっていた。

クライマーズ・ハイ以来注目している堺雅人,ますます好きになってきた。いつも微笑んでいるような優しげな眼も好きだけど,確かな演技力がすごいと思う。あと,声がとてもいいね,このひと。篤姫は観てないので,DVDになったら観てみよう。

爽やかで楽しくて,観終わった後,絶対もう一度見直したくなる作品だ。2度目は「だまし絵」を,正しい見方で確認しながら観なくっちゃ・・・・。

A000175300_2 

2008年8月27日 (水)

君のためなら千回でも

Kite789526
あらすじ: アミール(ハリド・アブダラ)は兄弟のように育った使用人の息子ハッサン(アーマド・カーン・マーミジャダ)との間にできた溝を埋められぬまま、ソ連侵攻の折にアメリカに亡命した。そのまま時は過ぎ、作家となったアミールの元に、パキスタンにいる知人から1本の電話が入り、故郷に向かうことになる。(シネマトゥデイ)

君のためなら千回でも・・・
なんという,無償の愛にあふれた美しい言葉だろう。
「君」の箇所に,愛するひとの名を入れて,
そっとつぶやいてみたくなる。


Cap021
この台詞は,少年時代のアミールが,使用人の息子ハッサンから受けたもの。1970年代,平和だったカブールの伝統的な凧合戦の場で,アミールのために糸の切れた凧を追いかけに行く時の,ハッサンの台詞だ。その言葉と,ハッサンの輝くような笑みから,彼らふたりの間には,身分の違いを越えた堅い友情があったことがわかる。しかし・・・・その直後に降りかかった悲劇は,二人の間の絆を断ち切ってしまう。

ハッサンは,宗教や顔立ちの違いから,差別を受けてきたハザラ人。そんな彼がアミールと仲良くするのを,快く思わない不良たちによってハッサンは襲われ,アミールは彼を見殺しにする。深く傷つきながらも,ひとこともアミールを責めないハッサンの態度は,かえってアミールの罪悪感をつのらせ,ついにいたたまれなくなったハッサン親子は,アミールの家を去ってゆく。

Cap029
やがてソ連軍の侵攻が始まり,反共産主義の父親はアミールを連れて,アメリカへと逃れ,そこで成人したアミールは,妻を迎え,作家としての道を歩み始める。そんな彼のもとに,アミールの屋敷を守っていたハッサンがタリバンによって命を奪われ,彼の息子がタリバンに囚われているという知らせが入る。

ハッサンと自分の隠された関係を初めて知り,ハッサンの手紙に書かれた,自分への変わらぬ愛に涙したアミールは,彼の息子ソーラブを救い出すべく,数十年ぶりに,荒廃したカブールへ戻る決心をする。

Cap002_3
・・・・これは,贖罪を描いた物語だ。
その点では,つぐないと似たテーマだが,「つぐない」では,贖罪が叶わない切なさを描いていたのに対し,この物語の贖罪はみごとに成し遂げられ,アミールの心は長年の罪悪感から解放されて,再生への道を歩き出す。その点では,とてもあたたかく,さわやかな余韻が心に残る,美しい作品だ。

贖罪とは,被害者の心を慰めるためよりもむしろ,
加害者の心を癒すためになされるのかもしれない。


成人したアミールの瞳に,いつも影のようにつきまとっていた罪悪感。臆病で,卑劣で,自分勝手な行いを恥じる思いは,ずっと心の奥底にあったろう。
Cap034_2
彼を演じたハリド・アブダラは,ユナイテッド93でテロリストを演じた俳優さんだ。あの作品でも,セリフはほとんどないにも関わらず,強烈な存在感を醸し出していたが,とにかく「眼で語る」ことのできる素晴らしい役者だと思う。

監督は,チョコレートや,主人公は僕だったマーク・フォースター監督。人間理解に関して,独特の視点と豊かな感性を持つ彼の作品は,大きな痛みや哀しみを描きながらも,しみじみとした優しさがにじみ出ている。


ソーラブの救出が簡単すぎたような気もしないではないが,この物語の贖罪は,やはり成功してくれて,心からよかったと思う。現実の世界では,いつもいつも贖罪がうまくいくはずはなく,「つぐない」のように,叶わないことの方が多いとは思うけれど・・・・。それでもこの作品は,大なり小なり,過ちや失敗を繰り返して生きている私たちに「人生は,やり直しがきく」という希望を与えてくれる。

カリフォルニアの大空に
凧が舞うラストシーン・・・・。

Cap049
30年前にハッサンが言ったあの美しい言葉,「君のためなら千回でも!」を,今度はアミールが,ソーラブに向かって高らかに叫ぶ。


アミールにとって,それまでは辛い思い出と結びついていただろうこの台詞を,ようやく彼は胸を張って,ハッサンの息子に返すことができたのだろうか。

アミールの晴々とした笑顔と,心の傷が少しずつ癒されている証のように,明るさを増してゆくソーラブの表情を見ていると・・・・最後の最後で,不覚にも涙が溢れた。

2008年8月19日 (火)

ダークナイト2度目鑑賞

2467345001_574a131847_2
2度目に観るときは,ジョーカー以外の俳優さんの演技もしっかり見届けようと・・・・決心して劇場に向かったはずなのだが。

だめだ。なまじストーリーがわかっているだけに「あ,ここでジョーカー登場!」とか待ち構えてしまって・・・・。結局1度目にも増してヒースばかり追ってしまった。2度目のジョーカーは初見ほど怖いと思わず,そのすらりとした身体の動きや鮮やかな犯罪の手口を,なんと惚れ惚れと見つめている自分がいた。(ヒースファンならではの現象であって,悪の権化のジョーカーを応援している,というわけではないよ。)
2690958922_c0fc8f2fe9_2
ジョーカー(=悪魔)に翻弄される人々。狡猾なジョーカーは,相手に応じて作戦を変えてくる。その人の一番の弱点や落としどころを,ちゃんと心得ているのだ。

バットマンの弱点は,彼が正々堂々とした法の番人ではなく,「正体を隠した正義の味方」だというところ。それゆえ,ゴッサム・シティの住人たちのバットマンへの 支持や敬愛はジョーカーの脅しによって,いとも簡単に翻ってしまう。

2231548041_8cd5a7b714
マスクなど必要としない,正真正銘の「光の騎士」ハービー・デント。鉄の意志を持っているように思えた彼が崩れた理由は,意外にも愛する人の死だった。その怒りや恨みに我を忘れて,復讐の鬼と化してゆくデント。「俺は殺す気なんてなかった。」と巧みに言い逃れるジョーカー。

ブルースやデントでさえ翻弄されるのだから,一般の人々の心を混乱させるのなど,ジョーカーにとっては朝飯前のこと。「予想外のことには皆パニックになる」「悪への道は重力と同じで,ほんの一突きでまっしぐらに落ちてゆく」ジョカーの言葉は,おそろしく核心をついている。
2418547115_4de293e478_2
「相手の船を爆破すれば,助かる」という,苛酷な選択を強いられた人々。「殺さねば,殺される」というお膳立てだ。なんという悪魔的な発想!この場面はまさに,ジョーカーの邪悪さに心底戦慄するシーンだ。しかし,同時に,このダークな物語の中で,唯一「救い」を感じることができたシーンにもなった。

光と闇の戦い。善と悪の戦い。
神と悪魔の戦い・・・・

バットマンは明らかに,神の陣営に立っている。
ただし,一見「悪」が優勢であるかのように見える今は,彼にとっては,己を徹底的に犠牲にすべき「時」なのだ。他人の罪をかぶり,追われる身となることを甘んじて受ける「時」・・・。

2421664640_bbb9bf5fc1
いやはや,並みいるアメコミ・ヒーローの中でも,バットマンほど報われない,試練だらけの崇高なヒーローはいないんじゃないか?「人々の憎しみには耐えられない」と言っていたブルースが,彼を支え続けていたアルフレッドやゴードンやフォックスなどの「チーム・バットマン」のもとを離れ,闇の中へと逃走してゆくラスト・・・・。

あのバットマンの後姿を思うとき,ヒース恋しやとは,また違った涙がこみ上げてくる。・・・バットマンのための涙だ。
なんて哀しいヒーロー,バットマンよ!

2686076847_0f9a558355
この作品では,ややヒース・ジョーカーに押されぎみのバットマンだけど,ベイルの知的で忍耐強そうなキャラは,まさしく「悩める人ブルース」にぴったり。ジョーカーが,ヒース以外はもう考えられないのと同じくらい,ブルースもまたベイル以外は考えられない。
続編・・・今から期待大なのであるけど,ヒースが続投できないのだけは,なんといっても悔しい。

2252035311_2e94dd2b6a
ダークナイトでは「悪魔」を演じたヒース・レジャーだけど,才能を遺憾なく発揮し,世界中から評価された彼は,映画界の中では,まさしく「神」のような伝説的な存在になるかもしれない・・・とまで言ったら,言いすぎだろうか?

2008年8月18日 (月)

ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝

Tm3_07

あらすじ: “シャングリラの目”と呼ばれる巨大なブルーダイヤを返還するため、外務省の依頼で上海にやって来たリック(ブレンダン・フレイザー)とエヴリン(マリア・ベロ)は、現地で遺跡の発掘にいそしんでいた息子アレックス(ルーク・フォード)と再会。そんな中、アレックスの発掘した皇帝のミイラが生き返る事件が発生する。(シネマトゥデイ)

Mummy3_wallpaper1_sm
ブレンダン・フレイザーって,昔からちっとも変ってないな~~,というのがまず第一の感想。この人の作品はハムナプトラシリーズしか観てないのだけど,コメディタッチのアクションものが本当に似合う人だ。少年っぽい可愛さと,ワイルドな男の色気を併せ持っていて,英国紳士風のシックな服装も,サバイバルファッションもどちらもよく似合う。中年の域に達して,なんだか渋みが加わって,ますますカッコよくなったような気も・・・・。今回は成人した息子も一緒に活躍するのだけど,あんな大きな息子のパパにはとても見えなかった。

シリーズ2作目まではヒロインを演じていたレイチェル・ワイズが降板したのはやはり残念。マリア・ベッロも冴えたアクションを披露して頑張っていたが,やはりオコーネル夫人はレイチェルでないと・・・。ブレンダンとレイチェルって,顔のタイプが似てるので(目鼻立ちの濃い丸顔)似た者夫婦って感じでとてもお似合いだったのに・・・・。

そしてせっかくのジェット・リー起用だけど,彼はどうしても,「地味な英雄」というイメージがあるので,「よみがえったらトンデモないことになる暴君」という役は,あまり似合ってなかったような・・・・?悪役が似合わない顔のような気がする。
05ca1a89
ミシェル・ヨーとの立ち回りはよかったけど,その他のシーンは,何か変なものに変身してばかりで,なんだか勿体なかった・・・・・。

ストーリーはつっこみどころも満載で,笑うしかないようなトンデモない設定なのだけど,まぁ,このシリーズは,もともと「生き返ったミイラと闘う」というお話なので,2000年も生き続けている母娘とか,動く埴輪(はにわ)群団とか,何が出てきても笑って許してあげようよ。・・・・さすがに,雪男が出て来た時には「やりすぎやん」と思ったけど。

080425themummy
実際に花火が炸裂するぶっ飛びカーチェイスがあったけど,この作品自体が,お祭り騒ぎのような雰囲気の楽しいエンタメだ
家族連れ鑑賞におすすめ~~。観終わった後は特に何も残らないが,それはそれでいいかと・・・・。

2008年8月17日 (日)

スリーピー・ホロウ

Cap037_2
バリバリのジョニーファンというわけではないのに,新作の合間にときどきジョニー作品をアップしているのは,やはり彼の作品って,思わずレビューしたくなるような,魅力のあるものが多いからかな。

今回のスリーピー・ホロウは,私が初めてジョニー&ティム・バートンのコンビにお目にかかった,記念すべき作品。・・・・・それまで私ったら,ジョニー・デップを見たことがなかったのよ~(名前は聞いてたけど)。わずか10年前の作品なのにね。たしか,この頃は映画を観るどころじゃない環境にいたもんで。
Cap035_2
あまりにも有名な作品なので,ストーリーなんかは省くけど,アメリカのニューヨーク近郊の都市伝説「首なし騎士」のお話がもとになっている。

話は脱線するが,「首なし騎士」と聞くと,私は自分の町に昔から伝わる「首切れ馬」の伝説を思い出す。それは大みそかの晩に,山寺に押し入った強盗団に首を切り落とされて殺された馬の幽霊が,除夜の鐘の音とともに,街中を走りぬけ,それを目にしたものは死ぬ・・・という言い伝えで,子供の時は,首切れ馬の走るルートが,うちの家の前を通っていると親に脅かされ,大みそかの晩は本気で怖がっていた。(今ではそれが大嘘だったことを知ってるけど)

Cap039_2
話がそれたが,このスローピー・ホロウの魅力は何といっても・・・
とにかくとにかく,とにかく,映像の摩訶不思議な美しさ。監督さん誰っ?ティム・バートンって誰よ~!って一発で名前を覚えた。

すごく品のある,グレーを貴重とした色合いがね,なんともいえない。
Cap003_2
水墨画を思わせる,スリーピーホロウの村の怖美しさ。
凍てついた夜道を,夜霧を裂いて疾走する馬車。
不気味なアートのような死人の木。
闇の中で,火を吹いて鮮やかに燃え上がる風車。
どのシーンを切り取っても,幻想的な絵画そのもの。
・・・・そう,流される血の色までもが美しかった・・・・。
Cap056_2

そして,その絵の中に,この上なく,ぴたっとはまっていたジョニー・デップ。こんなひといたのか~~~!とこれも心の中で絶叫。彼が演じた捜査官イカボットが,またいい具合に天然で,ちょっとヘタレで(それでもいざと言うときには,不思議と強かったけど)母性本能をくすぐるのよね。

Cap026_2
↑実は怖がり

この時代には珍しい・・・科学捜査のさきがけなんだけど,内心にトラウマを抱えているところなんぞ,フロム・ヘルのアバーライン警部とも共通するところがある。でも,このイカボット君のほうがずっと初心(うぶ)で若い!と言う感じ。

Cap041
・・・・・とにかく美しいんです。この作品のジョニー。
黒いフロックコートが似合いすぎ。本当に,バートン監督の描くダークかつ幻想的な風景に,これほど似合うひとはいない。互いが互いを引き立て合って,文句のつけようのない美しさを醸し出す。なんというか,童話の中のキャラクターのような,現実感のない美しさなんだけど。

それと,他に印象的だったのが,可愛いんだけど,なんとなく妖女(というか小人っぽいというか・・・)のような雰囲気を持っているヒロインのクリスティーナ・リッチがハマり役だったのと,首なし騎士の役を演じていたクリストファー・ウォーケンの存在感。

Cap058
ウォーケンのセリフって,「ハァーッ!」という威嚇の声のみ。よくぞこんな役を」と最初は驚いたけど,さすがの貫録で,単なるモンスターキャラにとどまらず,彼の演じる騎士からは,成仏できない幽霊の悲哀のようなものも感じてしまった・・・。

Cap051
スリーピー・ホロウは,
ジョニーとの出会いの作品。

一目ぼれとまではいかないけど,以来,彼の作品を必ずチェックするようになった理由は,やはりこの出会いが素晴らしかったからだと思う。今でもジョニー作品の中では一番のお気に入りで,年に何回かはDVDを観たくなる作品のひとつ。

2008年8月14日 (木)

寝苦しい夜の悪役祭り

Jokerminibust
まったく今年の夏の暑さときたら・・・・!
いつから日本は亜熱帯になってしまったんだ~~! と,2月生まれで,暑さに超弱いわたし(寒さには強いの)は,ひたすら,秋の到来を待ち望んでおります。

ところで近日,ノーカントリーダークナイトと立て続けに鑑賞し,半端じゃない悪役の恐ろしさに,背筋の凍る思いをいたしました。犯罪映画(特に連続殺人鬼もの)とかを好んでみる私としては,ちょいと過去作品の印象に残る悪役たちにも,思いを巡らせたりしている今日この頃です。

犯罪映画には悪役はつきものですけど,
星の数ほどいる彼ら悪役の中でも
犠牲者を選ぶ対象が,無差別に近いこと
正常な人間性の,著しい欠如が見られること
健在のまま,野放し状態でラストを迎えたこと

この3点をクリアした悪役を,いろいろ思い出してみました。

ヒースのジョーカーについては,自分の記事でさんざん書いているので,ここであらためて述べはしませんが,他の悪役たちとの比較基準に使わせていただきます。


アントン・シガー
20080331214603_2
ジョーカーに出会うまでは,間違いなくトップの座に君臨したと思われるシガー。
殺し屋である彼の殺人は,いわば「お仕事」であるので「無差別」ではないかもしれませんが,追跡の道中に出会った無関係の人たちをも,容赦なく虫けらのように殺してゆくので,ある意味,無差別に近いかも。その非情さと不気味さは,およそ血の通った人間とも思えません。別に特殊なメイクをしなくても,その悪趣味な髪型とファッションは,人をぎょっ!とさせる効果があります。彼に出会ったが最後,運を天に任せるしかないのです。(コイントスゲームに勝てば助かるという望みもあり
唯一の救いは,彼の殺しは一瞬で終わるので,そんなに苦しみを感じなくてもすむ・・・ということでしょうか。不意打ちはされますが,なぶり殺しはされません。しかし彼に追われていると知った人は,生きた心地はしないでしょうけど。

ハンニバル・レクター
Cap017_2
正しくは,アンソニー・ホプキンスのレクター博士なんでしょうが,好みで画像はギャスパーで・・・・。「食人」というおぞましい犯罪を,高いインテリジェンスとエレガントさで,美学にまで高めたかのように見えるこのお人。殺し方は常に,ユニークかつ華麗で,残酷であります。そのカリスマ性を見る限りでは,やはり映画史上,最高かつ最凶の殺人鬼であるともいえますが・・・・。同時に,「恐れられ」つつも「敬愛される」点(観客からね)もあるのが,レクター博士の特徴のような気もします。 また,自分に無礼を働いたり,邪魔をしたりする人間を犠牲者に選ぶので,(復讐もあり)無差別にはあたりませんが,何の恨みもなくても,単に「うまそうだから」という理由で,殺されちゃう可能性はないとはいえません・・・・。


ジグソウ

Mains_4
実は,私は「ソウ」は1しか観てないので,ジグソウについてはそんなに正しく詳しく知っているわけではありませんが,インパクト強くて忘れられないですね~~。被害者(一応選ぶ基準はあるそうです)に壮絶な生き残りゲームを強いる・・・・という設定そのものが悪魔的で,嫌悪感が半端じゃなかったです。その手段は拷問系なので,犠牲者の味わう肉体的な苦痛は・・・・ 彼は続編が進行するうちに,被験者によって殺されちゃったみたいですが,(未見なので間違ってたらすいません)後継者がちゃんと出てきてるようなので,「野放し」状態に近いです。
拷問系は苦手な私としては,ジグソウの手中に陥るよりは,むしろシガーにさっさと息の根を止めてもらいたいです・・・・。ま,この中でもジグソウが一番,実際には遭遇しそうもない非現実的なキャラですけど。

ファニー・ゲームの犯人たち
A0106582_14332183
今までで観た犯罪映画の中で一番後味が悪かったのが,ミヒャエル・ハネケ監督の「ファニー・ゲーム。平和な避暑地にやってきて,最初は「タマゴを貸してください」とか他愛もないことを口実に,家に入り込んで居座り,一家を精神的にいたぶりながら皆殺しにする犯人の若者たち・・・・(殺される一家の主人役が,善き人のためのソナタウルリッヒ・ミューエさん・・・ひたすら可哀想だった。)
公開された当時は,バッドエンドがそんなに今ほど氾濫してなかったので,あくまで救いのないラストと,何事もなかったかのように,次のターゲットへと向かう犯人たちの満足そうな薄笑いが衝撃的で・・・・。あまりのショックに,2度も続けて観てしまいました。製作側(たぶん監督)が故意に彼らの悪行を全く断罪しておらず,観客の不快感をピークにまで高めるような作りになっています。・・・・しかし,この犯人たちとは,ある意味では,現実社会でも,一番遭遇しそうで怖いですよ。

・・・・でも,一番怖いのはやはりヒースの演じたジョーカー。彼だけは,何をもってしても,倒すことなど不可能に思えますもん。・・・・・なんせ,悪魔そのものですから。

2421087353_6455ac9310
・・・・笑わせてやるぜ。

いろいろな悪役について考えてたら,さすがに気が滅入ってきたので,ここらへんでやめておきますが,映画史上に残るほどの悪役を演じるのは,やはり桁外れの演技力が必要だということ・・・・はわかりました。(ジグソウに関してだけは演技力は??ですけど。)

ヒースのジョーカー・・・・そういう意味でも,彼の才能を世にはっきりと示すことができたと,その点ではとても嬉しい,同時にヒースに感謝したくなる・・・・。彼がこの世にいないことが,やはりまだどうしても納得はいかないのですけどね。

皆さんの過去鑑賞作品のなかで,
印象に残ってる悪役って誰ですか・・・・?

2008年8月 9日 (土)

ダークナイト

Wallpaper_joker_800_2 

先行上映をご覧になったブロガーさんたちが,こぞって高評価のこの作品。今日,公開と当時に鑑賞してきたが,確かに桁外れの完成度の高さ。

アクションのスケールといい,テーマの奥深さといい,キャラ立ちの素晴らしさといい,観客を茫然とさせる圧倒的な余韻といい…

・・・・これは,もはや
アメコミの範疇を軽く越えている。

あらすじ: 悪のはびこるゴッサムシティを舞台に、ジム警部補(ゲイリー・オールドマン)やハーベイ・デント地方検事(アーロン・エッカート)の協力のもと、バットマン(クリスチャン・ベイル)は街で起こる犯罪撲滅の成果を上げつつあった。だが、ジョーカーと名乗る謎の犯罪者の台頭により、街は再び混乱と狂気に包まれていく。最強の敵を前に、バットマンはあらゆるハイテク技術を駆使しながら、信じるものすべてと戦わざるを得なくなっていく。(シネマトゥデイ)

Cap028_2
何と言っても特筆すべきは,やはりジョーカーの恐ろしさだろう。史上最悪,最凶の悪役と評価されているヒースのジョーカー。

最初の登場シーンの彼は,そう恐ろしいとは思わなかった。毒々しいピエロメイクは異様だが,見覚えのある後ろ姿や髪型に,「ああ,ヒースだ」と,不覚にも,懐かしさの涙がこみ上げてきたほど。

しかし物語のスピーディーな展開と共に,彼がゴッサム・シティにもたらす混乱と恐怖が,果てしのない加速をつけてエスカレートするに従って,心が凍りつくような怖ろしさに,身動きできなくなってしまった。

2453092330_a3077e3513_o
バットマンもそうだけど,ジョーカーもまた,身体能力は普通の人間だ。スーパーパワーで変身したり,攻撃したりできるわけではない。

その恐ろしさ,おぞましさは,彼が人々の心を,恐怖や復讐心などを利用して巧みに操り,毒を吹き込み,悪に染める点にある。高潔な志や善意を持った人々の心を堕落させ,罪を犯すように仕向けることが楽しくてたまらないのである。並みの殺人鬼と違い,彼が人々に与える悪魔的な影響は,戦慄すべきものがある。

・・・・これは,まさしく悪魔の所業そのもの。
これほど悪魔と酷似した目的を持って君臨する,悪役を見たのは初めてだ。

Cap035
ちろちろと舌を覗かせてしゃべる口元は,まるで狡猾な蛇のよう。狂気を含んだ耳障りな笑い声は,この世の全ての善なるものを,嘲笑うかのような悪意に満ちている。今まで見知っていたヒースとは似ても似つかぬ,邪悪の化身のようなジョーカーがそこにいた。

こんなキャラを演じるには,
どれほど大きなエネルギーと,才能が必要だろう。
ヒース・レジャー,
あなたって本当に・・・。

あらためてその役者魂と才能の凄さに言葉を失う。

生身の人間がこのジョーカーになり切る・・・・彼がこの作品の撮影中に,どうしてあんなに神経をすり減らしたのか,わかるような気がした。

080415_darknight_sub2

ジョーカーに振り回される登場人物たち。特に,ダークサイドに落ちてゆくアーロン・エッカートの怪演は必見だ。(焼けただれた顔半分がすごすぎる・・・・)
持ち前のアクの強いオーラを封印し,「ビギンズ」の時と同じく,地道な法の番人として,バットマンをサポートするゲイリー・オールドマンも今回は見せ場がたっぷり。脇を固める重鎮,マイケル・ケインモーガン・フリーマンの決め台詞も,さりげなくカッコよくて申し分ない。ジェイクの姉,マギーは,気丈で愛くるしいヒロインを演じている。

しかしラストになっても,決着はつかず,
闘いの幕は閉じることはなく・・・。


Cap029
バットマンが下した苦渋の決断。この作品の題の「ダークナイト」は,バットマン本人を指しているのか!ジョーカーの別名かと勝手に思っていた。

壮絶な光と闇との死闘を,共に体感させられた後は,アメコミ鑑賞後につきものの,軽やかな爽快感ではなく,強い酒に酔ったような,目眩にも似た気分に襲われた。

もはやこの世にいないヒースを想って,涙があふれてきたのは,エンドロールの時。気がつくと,一人で鑑賞していた隣の席の男性も,こっそり涙を拭いていた。・・・・この人もきっと,ヒースのファンだろう。

おまけ画像    クリックすると壁紙サイズになりますよ。
Ezredotemplate

2008年8月 8日 (金)

ノーカントリー

Wallpaper01_1024x768 
2008年,アカデミー賞受賞作品。DVD リリースを待ちかねての鑑賞。単純に「感動した」とは言いがたい。しかしさすがに,途方もないパワーを持った,超ヘビー級の作品だった。

ストーリーはいたってシンプル。
そしておそらく,保安官ベルが,同僚と語る嘆きのこもった台詞の中に,病んだアメリカに対するメッセージが込められているのだろう。

071204_nocountry_sub1
それにしても強烈なのは,他のブロガーさんたちも口を揃えて言及している,殺し屋シガーのキャラクターだ。

ギョロリとした無表情な眼。巨体に似合わぬマッシュルームカット。彼には,金も,麻薬も,取引も通じない。そもそも他者との会話のキャッチボールができない彼には,命乞いなど通用しない。その心に,人間らしい感情なぞ,一片も持ち合わせていないように見える,静かな狂気を秘めた男,シガー。

彼は自分なりの殺人のルールを持っていて,コインの裏表を当てさせることで,相手を生かすか殺すかを決める。そしてシガーは,モスを追う道中も,自分のルールに従って,無関係な人を次々と殺してゆく。不幸にも彼と出会ってしまった人は、二分の一の確率で死を迎えることになる。

この男に目をつけられたら最後,
逃れられる人間などいまい。

080215_nocountry_sub4
モスもまた,ベトナム帰りの猛者(もさ)であり,妻をして「誰にも負けない」と言わしめる男なのだが,相手がシガーでは,「いずれ時間の問題だろう」ということは予想がつく。まあ,このモスも,持ち逃げした金に最後まで執着するような男だから,あまり同情するには当たらない。それよりは巻き添えを食って殺された人たちの方がよほど気の毒。

とにかくシガーの通った後は死体が転がる。
「奴を見たのに,まだ生きているのか?」と尋ねた,もう一人の殺し屋の台詞が怖い。もはや彼は,人間ではなく,理不尽で不条理な死そのもののようだ。

そして作者がアメリカを血と暴力の国と捉え,不条理な死が横行する世界だと示唆するなら,ラストでシガーが,逮捕もされず死にもせず,まるでターミネーターのように次の標的を探すべく立ち去る理由も,わかる気がした。
・・・・だって死神は滅びることなんてないのだから。

071121_nocountry_main
その顔に,苦渋と諦念をにじませた保安官ベルは,いわばアメリカの老いた良心の象徴なのだろうか。安心して住むことのできない国アメリカは,この先どこへ向かうのか。

アメリカの事情はよくわからないけど,オスカーを取ったということは,この作品の訴えるメッセージに共感する人は多かったのだろうか。確かにコーエン兄弟の,職人芸にも似た作品作りの才能には,毎回唸らされるのだが。

これまでにスクリーンでお目にかかった悪役の中では,不気味さと恐ろしさでは群を抜いているシガー。しかし,おそらく彼を上回る最凶の悪役,ダークナイトのジョーカーを,明日鑑賞する予定だ。猛暑の中,ヘビーな作品が続くけれど,パワフルな悪役に鳥肌を立てるのも,一つの暑気払いの方法かも・・・・。

2008年8月 6日 (水)

いつか眠りにつく前に

Img_296170_2858870_0_2 

あなたが最期に呼ぶのは
誰の名前ですか?

人生が,今まさに幕を閉じようとするとき,誰でも,自分の生きてきた軌跡を,振り返らずにはいられないのだろうか。そのとき「満ち足りた人生だった」と,心から言える人は,いったいどれくらいいるのだろうか。

Cap167
この物語の主人公のアンが,死の間際に名を呼んだハリス(パトリック・ウィルソン)は,彼女の生涯でただ一人の愛する人だったのか?たった一度限りの関係にもかかわらず…?ハリスの名前と同時に彼女が口にしたのは,「自分は大きな過ちを犯したの」という言葉。

二人の娘,コニー(ナターシャ・リチャードソン)ニナ(トニ・コレット)は,母親の意味深な台詞に戸惑いを隠せない。まるで今までの人生を後悔しているような母の言葉は,子供の耳には少なからずショックだったと思う。

そんなことはない,母は幸せだった,と断言する姉のコニー。しかし,生きることに不器用で,自分に自信のない妹のニナは,母の言葉をそのとおり受け止めて,あれこれ思い悩む。

おそらく一目ぼれに近い運命的なものだったに違いないハリスとの恋。しかし,彼との愛の思い出は,当然,その同じ時間に,失意の中で死んでいったバディとつながる。アンにとって,ハリスを想うことは,裏返すと,バディへの自責の念に苦しめられることでもあったかもしれない。

Cap184

ハリスをあきらめて生きる彼女のその後の人生は,どこか投げやりで,満たされないものだったのだろう。二人の娘に対する,「いい母親じゃなかったわ」という自嘲的な言葉からは,アンの人生に対する苦い後悔が感じられる。

死の床にあって,最もいとおしい思い出と,
最も哀しい思い出が,表裏一体となって蘇るアン。

Cap181
いずれにしても,死にゆく人が,自分の人生を悔いている姿は,
何と寂しいものか。

そんなアンの呪縛を解いたのは,ライラ(メリル・ストリープ)の訪問だった。ライラに対しても,アンは,心のどこかで,罪の意識を持ち続けていたと思う。仕方がなかったとはいえ,ライラが長年思い続けていたハリスは,一瞬にしてアンの虜になり,弟のバディは,アンの心ない言葉に傷ついたまま逝ってしまったのだから。

そんなライラと再び抱擁し合い,彼女の微笑みに癒されることは,アンにとっては懺悔のような時間ではなかったか・・・?
Cap194
娘時代は,どちらかというとアンに頼っていたようなライラが,年老いた今は,限りない包容力をこめてアンを抱きしめる。「幸せだった・・・?」と恐る恐る尋ねるアンに,「時々ね。私はあなたのように,多くは望まないから」と答えるライラ。

一番欲しかったものは得られなくても,目の前にあるものに満足し,その中に幸福を見出しながら,地に足をつけてしっかりと生きてきた彼女の賢さや優しさが,アンの心の傷を癒していく瞬間だ。

ライラが去った後,見違えるように冴え冴えと笑うアンを見て,またライラが自分に残した「お母様の人生は完璧よ。だって,あなたを生んだのですもの」という言葉を聞いて,自分のお腹に宿った新しい命を,心から喜んで生む決心がついたニナ。演じるトニ・コレットの表情がすごくいい。

Cap172
この作品は,2大女優の母娘共演ということでも話題を呼んだが,ヴァネッサ・レッドグレーヴとナターシャ・リチャードソンの声がそっくりだな~と感心したり,メリル・ストリープの娘のメイミー・ガマーは美人ではないけど,さすがカエルの子はカエルで,主演のクレア・デインズよりよっぽど存在感のある演技をするなぁ,とか,いろいろ楽しい見どころもあった。

一度しかない,かけがえのない人生。その時々の場面で,最良の選択をしたいと,誰もが思う。それでも,私たちは不完全な生き物だから,過ちを犯し,後悔を繰り返す。

愛してしまった過ち。愛せなかった過ち。
傷つけてしまった過ち。
一歩踏み出せなかった過ち。
なすべき義務を果たせなかった過ち。

人間とは,なんと不完全で哀しいものだろうか。

どう生きるかも,もちろん大切だけど,どう死ぬかはもっと大切な気がする。人生の黄昏どきには,やり残したことを片づけて,傷つけた相手には謝罪をし,伝えたい相手には愛の言葉を残して,心穏やかに逝けたらどんなに幸せだろう。(←無理だな)・・・・そんなことをいろいろと考えさせられる物語だった。

2008年8月 4日 (月)

青い棘

1280x1024_01_2
・・・僕らは一番美しい瞬間に
この世を去るべきだと思わないか?


1927年にベルリンで起きたシュテークリッツ校の悲劇を題材にした物語。先日,ヒトラーの贋札アウグスト・ディールを,そしてラヴェンダーの咲く庭でで,ダニエル・ブリュールを観たばかりなので,このお二人が主演しているこの作品を,久しぶりに鑑賞。

名門ギムナジウムに通う二人の美しい青年たち。ドイツの学生・・・というと,ヘルマン・ヘッセの車輪の下とかデミアン,もしくは萩尾望都11月のギムナジウムトーマの心臓とかが思い浮かぶのだけど・・・・。
Cap005
パウル・クランツ(ブリュール)ギュンター・シェラー(ディール)。生まれ育った環境は違うけれど,二人は親友同士だった。事件の起こる夏のある日,パウルはギュンターの別荘に誘われる。物語は,惨劇までの数日間を,5人の若者の行動を追いながら描いている。

パウルギュンター,ギュンターの妹の美しいヒルデ
その友達のエリ,・・・そして見習いコックのハンス

Cap016_2
この5人は,互いに複雑な愛憎関係にある。

奔放なヒルデを,愛してしまう純情なパウル。ハンスと元恋人の関係にあり,彼を取り戻したいと望んでいるギュンター。今はヒルデの恋人になっている,不実な遊び人,ハンス。そして,パウルがヒルデを愛しているのを知りながらも,パウルを愛するエリ。

・・・・なんかもう,片思いと同性愛と復縁問題が混じって,ごちゃごちゃである。いつ,修羅場が繰り広げられても,おかしくない関係だ。
Cap023

これが大人のお話であれば,もっとドロドロした雰囲気がたちこめるだろう。けれど,なぜか透明感すら感じる美しい空気が,作品全体を覆っているのは,10代という,彼らの年代特有の純粋さゆえか,それとも,ドイツの深い森や,美しい湖の風景や,鳥のさえずりや,彼らに降り注ぐ,どこまでも透き通った陽光のせいなのだろうか。

Cap011_2
アウグスト・ディールが演じたギュンター。
その愛の対象は同性であり,恋敵は妹,という状況の彼が,親友パウルに語る人生観は,若さゆえの,危うい情熱に満ちて,詩人の魂を持つパウルの心を刺激する。

真の幸せが訪れるのは,おそらく一生に一度だけだ。そのあとは,幸福の瞬間を一生忘れられない罰が待っている。その時が来たら,人生に別れを告げるんだ・・・一番美しいときに。

そして彼らふたりは,密かにある約束を交わす。
いわゆる,自殺クラブの宣誓書のような約束を・・・・。
Cap026_2

我々が死ぬ理由は,愛のみ。我々が殺す理由も愛のみだ。だから我々は,愛が消えた瞬間に死を選び,愛を奪った者を道連れにすると誓う。

ギュンターたちの考え方,感じ方からは青春時代特有の,痛々しいまでの一途さと傲慢さを感じる。インタビューで監督が「自分の青春時代の感じ方を思い出した」と語っていたが,あの頃は誰でもこういう,危険で極端で純粋な感性に囚われるものなのだろうか?

この世で価値のあるものは愛だけ,という狭い価値観や,ゆく手に待っているかもしれない挫折を恐れる脆さ。まだ20歳にもなっていない彼らが,人生を断言し,そういう自分の姿に,一種の恍惚感すら覚えている・・・。

いやしかし,青春という麻薬は,時にはそのような危なっかしい幻覚を見せる場合もあるのだろうか。たとえ一時的に過ぎ去るものではあっても・・・。何にせよ,思いつめる年代であることだけは間違いない。誰でも自分の青春時代を振り返り,思い出の中にギュンターたちと同じ感性を探し当てようと試みれば,何かひとつくらい,思い当たることが出てくるかもしれない。

Cap036
ヒルデを演じた,アンナ・マリア・ミューエは,あの善き人のためのソナタウルリッヒ・ミューエさんの娘さんだそうで・・・・。くるりとした瞳が,そう言えば似てるかも。

どちらかというとぽっちゃりタイプなのだが,無邪気さ,奔放さ,妖艶さ・・・などを備えたファム・ファタールを魅力的に演じていた。もっとも,「ひとりの男性に縛られたくないの」などと言って,純情なパウルを手玉にとり,同時に兄も苦しめて惨劇のきっかけを作った彼女のキャラには,やはり眉をしかめてしまったが。

Cap041
結局,自殺クラブの盟約を守って,愛のために相手を道連れにして死んだのは,ギュンターだけだった。土壇場で我に帰ったパウルに比べて,彼の方がより深く傷ついていたというわけか。

その後,逮捕されたパウルが,取り調べの席で「何も知らずに言うな」と相手の憶測を否定する場面があるけど,パウルたちの,あの熱に浮かされたような切羽詰まった心情は,確かに誰にも共感してもらえなかったに違いない。相手が分別のある大人の場合は特に。

事件当時,世界中を揺るがせたというシュテークリッツ校の悲劇。この不可解で痛ましい事件を,否定も肯定もせずに,ドイツの2大人気若手俳優がみずみずしく演じた救いがないにもかかわらず,美しさに溢れた作品である。

邦題の青い棘というセンスは秀逸。この年代ゆえの,未熟さや,傷つきやすさ,デリケートさをよく象徴している。

2008年8月 2日 (土)

幻影師アイゼンハイム

001 
すべてを欺いても,手に入れたいもの
・・・・それは君。


一度でいいから,だれかに言われてみたいなぁ,
こんな物騒な殺し文句

プレステージみたいな雰囲気かな~,と思いつつ,19世紀のウィーンが舞台という設定やエドワード・ノートン主演!というのに惹かれて鑑賞。同じ日にインクレディブル・ハルクも観たので,まったく違う魅力のノートンがそれぞれ堪能できた。

2008052f032f912fc0103691_12554949   

一世を風靡していた天才魔術師が,その総力を結集して,
身分違いの悲恋を成就させようとする物語。

これは,あらすじを語るのはタブーの作品だな。
物語自体に仕掛けがあって,ラストで謎が明かされる・・・から。もっともカンのいい人は(いや,そうでなくても)途中で「もしかしたら?」とオチはわかってしまうかも。それでも,ショーの終りまできっちりと見届けたい気持ちから,観客は最後まで飽きずに画面に惹き付けられると思う。

ノートン演じるアイゼンハイムは,謎めいたメランコリックなところが,何とも魅力的だ。
この作品に登場するイリュージョンは,プレステージの時のように,種や仕掛けを観客にまで明かしてくれるわけではない。
われわれ観客も,彼の指先からまるで魔術のように現れる夢幻の世界を,劇中の観客と全く同じ目線で観ることになる。種も仕掛けも,劇中ではほとんど明かしてくれないので,ものすごく神秘的に見える。

それでいて,プレステージのように最後にSFネタに逃げることもなく,すべてのイリュージョンには,ちゃんと人為的なからくりがあったのだな,とラストで判明する。

知的で憂いを秘めた容貌のノートンには,
まことに似合う役である。

06021408_2
アイゼンハイムの恋敵のレオポルド皇太子を演じたルーカス・シーウェル。彼はよくこういう役(主人公の恋敵で高い身分)を演じる。たとえばロック・ユー!でも,ヒース・レジャーの恋敵だった。今回はカイゼル髭をはやし,プライドの高い暴君な皇太子を厭味たっぷりに好演。
Ken_watanabe_picture_edited_3
・・・・どうかすると渡辺謙さんにも見えたけど。

この皇太子が恐ろしい男で,恋愛の点でも,頭脳の点でもアイゼンハイムと張り合う気まんまんなのだ。権力を振りかざす彼の手の中に陥ったら,命までも奪われかねないので,アイゼンハイムもまた,一世一代の大芝居を打つことになるのだが。

06021409b
そして,もう一人の主役といっても過言ではない,
ポール・ジアマッティ。

彼が演じたウール警部は,本当はイリュージョン好きで,アイゼンハイムに心酔しているくせに,出世のために皇太子の手先になって,アイゼンハイムを追い詰める役をする。途中まではアイゼンハイムの敵役として,物語は進むのだが,やがて・・・

・・・・・いいなぁ,この人,ジアマッティ。
4169gvbqbrl__sl500_aa280_
↑ムーミンに激似なんだけど
超名脇役・・・というか,アツい人情を心に秘め,葛藤する表情の演技が絶品。ラストに,これまでのことがすべて腑に落ちた彼が,「してやられた!」とばかりに,高笑いするシーン,大好き。その瞬間,彼は,アイゼンハイムの生涯最後の,そして最高のイリュージョンを理解することができたのだろう。

Imgaccd3d77zikdzj

ミステリアスで格調高い雰囲気。十分に練られたストーリー展開と,役者の達者な演技。豪華な衣装や美しい風景,音楽・・・・そしてほどよいカタルシス。
観て損はない作品です。

2008年8月 1日 (金)

インクレディブル・ハルク

08050501_the_incredible_hulk_01
今日は映画の日。例のミニシアターで,これと,幻影師アイゼンハイムを観た。・・・エドワード・ノートン祭りか?。

リー監督のハルクも結構好きだったので,ハルクとは何ぞや?という予備知識も万全。ハルクの面白さ,というか他のヒーローとの大きな違いは,主人公が自分の制御不能なパワーを疎ましく思い,できることならその能力を手放したいと苦悩している点だと思う。

今作は,ブルース(ノートン)がハルクになった経緯とか,そのために起こった騒動とかは,オープニング映像でさらりと流し,冒頭からすでに隠遁生活を送っているブルースの姿を映し出している。

002

その制御不能な怒りのパワーで,すべてを破壊し尽くすハルク。軍は彼のパワーを「兵器」として利用しようと,彼を探している。心拍数を抑える呼吸法を身につけ,特異体質の治療法を模索するブルース。
「治りたい・・・」という台詞。
そう,彼にとって,「超人」の能力は,
このうえなく厄介な代物でしかない。

彼は,腕に心拍数を測定する装置をつけ,万一の「変身」に備えて「大きく伸びるブカブカのズボン」を穿いている。このズボンのアイデアって可笑しかった。そりゃ,そのあと普通サイズに戻った時に,せめてスボンくらいは,破け飛ばずに残っていてほしいよね~

010

で,今回登場するのが,ブルースにとっては重荷のこのパワーを切望する軍人ブロンスキー(ティム・ロス)。・・・・か,怪演している。
「ハルクになりたい」と希望した彼は処置を受け,怪人アボミネーションと化す。今作の目玉は,アボミネーション対ハルクの死闘なのだ。

これまでそのパワーを封印したいと願ってきたブルースが,初めて自分の意志で変身し,正義のためにその力を発揮する場が与えられたとでも言おうか。

Hulk_1
ハルクのCG画像は,
前作より格段に,色も動きもいい。

リー監督もエリック・バナも大好きな私だか,あの前作「ハルク」のアマガエルみたいな色だけはなぁ・・・やたらとぴょ~んぴょ~ん跳ねてただけのようなアクションも・・・。まぁ,リー監督には,アメコミはつくづく向いてなかったんだと思うけど。

08050501_the_incredible_hulk_05
アボミネーションのヴィジュアルは,ありがちなモンスターっぽかったが,それでも重そうな下半身やゴリラ系の動きはハルクと同じ。
この両者の,地響き満載の闘いは,
破壊に次ぐ破壊で,ものすご~く見ごたえがあった。

13ffaa53
ブルースの恋人ベティを演じたのは,リブ・タイラー。彼女との切ない関係も,この作品の見どころだ。変身したブルースを彼女はいつも「大丈夫よ」と励ましたり支えたり,巨大なハルクと彼女のツーショットは,キングコングを思い出させる。

7bd4c185
ベティの父で,ブルースを追うロス将軍(ウィリアム・ハート)。そんなに「悪党顔」ではないのに,インテリな悪役が結構似合うお人だ。アボミネーションを倒すために,ハルクの力を借りる羽目になった心中は,きっと複雑なものがあったろう。
・・・・それでもラストシーンを観るかぎりでは,行いを今後改めるつもりはないようだ。そうそう,ラストのダウニー・Jrは,アイアンマンの宣伝に来たのかしら?

Hulk_2s_2
それにしても,エドワード・ノートンはやはり凄い。
このひとがアメコミ・ヒーローを演じるとは意外だったけど。今回,脚本も彼が手直ししたらしいし,結局,何を演らせても,すごく質の高い仕事をする方だな,と。

« 2008年7月 | トップページ | 2008年9月 »

フォト

BBM関連写真集

  • 自分の中の感情に・・・
    ブロークバックマウンテンの名シーンの数々です。
無料ブログはココログ