ラストキング・オブ・スコットランド
在位中に,30万人ものウガンダ人を虐殺した悪名高い独裁者,イディ・アミンの実像を,彼の主治医だったスコットランド青年ニコラス(実在はしない)の視点で描いた,政治サスペンス。アミンを演じたフォレスト・ウィテカーが,アカデミー賞主演男優賞を受賞した作品。
つぐないでファンになったジェームズ・マカヴォイを見たくて,今頃DVDで鑑賞。オスカー受賞作品とは知っていたが,政治ドラマかと思って食指が動かなかったのだけど,蓋を開けてみれば,主役がアミン大統領の主治医,という異色な視点で,とても面白かった。
それにしても・・・怖かった,
かなり,いろんな面で。
庶民あがりの独裁者,アミンの持つ恐るべき二面性。陽気で社交的でチャーミングなアミンと,臆病で残虐で暴走するアミン。彼はきっかけさえあれば,まるでスイッチが切り替わるかのように豹変する。
どう転んでも「善人顔」のウィテカーが,まるで「ジキルとハイド」のようなこの難役を,まことに見事に演じていて,オスカー受賞も納得である。怯えと妄想と,残忍な怒りに支配された時の彼の顔は,普段はひょうきんに見えるアンバランスな目までが,すごく不気味な効果を醸し出していて,心底恐ろしかった。
彼の主治医を務め,最初はおおいに気に入られて舞い上がったのはいいものの,後には命からがら逃げ出すことになるニコラスを演じたジェームズ・マカヴォイ。
もうね,このニコラスが,はっきり言って何とも軽薄な若者なのだ。こころざしがね~,お子さまというかなんというか・・・後でアミンからも「ゲーム感覚でこの国にやってきたんだろ?」と言われていた。
こんな政情不安定なウガンダを任地に選んだのも,地球儀の上にペンを指して決めたんだものなぁ・・・。まぁ,覚悟も,使命感もなしにやってきた彼の能天気さは,のちに大きなツケを払わされることになるのだけどね。
それにしても,マカヴォイの演技もさすがだった。
このひとはほんとに,いいお芝居をするのだけど,出演作ごとにがらりと雰囲気が変わる。顔は同じでも表情を使い分ける・・・というか。この作品では,眉のしかめ方とか,口元の動きとかが,いかにも「軽い」人間のようで,「こんなコが部下にいたら,イケメンでも信用はできないわね」と思ってしまった。
最初はアミンのカリスマ性に惹かれ,彼に気に入られたことを喜び,権力のおこぼれを享受して悦に入っていたニコラスも,やがて次第にアミンのもう一つの顔が見えてくると,自分が抜き差しならない状態に陥っていることを感じ始める。
・・・それでもまだ,アミン夫人とできちゃうなんて,
「お前はアホか」と思ったけどさ。
彼のやったことが,あんな残酷な拷問を受けるに値するとは,さすがに思わないけど(あのシーンは当然早送りした)ああいうことが平気でできちゃう,アミンの恐ろしさには言葉もない。不倫したアミン夫人の虐殺の仕方も,目を覆うばかりの方法だった・・・気の弱い方は鑑賞をお勧めしない。
その死を,ウガンダの全国民が祝ったという,暴君アミンの実像を,単なるドキュメンタリーとして描かずに,ひとりの白人青年(それもあまり賢明ではない)の目を通して徐々に明らかにしていく,という手法のこの物語からは,アミンの人柄やその恐ろしさがじわじわと伝わってくる。
医師ニコラスは,愚かすぎて感情移入が難しいキャラなのであるが,たとえ共感はできなくても,彼の目線で物語を追ううちに,いつのまにか彼と同じ恐怖を味わっていたし,彼が無事に脱出できた時は,やはり安堵した。(それにしても彼の命を救った同僚のお医者さんは気の毒だったけど)
ものすごく,高い授業料を払って,
人生勉強ができたのだろうか,彼は。
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