モーテル
殺人現場を盗撮して楽しむ,サイコな殺人鬼の経営するモーテルに泊まってしまった夫婦の,死に物狂いの脱出劇。
近年,やたらグロさや痛さを売りにしたホラーやサスペンスが氾濫する中で,これは珍しく,凝ったトリックや特殊メイクや,異常なシチュエイションなどに頼らずに,地味でレトロながらも,シンプルかつ直球勝負のサスペンスだった。・・・・こういうの,かなり,好きかも。
デヴィッド(ルーク・ウィルソン)とエミリー(ケイト・ベッキンセール)は,離婚を決意した夫婦。どうやら愛息子の死が,彼らの不和の原因らしいが,妻の実家から帰るとちゅう,車の調子が悪くなり,ふたりはさびれたモーテルに泊まるはめになる。
薄気味の悪い雰囲気に,躊躇する妻と,彼女の忠告にわざと逆らっているとしか見えない,意固地な態度の夫。なるほど,冒頭からこの夫婦の間には険悪なムードが漂いまくっている。(夫が妻の直感を信じてこんなホテルに泊まらなければ,そのあとの災難は起こらなかったと思うけど・・・・。)
で,通されたお粗末な部屋にいくつも置いてあったビデオテープを,無聊を紛らすために再生してみた夫は,その中に収録されていた,生々しい殺人シーンを見ているうちに,それが自分たちが今いる部屋の出来事であることに気づく・・・・。
この殺人ビデオが,何とも素人くさくて,それゆえに,余計リアルで恐ろしい代物となっている。映し出される人たちは美形でもなんでもないごく普通の外見のひとたちで,彼らが覆面した3人組になぶり殺しにされるシーンは,実際にあったことの映像のような錯覚を起こさせるのだ。
モーテルの真の目的がわかって戦慄を覚えるデヴィッドとエミリー。この,盗撮に気づいたあたりが,一番怖かったかも。それからは,いよいよ命がけの鬼ごっことかくれんぼが開始する。
部屋の中だけでなく,モーテルの建物全部を使って(地下道や天井裏まで)犯人たちから逃げ惑う二人。このあたりの展開は,シンプルではあるけれど,手を替え品を替え,息つく暇もないスピーディな展開で,はらはらドキドキした。
絶望的な状況でも,決してあきらめない夫がいきなり頼もしい奴に見えてきたから不思議だ。(もっともこのモーテルに泊まる原因を作ったのは彼なんだから,そのくらい頑張らないと,ヨメに申し訳ないというものだけどね)
犯人たちは3人。その中でも親玉は,フロントにいたこいつ。一見ごく普通の,しょぼいおじさんのような外見なのに,うちに狂気をタップリ秘めているのが怖い。被害者たちに盗撮にわざと気づかせて,恐怖のどん底に陥れるのが楽しくてたまらない,といった異常者だ。被害者が怖がるのを見て興奮するのかもしれない。
彼ら犯人のくわしい人間像や背景,犯罪の動機などは一切説明なしだが,この作品は純粋に「異常な殺人からの脱出」だけに絞って描かれていたので,そんなものがなくても十分面白かった。
やっと呼ぶことができた警官も,あっさり犯人たちに殺されてしまうし,(この手の作品では警察が頼りにならない,というのはお約束だけど)ついに夫がやられたときには,ハネケ監督の超後味の悪い作品「ファニーゲーム」を思い出したりもしたのだが・・・・。
夫が殺された(と,見えた)後の,
ヨメがいきなり強い,強い!
それまでパワーを隠してたんちゃうんか?と思うくらい。(ケイト・ベッキンセール,何たって,もとヴァンパイアだもん・・・・)
このひとは,女性らしい繊細な美しさもあるのに,やはりアクション女優の貫録もある。犯人たちから逃げるために,庭を全力疾走するシーンは,いっしょにいた夫よりも足が速かったような・・・。
ま,最後は,息も絶え絶えのハッピーエンド,という感じだが,自分も全力疾走したあとのような,「疲労感」と「達成感」がじわじわと・・・・。爽快感はないけれどね。
それにしても,ダンナの生命力,強すぎるように思いません?あれは,ふつうは死んでるよ・・・ぜったい。だって一晩たってるんだよ?ヨメが抱き起した時に,まさか息を吹き返すとは~~ う,嘘やぁ~~。でも,あそこで死なれても,中途半端に後味が悪かっただろうし・・・・。
B級なんだけど,主演の二人の演技のうまさが,この作品の格を上げていたような・・・・。特にケイト・ベッキンセールはよかった。
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