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2008年4月10日 (木)

ラスト、コーション/原作の世界

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アン・リー監督作品ラスト、コーションの原作者は,張愛玲(アイリーン・チャン)という上海生まれの女流作家である。この映画の日本公開がきっかけで,「色・戒」(ラスト、コーション)を含んだ彼女の短編集が,初めて日本で翻訳されたそうだ。(集英社文庫。定価495円)

そう,あの重厚で濃密な「ラスト、コーション」の原作は,文庫本にしてわずか50ページほどの短編なのだ。映画化されるにあたっては,原作にはない,多くの付け加えられたストーリーや,人物像への深い書き込みがあったようである。

原作も映画も,ともにイー家で婦人たちが優雅にマージャンに興じているシーンから始まる。女流作家だけあって,女性の容姿や,衣装の描写はさすがにきめ細やかだ。たとえば,チアチーについては,「・・・薄化粧のなかで,入念に彫刻されたような薄い唇には,そこだけルージュがきらきらと光って,赤いしずくがしたたり落ちてくるようになまめかしい・・・」とある。
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その後,映画はクライマックスの宝石店のシーンに至るまでの間,チアチーの回想シーンなどに多くの時間を割き,彼女が愛国劇に出演していた学生時代から,イーの愛人となって命がけのスパイ活動をするようになるまでの道のりや、彼女を取り巻く人間模様を丁寧に描いている。

しかし,原作のほうは,この後すぐに宝石店の「逃げて!」(原作では『早く行って!』だが)のシーンになり,その場面にのみスポットを当てていた。(もちろんそこに至るまでの過去のいきさつも,ところどころ,必要最小限に,散りばめられてはいるけれど,)

原作の登場人物と,映画の登場人物は,少し雰囲気が違っている。
チアチーはそんなに大差がないように思えたが,イーは,『ネズミを思い起こさせる顔』の小男となっていて,老獪で油断のならない男,という印象が強い。この映画のトニーは,それまでのイメージとは別人のように「嫌な奴」という雰囲気を漂わせていたが,なるほど,あれは原作にかなり忠実だったわけである。
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一番原作と違うのは,活動のリーダー,ユイミンの描き方。彼のキャラクターや,物語への絡み方は原作ではとても記述が少ない。ほとんど名前だけの登場人物に近いのだ。映画では,彼とチアチーの間にはプラトニックな恋心が互いに存在していた設定になっていて,愛する女性に危険な任務を負わせるユイミンの鬱屈した感情や,チアチーの揺れる思いなども感じ取れる演出がされていて,物語に切ない奥行きを与えていた。

そして,一番気になった,チアチーを処刑したイーの気持ちは・・・・。これも,原作と映画では,少し色合いが違うように思えた。

私は映画を観て,このときのイーの複雑でつらい気持ちをいろいろと想像して,切なさに胸を締め付けられたものだが,原作のイーからは,「ふてぶてしさ」や「安堵感」のようなものも感じられて,「えー?」と思ってしまった。

だって,映画のトニーの演技からは,そんな雰囲気は微塵も感じられなかったから。
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「計画は,実に綿密,周到だった。ただ,美人が急遽,計画を変え,この俺を逃がしてくれた。彼女はやはり俺を心底,愛していたんだ。・・・(中略)・・・・彼女は死ぬ前に,きっと俺を憎んだに違いない。だが,『毒なき者,男にあらず』だ。このような男でなければ,彼女だって愛してくれなかったはずだ。・・・・(中略)・・・・彼女の影が永遠に俺の傍にいてくれて,慰めてくれるだろう。彼女は俺を恨んだに違いない。俺に対する感情が最後にいかに強烈にどのようになっても,それはどうでもいい。ただ感情があったことは間違いないのだ。二人は原始的な猟師と獲物の関係,虎と虎の手先の関係,究極の専有関係に他ならなかったのだ。彼女が生きていれば俺のもので,死ねばその亡霊も俺のものだ。(原作より引用)


どうです?この強烈な独白。
このような愛し方で満足する,
イーという男。


これを,もし台詞でそのまま語られたら,映画の印象はまた違っていただろう。

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リー監督は,確かに二人の間の『猟師と獲物のような,究極の専有関係』を,あの過激な性愛描写で,しっかりと表現してみせたのかもしれない。しかし,ラストの悲劇に対する,ふたりの感情の解釈や脚色は,リー監督独特の,切ない味付けが,ふんだんになされていたように思う。

監督や俳優の力量で,映画は,原作を素晴らしく底上げし,何重にも深みを増したものに仕上げているように感じた。

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コメント

 ななさん、こんばんわ~
 原作と映画、映像的には原作に忠実に描いているのに感情面が違うような・・・僕もそんな印象ですが、映画の方が好きですね。ぶっちゃけ原作はあまり面白くなかったのでちゃんと読んでないかもです。BBMの様な原作で切なくなる箇所はありませんでしたし、
トニーの素晴らしい演技のせいでしょうか、トニーといえば、先日「ブエノスアイレス」を10年ぶりくらい?で再見したのですが、とてもトニーの演技が素晴らしかったので・・・あの何というか寂しげなトニーが愛おしくなりましたね、「ラストコーション」ではすっかり渋くなってましたが(笑)
 ユイミンの部分も映画ではかなり描かれてましたね、ユイミンとイーとチアチーの複雑な愛情関係も映画でのテーマでしょうか?
 最後に処刑場のあのカメラの撮り方はとても恐ろしかったです(高所恐怖症なので)

イニスJr さん さすが鋭い!
設定は同じでも,原作と映画では,おっしゃるとおり,感情面が私も違うと思います。そこらは,脚本家か監督かどちらかはわかりませんが,大幅に解釈を変えてますね。特にイーの感情面を変えてるような気が・・・・。
BBMの原作は,もうすでに原作の地点で,パーフェクトの域に達していたと思います。それを,脚本家のオサナさんや,リー監督が,原作の訴えることを損なわないように,うまく映画化したという感じでしたが,この「ラスト、コーション」は,映画化の過程で,原作を,ある意味「別物」と言えるくらい底上げしているような気がしました。
ブエノスアイレスは,BBMの次に好きな映画かなぁ,私にとっては。演じたレスリーが本当にゲイだったということで,そして彼が後に自ら命を絶ったという点で,なんとも切なさを感じる作品ですが・・・。トニーも素晴らしかったですね。彼は,コメディ風の作品以外は,どれもハズレがないから凄いと思いますよ。
「ラスト、コーション」のあの処刑のシーン・・・あはは,高所恐怖症でない私はあまりそういう恐怖は感じなかったけど,あんな場所で処刑するなんてねぇ・・・当時の上海では本当にあんな場所で処刑したのでしょうか・・・?ああいう残酷なシーンをさりげなーく挿入するリー監督って・・・実際サドと思いません?


ななさん、こんばんは!
原作を読まれたんですね~
で・・・何だか雰囲気が違ったようなcoldsweats01

実は、私は以前、BBMの映画に感動して原作を読んだんですよ。
で、、、ななさんは原作も気に入られたようですが、私は映画の方が何百倍も好きでした。
原作の中の二人の話言葉が苦手で・・・ちょっと引いちゃった覚えがあるんです。
「彼らはこんな言葉を使わないわ!」って・・・私の受けた印象が変だったのかもですが(汗)
その時に、監督さんは短い物語からイメージを膨らませるのがお上手なんだなぁ~と思ったんです。
だから、ラスト、コーションもそうだったのかもですね。
ななさんご指摘の『監督や俳優の力量で,映画は,原作を素晴らしく底上げし,何重にも深みを増したものに仕上げているように感じた』というのは凄く分かるなぁ~

由香さん,おはようございます。

そうなんです。原作より映画がずっと好きですね,この作品は。
BBMは,映画化されたときに,ジャックのキャラが少し違ったかな。
たしか原作のジャックのルックスは,「出っ歯で小太りのハンサム」となってて,「そんなハンサムはありえん」sweat01と思いました。
それに原作のジャックは,性格ももっと粗野だったような・・・。映画のジャックがあんなに魅力的だったのは,ひとえにジェイクの繊細さや育ちのよさが反映されたからだと思います。うふふ。
二人の関係にしても,映画では,原作にはない,ロマンティックな翌日の晩のシーンも入れてあったりして,そこらへんもよかったですね。
でも,BBMの原作も,訴えたいことや,余韻は映画とまったく同じだと思います。でも,この「ラスト、コーション」はそこらへんが違うような・・・・。
リー監督は,たしかに原作を,極上のものに料理するのがうまい監督さんですね。
今後も期待大の監督さんです。

ななさん、こんにちは!
わたしも原作の記事かいてますので、僭越ながらTBさせていただきますね。
ラスト近くのイーのモノローグは映画とは本当に「別物」って感じですよね。
アイリーン・チャン自身が高官と結婚して、後に離婚しているので、ちょっとシニカルな味付けですよね。

アン・リー監督は良くも悪くもかなりマンガチックな作品を作るなあと感じます。
原作は女性ならではの精緻な描写や女性同士の会話の中にもスリリングさを感じますよね。
あの宝石店でのシーンは本当に濃密な時間だと思います。
わたしはどちらも好きです。

しゅぺる&こぼるさん,こんばんは
TBありがとうございます!後でまたそちらに伺いますね。

原作者のアイリーンさん,ご自分も波乱万丈の人生だったのですね。
そのせいか,彼女の他の短編も,描写は繊細ですが,テーマには骨太なものを感じました。
それにしても,中国の小説って,人名がややこしいですね。
「これは誰のこと?」と何度も整理しながら読むのが少し疲れました。sweat01
私は,この作品は,断然映画のほうが好きですが,原作の中でも,イーの最後のモノローグは,とても強烈で,自分なら絶対に発想できないような愛し方で,それはそれで,強くひきつけられましたね。

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