ドレスデン 運命の日
戦争を描いたドイツの映画は,真摯で秀逸なものが多いので,前々から気になっていたけど「冗長」とか言う評判も聞いて,いまいち手を出しかねていたこの作品。この度観ようと思ったのは,ドレスデンが空襲された運命の日が,2月13日だと知ったから。この日は実は私の誕生日なんです。なんか人ごとじゃない気がして,それで観ようと思った私も単純ですね。
ドレスデン爆撃は,このような未曾有の規模の被害を出したにもかかわらず,これまで世界では,声を大にして語られたことがなかった。それはひとえに,ドイツがこの戦争に対して罪を背負う立場だったからだ。今回の映画化で,おそらく初めて,ドレスデン爆撃の全貌が世界に紹介されたのであるが,だからといってこの映画は,「ドイツだってこんな被害にあったんだ!」と居直っているわけでは決してない。
劇中では,ナチスの横暴や,一般市民によるユダヤ人差別の現状も容赦なく描かれているし,その反対に「ナチスに神の裁きを下してやるんだ」と武者震いしながら爆弾を投下するイギリス側の兵士の言動もきちんと描かれていて,あくまでも中立の立場で,戦争そのものの悲惨さをひしひしと訴える,ドキュメンタリーのような反戦映画になっていた。
しかしそれではストーリーとしての面白みに欠けるので,一応看護師のドイツ女性アンナと,イギリス兵ロバートとの恋愛を軸に持ってきている。この映画,冒頭から爆撃開始までの間,実に1時間半にも渡って,アンナとロバートを中心としたドレスデンに住む市民たちの物語が描かれる。
反戦思想を持つ、気性の激しいアンナと,敵機の攻撃に会って空から敵国に落ちてきたロバートとの許されない恋。アンナの婚約者である誠実な医師アレキサンダー。密かにスパイ活動を行い,私腹を肥やすアンナの父。そしてユダヤ人の夫を持つアンナの親友マリア。
自分達が数日後に爆撃に合うとは夢にも思わず,それぞれの立場で戦争を生き抜こうとしている人々の事情や思惑が,丁寧に綴られ,そしてまた彼らの物語と平行して,連合軍によるドレスデン爆撃計画が着々と進行してゆく様子が映し出される。だから,まもなく惨劇がふりかかるということを知っている私たち観客は,何ともやるせない思いで彼ら市民を見守ることになる。
そして運命の日。
いよいよ爆撃が始まった。
石造りの建造物でできた街を破壊するためには,膨大な量の爆弾が必要だったろう。炸裂する夥しい数の爆弾を受けて,建物は倒壊し,街は瞬く間に紅蓮の炎に包まれる。
舞い上がる灼熱の火炎地獄の中を逃げ惑う人々。(実際に最高1500℃もの火災旋風が起こったという。) 地下の防空壕の中で一酸化炭素中毒で命を落とす人々。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が,一晩中繰り広げられる。
燃えさかる乳母車を押しながら,放心したようにさまよう女性。死を覚悟して静かに祈りを捧げる人々。涙を流しながら彼らの頭に銃弾を打ち込む兵士・・・。
その中を,アンナは恋人のロバートと,婚約者のアレキサンダーと3人で,地下に逃げる。(こんな非常事態だからこそ一緒に行動できたけど,普通は三角関係だよね,この人たち。)やがて崩れた壁に足を挟まれたロバートと残ると主張するアンナ。結局アレキサンダーは二人と別れることになる。(この人,なんだかかわいそう。みんなに振り回されて)
一夜明けると、世界一美しいと謳われた街は,完全に瓦礫の山と化していた。その中で、主要な登場人物は、ほぼ生き残ったというのは,かなり無理があるけど,(死んだのはアンナの父のみ。ちょっと不自然)まあ,そこは映画だから。
ラストは現代によみがえった聖母教会で,平和の式典を行う人々の実際の映像で幕を閉じる。アンナを演じた女優さんの最後のナレーションは,映画の訴えたいことをやや言葉で語りすぎの感もするけれど,ああ,やっぱりこの映画は,反戦の強い強い思いをもって製作されたんだなあ,ということを改めて感じた。
国の主導者が仕掛けた戦争であっても,その背後には大勢の命を奪われる罪のない国民たちがいて,彼らもまた被害者なのだ。そこには戦勝国も,敗戦国もなく,死んでいった人々の無念の思いは,いつの時代も,どこの国でも変わらない・・・。わかっていると思っていたことだけど,映像を見るとやはり,言葉を失うほどの哀しみや痛みを感じる。
この映画を観て,それまで全く知らなかったドレスデンの爆撃について,知ることができてよかったと,心から思う。・・・2月13日。自分の誕生日と同じだから覚えやすい。これから誕生日を迎えるたびに,私はきっと,ドレスデンのあの日に思いをめぐらすと思う。
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ドレスデン:
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こんばんは~!
私、ななさんと同じみずがめ座だよ~(^-^)/
ますます親近感わいてきました。笑
この映画、劇場で観たかった作品ですよ。
ドキュメントタッチな反戦映画か~
レンタル屋で確か一本置いてあったので今度観てみよ~('-^*)/
投稿: アイマック | 2008年2月 8日 (金) 00時40分
おおー!アイマックさんも誕生日近いですね。
水がめ座って,知的でクールだよん(自分で言うな!)
この映画,もとはドイツでテレビ映画だったということで
長いんですよー,2時間半もあって,ラブストーリーは二の次だと思ってみてください。
そっちはやや陳腐ですし,ヒロインちょい我が儘に見えますし。
でも,ドラマ部分の書き込み不足を補ってあまりあるほどの
衝撃の史実を知ることができますよ。
やっぱりドイツの戦争ものは,はずれがないです。
アイマックさんと同じ星座と知って,私も嬉しい~~(^▽^)
投稿: なな | 2008年2月 8日 (金) 00時57分
ななさん TB&コメントありがとうございます。
僕は前半部のメロドラマ的な展開が後半の爆撃シーンで展開された人間ドラマに比べると弱いと感じました。
ただドラマとして弱い部分を抱えながらも、ドレスデン空襲という歴史的事実に果敢に挑んだこの作品の意義を無視すべきではないとも感じました。その点ではななさんの評価に共感できます。
それにしてもバレンタイン・デーの前日が誕生日とは!この2日間はプレゼントが飛び交うわけですね。
投稿: ゴブリン | 2008年2月 8日 (金) 01時37分
ゴブリンさん
メロドラマはやはりイマイチというか
仕方なく付けました,という感じでした。
それか,ドラマを描くのが苦手の監督さん?
どんなに悲恋に見えても,その後に待ってる爆撃に比べたら
「たいしたことないんじゃない?みーんな死ぬのよーこれから,あんたたちだけじゃなく」なんて思いながら見た私。
それに比べると,後半の爆撃シーンは必見のできでしたね。
そう,誕生日,バレンタインの前の日です。
プレゼントが飛び交う・・・ほどでもありませんが(苦笑)
いいプレゼントをくれた方には
高いチョコをあげたりしましたね。
投稿: なな | 2008年2月 8日 (金) 13時20分
こんにちは♪
TBありがとうございました!
ななさん、もうすぐお誕生日なんですね~!
おめでとうございます☆☆
オダジョーと3日違いだわ~(笑)
戦時下の人間ドラマが大好きなので、この作品もかなり楽しみにしていたのですが、ちょっとドラマ部分が弱いかなって感じました。
でも、もはや何の抵抗も示していないドイツに対して、「これでもか!」とひとつの都市を消滅させてしまった連合軍の横暴を知る事ができて良かったと思います。
投稿: ミチ | 2008年2月 9日 (土) 15時22分
ミチさん♪
お誕生日,この年になると楽しみというには微妙なものが・・・・(汗)
オダジョーも2月生まれですかぁ,なんか嬉しいなぁ。
ところでこの映画,ドラマ部分はやはり不満を感じる方が多いですね。
そこまで無理したラブロマンスをもってこなくても,
爆撃シーンの再現だけでも凄いと思える作品でした。
史実に忠実で,中立的な視点にたっていたのが好感持てました。
連合軍はひどいですね。爆撃の動機には,ソ連にたいする牽制のようなものも感じました。
投稿: なな | 2008年2月 9日 (土) 21時35分
おお、2/13ですかー。それは忘れられない日ですねっ。ちなみにうちのドラ息子はバレンタイン生まれですー;
私にとっても、ななさんのこともドレスデンの事も忘れがたい日になりましたわ。
まあ恋愛パートがないとただのドキュメンタリーになってしまうし、私はこれはこれで堪能したと思う事に;
撮影も大変だったでしょうね…
投稿: シャーロット | 2008年2月 9日 (土) 22時30分
おお~シャーロットさんの坊ちゃんは
バレンタインがお誕生日!
それはそれは・・・プレゼントとチョコレートがいっぺんに・・・
盆と正月が一緒に来たような 嬉しい日ですね
で,この映画ですが,確かにラブストーリーを入れないと
地味になっちゃうので入れたのでせう。
ヒーローのロバートは野生的で素敵でしたわ。
撮影も大変だったでしょうけど
ドイツ国民の気迫みたいなもんを感じましたねぇ。
投稿: なな | 2008年2月10日 (日) 22時05分
ななさん☆
コメント有難うございました。
何だか泣き疲れて、今は結構元気ですよ、はい(o^-^o)
悲しいというか、私の物でもなんでもないのに
「喪失感」が一杯で・・・(ヒースの事ね)
ところで、今日はとくと拝見させていただきました。BBMの画像集、凄いですね☆
お宝映像だぁ~~~バンザーイ \(≧∇≦)/\(≧∇≦)/\(≧∇≦)/\(≧∇≦)/ キャァ♪
思い起こせば、あれもこれも・・あのシーンも(おととい観たばかりだから余計に^^)
じ~んときちゃいます。
ところで、今月、13日がお誕生日なんですね
バレンタインEVEかぁ^^
「ドレスデン 運命の日」は私も後半の街破壊劇がハラハラと涙を誘ったのを覚えています。
ところで、画像が綺麗だし、沢山ありますね。
秘訣があるのかなぁ~(* ̄∇ ̄*)エヘヘ
投稿: とんちゃん | 2008年2月11日 (月) 00時03分
とんちゃん
少し元気になられました?
でも,コメント拝見してると,わたしととんちゃんの喪の服し方って,よく似てます・・・。
私は,落ち込んで作品も観れないというのではなく,わーっと泣いて,作品もいっぱい観ながら,追悼したいタイプです。とんちゃんもそうですか?(親近感)
まだまだ喪失感は抜けないし,「なんで彼が・・」と悔しい思いはあるのですけどね。
ドレスデン,後半が特によかったです。
主人公たちよか,地下で死んでいった人たちとかに泣かされました。誕生日のたびに思い出すと思います。
画像の秘訣?うーん,執念ですかね(笑)
色の調節とかは,必ずやってますけど。
投稿: なな | 2008年2月11日 (月) 01時12分
ななさんTBとメッセージありがとう!
TBだけ送ってメッセージは明日、と思ったけど、ななさんも2月生まれと知って、すぐにこちらに来ました。水瓶座!私も2月生れの水瓶座!握手ですね。ところで血液型は?(笑)
さて本題。
戦争、とりわけヨーロッパ戦線はドイツであれイギリスであれフランスであれ、凄まじい破壊があったんですよね。疎開先に向う列車も空爆に曝され、その被害は全て国民が受けるんですよね。
ドイツがやっと自国の悲劇も描き、戦争の無意味さを描蹴るようになっ高と思うと感慨深い映画だなって思います。それにつけても日本が撮る最近の戦争をテーマにした作品って、感傷や情緒に訴えたりでそれも情けない。
投稿: シュエット | 2008年4月14日 (月) 01時06分
おお~ シュエットさんも,2月生まれの水瓶座ですか!
一気に親近感~~~
ちなみに血液型はA型ですが,かなりO型寄りの性格です。
ヨーロッパ戦線のことは詳しくないのですが
時々それらが映像となって出てくる映画とかからのわずかな知識だけからでも
その悲惨さは想像できるような気がします。
シュエットさんは,さすが欧州のことに関してはお詳しいですね!(尊敬)
日本の反戦映画,もっと骨太な内容で勝負してほしいですよね,感傷に頼らずに・・・・。
投稿: なな | 2008年4月14日 (月) 20時02分
ドレスデン、観ました。
画像を探してたら、ななさんとこが出てきました。
ドラマ部分が、ここまで長いとは思わなかったですけど、力強さを感じる作品でした。ユダヤ人が主人のご夫婦が、生き残って、ほっとしましたけど、ふりまわされっぱなしだった婚約者の人はどうなったんだろう。DVD特典のメイキングをみると、後半の炎上シーンは、実際に火をつけての撮影みたいですね。CGにしない意気込みを感じますね。
まじめな良い作品でしたね。
投稿: kino | 2009年7月 5日 (日) 17時41分
kinoさん,こんばんは!
ご覧になりましたかー
地味っぽいけど,ドイツ自身が製作した戦争ものはやはり味わいが違います。
特にこの「ドレスデン」は史実をあまり知らなかったので興味深かったですね。
ドラマ部分は確かに「長すぎ?」とも思いましたが
その分,登場人物それぞれにしっかり感情移入できたかな?
ユダヤ人夫婦にはじーんと来ました。
そうそう,あの貧乏くじをひいた誠実な婚約者・・・ちょっと,いやかなり不憫でした。
ドイツがほんとにまじめに心をこめて製作した,という感じのとても好感のもてる作品だったと思います。
投稿: なな | 2009年7月 6日 (月) 00時09分