追悼ヒース・レジャー/サハラに舞う羽根
これは、ひとりの青年士官の,愛と友情を描いた物語なのか?それとも彼の命を賭けた成長物語なのか?
物語の舞台はヴィクトリア朝の大英帝国。エリート士官のハリー(ヒース・レジャー)は、美しいエスネと婚約したばかりで軍人としての将来を嘱望されていた。そんな時、植民地・スーダンの暴動を鎮めるために、ハリーの部隊に出征命令が下る。しかし、戦うことに疑問を抱いたハリーは、軍を除隊し、3人の友は臆病者を意味する白い羽根をハリーに送りつけ、婚約者のエスネまでもが4本目の羽根を残し去っていく。憔悴したハリーのもとに届く、スーダンでの苦戦の知らせ。友の命が危険にさらされていることを知ったハリーの脳裏によみがえるのは、親友ジャックの「君になら僕の命を預ける」という言葉。ハリーは、4本の羽根を懐に,スーダンへと旅立つ。
キリストみたいなんですけど。
エリザベス・シリーズの監督の作品だし、原作も有名らしいのだが・・・確かに壮大で息を呑むほど美しい映像や,起伏にとんだストーリー展開など,見所は満載だったが,主役のハリーの性格や,行動の理由などが,私には今ひとつわかりづらく,そのせいで物語の冒頭からずっと,完全にその世界に入り込めなかった作品だったのが惜しい。
彼は優秀な軍人だったのに,なぜ戦地に赴くのを頑なに拒んだのか?「恐怖」のせいだと,彼は言っているが,後の彼の砂漠での捨て身の行動を見ると,彼が臆病者だったとはとても思えない。彼自身も,恐怖の内容についてははっきりと説明していないし。英国の植民地支配のための戦いが主義に反したということもあったのか?
それなのに,後になって艱難を乗り越えて,単身サハラに赴いたのは何故なのか?
大英帝国のためではなく,友の危機を救うために戦いたかったのか?それとも4枚の羽根が彼を導いたと言っているから,羽根に象徴されている臆病者の汚名を返上したかったのか?それは,英国人特有の誇り高さのせいなのか?
この2点は,ものすごく大切で,2通りも3通りも解釈があっては困るのに,どうもその点に関するはっきりした答えが観客に提示されないまま,物語がすすんでいったように思う。ヒースの演技が悪いのでなく,脚本のせい?気持ちを表す台詞が,説明不足に思えたのだ。
ハリーが除隊を決心するまでの葛藤とか,羽根を受け取ってからの落ち込みようとか,苦悩する様はとても痛々しく,ヒースの演技は見事だったと思う。だからこそ余計に「何で最初から戦いに行かなかったの???そんなに苦しむなら」とその理由がずっと気にかかって・・・・。(この記事も最初から?マークだらけだが)ヒースはこの時,顔がやたらほっそりしていて,頬がこけてる感じが,痛ましいけど,美しかったなぁ・・・・
サハラに行ってからのハリーは,まるで神か天使が乗り移ったかのように,強く,崇高な犠牲的精神に満ちている。現地人のふりをして(これ,結構似合う)傭兵として英軍に入り込み,荷運びなどの重労働をこなし,まぎれこんだ敵のスパイを追いかけて敵の作戦を見破ったりと,命知らずの大活躍を繰り広げる。挙句の果てには,捕虜になった友を救い出すために自分も捕虜収容所に囚われ,死ぬほどの目にあいながらも脱獄に成功したり・・・・。
それはそれで面白く,また,ラクダや馬を自在に操るヒースはため息がでるほどカッコよく,脱獄時に,砂丘の上を砂まみれになりながら繰り広げた死闘などは,手に汗を握ったけれど,どうも冒頭のハリーに抱いた「だから,何で除隊したの?」という疑問がずっと小骨のようにひっかかったままだったなぁ。
書き込み不足と言えば,婚約者のエスネの人柄や,ハリーに対する愛情についても,イマイチはっきりしないように思えて,せっかくのケイト・ハドソンが魅力のないキャラに見えた。「自分の理想のためにハリーを愛していたんじゃないのか,彼女は」と思ってしまった。ま,4枚目の羽根をハリーに送りつけた地点で,私の中ではもう「何だこのオンナ」状態だったが。後で後悔してもねぇ・・・・。それにハリーの活躍を知ってからまたよりを戻すのもなんだか・・・。
彼女の気持ちの変化も,もっと深い台詞で表現されてたら,共感できたかもしれない。
それに比べて,ハリーと親友ジャック(ウェス・ベントリー)との絆は心に沁みた。ラストの顔をさわるシーンは何度観ても好きだ。あそこで,ジャックが何も言わないのがまたいい。あえて言葉にしなくても,通じ合うものがこの二人にはある。ジャックの最後の演説は,やや蛇足っぽいけど。
この映画のヒースは,いろんな髪型やファッションを見せてくれますが,若いということもあり,どれもとても似合っていて素敵です。物語は長いし,途中マークに悩まされはしましたが,全編を通してヒースに見とれているうちに,終了した,という感じでしたね・・・・。私は。
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