アンフィニッシュ・ライフ
ラッセ・ハルストレム監督作品で,主演はロバート・レッドフォード。他の出演陣も ,モーガン・フリーマン,ジェニファー・ロペスと超豪華!劇場公開されなかったのがまことに勿体無い,素晴らしい作品だった。
これは,シッピングニュースや,ギルバート・グレイプのような,ラッセ作品特有の 傷を抱えた人々の 癒しと再生のやさしい物語だ。物語の舞台はアメリカ,ワイオミング。そう聞いただけで,ブロークバックマウンテンを思い出して,「観よう!」とDVDをレンタルした私(←単純)
主人公のアイナー(レッドフォード)は,ワイオミングの小さな牧場で,熊に襲われたため障害を負った親友ミッチ(フリーマン)と一緒に暮らしている。(二人だけで暮らしているからといっても,彼らはゲイではありません)
そこへ突然,死んだ息子の嫁ジーン(ロペス)が娘のグリフと共に現れる。現在の恋人の暴力から逃れるために,舅であるアイナーを頼ってきたのだった。しかし,アイナーとジーンの間には,強いわだかまりがあった。
アイナーは息子の交通事故死を,運転していたジーンのせいだと恨んでいたのだ。いまだにジーンに対する憎しみを捨てられないアイナーは,それでも息子と生き写しの孫娘グリフへの情から,二人の滞在を許可するが・・・・。 レッドフォードが,顔面全体にうっすらと生やした髭がちょっと薄汚く見えて,最初は「レッドフォード?どこの爺さん?」とひいてしまったが,そのうち見慣れた。フリーマンの方は,背中や顔に残る熊の爪傷がまだ生々しく,今でもアイナーに 痛み止めのモルヒネを打ってもらっている毎日だ。
彼が熊に襲われた晩,泥酔していて彼を助けられなかったアイナー。そのことでミッチはひとことも,口に出してアイナーを責めたりしなかったが,アイナーの方は,おそらくずっと自分を赦せないでいたと思う。
この物語のテーマは
「人はいかにして赦せない思いを克服できるか」だ。
親友を助けられなかった自分を赦せない思い。
息子の死の原因を作ったジーンを赦せない思い。 いくら忘れたくても,毎朝ミッチの世話をする度に,後悔と自責の念は起こっただろう。だから,彼を傷つけた熊が再び出現したときに,アイナーは熊に「殺意」まで抱くのだけど,ミッチの方は対照的に 動物園に収監されている熊に対して,「餌をやってくれ」「様子を見てきてくれ」と,意外な反応を示す。
一方,嫁のジーンへの恨みはもっともっと深刻で,とうてい赦せそうもないのだが,日増しに募る孫のグリフへの愛情から,「赦さなくては」とジレンマに苦しむアイナー。息子の死は事故であり,きっとアイナーもそれは十分承知していただろうけど,運転していたジーンを責めたくなる親心は やはり当然だろう。悲しみが深すぎると,原因を作った相手を憎むことで,悲しみから逃避したくなる。
赦すよりも,憎み続けることの方がたやすい場合も,きっとあるのだ。望んでもいないのに,唐突に与えられた「赦しの機会」に彼は戸惑いを隠せない。アイナーの葛藤や苦しみはよくわかる。憎しみは確かに確実に心を蝕むけれど,赦しを選び取るのは もっと難しい。しかし,赦しが与えてくれる平安と癒しのすばらしさをミッチはよく知っていて,時にはシビアに時には優しく,「赦すんだ」というメッセージをアイナーに発し続ける。
複雑な心境の変化を演じきったレッドフォードの演技は,さすがの貫禄で,冒頭から惹きこまれてしまう。彼はやはり,大自然の中で馬を駆っているのがよく似合う。・・・たとえ老いても。
そしてモーガン・フリーマンは,今回もまた,悩む友を傍らで見守る役だ。重厚で,包み込むような,こんな温かい雰囲気は,彼にしか出せない。
アンフィニッシュ・ライフ=「未完の人生」は,若くして死んだ,アイナーの息子の墓に刻まれた墓碑銘だが,アイナーその人の人生もまた,もしジーンや自分を赦すことができずに終えたならアンフィニッシュ・ライフになったのではないかと思った。
赦すことは時に痛みも伴うけれど,赦された側よりも,赦した側の方が,より大きな癒しを得るのではないか。とうの昔に失ったと思ってた家族を再び得たアイナーを見ながら,そう感じた。 それにしても,この映画,ブロークバック~でおなじみのワイオミングの自然や町並みや,カウボーイの服装などが,たくさん出てきて嬉しかった。
ブロークバックは40年も前の物語だのに,今もカウボーイたちって,イニスやジャックと,そう変わらないファッションだった。・・・・特にアイナーのジャケットなんか,イニスのと激似のもあった。そういや,ポンコツのピックアップトラックも登場したし。
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恋人の暴力に耐えかね、11歳の娘グリフ(ベッカ・ガードナー)を連れ、亡き夫の父アイナー
(ロバート・レッドフォード)を頼って彼が営むワイオミングの牧場へと逃げてきたシングルマザーの
ジーン(ジェニファー・ロペス)。アイナーはここで、熊に襲われ障害を抱える親友ミッチ
(モーガン・フリーマン)の世話をしながら静かな余生を送っていた。最愛の息子が死んで
以来心を閉ざしてしまったアイナーは、その原因となったジーンをいまだ許すこと... [続きを読む]
» 『アンフィニッシュ・ライフ』 [La.La.La]
制作年:2005年
制作国:アメリカ
上映メディア:劇場公開
上映時間:108分
原題:AN UNFINISHED LIFE
配給:ジェネオンエンターテイメント
監督:ラッセ・ハルストレム
主演:ロバート・レッドフォード
モーガン・フリーマン / ジェニファー・ロペス
ジョッシュ・ルーカス / ベッカ・ガードナー
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抱えたふたりが、次第に心を通わせていく様を描いた感動作。
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良かったですよね~、これ。
ほんと赦すってことの難しさ、憎み続けるほうが
精神的に楽ってこともあるんですよね~。
でも、その”機会”が思いがけず与えられた彼の
徐々に起こる心の変化が上手く描いてありましたよね。
そう、それに風景も素晴らしかったですよね。
あの上空から撮った景色なんて、見てるだけで
こちらも癒されました。
きっとアイナーも赦すことで癒されて、これから
きっと家族とともに幸せに暮らすことができるだろうなって
思えました。
>アイナーその人の人生もまた,もしジーンや自分を赦すことができずに終えたなら アンフィニッシュ・ライフになったのではないかと思った。
ほんとそうですね。
彼の人生、アンフィニッシュにならなくて、本当に良かった♪
TBさせていただきましたm(_ _)m
投稿: メル | 2007年12月25日 (火) 09時13分
メルさん,TBコメントありがとうございました。
これ,未公開はもったいないですよね。
今からでも,皆さんにDVDでたくさん観ていただきたいですね。
赦しって,本当に難しいと思います。
何でもかんでも赦すべきだとは思いませんが・・。どうしても赦せないほどのこともまた,あると思います。
でも,それが事故やあやまちだったり,相手が後悔していたり,和解を求めてきたりした場合は,赦すことで自分も解放されるんですよね。
人生の真実ではあるけれど,時にはとても難しいことかもしれません。
だからこそ,それができたアイナーの物語は
私たちの心を動かすはずですよね。
投稿: なな | 2007年12月26日 (水) 00時27分
こんにちは、TBありがとうございました。早速エコー
させて頂きます。
豪華キャスティングでしたね、そしてこの内容で
ビデオスルーだからたまらないよね、CGだけでまるで
中身のない自称大作なんて公開するよりもこういう
作品をもっと劇場公開するべきだと思うんだけどね
熊に襲われて未だにからだが思うように動かないミッチが
自分を襲った熊を「許す」という行為がなんか不思議だっ
たけど胸を打ちました。
またグリフちゃんが可愛かったですね、孫が現れたことで
不器用な柄に次第に受け入れて愛情を持つようになる
アイナも良かったです。
面白いのがジョッシュ君は相変わらず地味な役を地味に
こないしてるところかな
投稿: せつら | 2007年12月26日 (水) 13時32分
せつらさん TBありがとうございました。
ほんとうにCGだけの大作(ベ●ウルフとか?)より,確かに深いものを感じます。
ミッチが熊を赦したのは,そうすることでアイナーも自分の過去の過ち(=泥酔していて助けられなかった)を赦すことができるようになる,というやさしい思いもあったのかな~という気がしました。もちろんミッチ自身のためでもあるでしょうけど。
グリフちゃんは,ピアノ・レッスンのアンナ・パキンに面差しが似てましたね。
ジョシュ・ルーカスさんって,男前なのに,いかにも善人面でアクがないから,かえって主役があんまりまわってこないですね。不憫だわ~~。恋人にしたい感じのイイ男なんですけど。
投稿: なな | 2007年12月26日 (水) 15時38分
こんばんは~♪
どうしても、アイナーの出で立ちや背格好はイニスを連想してしまいますね。
この景色のどこかに、イニスとジャックがいたんだ…(いないけど)
なんて、余計なことも考えたりもしましたが、
でも、ハルストレム作品らしい、幾重にも重なり繋がる痛みや、
視点の温かさ、物事を誠実に描く姿勢などが今回も感じられて、
せめてDVDででも観れてよかったと思いました。
ジョシュ・ルーカスが出ているのを知って大喜びでした。
わたし、案外この人の主演3本も含めて出演作を観てるのですが、
これから、もっともっと出てくる人のような気がします。
優しげな表情がいいですわ。
投稿: 悠雅 | 2007年12月26日 (水) 23時53分
悠雅さん TBありがとうございます。
こちらからはお送りできてないのに
たくさん送っていただいて・・・(感涙)
やっぱり悠雅さんも,アイナーの雰囲気や服装を見て,老いたイニスを連想されましたか。
あの懐かしいワイオミングの風景が映し出されると,私もどうしてもイニスとジャックが現れそうな気がしてしまいます。
ラッセ監督の目線と,リー監督の目線って,やはりアメリカ人監督にはない細やかさや優しさがあるように思えます。
悠雅さん,ジョシュ・ルーカス,お好きなんですね~。そういえば,この方,だんだん出演が増えてきてるような気が・・・。
悠雅さんのお好きな(私も)英国風美男子の雰囲気のある,優しくて品のある顔立ちがいいですね♪
投稿: なな | 2007年12月27日 (木) 00時27分
こんばんわ~、
またお邪魔しま~す、この映画見たい!ワイオミングが舞台なんですね~、凄く懐かしい感じ、当時はマジでワイオミングに旅行したい気分だったし、そしてラッセ監督なんですね、「サイダー」や「シッピング」系なら見たいし、R・レッドフォードの作品も渋くて好きだし(「二重誘拐」はオススメです)あと赦すがテーマなんでしょうか?僕の好きな言葉です、(でも精神的に子供の僕には難題です)絶対見なきゃ!
今年もあと1日未満になりました、良いお年をお迎えください。
投稿: イニスJr | 2007年12月31日 (月) 01時22分
イニスJrさん
そうそう,これ,BBMのファンなら,懐かしくて涙が出ますよー。風景とか,建物とか,服装とか。デジャヴを感じます。レッドフォードの着てるジャケットがいい感じにラクダ色で,最後の諍いのときにイニスが着ていたくたびれたジャケットとかを思い出しました。
レッドフォードは大好き。顔は老けてますが雰囲気は若いです。かっこいいですね。
テーマはきっと,赦しと関係の回復です。私は復讐と赦しと,どちらのテーマも好きなんですよ。(真逆なのにね)
イニスJrさんのお好きなラッセ風味も十分効いてますから,きっとお気に召すと思います。お正月に是非!
投稿: なな | 2007年12月31日 (月) 02時44分