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2007年11月28日 (水)

オリバー・ツイスト

Cap278
19世紀の英国の文学や歴史が好きな私は、ポランスキーが「オリバー・ツイスト」を映画化すると聞いたときは、観る前から既に勝手に満点評価をつけていたような気がする。オープニングで大写しになったイギリスの田園風景を描いた銅板画と,♪ソッソソッラ シッシシラソーという曲が流れたときから もうワクワク。(鉄道唱歌に出だしが似てる)Cap301
チェコのプラハに作った19世紀のロンドンの町並み。
華やかな喧騒の溢れるキングス・ストリートや
不気味な悪の巣窟,ジェイコブス・アイランド。
夜霧の中に 神秘的に浮かび上がるロンドン橋。
薄暗い室内を暖かく照らす蜂蜜色のろうそくの光と陰。

小説で読み,頭の中にだけ思い描いていた,文豪ディケンズの世界が,実体を持って目の前に立ち現れてくるのを観るのは,まことに嬉しかった。
Cap274
オリバーを演じたバーニー・クラーク君は,上品ではかなげな風情の お人形のように整った顔立ち。哀愁漂う無垢な感じは,「天使がいじめられたら,こんな顔をしそう・・・」と思った。彼が,また巧いんだな,涙を流したり,気絶したりする演技が。青白い頬を涙でぬらして,震える声で懇願する姿は,いかにも哀れを誘う。あの顔で「もっとお粥を」と乞われて,それを拒絶する輩は鬼にちがいない。
それにしても、この時代の英国の貧しい人々の惨めさと言ったら!ことに幼い子供たちか餓死したり,犯罪に手を染めて生きる様子は,痛々しいとしか言いようがない。
Cap276
子供がのたれ死にしようが、酷使されようが,意にも介さない大人たちの姿に,「なんてひどい時代!」と思わずため息。(ディケンズだから,そこに風刺が込められているのだが)
そして作中、最もオーラを放っていたのが,
フェイギンを演じたベン・キングスレー
少年窃盗団の元締めだが,サーの称号まで持つキングスレーが,ぼろのガウンを纏い、乱杭歯をヤニで汚く染めて腰を曲げ,不気味で小汚い爺さんを,完璧に演じきっていた。
Cap297
ディケンズ作品は、悪人はとことん悪人という描き方が多いように思うが,このフェイギンは,善と悪の両面を併せ持つ人間として描かれていて,演じるのは相当難しかったと思うのだが、キングスレーの表情は、時に人情味の片鱗を覗かせるかと思うと,次の瞬間には,また狡猾そうな悪党の顔に逆戻りしたりして、まさに変幻自在。Cap288
温厚な紳士,ブラウンロー氏を演じたエドワード・ハードウィックも,悪の権化ビル・サイクスを演じたジェイミー・フォアマンも,マグダラのマリアみたいなナンシーを演じたリアン・ロウも,そして子供ながらセクシーな早業ドジャーを演じたハリー・イーデンも,みながぴったりと役にはまっていて,演技もすばらしかった。

一つだけ,不満な点を挙げると,原作の重要な箇所の省略だ。その重要な箇所はつまり  オリバーの出生の秘密

原作では,オリバーは,実はブラウンロー氏の親友の遺児であり,そのことが判明するシーンは,物語の一つのヤマ場となっていて,たしかオリバーの母の妹(つまり叔母)も登場する。つまり原作のオリバーは,映画のように善良さのおかげで,悪の巣窟から脱出できたのではなく,もともと上流階級の生まれだったから,本来の自分の居場所に戻れたのである。
Cap289
小学生の時,初めて児童文学全集で「オリバー・ツイスト」を読んだとき,この「オリバーの出生の秘密」が一番心に残り,面白かった。韓ドラにもよく取り入れられる,物語の醍醐味「明かされる出生の秘密を,監督はなんと「ややこしくなるから」とカットしたそうな。

これを無いことにしたものだから,オリバーに肩入れする ブラウンロー氏の心境の説明がつかず,「この子の中の何かが私の心を打つ」などと,説得力に欠ける台詞が登場していた。
映画のオリバー少年は,何の努力もなく,ただ美しく無垢な顔立ちだけで幸福をつかんだようにも見えて,感動が薄まったのじゃないかなあ・・・。
Cap295
善良であれば,いつかは幸せになれる
というテーマは,世の中を長年見てきた者からすれば「嘘つけぇコラannoy」となりかねないが,出生の秘密が明るみにされて幸せを取り戻す物語なら,「めでたし,めでたし」と,素直にカタルシスを感じることが出来ると思う。

・・・まあ,これも,裏返せば,氏素性によって幸せが決まるっていう癪にさわる理屈になる恐れもあるのだけどね。

こんな小難しいことばかり考えずに,ディケンズの世界と,バーニー君やベン・キングスレーの演技を素直に堪能した方がよさそうだ。バーニー君は,成長したら,正統派の英国美男子になりそうですなぁ。

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映画 あ行」カテゴリの記事

コメント

ななさーーーーーーん!!
今、衝撃の事実に、鳥肌たったままです(@_@)
>オリバーは,実はブラウンロー氏の親友の遺児であり,

そ、そんな最重要な部分が無いなんて!!!
もったいない~~~。
でもね、この映画見てしばし月日が経ってしまったものの、今日こういう原作だったんだ、って事が解って、なにか過小評価しちゃってゴメンよー!という気持ちです。
それにしても、勿体ない・・。なんで、そこを描かなかったんでしょうかね。

>もともと上流階級の生まれだったから,
本来の自分の居場所に戻れたのである。
 ここ、ここ!!!ココがすごく重要だし、見せ場だというのに・・・うううう・・・・。

でも、今日、ななさんの記事を拝見させて頂けて、すごく良かったです。ありがとう~(^O^)

こんにちは。
すっかり映画の細かいところは忘れているのですけど、読ませていただくともう一度見たくなりましたよ。
今の私ならもう少し演出面に感動したかもしれないです。
その山場の秘密を省いたのが「ややこしくなるから」っていう理由がいいですねー。笑
結構納得。あはは;

latifaさん,そーなんですよ。
ポランスキーさんも,物語を変えるなら,ついでにオリバーのキャラもたくましく変えりゃよかったものを,原作の弱々しい清楚なキャラのままいっちゃったから,「何もしないのに棚ボタ式に幸せになっちゃった」という情けない印象になるんですわ。哀れなオリバー。
原作では,オリバーの母は身重の体で単身赴任の夫をたずねていく途中,病気に倒れ,通りかかった救貧院でオリバーを産んだけど,そのときの取り上げ婆さんやら何やらの陰謀で,オリバーの身元は闇に葬られた,といういきさつです。
ブラウンロー氏の家にはオリバーの母の肖像画があり,オリバーが彼女に生き写しだった,という箇所もあります。
まったく,なんでこういう面白いエピソードをカットするかなあ?私は劇場で観たのですが,最後までこのエピソードが出てこなかったので,それだけは「???」とおおいに不満でした。

シャーロットさん こんばんは
確かに,原作通りのストーリーにすると,登場人物がもっともっと増えるし,人物の相関図も複雑になりますね。オリバーの出生を知りながらも,彼の財産相続を邪魔する目的でオリバーを殺そうとする腹違いの兄,なんてのも原作には出てきますし,記事にも書いたオリバーの叔母になる美女とか,そりゃ入り組んだ大河ドラマにふくれあがります。
「ややこし~,カット!」と叫んだポランスキーさんの気持ちもわかりますが,肝心かなめの調味料を入れ忘れたようなパンチのない味になってしまってますね。
でも,映像が堪能できたので,私的には満足ですけど。

ななさん、こんばんは~。
この映画は相当、良かったです。ポランスキーらしい映像美が堪能できますね。デヴィッド・リーン監督の1947年版は、ご覧になりましたか?これだと、オリバーの母親が通りかかった救貧院でオリバーを産んだ時のことやオリバーの母の肖像画も出てきました。
両作品とも力のある監督が映像化しただけあって、観る者を劇中に引きこむ魔力がありますね。

トラ・コメどうもでしたぁ。
原作知らずに映画観て、ちょっと違和感を感じましたが・・・
読んでる人が見たら、「衝撃の出生の秘密」が抜けてるぅ・・・
ってことで、大ブーイングなんですね。
ちょっと中途半端な出来で、残念でしたっ。

マーちゃんへ 
さすがマーちゃん,古い映画もよくご覧になっていますね。
私はそっちは見てないのですが
オリバー=出世の秘密の面白さととらえていましたので
この映画は「変な脚色」と思うと共に
これがあるのとないのとでは,オリバーの印象はがらっと変わってしまうのだなあ,と驚きました。
ポランスキーさんは,わざとリーン監督と違う作りにしたかったのかな?
それとも単に「話が長くなるから」と思っただけ?
映像や役者の演技は,いくら褒めても褒め足らないくらいですけどね~。
コメントありがとうございました♪

ひらりんさん おはようございます。
ひらりんさんも,中途半端と感じられましたか。
原作を知っている身からしたら
非常に勿体ない作りでした。原作通り作っても
おすぎさんがお褒めになるほどの大感動に至るかどうかは?ですが
ストーリーの面白さと,オリバーの魅力は倍増したと思います。

ななさん☆

いつもコメントありがとう〜♪

これ、、、、フツウだったかな(笑)
確かおすぎがすごいプッシュしてたような。。
そういえば最近おすぎです!のCM観ませんね(笑)
もう古いのかな。
^^

migさん こんばんは
TBもありがとうございます。
フツウでしたか・・・(笑)
まあ,もともとこのお話は感動よりストーリーの起伏を楽しむものですし
そのストーリーのいいところを変えちゃってるので
そんなもんでしょうね~。
山場は最後のフェイギンとの面会シーンのつもりなのでしょうか・・・?あそこはあまり感動しなかったですね。
おすぎさん,ポランスキーさんに思い入れがあったのね,きっと。

こんにちは。
いつもコメントいただいて、ありがとうございます。
TBが届かないようで、申し訳ないです。
ほかのNiftyの方からも同じお声をいただいて、突然相性が悪くなったようです…

わたしは原作は未見ですが、マーク・レスターの『オリバー!』で描かれた出生の秘密が
ここでは描かれてなかったのが気になってました。
ただ、『オリバー!』を観た時、
「なんだかんだ言っても、結局、生まれが最重要なのね」なんて
拗ねた見方になってしまったので、
わたしは説得力がないにせよ、これはこれでアリかな、と思って観ました。

悠雅さーん そうなんです。昨日あたりから,
悠雅さんちだけでなく,あちこちにTB送れなくなっちゃいました。(泣)きっとココログが悪いんだわ・・・。
ところで悠雅さんは,オリバーの出生の秘密をご存じでしたのね。
・・・そして私の記事にも書いた「幸せは氏素性で決まる」のも何だかなあ,とお感じになったと・・・。(笑)
あの悲惨な社会で貧しい子供たちの生活ぶりを見せつけられると,そうも思いますよね。「顔が美しいから幸せに・・・」というのも,生まれつきの要素ですが,今作のオリバー君は,決して顔だけで気に入られたのではなく,彼の心映えがよかったからだと描いてますね。「善意」を失わないこと?悪の蔓延する世界での「善意」の勝利というものはおとぎ話のようですが,あってほしいおとぎ話だと思いました。

こちらにもお邪魔します~
そうでしたか~映画観たとき、なんか違和感が・・・と思ったのはオリバーの出生のヒミツだったんだ・・・

原作読んだのは小学校の頃ですから~すっきり忘れてました。
でも「小公女」と「小公子」は何百回読んだから~忘れてないぞ~~うふふ。。。

ポランスキー監督、はしょったかぁ。。。
この映画、公開時はあまりヒットしなかったですね。
渋すぎですか・・・
まぁあの子供達見てたら~切なく、苦しくなりましたけど~
いい作品だったと思う。

ベン・キングスレーは素晴らしかった!!
後、ななさんがおっしゃるように、みんな役に合ってました。

この前、『アポカリプト』TBさせていただいたんですが~入らなかったみたいです。ごめんなさい・・・><;


マリーさん こちらにもコメントありがとうございます。
マリーさんも,小学校の時,児童文学でオリバー・ツイスト読まれましたか。
英国は児童文学の宝庫でしたね。「小公子」「小公女」「秘密の花園」(これみんな確か同じ作者だ)・・・。私はそのとき以来ずっと英国贔屓のような気がします。
そう言えば,「小公子」のセドリック少年をバーニー君が演じても似合いそうですね。
この映画,たしかにあまりいい評判ではなかったです。
それが,ポランスキー監督の「はしょり」のせいかどうかわからないけど。
あまり時代が求めてない作品だったのかなぁ。
なぜ,今この作品を???とよく言われましたね。
ベン・キングスレーの演技は,もう格が違いますね。どの作品でも。私は彼を観るのも目的の一つでしたが,大満足でした。
TB,最近あちこちで反映されなかったり,こちらも送れなかったりと,不調です。申し訳ありません。ライブドアさんとの相性が急に悪くなったみたい・・・。楽天さんとはどうかなあ,早く復旧してほしいです。

こんにちは♪
なんだ~、この映画は完全にオリバー君の設定の書き込み不足じゃないですかー!
元々がイイお家の生まれであれば元に戻って良かったね~~って素直に喜んであげられたのにな。
この映画では彼の美しさと善良さが幸せへと導いた・・・というふうにしか思えませんでしたよ(泣)
ななさんのおかげでスッキリいたしました。
ありがとうございます~☆ 

ミチさん こんばんは♪
オリバーのキャラの書き込み不足・・・そうなんですねー!
ポランスキー監督,背景の町並みや衣装はこれでもかっ!てくらい
パーフェクトに書き込んでるのに,惜しいです。
>この映画では彼の美しさと善良さが幸せへと導いた・・・というふうにしか思えませんでしたよ(泣)

そうそう,美しくなく,善良でもない者は救いがないのかって言いたくなりますね。
善良なだけで救われるほど世の中甘くないですしねぇ。
80億の元は取れなかったかもしれませんね。

ななさん、こんばんは♪
TB&コメントありがとうございました。

えぇぇーーっ、オリバー君の出生には そんな秘密が?!
鑑賞後1年近く経って知った驚愕の事実...
なんだかスッキリ納得~といった感じで、ななさんに感謝です。
「戦場のピアニスト」の監督作品ということで期待していましたが、
さすが80億を掛けただけあり、こちらも見応えがありましたね。
19世紀ロンドンの街並みがとてもリアルに再現され、
その世界観に浸るだけでも、映画館で観た甲斐がありました。
けな気でいたいけな少年を演じたバーニー君と
怪演ベン・キングスレーは、まさにハマリ役だったと思います。
ななさんの記事を読んだら、また観てみたくなりましたよ~

超ド級のうっすい記事...こっそりTBさせていただきます(恥)

Anyさん こんばんはー
そうか,もう一年たつんですね。公開から。
これはスケジュールをやりくりして,劇場まで足を運びました。
オープニングの音楽と映像で,もうわくわくしたのを覚えています。
ストーリーの省略はともかく,天下のポランスキー監督だから
やはり見応えはたっぷりでしたね。
バーニー君は,たとえ出生の秘密がなくても,そのけがれのない美しさだけでも
私なら救いたいなあ,と不埒なことも考えます。
キングスレーのフェイギンは,まさにイメージどおりの完璧なフェイギンでした。

ななさん TB&コメントありがとうございます。
僕もオリバーの出生の秘密が明かされないのには驚きました。ひょっとしたらユダヤ系のポランスキー監督としては、生まれで人間の資質が決まってしまうという考え方には疑問を感じたのかもしれません。
キャラクターとしてはファイギンやドジャー、ナンシーなどの方が強烈で、僕は彼らの方に魅力を感じました。救貧院の実態、ぞっとするような下層社会のリアルな描写が出色です。キャラクターの歪みを通して社会の歪みを描くディケンズの世界がよく再現されていたと思います。

ゴブリンさん TBもありがとうございました。
そうか,ポランスキー監督はユダヤ系でしたねー。そう言えばオリバーの放浪の辛さを描くときは気合いが入っていましたものね。
その反面,生まれで幸せが決まるというのは,あまり賛成できなかったのかも知れませんね。
悪役の魅力は,原作同様映画でもとても感じられましたね。個性的というか,人間らしいというか・・・。
救貧院の惨状も,映像でみるとすさまじいものを感じました。

TB&コメント、どうもありがとうございました~♪
ななさんのこの記事、どうも読み飛ばしていたようで(^^;;)
申し訳ありませんm(_ _)m

そうだったんですか~!そんな重要な部分をはしょって作ってあったんですね~。あまりといえばあんまりな・・・と思っちゃいますが、でも、フェイギンは悪い人だけど良い所もあるというような人物だったわけですね、映画と同じく。
これはますます原作を読みたくなりました。
ななさんはディケンズがお好きなんですね~^^私は”クリスマス・キャロル”と”大いなる遺産”しか読んだことがないんですが、どちらも大好きです。わりと読みやすいし^^
この作品以外に、ななさんのお勧めありますか?
読書の秋なので(私には食欲の秋でしょ、という陰の声あり・・ですが(^^ゞ)またディケンズも読んでみたいなぁ、と思ってます♪

メルさん こんばんは

そうなんですよね,監督,この物語の
一番重要な点をカットしてたように思えます・・・。
だから,なんだか味のしまらない感じもしたのですが
全体の雰囲気としては大好きでした。
ディケンズ・ワールドを忠実に再現していましたよね。
フェイギンは,善人の要素もある極悪人という複雑な悪党で
それをサー・キングスレーが見事に演じていましたね。

お勧めのディケンズ作品は,メルさんが挙げられたものの他には
「二都物語」とか「デヴィット・コパフィールド」でしょうか。
「デヴィッド~」はディケンズの自叙伝だとも言われてますけど
イギリスのTVで,ダニエル・ラドクリフ君が少年時のデヴィッドを演じてましたね。
ダニエル君はそのときの薄幸な少年役が目にとまって
ハリー・ポッターに抜擢されたのですが・・・。

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