セブン
フィンチャー監督のあまりにも有名なサイコ・サスペンスの傑作。思い起こせば10年以上も前に封切られたとき、劇場まで見に行ったが、「うわー、こんな殺され方二度と観れない」という場面が結構たくさんあって、(スパゲッティを無理矢理大食させて胃を破裂させるとか、自分で自分の肉を切り取らせるとか)それ以来 ビデオ化されても一度もレンタルしたことなく,自分の中では,この10年間封印させてもらっていた作品である。当時の私は残酷描写に対する免疫が今ほどついていなかったのだろう。そんなウブな時代もあったのね。
あれから年月が流れ、どんな残酷描写も,ポテチなんか食べながら,「ふ〜ん、…それだけ?( -_-)」と観れる程に 免疫がついたので久々に再見。 しかしこのセブンは、ストーリー、俳優、映像、演出どれをとっても、このジャンルの作品の中では、やっぱり桁外れの傑作だと改めて思う。そして何度観ても、どうなるかわかっていても、衝撃的なラストシーンにはやはり愕然とし、強烈な後味の悪さを感じた。
ダンテの神曲にある七つの大罪
大食、強欲、怠惰、色欲、高慢、嫉妬、憤怒。
神に代わって断罪するかのように,綿密な計画のもと,想像を絶する残虐な方法で殺人を行う犯人を演じた,ケビン・スペイシーの何とも不気味な存在感は,今見ても鳥肌ものだ。そしてまた,退職間際の老練な刑事(モーガン・フリーマン)と,感情で突っ走る若いミルズ刑事(ブラッド・ピット)のコンビが対照的。
7つの事件が つぎつぎと明るみに出される1週間の間,街はまるで雨季が訪れたかのように,土砂降りの雨に閉ざされ,人々のやりきれない心情を投影するかのように、スクリーンには 終始暗く,陰鬱なムードが立ちこめていた。
実際に殺人が行われるシーンの映像はないが,遺体の有様を見るだけで,犯人の異常ともいえる緻密さと,残虐さが手に取るように観る側に伝わり、心臓に氷を押しつけられたような恐怖が,否応なしに押し寄せてくる。
ゾディアックでも感じたが,フィンチャー監督は,派手な血しぶきや絶叫シーンなどに頼らず,観客の想像をかきたてながら,恐怖心をあおるのが非常にうまいような気がする。
殺人の現場には,計算しつくされた手がかりが残され,犯人も,わりと早い時期にわかる仕掛けになっているが,この物語のテーマは,「犯人捜し」ではない。そんな単純なものではなく,もっともっと暗くて絶望的なテーマが,この物語では,あたかも突き放すように描かれている。
そのテーマとはきっと,人間の心の闇や邪悪さ,逃れることができない「罪」というものについてだろう。
7つの大罪(大食、強欲、怠惰、色欲、高慢、嫉妬、憤怒)はどれを取っても,誰もが生まれつき,心の中に,大なり小なり持ち合わせているものだと思う。それが人を傷つけたり,法に触れるほどの行為となるとき,初めて誰の目にもわかる罪として認識されるけれど,もし行為だけでなく,心の有り様まで 厳密に裁かれるとしたら,この世の中には,罪の裁きから逃れられる人間などいないのではないか。
人はみな罪人であって,条件が揃えば,殺人のような罪を犯す可能性は,誰でも持っている。犯人のジョン・ドゥは,それを証明してみせるために,ミルズを罠にかけた。彼は,ミルズ刑事の性格や行動パターンを,ちゃんと計算に入れていたのだ。罪を犯すのは特別な人間だと思っていた,純粋で傲慢なミルズ。あの衝撃的なラストが示唆するものが,もしこういうことであったとしたら,なんと救いのないテーマだろう。
なぜならこれは性悪説の極みであり、悪の完全な勝利であり,人間の存在そのものを,絶望的で救いがないものと捉えるものだからだ。「人はみな罪人」というのは,キリスト教の考えと同じだが,十字架のあがないによる救いがあるキリスト教と異なり,この物語の結末には,何の救いも用意されていない。
「人はみな罪人」だという主張は,この物語の場合,神の救済の必要を説く,本来の目的で使われるのではなく,悪魔からの嘲笑のメッセージとして使われているように思える。
ラストシーン、ミルズが味わう 深い絶望の闇の中から,どうやって光を見いだすのか答えは各人でどうぞと言われたみたいな気がした。 ・・・・と考えながら気分が果てしなく落ち込んできた。おそらく,私が長い間,これを再見する勇気がなかったのは,実は残酷シーンがいやだったのではなく,このテーマを直視するのが怖ろしかったのかもしれない。できれば,あまり考えたくない真実。のぞき込みたくない深淵だもの。ゾディアックもまた,謎解きがテーマではなく,連鎖してゆく心の闇を描くのが目的の作品だった。
ううむ,フィンチャー監督の世界・・・・やはりどこまでもダークである。(そこが好きだけど)
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» 「セブン Seven」 [心の栄養♪映画と英語のジョーク]
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退職間近なベテラン刑事サマセット(モーガン・フリーマン)が、血気盛んな新人刑事ミルズ
(ブラッド・ピット)とコンビを組む。その2人の前に起こったのがキリスト教の「7つの大罪」に
基づく連続猟奇殺人事件だった。そして犯人の魔の手が刑事へも・・。
七つの大罪、「憤怒」「嫉妬」「高慢」「肉欲」「怠惰」「強欲」「大食」・・。
まずはドアからも外に出られないんじゃないかってくらいの肥満の男が
殺されてるのが発見されて・・・と、そこから事件が始... [続きを読む]
ななさん
こんばんわ~!お久しぶりです。コメントありがとうございました!
ほんと、この映画、大嫌い(って言うか、見た後ぜんぜん楽しくないし後味が悪い)なのに、10点つけちゃう映画でした。私、レンタルで夜中に見たんだけど、こういう「嫌なのに夢中で観ちゃう映画」って知らないうちにテレビの前で正座してるんですよ。ベッドで見るから、普通の時は、いつもくつろいだ体勢で見てるんだけど。この映画と、柳楽優弥君の「誰も知らない」は、真夜中に正座していました。
この映画、ずーーーーっと雨が降っているのに、ラストのあのシーンだけ、ものすごく晴れていましたよね。ほんとうにショッキングなラストでした。「オールドボーイ」の箱、この映画を思い出しました。
ものすごく嫌なんだけど、また観なおしちゃおうかな~。
投稿: こむぎ | 2007年11月15日 (木) 01時15分
こむぎさん こんばんは~こちらこそご無沙汰です。
これをレンタルして夜中に観られましたか・・・。凄い。
正座って,わかる気がします。私もこれや,「復讐3部作」は正座して観ると思う。「嫌な」映画なのに10点つけちゃうのも,この作品の場合はアリですよね。好き嫌いはともかくとして,傑作です。
雨は効果的でしたね。あの街は確かロスかどこかだったと書いていたのを読んだ記憶がありますが,普通アメリカってそんなに1週間も雨が降り続いたりしないと思う。日本の梅雨じゃあるまいし。でも,そこがかえって,現実離れした暗いムードを出していました。
こんな救いのない殺人犯の物語って,雨のシーンを使いますね。「殺人の追憶」もそうでした。セブンでは,あの,最も救いのないラストシーンだけ快晴で,(何?あれ,皮肉?)インパクトありました。
どうぞまた,ご覧になってください。また正座して。(笑)
投稿: なな | 2007年11月15日 (木) 02時10分
こちらにも・・・。
かなり好きな作品です。
っていうか、ブラピ出演作の中ではイチオシなんです。(彼もとっても若くてステキ!)
七つの大罪とか黙示録とか、そういうのになぞらえたサスペンスって好みですわ~。
ブラピとモーガンとの関係も良かったです。
おまけにラストに救いがなくてねぇ・・・。
ブラピが妻を後ろから抱えるようにして眠るシーンが印象に残ってます。
愛情いっぱいの二人という感じではなく、寄り添っていてもなんだか寂しさを感じるシーンでした。
投稿: ミチ | 2007年11月15日 (木) 21時00分
ミチさんも,この作品お好きですか!それもかなり?
私も後味悪いとか書いてるけど実は大好きです。
あんまりしょっちゅう観たいとは思いませんが。
ブラピは顔に余計な贅肉がなくていいねー,この頃は。それに,彼はやっぱり容貌だけでなく,演技も巧いです。
モーガンは,男の友情というか,男性とツーショットで行動する役ではいつもいい味を出しますね。「ショーシャンク~」とか「ミリオンダラーベイビー」とか。
ブラピがグウィノスを後ろから抱きしめているシーンは,私も印象に残っています。何か不幸に見舞われる予感が漂う,妙に痛々しいシーンに思えて・・・。このころのこの二人,実生活でも恋人でしたね,確か。
投稿: なな | 2007年11月15日 (木) 21時47分
こんばんわ~
日本でブラピブームに火を付けた作品ですね、ブラピ作品、僕は21本見てました(一応ファンで~す)同時にフィンチャー監督も名を売った作品でとても思い出深いです、とにかくブラピが良かったし、作品もよく出来ていましたね、ラストは、ななさん同様、色々考えさせられました、僕などは犯人がただ異常者ということで解釈してたような気がしましたが、ななさんの解釈を読ませていただき、また考えさせられました。サスペンスとしての面白さとこの映画の独特の匂いは、もう一度見てみたい欲求にかられます。ホントにラストは衝撃的でした。
また、フィンチャー監督の次回作はブラピ主演らしいので、楽しみですね。
投稿: イニスJr | 2007年11月15日 (木) 22時17分
この作品は、何度かTV放映もされてますよね?
最初観たのは、TVだったと思います。
その時は、内容が内容なだけに わざと真剣に観てませんでした。
その後セルビデオでゆっくり観まして・・・
ラストに衝撃を受けました。
救いのないブラピの表情が痛かった。
途中のグロいシーンより、一番インパクトがあるんですよね。
ケビン・スペイシーの怪演も忘れられません。
後モーガン・フリーマン・・・彼は変わりませんね。何年も・・・
投稿: マリー | 2007年11月15日 (木) 23時28分
イニスJrさん,こちらにもいらっしゃいませ。
ブラピ作品,21本も!私も慌てて数えてみましたが,11本観てました。別に彼のファンではないけれど,彼はいい作品に出ているので,どうしても目にする機会が多いのですね。で,一番好きなのは「トロイ」だったりします。アクション・シーンがカッコよすぎ。
ブラピやジュードがお好きなら,イニスJrさんは面食いなのかしら? (ジェイクも♪)
この「セブン」は本当に,人の心の闇を暴き出すような後味の悪さがあって,何かすごく嫌なものを見せられた気になり,それからしばらくは,近所の「セブン」というスーパーの看板を目にしても,どきどきしたのを思い出します。(でも,わたしのハンドルネーム,英語でセブンですね。今気がついた!きゃー)
フィンチャー監督って,ちょっと悪魔的な香りのする作品撮りますけど,芸術の域に達しているので,やっぱり鬼才だと思います。ブラピがまた主演するんですか?それは楽しみですね。
投稿: なな | 2007年11月15日 (木) 23時34分
マリーさん,こんばんわー
これはもう今ではサイコ・サスペンスの古典的存在になってるのでは?封切られた当時はすごく世間で騒がれましたね。
ラストが何といっても記憶に焼き付きますが,ゆっくり鑑賞しなおしてみると,どのシーンも計算しつくされていて,テンポもゾディアックなどと比べると格段によくて,傑作だと思います。
ケビン・スペイシーも,まだ有名になる前でしたね。あの静かな不気味さにぞーっとしました。モーガン・フリーマンは,生まれたときからあの顔で,墓場まであの顔のままで行きそうですな。
投稿: なな | 2007年11月15日 (木) 23時44分
ほんと、これは傑作でしたね~♪
私は劇場では見たことなく(^^;;) テレビでずっと前に
やっていたときに、主人が見ていて、それを私は
横目で見て、貯まった家事をしていたので(^^;;)
ほんとど見てないに等しい状態で今回見ました~。
で、ほんと面白かったし、もっと早く見てればなぁ、と思いました。
そうそう、全体的に陰鬱な映像と雰囲気・・それがまた
良かったし、雨のシーンが割りと多かったですよね。
その雨がすごくこの映画にぴったりしてて、唸っちゃいました。
ラスト、自分でもミルズだったらああしちゃっただろう・・と
思いましたが、その後のことを考えると・・・なかなか
どういう精神状態で、どのように立ち直っていくのかって
なかなか見えてきません。
ゾディアック、未見なんですよ~(^^;;)
是非見て見たいと思いつつ、もしかしたら年末?!(^^;;)
TBどうもありがとうございました♪
こちらからもさせていただきましたm(_ _)m
投稿: メル | 2007年11月25日 (日) 07時25分
メルさん,TBありがとうございました。
ゆっくり鑑賞されたのは初めてですか。
冒頭からラストまで,独特の雰囲気の中,一気に観れちゃいますよね,これ。
とても緻密なつくり,完全主義者のフィンチャーさんらしいです。
この監督さんは雨をよく背景に持ってきますね。ダークなテーマを現すのに効果的なのでしょう。
ゾディアックも,雨のシーンありますよ。土砂降りの。
ゾディアックの方は,実話なのでセブンほど面白くない,というか,地味ですけど,やはりこの監督さんの匂いは同じです。
クールで,ダークで,スタイリッシュです。
またご覧になって記事を書いてくださいね。
投稿: なな | 2007年11月25日 (日) 21時22分
こんにちわ♪
いや~、わたしも久々の鑑賞でしたが、
やはり衝撃的なエンディングには参りました。
それでも傑作なんですよねー。
>テーマを直視するのが怖ろしかった
同感です!
こういう恐怖を味あわせるフィンチャー監督の狙い、
さすがですね。
TB、ありがとうございました(^^ゞ
投稿: 猫人 | 2009年4月16日 (木) 11時38分
猫人さん こんばんは
>衝撃的なエンディングには参りました。
>それでも傑作なんですよねー。
救いのないエンディングなのに傑作!という作品のジャンルの
草分け的な作品なんじゃないでしょうか?
こんな作品はなかなか撮れるもんじゃないですよね。
投稿: なな | 2009年4月18日 (土) 21時18分
こんにちは~♪
ここのところ変な天気が続きますよね~
真夏の暑さや酷い雨、、、嫌だ、嫌だ、、、
で、、、私もこの映画は15年ほど封印しておりました(笑)ニ度と観たくない映画ーってことで嫌っていたの。
私の場合は、ななさんと違ってもっと低俗な理由で、ブラピが可哀想だったからなんですけど(恥)
でも、観直してみたら、なんて完成度が高いんだ!!ってことで興奮しました。ちょっと画面が暗いのが気になったけど、面白いのなんのって。
衝撃のラストでさえ、これでこそ完璧なんだ、、、と悦に入りました。
この15年で、すっかりウブとは無縁になったようです(笑)
投稿: 由香 | 2010年6月18日 (金) 17時57分
由香さん こんばんは
ほんと変なお天気で不快指数が高いですよね。
一応梅雨には突入したけど
気温が定まらないから,風邪をひく人も多いみたい・・。
夏は一年中でわたしも一番嫌いな季節だわ。
で,由香さんもこの作品封印してたのね~
劇場で見た場合,しばらくトラウマになるよね~
でもたしかに,これの完成度ってすごい。
フィンチャ-監督の作品は長いけど
この「セブン」に限っては無駄なシーンは一つもなし。
役者もみんなハマってたね。
私も当時の純情さはどこへやら
今ではこの作品何度観かえしても平気だわん。
投稿: なな | 2010年6月21日 (月) 21時07分