インファナル・アフェア
第79回アカデミー受賞作品ディパーテッドのオリジナル。ディパーテッドを先に観てから,これを御覧になった方もいることだろう。私は公開当時にこれを観て、そのあまりの完成度の高さに驚愕した。ハリウッドリメイク版ディパーテッドは,アメリカらしい味付けで,レオもマットも大健闘していたが,やはりオリジナルの方が私は好きだ。ディパーテッドを観た後に,最近またこちらを鑑賞してみたが,やはり,見事としか言いようのない最高傑作だった。
練りに練られた脚本は一分の隙もない。アジアが誇る名優たちの演技は,大胆かつ繊細で,彼らの人間としての苦悩や葛藤が,ひしひしと伝わってきて息苦しくなるほど。
マフィアに潜入した捜査官ヤン(トニー・レオン)と,警察に潜入したマフィアの青年ラウ(アンディ・ラウ) この二人が,互いの存在に気づいてから繰り広げる 白熱の頭脳戦は,触れるとピシッ!と音をたてそうなくらい,緊張感に満ちて,思わず身を乗り出し,固唾を飲んで物語の行方を追うことに夢中になる。非常にテンポよく進む物語。一つも無駄なシーンやカットがない。
しなやかな体にぴしりと黒いスーツをまとい,見るからに切れ者のラウは,良心の呵責と,保身との間で激しく煩悶する。「善人として生きたい」という願いを叶えるためには,しょせん,罪を重ねるしか道のない哀れなラウ。
一方,長年の潜入捜査から来る,緊張と孤独に疲れ果てたヤン。自分のアイデンティティーを知るたった一人の上司ウォン警視の死を前にしても,マフィアの一味として行動せねばならないヤンの,瞳に浮かぶ 哀しく苦しげな表情が切ない。(しかし,ブエノスアイレスでも書いたが,トニーは哀しい顔がほんとによく似合う)
善人であるのに,悪人の肩書きをまとわねばならないヤンと
悪人であるのに,善人の肩書きを手放したくないラウと。
・・・どちらの男も壮絶なくらい孤独だ。
相手を倒さねば自分が倒されるという,宿敵の二人だったが,潜入の苦しみを体験した者同士だからか,二人の間には何か奇妙に 心が通じ合うものも感じられ,それがまた切なかったりした。
・・・・それにしても,もう若くないアジアの男優ふたりのなんとまあ,渋くてセクシーで素敵なこと。この役はこの二人以外考えられない。
抜けるような青空をバックにした,ビルの屋上での対決シーン。
どちらの側にも共感している自分がいた。
どちらかが倒れるまで,闘いは終わらないということは判っていたけど,ヤンの潜入捜査官の苦しみも早く終わらせてあげたいし,「見逃してくれ」と懇願するラウにも,どうしても感情移入してしまって。
結局思いがけない一発の銃弾が けりをつけることになる。職務に身を捧げ,報われることのなかったヤンの人生は確かに悲劇。しかし罪を背負って生きてゆくラウを,待っているのは無間地獄の闇。生きている限り,どこまでも続いてゆく果てしのない苦しみの道だ。
この極めて東洋的で,仏教的な無常観こそが,この作品の大きなテーマであり,魅力でもあるから,ハリウッドのリメイクは,この点をどうするのかなあ,と懸念していたら,案の定,そういうテイストは,あっさりばっさりカットしていた。まあ,無理して表現されるよりは,潔くていい。
デラックスDVDボックスを買ったら,無間道という歌の入ったスペシャルディスクがついていた。なんかトニーとアンディが歌ってるのだけど,どっちがどっちの声かしら?歌もお上手なのね,お二人さん。歌詞は深いけど,メロディーは明るいノリだった。(←賑やかな演歌って感じ)その中での歌詞の一節が,ラウの気持ちをよく表していたなぁ・・・。
選んだ道を歩み続けても,夢見る彼岸にはなぜ辿りつけぬのか。
この世は絶え間なく続く道。どうすれば地獄から抜け出せる
苦しみを忘れ去りたいのに,極楽への道はあまりにも遠い
道の果てがやっと見えたときふと気づく,そこは再び出発点。
なんとまあ すご~く悲惨な歌ですね~♪
これをトニーとアンディが絶唱しております(なんか かわいい)
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