ブロークバックマウンテン(17)
I'm sorry・・・ 私も,おそらく皆さんの大多数も大好きな(と思う)初夜(←言っていいのか、こんな表現)の次の晩のラブシーン。
前夜の行為を「あれは一度限りだ(大嘘)」とジャックに宣言したイニス。ジャックに言ったつもりだけど,実は自分に言い聞かせたのかもね。
その晩、夕食が済んでも 羊のところに帰らず,いつまでも焚き火の傍でぐずぐずしているイニスと,寒さにもかかわらず,なぜかイニスの視野に入るように(と,私には見えた)
テントの中で上半身裸になるジャック。これって見ようによっては 二人とも魂胆見え見えで 可笑しい。いや、本人達にしてみれば 心臓ドキドキの緊張しまくりのシーンなんだけど。特にイニスの心の中は、葛藤の嵐 だったと思う。
やっと意を決して腰をあげ,
そろそろとジャックのテントに向かうイニス。
この時のイニスの表情。特に おずおずと視線がさまようところが,いじらしい。ジャックのリアクションがまたよくて,素早く反応しながらも,包み込むような優しさで,彼をリラックスさせようとする。まるで最後の砦のようにイニスが体の前に抱きしめていたカウボーイ・ハットをジャックがそっと脇に押しやって,イニスの頬に優しく手を伸ばして引き寄せる仕草がすごく好き。
この時のジャックの顔は,イニスに対する切ない情熱と,彼のすべてを受け入れようとする優しさに満ちて,まるで後光が差しているみたいに私には見えたのだけど。
そして、初めてのためらいがちなキスの後、聞こえてくるかすかな囁き。…I'm sorry.… んん?どっちが言ってんの?あまりにも小さく、まるで吐息みたいなかすかな声。二人の唇も殆ど動いていない。(腹話術か?)その後のIt's all right.(いいんだ)は、ジャックが言ってると はっきりわかるけど。
このシーンは、イヤホンして、何十回も観た。それこそ,息を詰めて,耳を懲らして,目を皿のようにして。I'm sorry.は、二回連続してあり、最初はジャックの唇が動いているように見え,二度目のI'm sorry.は,イニスの口から 息がかすかに漏れていた。
そしてジャックはそれを聞いて,一瞬,イニスの顔を凝視した後,何度もうなずきながら It's all right.と囁き返したように思えたけど,どうなのかしら?なんで聞き取れないような声で台詞を言うのよ~と,文句の一つも言いたくなったが,脚本(←一応持ってる)をチェックしてみるとIt's all rightはジャックの台詞としてあるけど,I'm sorryは書かれてないので,どうもアドリブらしい。
演じているうちに,二人の口から自然に出た台詞なのかな。
ジャック 「・・・ごめん,こんなことして」
イニス 「いや・・・俺の方こそ すまん」
ジャック 「ううん,これでいいんだよ。」 ・・・て感じ?
イニスは母親に縋りつく幼子のようにジャックに身を任せて(私にはそう見えた)ジャックはそんな彼を優しくリードして*$☆∇◇¢∞♂・・・(←意味不明)
この二晩目のラブシーンは,原作にはない。映画のために,新たに挿入されたシーンだが,これがあるのとないのとでは大違いだ。衝動的に結ばれた前夜と違って,この時から二人は愛し合うことを始めたのだということが伝わってくる。
前夜のラブシーン(あれはラブシーンとは言えないかも)には度肝を抜かれたが,この二晩目のラブシーンは,私にはこれまで見たどんな男女のラブシーンよりも美しく切なく思えた。
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こんばんわ~
実は昨日WOWOWでBBMを見てたんですが(ところどころで寝てしまったのですが)やはりこのシーンはいいですね、この2晩めがないと、イニスがストレートと誤解されかねないです、だって一晩めは、ジャックにも悟られまいとノンケに徹していたわけだし、「あれは一度限りだ!」も「俺はカマじゃない」もイニス自身がフォビアだったから出た言葉なんですよね、だから一晩めはキスも何もなく、だだ欲求を満たすだけのものでした、が、2晩めには、キスシーンもあり完全にふたりの愛情が感じられました(良かった~)
初見で初めて泣けたのはこのシーンでした、ゲイである僕にとって二人の辛さ(フォビアを装って生きる辛さが切なくて)が自分に重なったのかも・・・、ちなみに初見の時の「I’m sorry・・・」「It’s all right」はイニスが「俺は初めてでうまくできないんだ、ごめん!」ジャックが「そんな、いいんだよ」ってそんな感じに解釈してましたが、今では「俺は不器用でうまく愛情表現できないんだ、ごめん!」ジャック「いいんだ、いいんだよ」に変化(でも満更初見時に遠くないかも)ですかね?ななさんの解釈と違いますか?アドリブ入れたジェイクに聞いてみたい!どういう感情だったのか?って、
まあとにかくこのシーンは重要でありかつ美しかったですね、そしてジャックのおねだり顔が真剣すぎて怖かった?(ってか、ジェイクがホンモノに見えて仕方なかったです、今思うとほんとに演技上手だったのか~!って)僕も大好きなシーンです。
投稿: イニスJr | 2007年11月15日 (木) 20時12分
イニスJrさん こんばんは
これは本当に美しいラブシーンでした。私は,初めて観たとき,このシーンの二人が男同士に見えなかったです。(その前夜のシーンは,しっかり男同士に見えましたが)つまりジャックが恋する乙女に見えた・・・。
でも,今考えてみると,このシーンに心が揺さぶられた一番の理由は,それまでフォビアに徹してきたイニスが,ためらいや葛藤を乗り越えて,素直にジャックを求めた初めてのシーンだったからだと思っています。
ジャックのひたむきな表情や仕草も美しかったけれど,イニスの戸惑いながらもジャックに委ねてゆく表情がいとおしかったですね。
「I’m sorry.」「It’s all right.」の解釈ですが,その朝に「あれは一度限り,俺はホモじゃないから!」と言い切った手前,「ごめん,前言取り消しかも・・・」という意味も感じたのですが。それに対して,ジャックが「いいんだよ,わかってたさ」とうなずいたのではないかと。イニスJrさんの解釈のように,「うまく愛情表現できなくてごめん」という気持ちも感じますね。ほんと,二人にこのときの気持ちを聞きたい,というか,コメンタリーつけてほしい!ヒースとジェイクの!
ジェイクのこの時のおねだり顔は,しばらく語りぐさになりましたね。緊張しまくりで,まともにジェイクの顔を見れないヒースとはえらい違いです。(まあ,ヒースの演技はそれでよかったのですが)ジェイクは演じるとき,ヒースを女性とでも想像しながら演じたのかな?そんなコメントは聞いたことないから,やっぱり彼はこの時,ジャックになりきって,純粋にイニスに対する愛を表情に出したのでしょう。(だから生まれるゲイ疑惑?)どちらにしても,すごい演技力ですね。
投稿: なな | 2007年11月15日 (木) 21時19分
おはようございます!
WOWOWでやってたの、私も半分観ました。
何回も観れてしまう。笑
>この二晩目のラブシーンは >原作にはない。 >映画のために,新たに挿入されたシーンだが、 >これがあるのとないのとでは 大違いだ。
大違いですよね。
情感たっぷりだし、さすがアン・リー監督!
ふたりの俳優、よく演じてくれたなあと感心しました。
プロ根性に拍手。
ななさんは脚本ももっているのね。^^
それからスキャンダル、TBいたしました。
お暇な時に読んでみてね!
投稿: アイマック | 2007年11月16日 (金) 09時05分
アイマックさん コメントありがとうございます!
この物語はほんと何度でも見れますね。私も一時期、毎日観ていた時があって、おかげでどのシーンについても細かーいとこまで頭に入ってます(o^o^o)
原作にはない、このラブシーンを映画に入れてくれた脚本家のダイアナ・オサナさん、それをあんなにしっとりと美しく撮ってくれたリー監督、そして何よりもこのシーンに果敢に挑んだヒースとジェイクに拍手喝采!ですね。
脚本も一応アマゾンさんで注文して持っています。結構脚本にない台詞がありますよ〜。「あるスキャンダル〜」のTBありがとうございました。また後で伺いますね。
投稿: なな | 2007年11月16日 (金) 12時49分
初めて、お便りします。
私がこの映画に出会ったのは、7月、何といっても遅すぎました。感想があちこちで言い尽くされていました。でも、何故か自分でも何かを言いたくて、同じココログのブログを書き始めました。良かったらいらしてください。この映画、フリーな気持ちの人たちで長く温かく共有したい映画だと思います。お仲間に入れて頂ければ、嬉しいです。虎猫さんのように、きれいな構成ではありませんので、あしからず・・・
投稿: PEARL | 2007年11月17日 (土) 12時47分
PEARLさん,はじめまして。
ようこそ お越しくださいました。大歓迎です!
7月にこの映画と出逢われたとのこと,私は去年の9月にDVDになってから出逢いましたが,そのころネットを自宅に引いてなかったので,ブログで感想を書き始めたのはこの8月からです。確かにそのときはもう,世間では語り尽くされていましたが,私もPEARLさんと同じように,どうしても自分の思いを書きたくて記事のアップをはじめました。(ブログを始めた目的がそもそもBBMについて書きたかったからです)
PEARLさんのブログ,今ちょっこと覗かせていただきましたが,とても詳しく,読み応えのある記事がたくさんな印象を受けました。BBM限定のブログというのが素晴らしいですね。後でゆっくり読ませていただいて,自分の記事と同じテーマの記事にはTBもさせていただきますね。
とりあえず,よろしくです。あ,リンクさせていただいてよろしいですかね?
投稿: なな | 2007年11月17日 (土) 13時16分
リンク、大歓迎です。
気難しい書き方が引っかかるとは思いますが、よろしく・・
原作訳と脚本、ヘッドホーン、スロー再生にあけくれています。
気が付いたことがありましたら、どんどんコメントしてくださいね。TBもどうぞお寄せください。
いろいろな観かたを知りたいなと思っています。
操作が遅いので、そこのところも宜しく、です。
投稿: PEARL | 2007年11月17日 (土) 15時28分
PEARLさんもスロー再生にはまりましたか?
あれは当分やみつきになりますよー。
字幕なしで台詞を何十回も聞いたので,今では他の映画でも,結構簡単な会話なら何て言ってるか聞き取れるようになりました。
この映画,いろんな鑑賞の仕方があるとは思いますが,ただ単にセンチメンタルだけではなくて,とても哲学的なところもあります。人間とは?人生とは?とか考えずにはいられないような。
BBMの高山病に罹ったら,なかなか現実に戻ってこれません。というか,体質が変わってしまいます。今までの価値観がひっくり返されますから。
また,いろいろお話しましょうね。ではでは。
投稿: なな | 2007年11月17日 (土) 17時55分
もうほんとに原作、脚本、DVDを行ったり来たり、登ったり降りたりです。
他の映画も解るようになったのですか。凄いですね。
今日は、ななさんに刺激されて、敬遠していた吹き替え版を観てみました。記事は書きかけですが、公開したらお知らせします。
ななさんの画像きれいですね。
取り出し方良かったら教えてください。メールでも構いませんので・・・
まるっきりの初心者なんです。
高山病、一生治りません。アギーレの"治せん限りはな"が聞こえてきます。
もう、いけません、幻聴が・・
ご一緒に患いましょう。
今日はこの辺で失礼しますね。
投稿: PEARL | 2007年11月18日 (日) 02時32分
PEARLさん 高山病は、かかりたてはそんなものですよ(;^_^A
吹き替え版も字幕よりいい台詞もあります。イニスがたき火のシーンで「耐えるしかないんだ、道は見えなくても」という台詞とか、好きですね。ただ吹き替え版は、二人の声の高低差があまりないのがちょっと。やはりヒースの低音とジェイクの甘い声がいいです。
画像の取り方ですが、私のパソコンに内蔵されていたDVD再生ソフト(富士通)に、画像を保存する機能がついていたのです。私もパソコン歴は長くないので暗中模索ですよー
投稿: なな | 2007年11月18日 (日) 11時20分
おはようございます。
一番残念だったのは、やっぱりジャックの"甘い声"ですね。聞けませんでした。リー監督がこだわった二人の声の高低差がなく、似たような声質になっていました。
台詞の解釈も具体的で判りやすいのですが、微妙な揺れが消されてしまった感がないわけでもありません。良い面と悪い面があります。
画像は、やってみたのですが上手く取れませんでした。もう一度挑戦してみますね。
ジャックの最後の夜の"哀しい横顔"画像、使わせて頂けると嬉しいのですが・・・
投稿: PEARL | 2007年11月18日 (日) 13時06分
PEARLさん
どうぞどうぞ 画像はどれでも使ってください。「哀しい横顔」ってどれだっけ?(汗)
投稿: なな | 2007年11月18日 (日) 13時47分
初めてお便りします。この映画が公開されたのは、もうずいぶん前のことなのですね。映画館に観に行ったのがつい先日のことのように感じられます。僕自身ゲイなのですが、この映画を観たときには、自分のセクシャリティにまだ確信が持てず、悶々とした日々を送っていました。当時付き合っていた彼女が誘ってくれて観に行ったのですが、自分と同世代のヒース・レジャーが演じているイニスと自分自身が重なってしまい、口から心臓が飛び出しそうなほどドキドキしていたのを思い出します。
全編美しいシーンで彩られたBBMの中でも、このシーンは特に美しく、大好きです。イニスがテントに近寄ってくるところ、光の加減、半分目をつぶったイニスの表情、どれをとっても観ているこちらの心に深く響く演出がなされていましたね。確かに、このシーンがあるとないのとでは、大違いだと思います。セックス自体よりも、キスの方が深い愛情が感じられたりしますよね。
投稿: Ken | 2014年9月29日 (月) 19時49分
Kenさん はじめまして。
このBBMの記事にコメをいただくのって何年ぶりでしょうか・・・嬉しいです。ブログを始めるきっかけになった映画ですから。映画の公開は2005年だったかな?もう10年近くたったのですね。そして・・・・大人の味わいの増した深い演技を今も見せてくれているジェイクと・・・・数年前に唐突に逝ってしまったヒースと・・・・
この作品はそれぞれが抱えている痛みや葛藤と不思議にリンクするんですよね。そうですか・・・Kenさんの場合はイニスの苦悩や葛藤とリンクしたのですね。わたしはこの数年間、どちらかというとジャックの痛みに近いものを体験しました。彼らの苦しみや思いの深さにははるかに及びませんが・・・それでも今でも,いろんなことでつらいときはBBMを思い出します。
このシーンはほんとに大好きで誇張ではなく100回は見たような・・・彼らの表情、とくにジャックのまなざし、イニスの吐息、ささやき声・・・すべてを忘れることができません。ブルーレイを最近買いましたので実は先日久々に鑑賞しました。テントのシーンも明るく見やすくなっていて・・・・やはり泣きました。
投稿: なな | 2014年9月30日 (火) 21時47分
ななさん、返信どうもありがとうございます。最近ブロークバックマウンテンの原作を読み、気になって色々と検索していたところ、こちらのブログに辿り着きました。素敵なブログですね。ブロークバックマウンテンの記事、一気に読んでしまいました。僕はもうヒースよりも年上になってしまいましたが、彼の官能的な低音ヴォイスと後ろ姿の美しさが特に心に残っています。
そうですか、ジャックの痛みに近い経験をされたのですね。確かに、辛いことがあったときに、僕もよくこの映画を観ます。人生には、本当に辛いことも起こりますが、それでも一時でも真実の愛を経験した記憶があれば、人間なんとか前に進んでいけるものですよね。
昨年ハワイに行った際に、70歳ぐらいのゲイの方々とお話をする機会がありました。彼らは皆アメリカ本土生まれなのですが、色々と辛いことがあり、ハワイに流れついた人々でした。中にはイニスとジャックのような、壮絶な過去を乗り越えて、今現在一人で暮らしているという人もいました。ゲイの方々と話していると、それぞれに家族との確執や自己との葛藤などの問題があり、映画になりそうなぐらいのドラマがあります。同性愛映画というと、ステレオタイプ的な描き方が多いように思いますが、ブロークバックマウンテンは、ゲイの人々が抱えていて、でも語ることができない様々な想いをありのまま代弁してくれた希有な映画だったのではないでしょうか。
投稿: Ken | 2014年9月30日 (火) 23時36分
Kenさん こんばんは
ヒースの声や後ろ姿は素敵ですよね。彼のスポーツ万能なところも飾らない雰囲気も大好きでした。
>それでも一時でも真実の愛を経験した記憶があれば、人間なんとか前に進んでいけるものですよね。
その通りですね。叶わなくても辛いことしかなくても、真実の愛であれば続けることに意味はあり、耐えていけるものだと思います。何もない平穏な人生よりはよほど価値があると・・・。BBMの中で描かれている愛に憧れも感じていました。でもこのような愛は本当に辛いものなのだとも思うようになりました。ジャックやイニスも20年間続けていくのはどんなにか・・・でも永遠に続けていくのですよね。彼らは。
最近はカミングアウトもしやすくなったとはいえ、ゲイの方たちが迫害されたり理解されなかったりした時代は「ひと昔まえ」ではなく、ごく最近まで続いていたように思います。どれほどの葛藤や痛みや孤独があったのか、それぞれの人生の数だけ苦労があったのではないでしょうか。
同性愛映画は深いものがたくさんありますね。BBMは金字塔のような存在ですが、他にも「トーチソングトリロジー」「ブエノスアイレス」「藍宇」「花連の夏」「イノセント・ラブ」「司祭」「モーリス」「シングルマン」などいいですよ。もうご覧になっているかもしれませんね。アジアの同性愛映画も秀逸です。
投稿: なな | 2014年10月 1日 (水) 22時07分