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2007年10月15日 (月)

鳩の翼

4988102521516_2 10年も前の古い映画で恐縮だが・・・。これは文豪ヘンリー・ジェイムズが原作の,英国の美しい文芸作品で,私の大のお気に入りの作品。

物語の舞台は20世紀初頭のエドワード朝のロンドンと,陽光溢れるロマンティックな古都ヴェニス。そこで織りなされる,三人の男女の複雑に絡み合う愛の物語だ。

ヒロインのケイトは,落ちぶれた中産階級の娘。後見してもらっている裕福でスノッブな叔母からは,貧しいジャーナリストのマートンとの交際を禁じられる。ケイトの友人となるミリーは,アメリカの大富豪の孤児。ケイトの恋人だとは知らずにマートンに心惹かれる彼女は,実は不治の病で余命はいくばくもない。

Cap023_4
そのことを知ったケイトは,ミリーの遺産を目当てに,彼女のマートンへの愛を利用した,
ある暗い計画を思いつくのだが・・・。愛のために手段を選ばない情熱的なケイトを演じたのはヘレナ・B・カーター。ミリーを欺き,利用することへの良心の呵責や逡巡。マートンの愛の行方に対する不安と,どうしようもなく沸き上がる,理不尽な嫉妬。そんな複雑な揺れる心情を,見事に演じきってさまざまな賞を手にした。
Cap004
二人の女性の間で戸惑いながらも,ケイトの計画に荷担するマートン役の
ライナス・ローチはいかにも英国のインテリ青年らしい,上品さと知性を纏った俳優さんで,その洗練されたデリケートな演技からは,ケイトを深く愛しながらも,ミリーの優しさにも次第に惹かれてゆく様子が静かに伝わってきた。

そして今作で,一番心に残ったのが,ミリーを演じたアリソン・エリオット
Cap010 あたかもイタリアの絵画から抜け出してきたかのように優美なミリー。
自分に与えられた時間が,わずかしかないことを知っていて,残された時間,まるで人生の善いものだけを見つめるかのように,ひたむきに愛を求め,マートンとケイトにも限りない慈愛を注ぐミリー。真実を知ってもなお,二人を赦した彼女の寛容さはこの映画の中で最も美しく,また哀しく私の心に残った。

そして,思い通りにミリーの遺産を手にしたケイトの瞳の暗さ計画の成功と引き替えに,彼女はマートンの心を失ってしまったのか。ミリーの死後,マートンの部屋で結婚を誓い,愛を交わす二人の姿からは,愛し合う恋人たちの持つ喜びや輝きは微塵も感じられず,痛々しさだけが際だっていた。

タイトルの鳩の翼とは,英国では「無垢」の象徴であり限りある時を生き,大空への飛翔を望んだミリーを現しているという。
Cap011自由に飛翔できる鳩の翼が必要だったのはミリーだけではなく,マートンやケイトもまた,因習やしがらみに捕らわれずに,本来の姿で,のびのびと愛し合えたらどんなによかっただろう。

ラスト,思い出のヴェニスの岸辺に一人降り立つマートンの姿。傍らに寄り添うケイトの姿はない。彼の心に今もなお,ミリーのやさしい面影は生き続けているのだろうか。

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コメント

ななさん、はじめまして。

ゆきちさん宅でななさんのブログを知り、時々のぞかせてもらってました。

この映画、私もミリーが一番印象に残りました。観終わったあとマートンのようにミリーに想いを馳せました。その後マートンとケイトは時々会うことはあったのかもしれないけど、多分ケイトはマートンのこころを失ったと思います。

 ミリーを演じたアリソン・エリオットは「この森で天使はバスを降りた」(この映画も結構古いですが好きな映画です)と「鳩の翼」でしか観たことないです。時代背景も演じる役柄も髪の色も全く違ったので同じ人とは最初わからなかったです。

BBM記事もとても読み応えがありますね。
ジェイクより美形はたくさんいます。ゆきちさん、ななさん同様に容姿を超えた魅力が彼にはありますよね。

これからもBBM記事楽しみにしています。


あきさん こちらこそはじめまして。
拙宅にお越しくださって嬉しいです。
おまけに,私と同じBBMとジェイクのファンだなんて,
きっかけを作ってくれたゆきちさん宅に感謝!ですね。
あきさんもこの映画で,ミリーの魅力に惹きつけられたのですね。
アリソン・エリオット,まるで夢のように美しかったですね。容姿も,心も。
マートンは一生彼女の面影と生きてゆくと思いますよ。私もそれを望みます。
アリソンはこんなに素晴らしい女優さんなのに,これ以降の作品はぱっとしなかったのか,あまり見かけなくなっていましたが
最近は「記憶の棘」で,ニコールの姉の役で出ていました。
この頃のようなたおやかな美しさはなくなっていて,少し残念でした。
BBMの記事を読んでくださってありがとうございます。
ほとんど自己満足の世界で,そろそろネタも切れかけてきたので,おしまいにしようかなとも思っていたのですが,
あきさんの励ましでもう少し続けてみようかという気になりました。
ありがとうございました。

ななさん、こんにちは。
TBとコメントをありがとうございます。
いつものことながら、お邪魔するのが遅くなってごめんなさい。

美しいヴェネツィアの風景と、
アリソン・エリオットの、姿も心も嫋かで寛容で美しいミリーと、
マートンとケイトの、これ以上ないほど寒々としたラブシーンが強い印象が残っています。
わたしも、きっとマートンは生涯、ミリーを愛していくだろうと思いました。

映像を観ているのに、美しい言葉で綴られた小説を読んだような、
余韻が広がる作品ですね。

悠雅さん ご訪問とTBをありがとうございます。
マートンの愛を失ったケイトと
マートンと一緒に生きられなかったミリーと
ミリーの面影を抱いて生きるマートン。
三人三様に,哀しい結末になってしまいました。
考えてみれば,とても可哀想な物語かもしれません。
おっしゃる通り,美しい言葉で綴られた小説のような映画でした。英国の文芸ものは,こういう素晴らしい作品が多いですね。

ななさん、こんばんは。
この作品、大好きなんです。もう10年も前の作品になりますか・・・。
この映画のライナス・ローチ、美しいんですよね。私はこの時の彼が一番良かったと思います。(彼が「フォーガットン」に出たときは、「なんでこんな映画にーっ!」と絶叫したいぐらいでしたから)
この作品では、主演三人が見事なまでにその役を演じきり、素晴らしかったと記憶しています。三人の心の動きが切なくて、観終わった後も、様々な想いが頭をかけめぐりました。本当に心に染み入る良い作品でした。

mayumiさん いらっしゃいませ
mayumiさんもこの映画,お好きなんですね。
そうです。この映画の三人は,本当に見事でした。
ヘレナしか賞を取らなかったのが不思議なくらい,
アリソンもライナスもよかったです。
ライナス,私も好きです。端正で,上品で。
泣き顔がまた,美しいんですよ,この方。
この他にも,「司祭」での彼も,美しかったです。
何かの板挟みで悩む役とかが,とても似合います。
「フォーガットン」・・・劇場で観て後悔した苦い思い出の作品です(くそう)
そうそう,私もこれにライナスが出ていたのが
凄く哀しかったです。おまけに
最後は空へ飛ばされちゃいましたね・・・。 

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