四月の雪
ホ・ジノ監督の作品は,八月のクリスマスといい,春の日は過ぎゆくといい,韓国映画というよりは,まるでフランス映画のような,繊細で静謐な雰囲気があるが,この四月の雪も,そんな静かで深いラブストーリーだった。
何よりも,そのストーリーの設定に惹きつけられた。許されぬ恋におちてゆく二人の男女,インスとソヨン。二人が出会うきっかけになったのは,何と互いの配偶者同士の不倫中の事故だった。夫や妻の裏切りを知ったときの彼らの衝撃と苦悩。昏睡する妻の枕元で「いっそ死ねばよかったのに」とつぶやくインス。
インスと共に被害者を弔問に行った帰り,道端で耐えきれずに声をあげて慟哭するソヨン。 最初はよそよそしく、かすかな敵対心さえただよっていた二人の間に、やがて少しずつ うちとけた穏やかな空気が生まれる 。
凍てついた冬がいつのまにか去り、雪解けとともに春がそっと訪れるように,二人の間には、ためらいながらも,ひそやかな愛が芽生えてゆく。
「仕返しに浮気をしましょうか?」という冗談めかした提案が,ごく自然な形で実現してしまってから 「これは愛なのか、それとも単なる腹いせなのか」という問いは、繰り返し二人の心に浮かんできたにちがいない。 はたして二人は、単に共通の被害者意識だけで結び付いたのだろうか。
いいや、たぶん別の出会い方をしたとしても,彼らはきっと,互いを選びとっていたのではないかと思う。
インスとソヨンは、持っているやさしい雰囲気が、まるで兄妹のようによく似ている。きっと魂にも共鳴するものがあるに違いない。もっと早く出会えていたら・・・・愛し合った後に,インスの口からこぼれる言葉が哀しい。
微笑みの貴公子ペ・ヨンジュンは、この物語の中ではほとんど笑わない。厳選された台詞、そして言葉以上に雄弁に気持ちを語る,まなざしや仕草。物語は,じれったくなるほどゆっくりと丁寧に,二人の間に揺れる思いを,美しい映像で綴ってゆく。
まるで寄せては返す波のように
近づいたり離れたりする切ない関係。
しかしソヨンの夫の死と、インスの妻の回復によって,二人の関係は,否応なしに現実に引き戻されてしまう。
あのような出会いから始まった愛は
しょせん淡雪のように消えてゆく運命なのだろうか。 四月の雪に覆われた美しいラストシーン。二人の愛は終わるのではなく,これからどこかへ向かうのかもしれない・・・,それを暗示しているような,余韻の持たせ方が嬉しかった。しみじみと心にしみいる美しい物語だったと思う。
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» NO.124「四月の雪」(韓国/ホ・ジノ監督) [サーカスな日々]
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はじまる「エロス」もある。
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TVデビューから10年、銀幕初出演は2003年「スキャンダル」。朝鮮王朝の愛欲世界を舞台としたドンファン役を演ずるペ・ヨンジュンは、一部のファンにはその肉体を賛美されるが、おおむね「冬ソナ」ファンを裏切ったのではな... [続きを読む]
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TBありがとう。
僕も、ヨン様のあられもない演技は、とってもよかったと思います。じれったい展開ですが、リアリティがありました。
投稿: kimion20002000 | 2007年10月17日 (水) 00時03分
kimionさん TB,コメントありがとうございます。
そうですね,インスとソヨンのような出逢い方をしたら,
誰でも「傷口をなめ合う」気持ちで,新たな愛に癒しを求めるかもしれません。
ま,それでも相手があまりにも好みのタイプと,かけ離れていたら別でしょうが。
・・・やはり相性も多少はあるかと。
仰るとおり,リアリティが感じられたので感情移入できました。
二人の置かれた状況は,花様年華にも似てました。
投稿: なな | 2007年10月17日 (水) 00時22分
トラ・コメどうもです。
ひらりんも韓流に乗っかってはいませんが、
ついつい注目作は見てしまった・・・クチです。
しかし、日本人俳優には無い雰囲気・・
セリフの少ない演技は、
世の日本人オバサンの心を捉えてるっ・・・
って感じは伝わってきました。
投稿: ひらりん | 2007年10月17日 (水) 01時07分
ひらりんさん こんばんは
韓国の男優さんの魅力は、なりふり構わぬ派手な男泣きにあると、私的には思っております。
イケメンに涙をふりしぼってオイオイ泣かれると、
母性本能はメロメロです。
あくまでも私の場合ですが
投稿: なな | 2007年10月17日 (水) 01時17分
そうか・・フランス映画的ね~!
確かにそうでした。
いわゆる韓流のわかりやすい(といってもひねりがあったり、おぉ!があったりする)ラブストーリーを期待して見たのがちょっと良くなかったかな、と今記事を読ませてもらって思っています^^
でも、私もこの美しい映像と雰囲気はとても
好きでした。それと2人の心理状態をいろいろ
想像しながら見ることができたので、そういう意味では深く、いい映画だったな、と思います♪
TB&コメント、どうもありがとうございましたm(_ _)m
こちらからもさせていただきました♪
投稿: メル | 2007年10月17日 (水) 08時35分
メルさん こんにちわ
そうそう、これは他のわかりやすく大袈裟な韓流ラブストーリーとは違って
とても薄くて上品な味付け。
恋人たちの心情も、いくらでも深読み、
あるいは妄想ができるかと。
結局あの二人は駈け落ちしたのかしらね?
投稿: なな | 2007年10月17日 (水) 13時33分
tbどうもです。
ホ・ジノはとても好きな作家です。
この作品も若干作為的な作りが気になりましたが、しっとりとした佳作だったと思います。
ヨンさまは作品ごとに違った役柄にトライしている人で、良い役者さんだと思います。
新作の時代劇ドラマもちょっと期待してるんです。
投稿: ノラネコ | 2007年10月17日 (水) 23時22分
ノラネコさん ご訪問ありがとうございます。
ヨン様,スキャンダルも全然ちがう役柄でしたね。
彼はどうしても微笑みの貴公子のイメージでしか
認識されてない面もあって,
食わず嫌いされているかもしれないのが残念ですが
本当のファンは,彼の実力やいろんな魅力を
きっとわかっていると思いますよ。
私は別にファンではないですが,彼の演技はいつも素晴らしいと思います。
投稿: なな | 2007年10月17日 (水) 23時50分
こんにちは。
どうもですね、4さまはあの微笑みが苦手なんです;だから笑わない方がデリケートさを感じることが出来る気がして好きですねー。
韓国モノってほとんど見ないので、多分私は食わず嫌いの部類になるのでしょうけど、映像にはとても詩的な部分を感じて好みでしたよ。
でも一回見ただけでは理解できなかったというか。何度も色んな方と語り合っていくうちにピントがようやくあってきた感じ;
投稿: シャーロット | 2007年10月18日 (木) 12時29分
シャーロットさん、いらっしゃいませ。
TBもありがとうございます。
私もヨン様の微笑みはそんなに好きじゃない、
というか、どうでもいい、という感覚かな?(笑)
ファンの方、ごめんなさい。
笑わぬヨン様は、けっこう地味ですね。
でも、彼の優しいストイックな雰囲気は、
この役にぴったりだったと思います。
この作品は、ほんとに何度も観ないとわかりにくいです。
観る度に発見があり、また新しい余韻に浸れる秀作だと思います。
投稿: なな | 2007年10月18日 (木) 15時28分
ななさん、こんばんわ。
自分のブログに書いたのですが、この映画でのヨン様とソン・イェジンは、すごく「サイズが合わない」感じがしました。
でも、この映画のすぐあとに公開された「私の頭の中の消しゴム」で、チョン・ウソンと共演した時は、「サイズの違和感」を感じなかったんです。なんでかな。違う映画ですけどTBしますね。
この映画、私はあんまり感動できなかったんだけど、ななさんみたいに何度か観てみようかな。気づかなかった深いところが見えてくるかもしれないですね。
・・・あと・・・なぜか、ワーキングマザースタイルの記事からはTB出来ないみたいですう~(・_・、)
投稿: こむぎ | 2007年10月18日 (木) 23時47分
こむぎさん,こんばんわ
ヨン様と,イェジン嬢のサイズが合わないのは
ヨン様のスリーハンドレッドなみの筋肉のせいかしら?
ついでに言えば,ヨン様の爽やか系のお顔とも,
あの筋肉は合わないような・・・。もっとしなやかな筋肉の方が似合ってると思う。
「私の頭の中の~」の方が,素直に感動しやすい映画でしたね。
イェジン嬢は小柄ですからね~,今まで観た映画で
彼女とサイズが一番合っていた相方さんは
「ラブストーリー」のチェ・スンウのような気もします。
投稿: なな | 2007年10月19日 (金) 00時12分
こんばんは♪
いまさらながら自分の感想を読んであまりの酷さにガックリきました。
あのころはまだ韓国映画をそれほど見ていなくて、「ヨン様映画」というふうに見ていたような気がします。
そのあといろいろな作品を見て、私もそれなりに勉強(?)したので、今この作品を見たらその良さがわかるようになってるかも。
ちなみに「春の日は過ぎ行く」の雰囲気は大好きでした。
投稿: ミチ | 2007年10月22日 (月) 20時26分
ミチさん TBもありがとうございました。
「春の日は過ぎゆく」も,同じ香りのするラブストーリーでしたね。
じれったいほどゆっくりと静かに愛が芽生えたり,終焉を迎えたり・・・。
「春の日」の方が,映像全体を覆っている色あいが,竹林や清流の緑だったので
これより爽やかで明るい感じでした。
韓国映画と韓国の俳優さんは,本当にいろんな面を持っていて奥が深いですね。
私も韓ドラのこてこて感はやや苦手ですが,韓国映画の中には秀作が多いと思っています。
投稿: なな | 2007年10月22日 (月) 20時45分
ななさん 申し訳ないですぅ。
こちらと『オールドボーイ』もTBが未送信になってしまい、コメントだけですみませんm(_ _)m
ななさんの仰るようにフランス映画のような雰囲気ありましたよね。
『八月のクリスマス』も大好きな作品です。
韓国映画って、ハマり出すとたまらなく面白いんですよねぇ。
最近では言葉も少しですが、分かるようになりましたよ。
ななさんもかなり韓国映画がお好きなのですね!
これからも韓国モノでも盛り上がりましょう!!!
投稿: なぎさ | 2007年11月21日 (水) 09時12分
なぎささん こんばんわ
仰るとおり,韓国映画は,はまるとキムチのようにやみつきになります。
俳優さんがね~うまいんですわ,喜怒哀楽の表現が。
だから,どんな極端な感情でも,共感せずにはいられなくなります。あんまり自分の日常とかけ離れた世界を見せてもらえるので現実逃避の楽しさもあるかも。
韓国語,聞き分けられるようになったなんて,凄いすごい!
私は未だに「サラゲヨ」とか「ケンチャナヨ」とか「ビヤネヨ」くらいしかわかりません。でも,韓国語って,優しい響きがしますよね。
TBのことは,お気になさらずに。ココログはよく受信ミスをやらかすんですよ~すみませんねー。
投稿: なな | 2007年11月21日 (水) 20時19分