甘い人生
イ・ビョンホンさんの大ファンではないのだけど,,何年も前に劇場で観た甘い人生は,彼の演じるソヌのキャラクターや,スタイリッシュな映像,美しくクールな音楽,鮮やかなアクションシーンなど,いろんな意味で,韓国映画の中でも,とてもお気に入りの一作だ。
ビョンホン演じるキム・ソヌ。彼は,裏社会の大物カン氏の片腕として,彼の経営するホテルの総マネージャーを勤める,冷徹でどこまでもクールな男。眉の毛一つ動かさずに,刃向かう相手を容赦なく叩きのめすことのできる人を愛したことも 愛されたこともない男。
ある日彼は、カンの愛人ヒスの監視を依頼される。「もし浮気の 現場を押さえたら,出張先の自分に電話するか,カタをつけろ」と言うカン。 ヒスを監視しているうちに,彼女に対して,今まで感じたことのない,微妙な感情を芽生えさせるソヌ。
やがてソヌは彼女の裏切りの現場を押さえたのだか、自分でも思いがけない気の迷いから,ボスの命令に背いて報告を思い止まり、ヒスの命を救う。しかし この一瞬の判断が,順風満帆だったソヌの人生を,一転して修羅場に変えてしまうのだ…。
イ・ビョンホンは、いつもの無邪気なキラー・スマイルを完全に封印し, スリムな黒いスーツにぴしりと身を包み、愛を知らない痛々しいほど孤独な男を壮絶に演じ切った。冒頭の,やくざ者をホテルから追い払うアクションシーンの,目にもとまらぬ回し蹴りのなんとまあ鮮やかなこと。(思わず拍手)まるでジャガーのようにしなやかで,冷ややかで,背筋がぞくぞくするほどカッコいい。
それにしても,暴力シーンの凄まじさ。特にカンが命令に背いたソヌに 与える制裁の シーンは目を覆うばかり。ちょっと命令に背いたからって,それまで忠実に尽くしてきたソヌに何であそこまでする必要がある?
生き埋めのシーンでは,思わず劇場を出たくなる衝動を抑えるのに苦労した。他にも残虐なシーンはてんこ盛りで いかにも韓国映画らしい徹底ぶりだが,そこはさらりと流して,泣けるシーンでたっぷり感情移入するのが,私流の韓国映画の楽しみ方だから,気にしない。 美しき手負いの獣のようなソヌ。
物語が進むにつれて,ますます満身創痍になってゆく。着ていた白いワイシャツが血で朱赤に染まるほどに。あまりに痛々しすぎて,「早く楽になって」と祈ったくらいだ。
彼の身の破滅を招いた
一瞬のあの選択
あの時 彼の心を揺らしたのは
一体何だったのか。
この7年間カン氏の下で犬のように働いて その腕を認められ,やっとホテルの総マネージャーにまでなったのに。築き上げてきた成功の座から脱落するつもりは,彼には微塵もなかっただろうに。彼がヒスに抱いた淡い思いは愛と呼べるほどのものだったのか。
あふれ出る血を止血しながら,洗面所の鏡に向かって,「なぜ,こうなった・・・?」と放心したようにつぶやくソヌ自身にも,それは わからなかっただろう。彼女に抱いたあの感情は 何だったのか。
ただ,これだけは言える。ヒスのまっすぐで物怖じしない瞳や,彼女の奏でるチェロの心に沁み入る音色は,彼の意識の奥深くに眠っていた何か・・・それまでの人生で,彼が感じたことも,求めたこともなかった何かを目覚めさせるきっかけになったかも知れないと。
ラストの,ホテルでの壮絶な銃撃戦のあと,薄れゆく意識の中で,ソヌが最後に聞きたかったのは やはりヒスの声。走馬燈のように脳裏に浮かぶのは,やはりヒスの微笑みとチェロの音色。あの思いは やはり愛というものだったのかも知れないと,死の間際,ソヌはやっと思い当たり,自分の人生を振り返って「むごすぎる・・・・」とつぶやいたのではないか。
この作品のイ・ビョンホンは,とにかくめちゃくちゃカッコいいので,ファンでなくても一見の価値はあると思う。ただし人がゴミのように死ぬのや,韓国映画独特の,ありえないくらい極端なストーリーに抵抗を感じる方にはお勧めしません。
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» NO.110「甘い人生」(韓国/キム・ジウン監督) [サーカスな日々]
「商人」のような「過剰さ」で自滅した作品
もともと「箪笥」というオカルトブームに便乗して制作した様でありながら、やけに芸術的なコマワリと様式美を「過剰」に詰め込んでいた監督だな、という印象を本作のキム・ジウン監督にはもっていた。
「芸術のように撮って、商人のように編集する」
解説のジウン監督のこの一言に、この作品の「過剰」もいいつくされている。
物語は単純だ。7年間ボスであるカン(キム・ヨンチェル)に忠実に仕え、ホテルの最上階のスカイラウンジの支配人を任され、事実上のNO.2にのぼりつめたソヌ... [続きを読む]
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すでにかなりの部分を忘れてしまってる私ですが(^^;;)
イ・ビョンホンが素敵だったことはすごく良く覚えております(^^ゞ
ありえないストーリーも割りと好きな私ですが
なんかこの映画では、納得できないなぁ~と
思ったこともうっすらと覚えております(^^;;)
ななさんの記事を今じっくり読ませて頂いて
あ・・・そうえいばそうだった・・と
徐々に記憶が戻りつつあります(^^ゞ
TBさせていただきましたm(_ _)m
投稿: メル | 2007年10月 6日 (土) 08時41分
メルさん いらっしゃいませ。TBもありがとうございました。
この作品のビョンさまは,減量したのか,ちょっとスリムで,
こけた頬なんかがセクシーでカッコいいのですよ。
笑わぬビョンさまもなかなかよかったです。
>なんかこの映画では、納得できないなぁ~と
確かにありますね,そんなとこ。私も,ソヌが人生を誤った理由が
一瞬の「心の揺れ」という設定はよいとおもいますが
あのヒロインのキャラが,それにしては納得いかなかったです。
愛のため,というのではなく「完璧主義のソヌが一瞬の気の緩みから全てを失う」物語だと,ビョンホンさんがインタビューで言っていましたが,
死ぬ間際の映像に,繰り返し彼女が出てくるので,やはり彼女に愛を感じていたのかなあ,と思い,
それにしてもあれだけ大勢の屈強な男たちがバタバタ死んでいったのは
ひとえに彼女が若い恋人と浮気をしたからなのに
彼女ひとりが何の制裁も受けずに生き残るのが かなりイヤでした。
投稿: なな | 2007年10月 6日 (土) 13時39分
はじめまして!
TBありがとうございました!
「甘い人生」・・忘れかけていましたが、壮絶な映画でしたね。
たぶん、ソヌ本人も気づかないほどの心の揺れだったのだと思うけど
それをあそこまで痛めつけられる必要があるのか・・・って思いました。
話は変わりまして・・
猫ちゃん、かわいいですね!
我が家にも「うさこ」と「すみれ」という猫がいます。
TBしていただいたのと別のブログに時々写真を載せたりしています。
よろしかったらご覧になってくださいね☆⌒(*^-゜)b
たとえば
http://mugimugikomugi.tea-nifty.com/mugimugi/2007/09/post_bbb2.html
こんなのとか・・
http://mugimugikomugi.tea-nifty.com/mugimugi/2007/03/post_9f98.html
こんなのとか・・
http://mugimugikomugi.tea-nifty.com/mugimugi/2007/03/post_563d.html
記事の内容と写真が関係ないんですけど・・・。
投稿: こむぎ | 2007年10月10日 (水) 00時20分
こむぎさん ご訪問ありがとうございます。
これはもう古い映画の類になってしまいましたが
何度DVDを見返したかわかりません。
おっしゃるとおり,ストーリーは不自然なんですが(笑)
不自然なストーリーとか,行き過ぎのキャラとかが韓国映画やドラマのいいところの一つかもしれません。
猫ちゃんの写真,拝見しました。とても可愛いですね!
猫なのに「うさこ」という名前がユニークですね。
「すみれ」もとてもやさしい感じがします。
投稿: なな | 2007年10月10日 (水) 01時15分
はじめまして。
1週間ほど前に私のブログにコメ&TBを頂き、ありがとうございました。
ご返事が大変遅くなってしまい、心からお詫びします。もうしわけありませんでした。
イ・ビョンホンsiは私も最初は好きな俳優さんではなかったのですが、「ハッピー・トゥギャザー」「オール・イン」「JSA」「美しき日々」「夏物語」「バンジージャンプする」「ラブストーリー ひまわり編」を観て完全にファンになってしまっています。
本作品は仰るとおり人によって好き嫌いがでそうな作品ですね。
でもイ・ビョンホンsiの魅力は出ていると思っています。(^^)
ちなみに、
「誰にでも秘密がある」だけは好きになれませんけど。(笑)
これからもよろしくお願いします。
投稿: PANA | 2007年10月14日 (日) 19時50分
PANAさん TBとコメントをありがとうございます。
ビョンホンさんは,ルックスだけでなく,演技力も素晴らしい俳優さん(韓国の方は皆そうですけど)だと思います。
私は彼の作品は「純愛中毒」を初めて観たのですが,切なそうな彼の熱演にまいってしまいました。
「誰にでも~」は,私もあまり好きではありません。ストーリーが・・・?です。
また韓国映画関係で遊びにおじゃましますね。
投稿: なな | 2007年10月14日 (日) 20時42分
TBありがとう。
そうですね、イ・ビョンホンは、いつもデオドランドの宣伝みたく真っ白な歯をキラキラさせていますが、この映画には、歯が見えるシーンはほとんどありませんでした(笑)
投稿: kimion20002000 | 2007年12月15日 (土) 20時34分
kimionさん
デオドラントの宣伝のような歯ね~~。
そういや今回は見せませんでしたね。
いつもは可愛い雰囲気もある彼が、ひたすらクールでかっこよかったです。
投稿: なな | 2007年12月15日 (土) 23時26分