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2007年10月 7日 (日)

ツォツィ

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2006年度アフリカ映画としては初のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した,南アフリカのヨハネスブルグが舞台の究極の不良少年更正物語。

予告編で,そのストーリーのシンプルさは予想できたので,「退屈しないかな」とやや危惧しながらの鑑賞だったが,冒頭,スラム地区から「いざ出陣」とばかりに,仲間を引き連れ,肩をいからせて歩く主人公のツォツィの眼光の鋭さと,躍動感と野生味に溢れたアップテンポのゾラのBGMに釘付けになる。
Cap028_2 アパルトヘイトの爪痕の残る,南アフリカの貧富の差の悲惨さは,映像にして見せられると言葉を失う程だ。そんなヨハネスブルクでも,最下層のスラムに生きる主人公の少年。親から名付けられた名を捨て,酷い過去を封印して,自らをツォツィ(不良)と名乗り,仲間を率いて窃盗やカージャックに明け暮れる毎日。そんな彼が,ある晩カージャックした車の中に一人の赤ん坊を見つけ・・・。

無駄のないシーン,程よいテンポで語られる物語を,魂の底から湧き上がるような力強い音楽が効果的に彩る。(クワイトという,南アフリカで生まれたゲットー・ミュージックらしい)拳銃を握るその手に小さな命が委ねられた時から,ツォツィの心には,戸惑いと,葛藤が生まれる。社会や他の人間に対して,怒りや憎しみしか宿さなかった彼の瞳に,まるで氷が溶けるかのように,憧憬,哀しみ,悔い感情が表れるようになる。

Cap039最初は脅されたからだったが,おおよその事情を察した上でもなお,ツォツィの子育てに手を差し伸べる,強く優しい聖母のようなミリアム。彼女の存在もまた,ツォツィの心の闇を照らす一条の光となったと思う。

ツォツィを演じたプレスリー・チュエニヤハエも,この国のスラムの出身だという。今作が映画デビューだという彼は,なんという情熱的な演技を見せてくれたことか。ツォツィの心情の変化を言葉で語る台詞はほとんどなく,かわりに彼は瞳で語った。

ある時は獰猛な獣のように、ある時は傷ついた幼子のように。かつて愛に傷つき,愛に飢え,Cap031_2 そして愛をとっくに忘れていた彼が,再び愛する対象を見いだしたとき他の人間らしい感情もまた,少しずつ取り戻したのか。ミリアムの親切に礼を言い,傷つけた相手に謝罪するツォツィ。ラストシーン,彼の頬を伝う滂沱の涙を見て, 
ああ,もう大丈夫だ。
彼はきっとこれからの人生を
生き直すことができる。
と思った。

人は 苛酷な体験により堕落する弱さを持っているが,同時にどんな地点からでも,心に響くきっかけがあれば,立ち直る強さもまた持っているんだと,この物語を観て人間の可能性はすばらしい思った。それは,南アフリカのような国においては,暗闇の中のささやかな灯火かもしれないが,それでも,かけがえのない希望の光には違いないと。

この映画は日本では「R-15」指定だった。確かに中学生には刺激が強いかもしれないが,多感な彼らがこの物語から,人として生きる上で,重要なメッセージを感じ取ることは,有意義な点の方が多いように,私は思う。

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映画 た行」カテゴリの記事

コメント

ななさん、こんばんは。
ご訪問、コメント、TBありがとうございましたー。
ツォツィのメヂカラはとても印象的でしたね。
ストレートに訴えかけてくる力強い作品だったと思います。
豊かな日本にも軽率に暴力をふるっちゃうワカモノが少なくないようですが、ツォツィのようによい出逢いを経て、変わる機会をもてたらよいのになと思ったりしましたー。

かえるさん さっそくお越しくださってありがとうございます。
ほんとに,余計な混じりもののない,ストレートな作品で
それだけに誰の心にも響くものがあったかと。
軽率に暴力をふるったり,犯罪を犯したりする日本の若者,
ツォツィの試練に比べたら,甘えてますよね。
ツォツィとは逆で,豊か過ぎてモラルのない社会もまた
善悪の判断ができない人間を育てるのかも。
私はこの映画,「R-15」どころか,
文部省推薦にしてほしいくらいでした。(言い過ぎ?)
でも,アカデミーはちゃんと評価してくれましたね。

プレスリー・チュエニヤハエのその後のガッカリするようなニュースがあって、この映画のことをすっかり忘れていたのですが、
ななさんの記事を読んで、改めてこの映画の良さを思い出しました。
こうしたアフリカでの映画というものはかなり珍しいように思えたのですが、どうして、とても技巧的な効果を上手に狙った作品でした。
冒頭の、よくある暴力映画のような様相とは売って変わっての、人間を描いたステキな作品でしたね。・・

とらねこさん こんばんわ
TB,コメントをありがとうございます。
ほほ~,プレスリー君,何かやらかしましたか。
素晴らしい映画デビューを飾ったというのに,それは残念ですね。
それで,この映画の価値が下がるとは思いませんが,
彼の俳優としてのせっかくの才能が無駄になるなら,
きっと本人の責任なんでしょうけど,惜しまれますねー。
(ったって,どんなニュースか知りませんが)
それこそ,ツォツィのように,人生を仕切り直して欲しいものです。
彼の才能には,並々ならぬものを感じましたから。

こんばんわ。
TB&コメントありがとうございました。

ヨハネスブルクって、世界3大危険都市の一つなそうです。
主演の子もそもそもスラム街の出身らしく、
だからこそ演技や存在感もリアリティが増したんだと思います。

自分の存在も自分の未来さえも否定してしまったかのようなツォツィ。
でも、赤ん坊という人間の原点と触れ合うことで、自分の原点をも
見つめなおしたんだろうなあと感じます。

公開当時、R指定のことでゴタゴタがあった作品でした。
最初はレイティングなしでの公開予定だったのに、暴力描写のせいで
R-15を付け直したんですよ。
でもこういう作品こそ、多くの青少年に観てほしいのになあと
少し残念な思いになりました。

睦月さん こんばんわ コメントありがとうございます。
そうですか,世界3大危険都市・・・ありがたくないランキングですね。
でも,映像からもそんな感じは受けました。

>主演の子もそもそもスラム街の出身らしく・・・
あの演技はリアリティがあり過ぎでしたものね。スラムで生きる厳しさや悪の世界を身をもって体現できたのですね。

>赤ん坊という人間の原点と触れ合うことで、自分の原点をも
見つめなおしたんだろうなあと感じます。
赤ん坊の力が,こんなにも大きいものだとは,考えたことがなかったですね。
オトナが赤ちゃんに与える影響ばかりに目がいってしまって・・・。
赤ちゃんって,世の中の汚れをまだ知らない唯一の存在ですものね。

この映画を観て,暴力だけを真似する子どもも,もしかしたらいるかもしれませんが,
真剣にストーリーを追っていけば,テーマである人間性の回復の方に,
絶対心が惹きつけられると思いますね。

こんばんは。
そうそう、DVDが出たんですねー。我が子にも見せたいと思ってましたが。こっそり見せようっと。笑
なんか、赤ちゃんがいなくなってしまった両親の哀しみもよくわかるんですよ。私も子供が突然いなくなったら気が狂うかもです。
でも大事にしてもらってて良かったなって一安心。
そうそう音楽もとっても良かったのでした。彼らのリズム感と魂が躍動するような声質にはすっごく魅せられました。

シャーロットさん こんばんわ
中学生くらいのお子さんがおられるのですか。
この映画を親子で鑑賞できるなんて,羨ましいです。
赤ちゃんがさらわれた夫婦(特に母親)の哀しみは相当なものでしょうね。
犯人を殺してやりたくなるかもしれません。
ですから余計に,返しに来たツォツィを責めもせず,
彼の良心の目覚めを信じて説得したあの父親は偉かったですね。
赤ちゃん,ミリアム,あの父親の三人ともが,
ツォツィの人間性回復に一役買ったように思えます。
音楽は本当によかったです。サントラ買って,通勤途中にガンガンかけたいくらい。

こんにちは☆
なんでもR指定にするのもどうかと思いますよね。
ぜひ中学生くらいの子には見て欲しいと思いましたもん。
赤ちゃんの持つパワーってすごいなと思いました。
それに主人公の男の子が良い演技をしてましたね。
ラストも救いがある終わり方で良かったです。

ゆかりんさん こんばんは
暴力シーンのせいでR指定になったのでしょうが,
たいした暴力じゃないし,マイナス面よりプラス面の方が
絶対大きい映画だと思いますね。
無垢な赤ちゃんは,「保護したい」という本能を呼び覚ますのでしょうね。
主演の少年,瞳の変化とか,本当に素晴らしい演技でした。

ななさん、こんばんは♪
いやぁ~これはですね、
私も文部省推薦にしてほしいくらいですよ(笑)
鑑賞後に残るのは暴力描写だけではなく、
人としての再生ドラマの方が大きいと思うんです。
監督が話していた様に、
―どんな人生にも救済とセカンドチャンスがある―
それを若者達、いや全ての人達に気付いてほしいですね。
ツォツィにとっては、それが贖罪であり彼なりの品位だったんでしょうか。

>ツォツィの心情の変化を言葉で語る台詞はほとんどなく,かわりに彼は瞳で語った。
同感です!オープニングとラストでは別人の様な瞳でしたね。
プレスリーくん・・・
いい演技していただけにホント勿体無いなぁ~

Anyさん
ほんとほんと,鑑賞後に残るのは,感動の方が大きいですよね!
前半の,暴力描写が激しいほど,ラストの救いの美しさが際立つというか・・・。
多感な中学生こそ見て欲しいです。
彼らの年代のほうが,「人は変われる」って
素直に受け入れることができるし
彼ら自身もやり直しの効く時にいるわけで。
そんな青少年にこそ必要な物語ですよね!
>―どんな人生にも救済とセカンドチャンスがある―
これは,素晴らしいメッセージですよね。

こんにちは!
ストレートな物語でしたが、グッとくるものがありましたね~
主役の男の子の瞳の演技が素晴らしくて見入ってしまいました。
それから、南アの貧しい子どもたちを見て胸が詰まりました。
何の希望もなく生きている彼らの将来を思うと・・・

ところで、『ケリー・ザ・ギャング』の感想を書かれたんですね~
観たいと思っている映画なんですよ。
近所のレンタル屋さんでないかもしれないのですが・・・何とかして観たいです!!

由香さん
そう,これは人間の尊厳みたいなものを
思いっきり直球で投げつけてくるような
強烈な作品でした。
ほのぼの・・・というのよりもっと
中身の濃い感動が味わえましたね。
主役の少年はオバサンみたいな顔でしたけど
あんなに「眼で語る」演技を初めて見ましたね~

「ケリー・ザ・ギャング」オススメです。
ヒースが渋いっす。そしてオーリーもなかなか・・・。
かっこいいだけでなく,切ないお話でもありますよ。
それにしても,このヒースの役も早死にするんですよ。
やはりそれは観てて辛いものがありましたね~。


ななさん今晩は!

南アフリカのスラムに生きる人たちそして子供達にとって
生きると言うことがどれだけ厳しいことなのかよく分か
りますね、スラムの少年達もああまでしないと生きていけない
のが実情ですし貧富の差を目の当たりにして日本で暮らす
私たちがいかに恵まれているか考えさせられますね・・・
それにしてもツォツィを演じた俳優さん素晴らしかったですね

せつらさん こんばんは
南アフリカの惨状は,目を覆うものがありましたね。
そのことを知るだけでも,この映画は観る価値があるかもです。
日本は恵まれていますよね~~。
恵まれているがゆえの犯罪もまた起こるのでしょうが
こんな,ツォツイのような,人間性の欠如みたいな悲惨なことは日本では考えられませんよね。

ツォツイ役のプレスリー君の瞳が忘れられませんね。

ななさん、こんにちは!
私もレンタルで見ましたどー!
お陰で、別バージョン2つを見ることが出来て、ラッキー♪万歳!でした^^
>「退屈しないかな」とやや危惧しながらの鑑賞だったが,冒頭,スラム地区から「いざ出陣」とばかりに,仲間を引き連れ,肩をいからせて歩く主人公のツォツィの眼光の鋭さと,躍動感と野生味に溢れたアップテンポのゾラのBGMに釘付けになる。
 そうそう。その通り!私も、どうかな・・・って思ったんだけど、もうとっぱじめのそのシーンから、引き込まれ、最後まで、一気に見て、結構感動してしまいました。

ところで上のコメントで、とらねこさんが、主役の彼がなにかやらかした事を書いていらして、すごく気になっちゃった・・・。これから、ちょっとそれの調査に行ってみようっと・・・。

latifaさん こんばんは
TB,コメントをありがとうございました!

そうそう,私も,記事に書いたように観る前は
ちょっと心配だったのよね。(イケメンが出ないから
でも,とっぱなから引きつけられて,「コレは,いける!」と思いました。
ストーリー展開の,スピードがいいですね。この監督。上手いわ。

プレスリー君のやらかしたこと,私も気になったのですが
幻滅したくないなぁ,と思って調べなかったけど
やはり知りたいなぁ。
わかったら,また教えてね!

ななさん、こんばんは^^
あのね、なんでも、暴力事件を起こしてしまったらしいの。
私なりにヤフーなどで検索してみたんだけれど、解らなくて、とらねこさんに質問して、教えて頂いちゃった。詳しい内容は、解らないのー。もしいつか解ったら、またお知らせしますね♪

latifaさん,こんばんは!
プレスリー君の情報,ありがとう
ふうん,暴力事件ねぇー,スラムの育ちの影響かな?
やはり南アフリカの厳しい現実をつきつけられた感じもしますね・・・
でも,彼の俳優としての才能は本物だから
また立ち直って頑張ってほしいわ。
また何かわかったら教えてね!

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