ブロークバックマウンテン(11)
イニスの誓い
おそらくこの映画の中でも、もっとも観客の涙を誘ったと思われる、イニスが「Jack, I swear…」と、涙ぐんで誓うあのラストシーン。
クローゼットの中の二人のシャツは、ジャックの部屋で見つけた時とは,重ね方が逆になっていて、イニスのシャツが,ジャックのそれを抱くような形になっている。この重ね方を変えるアイデアは、イニスを演じたヒースから出たそうだ。彼が,どれだけ深くイニスの心を理解していたかを物語る素敵なエピソード。
どんなに思いを馳せてみても,
逝ってしまったジャックは,
二度と彼の元へ帰ってこない。
「ジャック、誓うよ・・・」途切れた言葉のこの後,イニスは何を言いたかったのか。もうお前への愛を 恥じたりはしない。そう誓いたかったのか。ジャックへの愛を認めることは、自分のありのままの姿をまるごと受け入れること。それまでの不器用な人生を通して,真実から目を背け、偽りつづけてきたイニスはやっと本来の自己を肯定し,心を解き放つことができたのだ。
愛を告げてやることなく,逝かせてしまった相手を 想い続ける切なさは,時には身を切られる程辛いことだろう。その痛みに耐えながら,イニスはジャックの魂を抱きしめて,これからの長い歳月を,たった一人で生きてゆくのだろう。出逢ってから20数年間の 苛酷とも言える歳月を経て,ジャックとイニスは,初めてお互いのものとなったのだ。
彼らの間に確かに存在した愛の記憶。
あの遠い夏の日,ブロークバックマウンテンで紡いだ,きらめくような思い出の数々。気の遠くなるような回り道のあげくにたどり着いた真実の愛は,決して色あせることなく,これからも深く静かに燃え続け,
・・・いつかイニスがこの世を去るその日まで,
彼の心に鮮やかに生き続けるに違いない。
イニスの侘住まいのトレーラーハウスを包み込むように、風が音を立てて吹きすぎる。イニスの誓いに くり返し,くり返し,優しく答えるかのように。
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