真珠の耳飾りの少女
この映画,セクシーなスカーレット・ヨハンソン主演だから,単純におじさんとの禁断のエロい映画かと思っていた。(無知)パッケージのデザインもそんな感じだったし。
いやはや,
これほど芸術性の高い作品だったとは!
あのスカーレットが,よもや「初々しさ」とか「無垢」だとか「透明感」だとかを体現できる女優さんだとは,失礼ながら思っていなかった。彼女は,殆ど色をのせない素顔に近いメイクで,とてもみずみずしく,清らかに見えた。
いやぁ,お見それいたしました。(土下座)
こんな美しさも表現できるのですね,彼女は。
フェルメールの絵はもともと好きだった。自然の光を生かした彼の作品は,どれも静謐な美しさをたたえていて。その中でもこの「青いターバンの少女」は,一度見たら忘れられないほどの不思議な美しさを持っていると思う。 暗い室内を背景に,浮かび上がる清純な少女の顔。はっとするほど鮮やかな美しい青いターバンの色と,その耳たぶを飾る,大粒のシンプルなパールのつややかな輝き。こちらを見つめる少女の瞳は,何かを訴えているようで,観る者の心をとらえて離さないミステリアスな魔力がある。
この映画は,この絵のモデルとなった グリートという下働きの少女と,画家のフェルメールの間の淡い恋物語を描いたものである(フィクションだが)。
フェルメールとグリートが互いに惹かれ合ったのは,二人とも「芸術を愛し,理解する心」を持っていたいわば同類だったからだろう。あの時代,たぶん芸術は,男性の専売特許であり 女性,それも貧しい下働きの少女の中に自分と同じ魂を見いだしたフェルメールが驚愕しつつも,彼女に惹きつけられ,いとおしく思うようになるのは,ごく自然なことに思えた。
そこで雇い主の特権を濫用し,彼女に手を出したりせずに,まるで純情な青年のように,ひたすらプラトニックに徹する,いじらしくもストイックなフェルメールを,コリン・ファースが,押さえた演技で見事に演じていた。グリートへの想いを言葉にする台詞はないので,彼はまなざしや仕草で,自分の感情を雄弁に語っていた。
しかし,この映画,観終わってからしみじみと「やはりエロい映画だ・・・」と思った。最初の予想とは全く別の意味で。フェルメールとグリートは,完全なプラトニック・ラブであるのに二人が交わすまなざしや,外すまなざし。触れ合わなくても十分すぎるほどの,緊迫したエロスが漂っていたのはなぜなのか。
二人きりの作業場で,手がちょっと触れそうになる時とか,フェルメールが羽織っていた上着をふわりと脱ぐシーン。そんじょそこらのラブシーンよりドキドキした。
結局,二人が結ばれるはずもなく 物語は終わるが,「あの絵」を描いているその最中に,押さえきれない燃える想いを,フェルメールは絵筆に託しグリートはまなざしに託した・・・。だからこそ,完成した絵の持つ「愛というメッセージ」はフェルメールの妻を嫉妬で激怒させ,そして同時に,時代を超えて,絵を鑑賞する私たちを魅了するのだろう。
それにしても,映像の美しさは他に類を見ない。どのシーンを切り取っても,フェルメールの絵画が立ち上がってきたかのよう。色調もまた素晴らしい。
天窓から光が差し込むアトリエの透明感あふれる乳白色。
夜の宴会のシーンのきらめく蝋燭の暖かい黄金色の輝き。
グリートがまとうターバンの深海のように冴えざえとした青。
いやあ,美しいものを見せてもらいました。
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» 無言のエロス 「真珠の耳飾りの少女」 [kiki的徒然草]
2003年 英・ルクセンブルク ピーター・ウェーバー監督
この映画はとにかくエロい。空気が濃密にエロいのだ。薄闇の中で一輪、色濃く香っている百合の花を見ているような濃密さである。エロいからといって、なんら具体的な描写は出てこない。秘すれば花の極地ともいえる。それこそ絵画を地で行くような陰影深い画面の中で、男と女の秘められた愛、一触即発ながらもけして肉体的には交わることのない想いが、1枚の絵を通して交歓されるのだ。
謎の多い画家・ヨハネス・フェルメールを演じるのはコリン・ファース。好きな俳優ではある... [続きを読む]
» 真珠の耳飾りの少女 を見ました [ポコアポコヤ]
真珠の耳飾りの少女 (2003)を見ました。前からこのポスターが妙に
印象的で、気になってたんです。
内容は、17世紀に活躍した寡作の天才画家フェルメールが描いた
青いターバンの少女にまつわる、画家とモデル少女(小間使い)
の話しです。 真珠の首飾りの少女公式HP
前評判とか内容をあまり見ない様にして見た為に、私が
勝手に「官能的なお話」と勘違いしてまして、
★以下文字反転してください ネタバレ部分含みます★
来るか?来るか・・?と思いつつ(スイマセン・・・)待ってたのですが、
遂に有りませんで... [続きを読む]
» 「真珠の耳飾の少女」 [心の栄養♪映画と英語のジョーク]
1665年、オランダのデルフト。タイル職人の父親が失明したため、
家計を支える役目を負った17歳のグリート(S・ヨハンソン)。
画家ヨハネス・フェルメール(コリン・ファース)の家へ奉公に出されることに
なった。アトリエの掃除を命じられたグリートは、そこに置かれた完成間近い
絵の美しさに強くひきつけられる。
彼女の類まれな色彩感覚が気に入った画家のフェルメールは、グリートに
アトリエのロフトで絵の具を調合する仕事を手伝わせるようになる。
フェルメールの芸術を理解しない妻と、フェルメールの芸術を理解す... [続きを読む]
» 心を描き、心を映す〜『真珠の耳飾りの少女』 [真紅のthinkingdays]
1665年オランダ、デルフト。タイル職人の娘グリート(スカーレット・ヨハンソン)
は、病を得た父の代わりに家を出、画家ヨハネス・フェルメール(コリン・ファース)の
家に雇われる。忙しい労働の合間の僅かな時間、フェ... [続きを読む]
ごらんになりましたのね。ふっふっふ。そう、エロいんですよ。この映画は。具体的なシーンは何もないのに、上質で非常にインパクトの強いエロスですね。主演の二人がとにかく巧いのと、ロケがいいのと、脇役も顔がその時代の人みたいで、雰囲気抜群でした。
ワタシはもう、コリンのロンゲにクラクラでしたわよん。ふ~~~~。でもって、ワタシもTBさせていただきましたわ。ほっ!成功したみたい。
投稿: kiki | 2007年9月12日 (水) 23時04分
kikiさん,TBありがとうございます。
>脇役も顔がその時代の人みたいで・・・。
本当だ!監督のこだわりかしら。フェルメールの妻や姑が,まるでその時代の絵から抜け出してきたような容貌で,すごい臨場感があったんだわ。
そういえば,あの女中頭の太った女の人も。
「ハンニバル・ライジング」といい,この監督さんは芸術家ですわね。
>コリンのロンゲにクラクラ
コリンはいつも髪をきっちりさせていましたもんね。ロン毛も似合うんだー,と私も思いました。オランダの衣装(やたら襟の大きなレースが目立つのね)も様になってましたね。
投稿: なな | 2007年9月12日 (水) 23時26分
ななさん~こんにちは!
この映画、私は、見た直後よりも、暫く経った後、思い出すと、☆が上がっていた・・という映画です。
>「やはりエロい映画だ・・・」と思った。最初の予想とは全く別の意味で。
そうそう!!それ、それ!!
>フェルメールとグリートは,完全なプラトニック・ラブであるのに
緊迫したエロスが漂っていた
いや~~、この、もどかしさと、「やっちゃえー!!うぬ~~やらぬのか・・」という、視聴者側の悶絶?も、楽しめたなーと思います。
そうか、そうでしたよね、パフュームの監督さんでしたっけね^^
両方の映画、私は自分の好みです☆
投稿: latifa | 2007年9月13日 (木) 09時25分
すべての映像が 之絵画!というような美しい映画でしたよね~♪
もう、うっとりしちゃいました。
ストーリーも本当に良かったですし、触れるか触れないかという
あの2人の手の映像を、もう何年も前に見たのに、ありありと
思い浮かべることができます。
そして思い浮かべると、ドキドキしちゃう(^^ゞ
そう、おっしゃる通り緊迫したエロスでした。
コリン・ファース大好きなので(^^ゞ(特に当時は今よりもっと
好きだった)見た映画でしたが、ほんと、こんなに映画として
素晴らしいものだったなんて、とすごく嬉しかったです♪
TBありがとうございましたm(_ _)m
こちらからもさせていただきました♪
あと、ななさんのこのブログ、ブックマークにいれさせて
いただきたく、なにとぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
&今更ですが、こからもよろしくお願いいたします♪
投稿: メル | 2007年9月13日 (木) 11時02分
ななさま、こんにちは。拙記事にコメントありがとうございました。
TBさせていただきますね。
確かに、ものすご~~~~~く官能的な映画でした。
恥ずかしながら、観終わった後しばらくぼ~っとしてしまったような記憶があります。
私にとっては、他の誰にも教えたくない映画です。
(と言いつつしっかり記事を書いている、笑)
ではでは、またです!
投稿: 真紅 | 2007年9月13日 (木) 17時30分
latifaさん コメントとTBありがとうございました。「やっちゃえ〜・・・やらぬのか〜?」って、あはは、ほんとにその通り!私、花様年華という映画思い出しましたわ。あれも、トニー・レオンとマギー・チャンが、やりそーでやらなかったからこそ、大人のクラクラするほどのエロスがあったかと。確かに観てる方もじらされて気持ちが高まりましたよね。
投稿: なな | 2007年9月13日 (木) 21時12分
メルさん こんばんわ コメントとTBありがとうございました。
この監督さんは、ご自身も絵心がおありなのでは?と思うくらい、絵画的な美しい映像でした。どのシーンも、完璧で手抜きや妥協がなかったですよね。
コリン・ファース。あのいかにも英国紳士の風貌と、知的で融通のきかないとこが好きでしたが、このようなセクシーさも出せるのですね。
ブックマーク登録、ありがとうございます。私の方はとっくに無断でリンクさせていただいておりましたよ。
投稿: なな | 2007年9月13日 (木) 21時25分
真紅さま コメントとTBありがとうございます。
実は私もTBさせていただこうとしたのですが、職場からはうまく反映されず、帰宅したらADSLの調子が悪くて、まだ送れておりません。ただ今は携帯からコメントしております(泣)明日またチャレンジしてみますね。
おっしゃる通り、珠玉の…とでも表現したいような作品で、いつまでも自分だけの宝物にしておきたい気持ち、多くの方が持ったでしょうね ああー、暗い劇場で大画面で観たかったです!
投稿: なな | 2007年9月13日 (木) 21時36分
フェルメールファンの私。この映画を観なくちゃ!と思ったままだったのを思い出しました。記事を読んでますます観たくなったわ。
絵のようなつやつやリップが見られるのかしら?
投稿: L'eclat | 2007年9月14日 (金) 15時47分
L'eclat さま フェルメールファンなら,これはぜひご覧にならなくちゃ。つやつやリップは「どーだったっけ?」というあやふやな記憶ですが,最初から最後まで,どのシーンも,フェルメールの絵そのものでしたよ。
色遣いが,シーンによって,ブルーがかっていたり,オレンジがかっていたりするのですが,オレンジがかっている室内のシーンなどは特に美しいと感じました。
投稿: なな | 2007年9月14日 (金) 18時40分
ななさん、こんばんは。
せっかくTBとコメントをいただいたのに、
お邪魔するのがすっかり遅くなってごめんなさい。
もう、これはホントに大好きな作品で、何度観たことでしょう。
TV放送があるたびに、わかっていても観てしまいます。
ただ髪を見せるだけ、ただじっと見つめるだけ…
それなのに、これほどに官能を表現できるんですもんね。
フェルメールもグリートも、はっきりとした言葉にはしないけれど、
隠し切れない想いが言葉尻に表れてしまうのが余計に切なくて、
観終わったら、いつもぼ~んやりため息ついてます(笑)
投稿: 悠雅 | 2007年9月16日 (日) 23時00分
悠雅さん いらっしゃいませ。TBもありがとうございました。
私は実はこれはほんの数か月前にやっと観れたのですが
本当に愛すべき作品。題材も独特で他に類を見ませんね。
この時代の女性が,まるで尼僧のように隠しこんでいた髪を男性に見せるのは,心を許した証なのでしょうか。
息をつめて見守るエロスというものの存在が匂い立つような
そんな物語でした。
「偲ぶれど,色に出にけり,わが恋は・・・」
そんな言葉も思いだし,私も見おわった後はしばし忘我の心境になります。
投稿: なな | 2007年9月16日 (日) 23時21分
NHKのBSで放送されたものを見ました。
番組表を見て「ななさんのレビューにあったな」と思って!
私はアメリカ映画中心で見ているので、ヨーロッパ系は未見の作品が
多々あります。これからは欧州映画にも目を向けます(笑)。
そうそう、肝心の感想。とっても良かったですよ~。
投稿: マーちゃん | 2007年9月27日 (木) 15時17分
マーちゃんへ
御覧になったのですね。
ヨーロッパ映画もなかなかよいものですよ。
観客のつぼを外さずに押さえてくれる、というエンタメ性はハリウッドの方が上ですが、
ヨーロッパ映画には独特の情緒がありますね。
フランス、ドイツ、イタリアなどの作品がお薦めです。
今はまだ帰宅途中なので、また後でお伺いしますね。
投稿: なな | 2007年9月27日 (木) 16時51分
お邪魔します♪
いや~~~芸術的な美しさを堪能出来る映画でしたね~
フェルメールとグリートに間に漂うエロさに・・・ドキドキしました(笑)
地味~なお話でしたが何だか気に入っちゃったので、原作も読みたいな・・・と思いましたよ。
それにしてもヨハンソンは綺麗でしたね。
絵と同じポーズをとった時に、あまりの美しさに吸い込まれそうでした。
投稿: 由香 | 2007年12月 5日 (水) 08時12分
由香さん,TBありがとうございました。
地味な,というか,淡々と進む物語ですが
全編これ絵画のようで,また当時のオランダの生活や風俗の描写も興味深く
私はものすごくツボにはまる映画でした。
それに,スカ子さんが,単なるセクシー女優でなく,
たいした演技力もお持ちだと認識した記念すべき作品でもありますね。
そうそう,彼女,あの絵の少女にうり二つでしたねえ。
投稿: なな | 2007年12月 5日 (水) 19時56分