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    ブロークバックマウンテンの名シーンの数々です。

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2007年9月25日 (火)

ブロークバックマウンテン(10)

まどろみの抱擁
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この映画の中でも,最も美しく,そして切ないシーンの一つであるジャックとイニスのまどろみの抱擁。それは,あの最期の逢瀬の 哀しい諍いの後,苦渋に満ちた表情でイニスを見送る ジャックの胸に去来した美しい宝石のような思い出だ。

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あの遠い夏の日,ブロークバックマウンテンで,たき火のそばにたたずむジャックを,背後からそっと優しく抱き寄せるイニス。やわらかなイニスの表情と,彼の口からこぼれる,まるで愛撫するような,この上なくやさしい子守歌。ジャックの上着の襟をなでている,親指の慈しむような動き。

ジャックはゆるやかにうつむいて,自分の肩越しに回されていたイニスの手に頬を寄せてゆく。目を伏せたジャックの美しい顔は,まどろみながらも満ち足りた喜びに陶酔し,イニスの心臓の鼓動に耳をすませる。

プルーの原作の中でも特に,このシーンの描写の
なんと美しいこと。


「・・・時間が音をたてて過ぎていった。イニスのポケットの中で,丸い懐中時計がチクタクいい,枝が火の中でパチパチとはぜ,やがて澳になった。たき火の上空に熱い空気の層が波打ち,それに穴を穿って,星の光が降り注いできた。イニスの呼吸がゆっくりと静かになり,気づくとイニスは,パチパチとはじける光の中で鼻歌を歌い,軽く体を揺すっていた。ジャックはイニスの規則正しい心臓の鼓動に背をもたれさせた。鼻歌の振動が,まるで微弱な電流のようにジャックの体の中を伝わった。そして立ったままジャックは眠り込んだ。いや,眠りではなく,何か別の,ぼうっとした忘我の状態だった。」(原文引用)

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プルーの文章は,おおむね男性っぽく,荒削りで,ごつごつしているのだが,自然の描写などに,時折きらめくような繊細な感性がちりばめられていると思う。特にこの「まどろみの抱擁」の場面の描写は,映画の映像も非常によかったが,やはり原作の持つ美しさにはかなわない。

まるで時間が止まったかのような静かな抱擁。
いつもの二人の抱擁は,性行為を伴った荒々しいものだったり,親しみをこめた男同士のじゃれあいのようなものだったと思う。そのどちらでもない,背後からの包むような優しい抱擁は,二人の心の奥底の性とは別の渇きを癒した,とある。
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それはきっと愛に対する渇きだったのだ。

それまで苦労や我慢の多い潤いのない生活を送ってきた二人の貧しい若者が,肉体だけでなく魂までも寄り添わせた瞬間。それが,あの抱擁だった。この抱擁の記憶は,ジャックの記憶にしっかりと根をおろし以来20年間,彼の心をイニスに結びつける断ちがたい絆となる。

肉体の欲望とは無関係に ただ寄り添って,互いのぬくもりを感じるだけで,至福の安らぎを感じることができるのは,心から愛し合っている二人だけだ。ジャックはイニスから抱きしめられたこの時,はっきりとイニスの愛を感じたのかもしれない。

たとえイニスがそれを認めたくなくて,正面から彼を抱こうとしなかったことに気づいていても,ジャックはイニスの愛を感じただけで満足したのだろう。


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どんなに報われなくても,たとえ困難が予想されても,ジャックがイニスとの関係をどうしても 断ち切れなかったのは,この時の「愛の記憶」のせいだったのか。

ジャックにとって,精神的な愛の安らぎを与えてくれたのは,その生涯でイニスただ一人だったからこそ,ジャックにとって彼は,万難を排しても愛する相手になったのかもしれない。

 

  

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