ベティ・ブルー インテグラル リニューアル完全版
初めて観たのは もう10数年も前か。そのときは確かすごい衝撃を受けて涙さえ出ず,再見したいとは思わなかったこのベティ・ブルーを,つい先日レンタルショップで観て懐かしさのあまり,借りてしまった。いつのまにか「リニューアル完全版」になっていて,3時間余りもの長さになっていたから,最後まで鑑賞できるか不安だったけど,心配は杞憂に終わった。
ベティとゾルグの物語が始まると同時に,まるで彼らと同じ空気を傍らで呼吸しているかのように ,すっかり物語に引き込まれ ラストまで集中力は途切れることがなかった。そして,初見時と同じように今回もまた,なぜか涙は一滴も出なかったけれど,初めて観た時には感じなかった様々な思いが 怒濤のごとく溢れてきたのだ。
前に観た時は,ベティの激しさにばかり目がいっていたけれど,今回は「そんなベティを愛したゾルグの物語」として観ることができたのだ。
ベティという女性は,喜怒哀楽の感情を普通の人間の何倍もの強さで感じ,それをコントロールできない先天的な要素をもっていると思う。彼女のヒステリックな奇行は,「純粋」とか「一途」とか「激しすぎる愛」とか,そんな言葉だけで説明しきれるものではなく,精神を病む兆候は,初めから彼女の中に顕在していたのではないか。社会への適応を困難にした要因は,ゾルグとの愛ではなく,最初から彼女の中に息づいていたのではないか。
それでも,自分でも操縦出来ないほどの激しすぎるゾルグへの愛は,彼女が壊れていく大きなきっかけになったのは事実だとは思うけれど。
ベティを演じたベアトリス・ダルは,ナタリー・ポートマンと,ヒラリー・スワンクを足して2で割ったような,コケティッシュな顔をしている。彼女のファッションは,どれも奇抜でキュートなものだったが,素肌にエプロンを巻いたドレス姿が,(これが似合ってしまうところが凄い)特に心に残っている。
そしてゾルグを演じたアングラート。この人の他の出演作は,王妃マルゴと二キータしか観ていないが,強い女性に振り回される優しい男の役を,とても魅力的に演じることのできる人だ。
ベティと出会い、激しく愛し合い,そして彼自身が手を下して彼女の息の根を止めるまでの,嵐の中で翻弄されるような日々を,どうしてあんなにもベティに献身的に尽くすことができたのか。なぜ疲労困憊して,彼女のもとを逃げ出してしまわなかったのか。激しすぎる彼女の愛は,彼にとって重荷ではなかったのか。
・・・初見時はそこのところがよく消化できず,その愛の壮絶な終わり方だけに圧倒され,観賞後はどっと疲れてしまったものだけれど。今回観たリニューアル版では 尺が長くなった分だけゾルグの出演シーンが増え,幸せな愛の生活のスタートからベティが壊れてゆくまでを,とても丁寧に綴ってくれているのでゾルグの気持ちが推し量りやすかった。
ベティと出逢う前のゾルグには,人生の目的がなかったこと。
嵐の日々と同じくらい,彼らにも平穏で幸せな日々があったこと。
ベティだけがゾルグの作家としての才能を信じていたこと。
ベティが他人に対して狂気じみた怒りを爆発させたのは
いつもゾルグが侮辱されたり,不当に扱われた時だったこと。
そして,彼女の狂気が内へと向かっていったのは,
ゾルグとの子供を身ごもっていないと判ってからだったこと・・・。
たとえ病的な激しさを持っていても ベティの愛は100%混じりけのない,限りなくピュアで濃いものであり,それはゾルグにとっても,必要だったのだ。と今はそう思える。自分がついてやらなきゃ,という責任感や義務感からではなく ゾルグもまた,ベティなしでは生きられないほど,彼女を愛していたのだ。壊れていくベティの子供のような寝姿を見守る彼の顔は,何とかして彼女を救いたいという思いの他に,彼女を失うのではないかという恐れが浮かんでいたように思う。
自傷行為がエスカレートしたベティには,もはや薬づけの未来しかないことを知り,ゾルグは彼女を生から解放する決心をする。その決断と実行の痛々しさは,とても正視することができなかった。
この二人は出逢ってはいけなかったのか。
しかしこの二人はたとえもう一度生まれ変わっても同じように出逢い,同じように愛し合ったのではないか・・・。そんな思いに,繰り返し揺さぶられ,打ちのめされた。
これは普遍的な愛の物語ではない。むしろ特異な状況の中での愛を描いたものであり,彼らの物語を 完全に理解することは,今の私には無理なのだけど,それでも,何という 激しく強い輝きを放つ愛の物語だろう。見返すたびに,自分の生きてきた人生とも重ね合わせて,感じ方がこれからも変わってくるような気がする。
何年か後にまた鑑賞してみたい。そのときはまた,別の見方ができるようになっているだろうか・・・・。
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修理工のゾルグ(ジャン=ユーグ・アングラード)とウェイトレスのベティ・ブルー(ベアトリス・ダル)。
2人が出会い、恋に落ちた。海岸でペンキ塗りの仕事をしたりしているが、彼は小説も書いていた。
それに気づいたベティはゾルグが小説家になることを夢見る。感情の起伏の激しいベティは、愛が
深まれば深まるほど彼女の奇異な行動はエスカレートして行き・・・。
この映画は、「ベティ・ブルー 愛と激情... [続きを読む]
こちらにもー。
私も昔、『ベティ・ブルー』を観て衝撃を受け、その後劇場で『インテグラル』の方を観る機会があったのですが、ゾルグに寄り添っているインテグラルの方がより気に入りました。
そして、インテグラルの”ノーカット完全版”はDVDを持っているんですが、こちらは178分です。
ご覧になった「リニューアル完全版」はまた違うのでしょうか??
とにかくコレは、私のフランス映画への興味を増幅させた記念すべき1本のお気に入りなんですよ♪
原作も読んじゃったりしました。
投稿: かえる | 2007年10月 7日 (日) 22時33分
かえるさん こちらにもコメントありがとうございます。
私はインテグラルしか観たことはありませんが,
インテグラルからゾルグのシーンを大幅にカットした「愛と情熱~」の方は,
きっとベティがただの我が儘オンナにしか見えなかったんじゃないかと思うので,
やはりインテグラルを観ないとこの作品の神髄はわからないと思いますね。
「リニューアル」はごく最近レンタル屋に出回りました。
でも,同じ178分ですので,きっと「ノーカット」がもう一度でたよーって意味で
ネーミングだけ変えてあるのかも。見比べてないのでわかりませんが。
恋愛映画の金字塔として,一度は観るべき作品ですね。年月がたって鑑賞すると,また感想が違ってくる,不思議な力を持つ作品です。
投稿: なな | 2007年10月 7日 (日) 22時45分
TB&コメント、どうもありがとうございました♪
今、ななさんの記事、じっくり読ませていただいて
うんうん、そうそう、そうだよね~・・きっとそう、と
何度も頷きながら読ませていただきました。
ごめんなさい、この記事に気づいてなかった私ですが(^^;;)
読ませていただいてから記事を書けば良かったなぁ、と
思うくらいです(^^ゞ
しっかり書いてあって、ごっくん納得&感動しております♪
私はこんな風にちゃんと書けなかったです~(^^;;)
そうですね、この2人は出会ってはいけなかったのか・・
でも、おっしゃる通りきっとまた生まれ変わっても出会うんでしょう。で、恋に落ちて・・・となるんだろうなぁ、と思います。
私もまたしばらく(何年か)経ってからまた見てみたいな、と
思いました。もっと若いときに見ていれば、また違った
感想もあったのかも・・と思うと、もう時は戻ってくれませんので(^^;;) ちょっと残念。
カットされてる、もともとのも見てみたいなという気もしています♪
こちらからもTBさせていただきましたm(_ _)m
投稿: メル | 2007年12月 1日 (土) 15時42分
メルさん いらっしゃいませ
この映画,きっと知名度は高いと思うんだけど
古いし,感想が難しかったりして
記事を書いておられる方が少ないんですよね。
メルさんがアップされてたので 嬉しくなって早速TBしちゃいましたよ。
凄いインパクトの強い,ほんとにテキーラみたいな物語。
それでいて,何ともいえない魅力があります。
泥沼の恋愛を体験した方とかは,感情移入することも多いとか。
今 思い返してみれば,お話にも惹きつけられるのだけど
映画全体の色調とか,音楽とか,衣装とか,独特の魅力がありましたね。
一度観たら忘れられないような光景や音が多かった。
全体に青を基調としたトーンとか,黄色い車とかベティの真っ赤なドレスとか。
二人でピアノを弾くときの,ベティが合いの手に入れる不協和音とか,メリーゴーランドの調子外れの旋律とか。
そして,何といっても,主演の二人の魅力。
・・・これって,難解ですけど大傑作ですよね(しみじみ)
TBありがとうございました。
投稿: なな | 2007年12月 1日 (土) 20時17分