
また一つ,アフリカ大陸の底知れぬ暗黒面と,人間の醜さを見せつけられた作品。ホテル・ルワンダやナイロビの蜂(記事はこちら)を観た後に感じたのと同じやり場のない怒りと,己の無力感に打ちのめされる。
ほんとうに,こんなことが,
今現在も起こっているのだろうか?
シエラレオネの内戦は,そこに住んでいた人々の生活を根こそぎ破壊し,過酷きわまりない強制労働へと駆り立てる。武器を調達する資金としてダイヤモンドを採掘するために。
親元からさらわれ,洗脳されて,兵士へと教育される子供たち。かけがえのない家族の絆,人間としての尊厳や,自由。それらの大切なものが容赦なく奪われて,心さえも凍りつかせていく現実に戦慄した。
紛争ダイヤモンドと呼ばれるものの,ここまで血塗られた背景を,「知らなかった」ではすまされない。そしていったん知ったならば,決して忘れることができないほどの,重すぎる現実を,この映画は私たちにつきつけてくる。
人の命がこんなにも
軽々しく扱われていいはずがない
観ている間じゅう,心の中で叫んでいた。
ディカプリオが演じた密売人のダニーは血も涙もない,野獣のような男。自分が生き残るためなら,そして目的のものを手に入れるためならどんな手段も辞さない,徹底したエゴイスト。スクリーンに登場した時から,彼の眼の奥に宿る氷のように冷酷で,稲妻のようにひらめく凶暴な光に,しばし我が眼を疑った。こんなディカプリオ,見たことない・・・。圧倒される。彼が演じたダニーは,まさしくそれまでは「悪人」だった。しかし・・・。
物語がピンクダイヤを巡って怒濤のように動き出した時から,彼の心の奥で,次第に何かが変わってゆく。彼に影響を与えたのはジャーナリストのマディーと息子を取り戻す闘いに挑む,父親ソロモンだった。
最初は二人を利用して,ダイヤを横取りすることしか念頭になかったダニー。過酷な生い立ちゆえに,とうに失っていた人間らしい心。しかし,彼らの真摯で勇気ある行動や考え方に触れるうちに,ダニーの顔には,時に傷ついた子供のような表情が浮かぶようになる。「善人かどうかは,その人のした行動で決まる」たどりついた孤児たちの学校の校長先生の言った言葉。
物語が佳境に入り,ダイヤを追うものと追われるものとの攻防戦が白熱してくると,ダニーの鋭い眼には,突如として気弱そうな色が浮かんだかと思うと,次の瞬間には再び凶暴な光に逆戻りしたりして,彼の心の中では,善と悪が激しく葛藤しているかのようだった。
そして,最後にダニーは,自らを犠牲にしてソロモン親子を助け,善人として」生を終える道を選び取る。敵に囲まれた山頂で,雄大なアフリカの景色を眼にしながら,死を前にしてマディーに電話するダニーの表情は,これまで見たことがないほど,清々しく,満ち足りていたように思えた。
目を覆いたくなるような現実の世界の中で,それでも人間の愛や勇気や良心は,人の心を動かし,たとえわずかでも,光を見いだす力となれるのだ。
この映画をみてよかったと,つくづく思う。これは単なるエンタメ作品じゃない。知られざるアフリカ大陸の惨状を世界に発信すると同時に,そんな中でも全力を振り絞り,なおも人間らしく生きようと闘っている人々の,魂の叫びをも感じさせてくれた作品である。
ディカプリオもまた,単なるアイドル俳優じゃない。
アカデミー賞候補も納得の見事な演技だった。
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