2023年9月18日 (月)

福田村事件

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封切り初日の9月1日に香川県高松市のソレイユで鑑賞。

いつもはまばらな劇場が、なんと年配のお客さんたちで賑わっていた。関東大震災記念日だし、映画で描かれた実話の被害者が香川県出身だということもあったのだろうか。私は隣県の徳島からの鑑賞だったが、同じ四国人として、やはり何と言うかこの事件の被害者たちには一種の思い入れがあった。役者さんたちが喋る讃岐弁は阿波弁と共通する言葉もあり、懐かしさを感じた。その讃岐弁が福田村で全く通じなかったことが原因で、悲劇が起こるのではあるが……。行商人一行が虐殺される場面では劇場のあちこちからすすり泣きが起こった。

関東大震災のとき、朝鮮人がデマにより大虐殺されたという事実は歴史で少し学んだ記憶がある。しかし、聞き慣れない方言が原因で朝鮮人と間違えられて殺された日本人がいたことは全く知らなかった。被差別部落者で行商人という、社会的弱者の立場にあった被害者遺族が泣き寝入りしたため、事件そのものが世間に語り継がれることなく「無かったもの」として消えてしまっていたのだ。この事実を映像化することによって100年たった現在、世に知らしめた監督や、出演した俳優陣、そしてクラファンで制作を支えた一般の方々の功績は大きいと感じた。

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本作品は見事の一言に尽きる。
とにかく、作品が私たちに問いかけてくる問題の深さと多さに圧倒され続けた2時間だった。この事件は非常時の人間の集団心理や、軍国主義や階層社会や、様々なものが絡み合って生まれた犯罪であり、二度と同じようなことを繰り返してはならない過ちだと感じた。

加害者となった村人たちはみんな、ごく普通の人たちであり、世が平穏で情報が偏ったり隠蔽や捏造されなかったなら、あのような残虐な行為をおそらく行わずにすんだはずなのだ。軍部の台頭や朝鮮人に対する弾圧や差別という背景ももちろん大きいが、震災とデマの恐怖が人々を団結させ、異分子を排除しないと自分たちがやられる、という集団ヒステリーを生んだ。

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しかしこの悲劇は果たして時代のせいだけだと言えるだろうか。確かに、「讃岐弁が他の地方では通じなかった」という現象は、情報の行き来がなかったあの時代のせいかもしれない。しかし、ネットやSNSで情報が溢れかえる現代もまた、誤った情報を意図的に拡散できる可能性は十分あるし、人々は竹槍を持って押し寄せる代わりに、ネット上での炎上や誹謗中傷という方法で、匿名で個人を攻撃できるようになった。

思い起こせば、コロナ禍初期に起こった感染者に対する過剰な警戒や非難も、ある意味「非常事態に起きやすい集団ヒステリー」ではないだろうか。100年前のこの事件から私たちは、条件さえ揃えば人が誰しも陥りやすい過ちについて学ぶことができるのかもしれない。人は集団に帰属しないと生きられないけれど、集団の中でも個人としての意見や価値観を持ち、必要ならそれを主張すること、そして他人の意見にも冷静に耳を傾けることが大切であると強く感じた。

2023年8月22日 (火)

リボルバー・リリー

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素晴らしく気に入って二度も劇場で鑑賞。ストーリー、映像、俳優、音楽、アクションどれもがハイレベルで、邦画やるじゃん、と嬉しくなった。

時は大正時代。関東大震災後の復興中の東京を舞台に、凄腕諜報員として訓練された女性と、家族を惨殺され陸軍に追われる少年がともに繰り広げる逃避行と謎解きの道中。強い大人と子供の取り合わせという点では、かつての名作洋画のグロリアレオンと似た設定で、二人の心の交流や絆が深まっていく様と息つく間もない過激なアクション、そして国家規模の壮大な陰謀などなど、すべてがぞくぞくする面白さで見どころ満載だ。

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大正時代のファッションって、男性も女性もとてもきれいでカッコいい。女性は洋装も和装も素敵だし、綾瀬はるかの演じる百合は戦闘シーンでも一部の隙もないモダンガールのファッションをキメている。彼女だけでなく登場する女性たちはみんな強くて美しい。

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男性もスーツにハットでとてもダンディ。長谷川博己さんは特にスタイルがいいのでキマること、キマること。綾瀬はるかさんの身体能力の高さ、羽村仁成くんの繊細な表情の演技力も必見だ。邦画のアクションものとしては本当によくできているのでお勧めです。

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2023年7月23日 (日)

父を天に送りました。

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6月1日の深夜に父が誤嚥性肺炎のため召天しました。

あとひと月で91歳の誕生日を迎える矢先の死でした。

脳梗塞を患い、要介護4になり施設での生活で、嚥下能力も落ちていたのでいつか誤嚥性の肺炎になるのではと心配していましたが、急遽入院してももう回復することなく、天に召されていきました。

喪主を務めた葬儀から1カ月半。いろんな名義の変更や母の遺族年金の申請や代表相続人としての手続を一人でこなし、後は家の相続と登記を残すのみとなりました。こちらは司法書士さんに頼る予定です。次々にやらねばならないことが山積みの時は感じる暇がなかった寂しさが襲ってくるようになりました。気が抜けると同時に夏風邪もひきました。

あと少し 頑張ります。

2023年6月24日 (土)

波紋

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大好きな実力派女優の筒井真理子主演。監督は『川っぺりムコリッタ』などの荻上直子。 光石研,磯村勇斗、柄本明など名優ががっちりと脇を固める。ヒロインの主婦を通して、老々介護や新興宗教、障害者差別、冷え切った夫婦関係などの女性を取り巻く様々な問題を描く。

あらすじ  須藤依子(筒井真理子)は、緑命会という水を信仰する新興宗教にのめり込み、祈りをささげては勉強会に勤しんでいた。庭に作った枯山水の庭の手入れとして、1ミリも違わず砂に波紋を描くことが彼女の毎朝の習慣となっており、それを終えては静かで穏やかな日々の尊さをかみしめる。しかし長いこと失踪したままだった夫の修(光石研)が突然帰ってきたことを機に、彼女を取り巻く環境に変化が訪れる。

女性特有の家族の呪縛に苦しんだこともある自分としては、ヒロイン依子の置かれた境遇に対する怒りや悩みに、200%共感しながら観た。今の若い人にはわからないかもしれない。依子くらいの年齢の主婦なら、この葛藤や忍従に「あるある」と頷ける場合も多いと思う。

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寝たきりの父親を妻に丸投げして失踪したあげく、自分が癌になったからといって治療費目当てに帰ってくる身勝手すぎる夫や、遠く離れた地で就職し、ある日突然、聴覚障碍者で年上(おまけに性格に難あり)の恋人を予告もなく紹介し「結婚するから」という一人息子。パート先のスーパーでは、理不尽な値引きを要求する高齢客に絡まれ、庭に侵入してくる猫についてご近所さんに苦情を伝えると、とたんにそっぽを向かれる。

そのたびに険しい表情にはなっても、反論も拒絶もせず結局のところ受け入れてしまっている依子の姿に、じれったさを感じて映画館の暗闇の中で、ついつい彼女の代わりに拳を握りしめてしまう自分がいた。新興宗教にのめり込んでそこに慰めや生きがいを見出している依子の姿はもちろん滑稽ではあるが、そうでもしないとやっていけない救いのなさがよくわかる。

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パート仲間からの「仕返ししてもいいのよ。」というアドバイスには激しく同意。表面は波風を立てぬよう、心の中で、もしくはバレない程度に溜飲を下げる復讐。いいじゃないかそれくらいしても。夫の歯ブラシで排水溝を掃除する依子の姿には「その手があったか^^」と思わずニンマリ。夫役の光石さんが「よい人」っぽいキャラなのでなんだか気の毒に思えるのだが、冷静に考えてみればこの夫の仕打ちは一般的に考えてとても許せるものではない。そうそうまさに「なかったことにはできないんだからね。」なのだ。

とにかく登場人物がみんな曲者で、「普通の」「平凡な」「常識的な」キャラが一人もいないし、ストーリーもアクが強くって、ブラックな笑いと緊張感に満ちているので最後までヒヤヒヤしっぱなし。

ラストシーンは印象的だった。
ついに自宅で息を引き取った夫の出棺のシーン。おそらく直葬なのだろう、自宅から直に火葬場へ運ばれていく風に見える棺桶。その時、葬儀社の係員が庭石に足を取られて転び、ひっくり返った棺桶から遺体が少し飛び出してしまう。それを見てなんと高笑いする依子をギョッとした目で見つめる息子。今まで抑えていた気持ちが一気に解放されたような妙な清々しさが画面に漂った瞬間だった。

その後に依子が雨の中を一人で踊るフラメンコは圧巻。彼女はもう新興宗教とも縁を切って新しい一歩を踏み出せるのかなと思った。

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